米国株式市場とミニバブル
昨年のテロ後、米国の株式市場は誰も予想しえなかったほどの急回復を示した。 昨年の10月段階での米国景気に対する見通しは、 米国景気の底打ち時期がテロ以前に予想された02年1-3月から少なくとも半年は先に伸びたというのが、 大方のコンセンサスであった。にも関わらず株式市場は高騰し、 わずか3ヶ月にしてSP500指数はほぼテロ以前水準にまで回復した。 こうした株式市場の動きに対し懐疑的な見方をする市場関係者は少なくない。 しかしここまで順調に株価が推移するのを目の当たりにすると、 米国株式は実は本当にテロのダメージはなく当初予定通り 1-3月で底打ちをしてしまうのでないかという思いに駆られ、 今更ながら米国株式の組み入れを上げ始めた機関投資家の姿も見られる。
そこで、今の米国株式がここまで上昇した要因を市場心理から考えてみたい。 要因第一はFRBによる迅速かつ大胆な金融緩和であろう。 金融当局の適切な対応は米国金融市場が崩壊してしまうのではないかという不安を打ち消すに十分な信頼を勝ち取った。 どんなことがあっても市場機能は維持する、 という当局のメッセージが非常に早くそして強力に全世界の投資家心理に浸透した。 要因第二は株主至上主義経営への信頼感である。 現在の米国の経営者がもっとも重視していることはROEであり、 株価である、という事実を投資家は疑わず、そしてまた経営者はその信頼にこたえるべく、 大胆なリストラ策に出た。 そもそもテロ以前から米国経済はリセッションに陥るかどうかの瀬戸際にいたのであり、 それにテロが加わったことで業績の下方修正は免れることはできない。 その状況下企業経営者が行ったことは当然のごとく大幅な人員削減であった。 米国の企業経営者がそうした行動に出ることがわかっているからこそ株主は企業を 見放すことなく投資を継続しつづけたのだと考える。 テロ以前から企業業績の悪化を織り込みつつあった、 米国企業の信用スプレッドは株価が上昇に転じる中でも拡大を続け、 12月までの半年間で約1%近く悪化している。 企業業績が悪化するなか当然債務の返済能力は低下する。 しかし人件費などのコストを削減することでROEは比較的高水準を維持することができる。 結果、債券(信用力)は売られ、株式は買われるというねじれ現象が生じていた。 12月末頃からAAA格の信用スプレッドは除々に回復しつつあるが、 BBBクラスのスプレッドは未だ低迷したままである。 こうして金融当局と企業経営者が市場の信頼を裏切らなかったことで、 米国株式市場には大量の投資資金が流入したのである。
しかしこれはある種大変危険なことでもある。 流入した投資資金の多くは、 テロ後米国を初めとした各国の中央銀行によって創出された過剰流動性資金である。 2000年問題に際し生じた過剰流動性がITバブルを誘引し、 その後マネタリーベースの正常化に伴い急落したことを忘れてはいけない。 米国の金融市場が安定したとFRBが確信した段階で必ずドル資金は回収される。 バブル後の日本の例をみるまでもなく、 過剰流動性の回収は何らかのクラッシュを招く傾向がある。 また企業による大量解雇は米国の失業率を急激に上昇させている。 失業率の上昇は確実に個人消費の低迷に結びつく。 ITバブルの崩壊後米国経済の根底を支えてきた個人消費の構造は今まさに転換点を迎えている。 かつてグリーンスパン氏は、 「バブルというものは後になってみないとわからないものだ」といっているが、 現在の米国株式が経済実態は反映していないミニバブルである可能性は高いのではないかと考えている。(寺本)
(2002/01/25)