2021年06月の思いつき


今でしょう

コロナ禍によって止まっていた5Gの実装によるデバイスイノベーションが動き出した日本で、トヨタの株価が過去最高値を更新していることは、とても象徴的な現象だと言えるでしょう。

世界的なイノベーション競争を勝ち抜くのに必要なのは、他社の追随を許さない技術、ではなくて、他社の追随を許さない絶対的な資金力、であることを、トヨタの株価が如実に表しています。

リーマンショック前に1兆円単位で余剰現金を抱えていたトヨタは、資金効率の悪い典型的な日本企業として、海外投資家からの批判の的とされていました。

リーマンショックを経て、その後も日本の大企業の手元流動性の高さは、海外投資家のみならず、国内の政治家からも課税対象にしようかという話が出るなど、問題視されてきたわけですが、今のような経済環境において手元流動性は非常に有効な武器となるでしょう。

トヨタだけでなく、歴史的な手元流動性を保有する多くの日本企業にとって、今こそ戦略的な設備投資や研究開発を拡大するべき時であって、今の株主のためにしかならない自社株買いをしている場合ではありません。

100年に一度のイノベーション経済。

今使わなくていつ使う?

寺本名保美

(2021.06.29)



基幹ソフトの変更

Windows11が登場するらしい。

Windows10の画面に漸く慣れたばかりなのにもう次が出るのか、と思ったものの、W10が出てから既に6年も経っていました。

W10に切り替わるタイミングで、駅や街の電光掲示板に「Updateが必要です」というようなワーニング画面が出ていると、話題になったのを思い出しました。

Windowsなどの基幹ソフトが変わる度に、システム回りに莫大なエネルギーの投入が必要になることの理不尽さを黙って受け入れなければいけないというのも、何か間違っているような気がしています。

システムの常識と社会の常識が異なっていたとしても、今はシステムの常識の方に優先権がありそうです。

考えただけで暗くなる。

寺本名保美 

(2021.06.28)



ジョーカー

過去の思いつき

昨年の7月に自分の書いた文章を読み返してみています。

この一年は、無為だったのかと思うと脱力します。

一方で、きっと開会式は、「地球に優しい未来化社会日本」を世界に存分にアピールする映像になるであろうと、今でも期待しています。

結果オーライのオリンピックではなく、日本人の勤勉さと従順さが評価されるオリンピックでもなく、計算されたスマートでクールな大会運営だったと海外から評価されるようなオリンピックにすることが、敢えてパンデミック下でオリンピックを強行する日本やIOCにとって必要なレガシーになると思うのです。

ジョーカーをババにすることなく、日本の知恵や技術を世界にアピールする切り札にすることができるかどうか。今後の日本投資の命運さえ変えるかもしれないオリンピックまであと30日を切りました。

寺本名保美

(2021.06.24)



不動産価格の上昇

前にここでも書いた、世界的な住宅価格の上昇が、とうとう中央銀行の政策に影響を与えることになりそうです。

ノルウェー中銀が、住宅価格の上昇を理由として利上げの検討に入ったとWSJが伝えています。

この記事を書いた記者は、住宅価格の上昇が家賃の上昇に繋がっていないのであれば、住宅価格を原因として金融政策を動かすのは間違っていると主張しています。

日本とは異なり住宅を保有することにそれほどのプライオリティがない諸外国において、家賃上昇に繋がらない範囲での不動産価格の上昇をインフレと関連付けて考える必要はないという意見も理解できるものの、コアインフレに影響を与えないからといって不動産価格を放置した結果、深刻なバブル崩壊を引き起こした日本を経験している身からすれば、早め手を打っておくべきだとも思います。

いずれにせよ、先進国が利上げサイクルに転換するスピードは想定よりも早まっているのは事実になりつつあるようで、金利上昇に弱い資産の見極めを始める必要がありそうです。

寺本名保美

(2021.06.22)



インフレに弱い?

需給状況で価格を変動させるダイナミックプライシングを導入した場合、米国では人気商品や繁忙期のサービスの価格が上昇するイメージが強く、日本では在庫商品や閑散期のサービス価格が下落するイメージが強いように感じます。

万が一、今後世界経済が、インフレ環境に突入した場合、デフレ慣れした内需を抱え、価格転嫁力の極めて弱い日本企業には、かなり苦しい展開が想定されそうです。

本格的な金利上昇やインフレを心配するのはまだ気が早いかもしれませんが、今後インフレ懸念が市場に織り込まれていく過程においてデフレの申し子である日本市場が世界の投資家にどのように評価されていくのかきになるところです。

寺本名保美

(2021.06.21)



