米国経済のボトルネック
最近日本でも話題になった「ザ・ゴール」に描かれているように、 生産ラインの生産性は最も効率の悪い設備に依存する。 ラインの一部に最新の設備を導入しても生産性は上がらない。
90年代はじめ、その後10年間に渡る米国景気を産み出すきっかけとなる3つの要因が相前後して登場した。 ROE経営、IT革命、そして401Kプランに基づく確定拠出型年金の拡大である。 この要因一つ一つは従来から存在してものだか 90年代のある時期から突然有機的なつながりを持ち始め、劇的な相乗効果を 創出することとなった。 401Kプランを通した個人資金は企業をファイナンスし企業は株主資本の効率的運用を経営の第一目標とし、 IT効果であがった利益は個人投資家と、税収効果で国庫財政とを潤した。
さて現状、米国経済で何が起きているのか? IT関連産業の減速が企業のアウトプットを減らし株価が下落、それを受けて個人消費が減退。 これを補うためバランスシートに余裕のできている国家が減税により 個人に資金を還流させ企業のエネルギー源である個人に活力を呼び起こそうとしている。 今のところ個人は減税分を消費に回し、 年金資産で購入した株式の目減りも問題になるほど深刻な状況にはいたっていない。 ラインの初期段階である個人は政府からのエネルギー供給によって まだそれほど生産性を落としてはいないといえる。 またエネルギーの供給源である政府財政も黒字を維持しており、 相当量の供給余力はある。問題となるのは最終アウトプットである企業の生産活動である。 幾らエネルギーをつぎ込んでも今の企業から経済的付加価値が生まれてこなければ 米国経済全体の生産性は向上しない。 自動車や住宅といった個人消費関連産業が今の米国景気をかろうじて支えていると言われているが、 個人消費頼みの経済構造は蛸足食いと同じで、時間稼ぎにはなるが、必ず息切れを起こす。 各国経済もまた米国同様痛んでおり外需に期待することもできない。 これまで米国企業の成長を支えてきた半導体や電機/通信分野が息切れしている一つの理由は、 Eコマース関連の伸び悩みに起因している。情報技術の進展は基本的にはインフラ部分に過ぎない。 米国中を張り巡らせた情報ハイウェイを利用したビジネスモデルが昨年軒並み崩壊したため、 情報インフラの成長速度に見直しがかかっている。 99年のITバブルの最中に、某成長株のファンドマネージャーがいみじくも 「IT革命は今始まったばかりであり今後どのように実態経済のなかに 根付き発展していくのかはまったく未知数である。 たからこそIT関連銘柄の将来性は限りなく大きい」と言っていたことが鮮明に記憶に残っている。 ある意味まさにそのとおりでせっかくの巨大インフラを有効に活用する手段を 見出せないまま企業活動は低迷している。 ここの部分のビジネスモデルが軌道にならない限り、 情報ハイウェイはどこかの国でトラクターしか走っていないと陰口を言われる弾丸道路と同じになってしまう。 米国という広い国土ですら活用することのできない情報インフラは他の国ではますます使い道がない。 一刻も早くインフラ投資に見合うアウトプットモデルを確立させることが今の米国企業に 与えられた最大の使命であろう。 最終ラインのボトルネックを解消する為に残されている時間はもう余り長くはない。(寺本)
(2001年9月7日)