2020年07月の思いつき


企業業績と経済

株式市場というものが上場企業の業績を反映するだけのものなのか、それともその国の経済全体を映す鏡であるのか。

もちろん、企業や業種によって、景気の影響を受け易いもの、受け難いものがあるとしても、国民経済全体が大きく痛んでいる中において上場企業の業績だけが堅調であり続けることは、どれだけ世界経済がグローバル化したとしても、不可能です。

例えば、今の米国や欧州や日本においてかつてない規模での失業者を抱え、雇用の創出がこのまま進まなければ、各国の国内需要は早晩急激な落ち込みを経験することになります。

願わくば、足下で業績が好調な大企業が、コロナ禍で発生した大量の労働力の受け皿となってくれることですが、現実的にはそう簡単なことではないでしょう。

上場企業の業績だけからは見えてこない経済全体の深刻さに、株式市場はそろそろ気づき始めても良い頃だと思います。

寺本名保美

(2020.07.30)



急成長の反動

米国議会において、GAFA4社の首脳に対する公聴会が開かれます。

コロナショックにより、社会のデジタル化が加速し、GAFA各社が単なるIT企業から、社会生活に不可欠なインフラを提供する基幹産業となりました。

GAFAの存在感が急激に拡大したことは、株式市場においてはTECバブルを引き起こし、一方で政治的には社会インフラの提供者が単なる一民間企業であることへの疑問と警戒を高めるきっかけとなりました。

今日の公聴会の結果次第では、規制強化に留まらず、事業分割の議論にまで発展する可能性もあります。

この公聴会が、GAFA各社の成長モデルにとって、そしてそれを支えに上昇してきた株式市場にとって、大きな転機となるかもしれないと思っています。

寺本名保美

(2020.07.29)



求む戦国大名

英国のジョンソン首相が、コロナが重症化した自らの体験から、私は太り過ぎていた、という言葉と共に、健康に悪い食品の販売を規制する法案を作ったそうです。

自らの体験から学ぶことは重要なことではあるものの、施政者が体験しないと学べないというのも、どうかと思います。

危機管理の基本は想像力です。

今あるデータや今見えている現実から、如何に次の展開を想像するかが全てです。

当たり外れを予想するのではなく、局面の展開と状況の変化を想像し、でき得る手立ての組み合わせのイメージを持つことです。

未知の危機に対応できる想像力と決断力がある指導者など、日本には戦国時代にまで遡らないといないかもしれませんが。

寺本名保美

(2020.07.28)



オリンピックカード

弊社で現状稼働しているテレワークシステムは、本来は今日からのオリンピック期間中に使うために準備をしていたものでした。

きっかけは真逆となりましたが、想定以上にテレワークが定着するという皮肉な結果となっています。

来年のオリンピック。
東京がコーディネートする史上初のデジタルオリンピックとして、後世に名を残すことができないものかと思ったりしています。

競技の開催場所は、競技団体毎に世界に分散する。観客を入れるかどうかは各国の判断。東京は映像配信を統括する。開会式や閉会式は日本のデジタル技術を駆使して制作したエンターテインメント映像とし、全世界に東京からのメッセージを伝える、とか。

開催か中止か、とか、無観客とか、考えれば考えるほど、発想が後ろ向きになってしまうようで、オリンピックらしくないし、それなら、一層のこと、どんな環境となっても、開催できる方法を考えて行った方が良いのではないかと。

このタイミングでのオリンピックカードを持ったことを、何か大きなチャンスにできるような、思い切った発想の転換できれば、ここからの日本の本当に大きな活力になると思うのです。

せっかくのジョーカー。使わずに捨てるのでもなく、持ち続けてババにしてしまうのでもなく、切り札として活かす道を探せないものでしょうか、

寺本名保美

(2020.07.27)



ブラフからリアルに

米国によるヒューストンの中国領事館の閉鎖を実行しました。
閉鎖を警告するだけではなく、実際に閉鎖したことに金融市場は少なからず動揺しています。

今回の米国の行動は、従来のトランプ政権にみられていた駆引きではなく、新型コロナワクチン開発を巡るスパイ行為を理由とした本気の制裁であり、この領事館閉鎖をきっかけとして2018年年初来燻ってきた米中間の対立が新たな局面に突入してしまう可能性が高いとみるべきでしょう。

コロナ問題での対処を見ていると、トランプ大統領はブラフ戦は得意でもリアルなリスクに対する対処はあまり得意ではなさそうに見えます。

一度転がり始めてしまった季節外れの雪玉が転がりながら大きくなっていく嫌な予感がします。

寺本名保美

(2020.07.26)



石油は素材か燃料か。

2007年、原油価格が高騰し、1バーレル100ドルが目前に迫っていた時、東京都など一部の地域ではプラスチックゴミを可燃ゴミとして収集するようになりました。

サーマルリサイクルと呼ばれる、プラスチックをゴミとして燃焼させることでその熱量を資源として回収するという考え方を採用したからです。

そして月日が流れ、原油価格が低迷する中、日本はこのサーマルリサイクルという概念を捨てて、プラスチックを資源ゴミとしてリサイクル方向に転換することになったようです。

そもそも石油由来のプラスチックが素材として極めて優秀であることから、石油を燃料として使用すること自体が、宝を燃やしているようなものだと主張している人達もいます。

サーマルリサイクルの話をしていた頃は、プラスチック製品を原料化すると却ってエネルギー効率が悪くエコではないという説明もありましたが、ゴミであろうが燃料であろうが、とにかく化石資源を燃やすという行為そのものが、今の国際社会では受け入れられなくなっているのでしょう。

