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地政学的不安と資本移動

米国財務省による資本収支統計において昨年の動きで特徴的なのは、 米居住者による海外投資の売り超、いわゆる資本の本国回帰であった。 米居住者によるネット海外証券投資は2000年、 2001年と200億ドル近い買い超であったのに対して2002年は11月までで283億ドルの売り超となっている。 統計には含まれない、株式交換による株式の取得については推計データしかないが、 それによると米国居住者による海外株式(主にヨーロッパ)のネット買収額は 2001年までの過去4年間の平均860億ドルに対して、2002年の9月までの取得はわずか40億ドルに過ぎない。 米国の対外投資は大きく後退した。一方非居住者による対米証券投資は高水準が続いている。 ただしユーロ加盟各国からの対米証券投資は明らかに減少傾向を示している。 2000年には1213億ドルだった流入額は2001年には624億ドルと半減、 2002年11月まででは95億ドルに激減している。 増加傾向にあるのはエマージング諸国からの流入だ。 特に香港を含む中国からのネット資本収支は2000年252億ドルから2001年には3倍以上に急増し、 2002年も11月までで908億ドルとなっている。中東欧からも2001年19億ドルに対し、 2002年は11月までで171億ドルと10倍近い増加となっている。 総じて見れば海外からの対米証券投資額水準は維持されていると言えるが、 世界全体に広がる不安感が欧米資本の祖国回帰など慎重な投資姿勢となって資本の流れに影を落としている。

具体的に米ドルが抱えている不安は、地政学的不安と、急増する双子の赤字である。 経常収支赤字は拡大を続けており、対GDP比5%近くにのぼっている。 企業部門の設備投資が伸び悩む中、赤字は主に公的部門による財政赤字となっており、 貿易赤字と財政赤字が対応するいわゆる「双子の赤字」となっている。 そしてそれはもう一方の地政学的不安と深く関連している。 現在米経済の先行きを不透明にしている対イラク動向は必ずしも一過性のイベントではない。 対イラク戦による米経済への負担は短期決戦による決着が可能であれば軽微にすむと考えられている。 しかし戦争が短期で終了したとしても、アメリカは早期に撤退するわけにはいかないかもしれない。

フセイン後のイラクに明確な後継者は存在せず、国境を接する周辺国との関係も微妙である。 さらに強力な中央政府が消滅すれば、イラクには強い遠心力がはたらく可能性が高い。 豊富な石油資源を有する北部クルド族支配地域、 スンニ派イスラム教徒が支配するバグダッド及びその周辺、 そして人口の6割以上を占めるシーア派イスラム教徒が居住する東南部の3地域に分裂する危険性がある。 中東は不安定な体制を持つ国家を多く抱えており、 イラクの分裂は地域全体の混乱を引き起こしかねない。 アメリカはこれまで戦後処理の大部分を同盟国および国連に押し付けてきたが、 もし単独での開戦に踏み切るならば、アメリカは占領軍として、 短期的にはイラク政府としての役割を果たさなければならない。 イラク国内の治安を維持し、国境を防衛し、経済を復興させる責任を引き受ける必要がある。 湾岸地域での大変動は石油市場を混乱させ、世界経済全体に悪影響を及ぼすためだ。 占領期間は予想外に長期化する可能性もあり、 不安感の払拭にまだ時間がかかる以上資本の本国回帰の流れもしばらく続くであろう。(上飯坂)

(2003/02/13)