コロナ禍前の夢

コロナ禍以前、米国を始めとする先進国経済は「インフレ無き経済成長」を謳歌していました。

失業率は過去最低水準まで低下しても賃金インフレは起きず、生産活動が拡大しても資源インフレは起きず、イノベーションは製品やサービスの付加価値を上昇させた一方で価格には下落圧力が続いていました。

今年に入ってからの米国のテーパリング議論は、米国経済がコロナ禍前の「インフレ無き成長」に戻ることを前提にするのか、従来型のインフレを伴う経済成長が復活することを前提にするのかによって、全く意味合いが異なってきます。

先週末のFOMCやその後の理事の発言に対する市場の反応を見る限り、株式市場も債券市場も、インフレ無き成長に戻ると考えている人がまだ多いことがわかります。

足下で囁かれ始めたインフレ懸念という単語から、懸念が取れる可能性について、今の金融市場が余りに無防備であることが、そろそろ心配になってきました。

寺本名保美

(2021.06.20)



ロシアの存在感

米露首脳会談のニュース映像を見ながら、インパクトの薄いニュースになったものだと思ったりしています。

主要テーマである核軍縮は、冷戦の遺物の後始末であり、これは当事者であるかつての2大国に責任を持って処理して貰う必要がありますが、それ以外において、今この2カ国が直接話し合わなければならない事項はあまり無さそうです。

G7が共同で牽制しなければならないほど勢力を拡大した中国と、今のロシアとの差はどこで生まれたものなのか。多くの資源国が裕福ではあるものの経済的に成功していないように、ロシアも資源国であるが故に伸び悩んでいるということなのでしょうか。

2014年頃の、原油価格急落を受け、プーチン大統領が掲げたロシア再生計画は、その後どうなってしまったのか。

今のままなら、ロシアはG8に復活するのではなく、OPEC+1での存在感を示していくしか、道は無くなってしまいそうです。


寺本名保美

(2021.06.16)



リスタート

2016年以降、ポピュリズムという厄介で捉え所の無い相手に振り回され存在意義さえも問われてきたG7会合が、久々に精彩を取り戻したように見えます。

ソ連邦崩壊以降イデオロギーとしての仮想敵を失い、他国に対する圧倒的な経済的優位性も失い、自由貿易の盟主という錦の御旗に至っては内部崩壊一歩手前まで来ていたG7にとって、今回の会合は中国という全体主義経済を仮想敵とすることで改めて存在意義を確認したリスタートとなったのかもしれません。

ネット空間が拡大する中、国民と国家の関係性の希薄化は、G7各国にとっても中国にとっても共通する課題です。

デジタル社会が急激に進んでいるからこそ、治政者は国際政治においては時代を遡ったかのような対立構造を作り、国家と国民の距離を縮める必要があるのでしょう。

互いに振り上げた拳の下ろし方がわからなくなるような局面にならなければ良いのですが。

寺本名保美

(2021.06.14)



政治主導の勘違い?

東芝の株主総会に対する政治的な関与の問題。
真偽のほどはこれからにしても、嫌な話題です。

デジタル担当大臣が受託業者を恫喝した問題。
恫喝する意思があったのかさておき、言葉の使い方だけをとっても聞くに堪えません。

新型コロナウイルス感染症対策分科会に対する厚労大臣の「自主研究」発言。
政府の意向を組まない専門家に対する政治家の反応は、往々にしてこんな感じではあるものの、それにしても酷いのではないかと思います。

私は基本的に政治の粗探しをするのは好きではありません。

それでもです。政治主導を掲げ始めてからの国会議員という人達は、与党野党を問わず、どこか大きな勘違いをしているのではないかと思うのです。

そして、菅総理という人が、その勘違いの上に政治信条を組み立て居るように見えることが、とても気になっています。

政治主導というのは、本来の議会の役割である、立法における主導権を持つということであって、行政や民間に対して主導的な役割となることではないと思うのですが。

寺本名保美

(2021.06.11)



労働を義務化されないとどうなるか

米国の共和党出身の州知事を中心に、コロナ対応の失業保険給付特別加算を取りやめる動きが拡大しているそうです。

米国では、コロナショック後の労働参加率の低下が問題になっています。

16歳上の人口に対し、就業意欲を持っている人口の比率は、2007年あたりから以降一貫して低下傾向にあったのですが、それがコロナショックで底抜けしてしまったように見えます。

2007年からの低下については、退役軍人恩給が影響しているとも言われ、今回はコロナ対応の失業保険給付が、労働意欲を低下させていると考えられています。

働かなくても生活できるのであれば、働かないという選択肢を取る人が、少なからず存在し、そういう選択をする人が増えることは経済における労働力不足を招き、結果的に景気後退やインフレを引き起こすらしい、ということが今の米国で実証されつつあります。

