超大型優良銘柄の時代
3月19日、FRBはFOMCにおいて金融政策の中立化を決定し、 昨年3月以来の景気後退局面の終了を宣言した。 2001年1月を起点とする11回もの利下げの内、昨年8月につけたFF3.5%までは通常時の政策、 その後の1.75%までの4度にわたる利下げは、テロ後の緊急避難政策、 とするのであれば、速やかに3%近辺までの利上げを行い、 本格的な景気上昇の前に過剰な流動性を回収し、 バブル再発の不要な芽は摘んでおきたいというのがFEDの本音であろう。
さて、こうした金融政策の変化の中で、米国大型企業による社債予定が相次いで発表されている。 歴史的な低金利下で、まとまった額の資金を調達できるかどうかは今後 10年の企業財務において非常に重大な影響をあたえることは自明のことなのだが、 現状この低金利を享受できるのは実は一部の優良企業に限られている。 2001年度の社債デフォルト率が史上最悪の数字を記録したことから、 市場では、格付けの悪い企業の債券を引き受ける投資家が激減している。 また景気後退局面で拡大したA格以上の格付けを有する企業と、 BBB以下の格付けの企業との信用スプレッドは、景気の底入れにも関わらず、 会計検査への不信任も相まって、あまり縮小していない。 米国格付け機関の統計によると、 Aマイナス格の債券利回りとBBBプラス格の債券利回りの格差は91年来の最大値となっている。
この10年、米国企業を根底で支えていた“3つの革新”がある。 IT技術の革新・金融工学の革新・年金制度の革新。この革新の恩恵をもっとも受けていたのが、 新興のIT企業であり、その多くがNASDAQに上場している企業であると考えられていた。 ダウ工業株30種に入っているような、伝統的でかつ巨大な企業群が革命的ともいえる ITブームから受ける恩恵は極わずかなものであると誰しもが感じていた。 しかしむしろ、この3つの革新で結果的にもっとも恩恵を受けたのは、 99年のIT相場では完全に取り残されたこうした大型企業だったのではないか。 ITインフラの整備は、従来型の企業の物流・仕入れ・在庫管理等のコスト削減に威力を発揮し、 市場の国境を物理的に撤廃した。 金融工学の発展は企業や銀行の財務リスク管理をより強固で精緻なものとし、 負債コストを中長期的に安定化させることに貢献している。 また、自己責任による年金資産運用やストックオプションなどの制度は、 臨時雇用者の比率の高い米国において、従業員の企業モラル向上への特効薬となっている。 IT技術はITがなければ存在しなかった会社のためだけにあるのではなく、 金融工学は複雑なレバレッジを組合せ実力以上のファイナンスをするためにあるのではない。 確定拠出年金は決して、自社の株を買い支えるためにあるのではなく、 またストックオプションは高額の報酬を外部から招いた経営者に支払うための制度でもない。 こういったあたりまえの事実に市場参加者はようやく気付きつつある。今人々が信じるのは、 新規性のあるビジネスモデルではなく、市場支配力のある強固なモデルであり、 金融ハイテクを駆使した多用な資金調達手段ではなく、 市場との信頼関係を維持できる透明性の高い財務であり、 高い報酬と魅力的なストックオプションで外部からかき集めた経営者や従業員ではなく、 企業ブランドやコーポレートガバナンスを重視する 誠実な人材である。結果としてマーケットシェアが高く、財務体質の健全な、ブランド企業だけが、 今の低金利の恩恵を受け、さらに強くなっていくという好循環に入り始めている。 今後の金利上昇過程では、生き残り企業の選別が益々激しくなることが 予想される。しばらくは、 スーパーブルーチップ企業への信任が高まる局面が続くのではないかと考える。(寺本)
(2002/03/27)