ヘッドラインリスクとドル安
米国企業の会計問題が収束する気配を見せていない。 昨年8月にエンロンの不正経理が発覚してから、すでに10ヶ月が過ぎようとしているにもかかわらず、 NY市場では毎日のように企業会計にかかわるなんらかの不透明なニュースがマスメディアに掲載されている。 何が出てくるかニュースの見出しから目が話せない証券トレーダーや投資家たちは、 いまや企業が発信するオフィシャルなコメントより、 メディアのヘッドラインの方がよほど重要度が高い、と自嘲気味に言う。 こうしたヘッドラインリスクの高まりは、 一方でマーケット参加者の投資意欲を減退させ、市場のボラティリティーを低下させている。 CBOEの算出しているボラティリティインデックスを見ても、 現状はITバブルの崩壊した2000年6-9月以来の低水準となっている。 この問題が一部の企業や監査法人だけの問題ではなく、 証券アナリストや資金の出し手である銀行にまで影響が出始めていることが、投資家、 特に海外勢や流動性リスクを嫌うヘッジファンドにドルへの投資ウェイトを引き下げさせる材料となり始めており、 問題は株式や社債といった限定された市場から、 通貨ドルに対する信認にまで広がる気配を見せている。 昨年のテロ後、米国の通貨当局が必死に守ろうとしたドルへの信認と米国証券市場の流動性は、 外患ではびくともせず内憂で思いもかけない危機に直面することとなってしまった。
ちょうど通貨ユーロが登場した1999年来金融市場ではドルの一人勝ちが続いていた。 ファンダメンタルズからも金利差からも説明のつかない資金がユーロ圏から 直接投資間接投資を問わず米国に流入し、 実質実効ドルレートはプラザ合意以来の高値となった。 この資金流入は2000年にITバブルが崩壊し米国の株式市場が大きく調整したときにも 目立った変化は見られていない。 新興通貨であるユーロに対し伝統のあるドル、 そして手腕の未知数である欧州中銀に対し絶対的な信頼のあるグリーンスパン率いるFRB。 こうした構図の中で米国金融市場は国内外の投資資金を巻き込みながら膨張していった。 市場規模が拡大し参加者が増えかつ低金利が持続していれば、 どんなに冷静に対処しようとしたところで、調達過多になるのは避けられない。 米国経済は確実にオーバーファンディングに陥っていたといえる。 これを技術面で後押ししたファイナンス手法や若干グレーな会計処理に修正が加わることで、 米国金融市場は本来のフェアバリューを探す過程にはいったのではないだろうか。 一方で通貨ユーロは今年のリアル貨幣導入を期に、 ようやく通貨としての信認を得られつつあるように見える。 有価証券等を介在したユーロ圏からドル圏への資本流出もほぼ止まってきている。 むしろしばらくは欧州系のテレコム会社各社が大型の資金調達をすべく市場環境の好転を待っており、 投資先としてのアクティビティは欧州の方が高まる可能性もある。 お互いがフェアバリューを探る過程で行き場を失っている投資資金が一斉にユーロに 向かい思いもかけないドル安となる可能性は否定できない。 テロの脅威から完全に解き放たれておらず、財政は再び赤字に転落している中、 過度なドル安はドル不安を招く。 世界経済の安定のためにもニュースの電光掲示板から目が離せないような市場環境からは 一刻も早く脱出してもらいたい。(寺本)
(2002/06/06)