一時期盛んに議論されてきた、ベーシックインカムを推奨する意見の中には、労働を義務化されない社会の方が労働生産性は上がると主張するものも多くみられますが、現実の結果は少し異なったものになっているようです。

寺本名保美

(2021.06.10)



繋がらない安心

今日の夕方に、世界各地のメディアなどのWEBサイトが、ダウンしました。原因は各社が利用していた、CDNコンテンツデリバリネットワークの障害によると説明されています。

CDNとか、エッジサーバーとか、ってなに?
という話は横に置くとして、プラットホームサービスを担うたった一社のシステムトラブルが、世界中のWEBサービスを止めてしまう現実に恐怖を感じます。

スマート社会が実現していくに従って、これがWEBの世界ではなく、場合によっては電気や水道といったリアルなインフラやそれこそ自動走行車のトラブルをも引き起こす可能性も高くなっていくわけです。

私が、家でも会社でも、ネット電話にはせず従来の電話回線をどうしても手離せないでいるのは、横に繋がっていない独立したインフラを持っていることに安心を感じるからなのかもしれないと、改めて認識しています。

寺本名保美

(2021.06.08)



ウッドショックと投資家の社会的責任

世界的に木材市況が急騰していると報じられるようになりました。

「ウッドショック」と表現されています。

原因の一つは、木材以外にも広く影響を与えているコンテナ船需給のひっ迫です。
さすがに、木材ともなると、海がダメなら空を飛ばす、というわけにもいきません。

もう一つは、米国における「異常な」一戸建て住宅の建設ラッシュの影響です。テレワーク体制が日常化することを見据えて人々が郊外の一戸建てに移住している、という単純な話ではなくて、そうした需要を先取りした不動産ファンドに、年金基金などの大口投資家の資金が大量に流入し、郊外の賃貸向け住宅が急増していると言われています。

結果として、戸建て価格全体が上昇し、購入をあきらめた個人が賃貸物件に向かうため一戸建て賃貸に空前のブームが起き、このブームで収益を上げているファンドには更に投資家資金が流入し、賃貸戸建て市場の過熱を加速しているようです。

リーマンショック前のコモディティ市場でもみられたことですが、大手年金などの巨額な投資資金が、人々の生活に密着した実需に投資を始めると、往々にしてこのような歪みが発生し、関係のない一般生活者に多大な迷惑をかけることになります。

自らの投資が実体経済にどのような影響を与えるかを考えながら投資判断を行うことも、社会的責任投資の一環だと思うのですが。

寺本名保美

(2021.06.07)



多少の日差し

国内株式の出遅れが6月に入り解消に向かってきたきっかけは、感染状況のピークアウトが数字上はっきりと見えてきたことにあります。

それまでインドを超えるトレンドで感染拡大をしてきた日本の感染者数は5月17日あたりを境にして明らかにピークアウトをしてきています。

日本株は割安であるものの、ハードロックダウンもなく、ワクチン接種も遅かった日本が、感染者数をコントロールできないままオリンピックに突入するのではないかということを懸念していた海外投資家にとって、とりあえず日本株を買わない理由が一つなくなったことになります。

GAFAなどのハイテク成長株から、資源などの景気敏感株や金融などのバリュー株への循環物色も一巡し、米国から欧州へと物色対象も拡大し、残るは周回遅れの日本株へのバリエーション調整買いが期待できるタイミングではあります。

その先の成長シナリオが描けないという状況は相変わらずではあるものの、目先は多少の日差しを浴びることができるといいのですが。

寺本名保美

(2021.06.03)



いつまでもデフレ

米国のインフレ率の4%越えは、やや上振れた数字であったにしても、EUの5月のインフレ率の2%と合わせて考えてみると、少なくても米国と欧州については、各中銀が目標とする2%ラインはクリアしつつあると言えるでしょう。

それに対して、日本が未だマイナスの世界に沈み、総裁自らが残り2年の任期中での2%到達を諦めると発言していることを、どう理解すべきなのかと思っています。

コロナ禍からの回復スピードの違いだけでは説明が付かない深刻なデフレ構造から全く抜ける気配がないのは、もはや日銀の政策だけの問題ではなさそうです。

消費税の総額表示の際、大手小売が消費税分を値下げしてしまった様に、日本の企業経営には、価格を下げて量を取るというデフレマインドが染み付いています。

デフレを作っているのは、消費者ではなくて、企業経営者自身のように私には見えます。

コストを適正に価格に反映していく道筋を作って行かないと、万が一世界規模でのインフレが現実化した時、日本企業や日本経済は非常に苦しい状況に陥ることになるでしょう。

寺本名保美

(2021.06.01)


build by phk-imgdiary Ver.1.22