プラスチックを燃やさなくなった後、海洋を漂うプラスチックゴミが却って増えるような事態にならなければよいのですが。

寺本名保美

(2020.07.21)



リストラクチャリングの是非

FRBが徹底した信用供与を続けているにも関わらず、米国で破産法申請企業が後を絶たないのは、業績悪化を契機とした債務再編や部門再編などの大規模なリストラクチャリングに踏み切る経営判断が背景にあるからです。

技術やブランドを残すという意味において前向きな破綻であるとはいえ、それによって合法的に行われる大量の人員削減は、社会全体の基礎体力をジワジワと奪っていきます。

また、債券やローン債権のデフォルトが増えることで、FRBの努力に関わらず、投資家や金融機関の与信余力を奪っていくことにもなります。

これまで、FRBのセイフティネットのお陰で、それほど大きな波乱なく推移してきたクレジット市場ですが、デフォルトがこれ以上増加してくれば、経済と金融システムの双方に深刻な影響を与える懸念が出てきます、

企業の健全性の確保が経済のV字回復の基本ではあるものの、社会的影響の大きなリストラクチャリングについては、もう少し経済全体が落ち着いてからにしてもらえないものかと思っています。

寺本名保美

(2020.07.20)



足して2で割る

マスク一つが、人間の尊厳や、神から与えられた権利やら、と国家を二分するような議論になってしまう国のことを、なんだか面倒な国だと思ってしまいます。

一方で、テレワークを継続するかしないのか、旅行に行くか行かないか、を国に決めてもらわないと決断できないこの国のことを、なんだか情けない国だとも思います。

面倒な国の熱量と、情けない国の従順さ。

足して2で割れば良い国になりそうな気がするのですが。

寺本名保美

(2020.07.18)



藪蛇

Go to トラベルキャンペーンから東京発着が除外されることになりました。

宿泊補助を受けるには、都民でない証明が必要となるそうです。

ロックダウンという言葉に明確な定義はないものの、都民の移動を制限するという意味において、これもある種の東京ロックダウンといえるのではないかと思っています。

こうなると、恐らくこれまで出張を許可していた企業も、東京発着の出張を自粛するようになるので、少なくても都内の景色は緊急事態宣言に近いものに戻ってしまうでしょう。

感染への危機感を醸成するという点においてはよかったかもしれませんが、東京をピンポイントで除外したことで、国内外に「危険な東京」を宣言してしまった影響は小さくはないと思います。

消費拡大を狙ったGo to が、却って国民全体のセンチメントを萎縮させることにならなければいいのですが。

寺本名保美

(2020.07.16)



火種が二つ

Bloomberg は、大手投資会社のブラックストーンが、CMBSファンドの清算を決定したと報じました。

規模としては1000億円程度の保有資産なので、市場に与える需給インパクトは限定的だと思われますが、それよりもブラックストーンがCMBS市場を一旦見切ったことの持つ意味とその波及効果を、よく考えた方がいいと思います。

もう一つ気になる話としては、トランプ大統領が香港自治法に署名したこと。 過去の思いつき
香港自治法には香港の自治侵害に関わった中国当局者らへの資産凍結のほか、制裁対象者と取引した金融機関への2次制裁も含まれています。
ドル調達危機をきっかけにした、中国の金融危機に波及しないかどうか、注視する必要があります。

どちらの火種も今はまだ小さいですが、一旦燃え上がると、とてつもない炎上に、繋がります。

寺本名保美

(2020.07.15)



もう一工夫

新型コロナの景気対策として、一番初めに出てきた話が、「Go to トラベル キャンペーン」で、出た時から評判が悪くて、未だに悪い。

3月から今迄、結構時間があったのに、もう少し工夫が出来なかったものか。

自分だったら、どうしてくれるのが嬉しいかと考えてみたら、バウチャー方式にしてもらうのがベスト。

自分が行きたいホテルの宿泊権を購入して、購入費用の一部を補助してもらう。

今は行かれないけど、いつかは行ける、という気分になれるだけでも気持ちが安らぐし、ホテル側にとってはある意味でのファイナンスになります。

もちろんこれでは、足元で人が動かないので、観光産業全体への寄与が薄くなってしまうのは、致し方が無いところではありますが、掛け声だけで人が動かないよりは余程マシなのではないかと思うのです。

まあ、こんなこと、あんなこと、散々検討された上での、今の形なのでしょうが、このままだとなんだか企画倒れに終わってしまいそうな予感がしています。

寺本名保美

(2020.07.14)



消費者心理は難しい

レジ袋の有料化が始まり、様々なエコバッグ商品が注目を浴びています。

マスクが必需品となれば、お洒落で機能で勝負するマスクが出回ったように、不平不満の原因を新たなトレンドの種に変えてしまう消費者の力というのは、凄いものだと感心するばかりです。

一方で、近くのスーパーでは、希望者にサービスで配布していた紙袋が、レジ袋よりも高い値段で有料化されました。高いと言ってもたかが10円ですが、本来の有料化の趣旨を逸脱した絵に書いたような便乗値上げに金額以上の理不尽さを感じて腹を立てている自分を省みて、消費者心理の難しさも実感しています。

日本株のファンドマネージャーと話していると、男性とでもスーパーの話題で盛り上がることがよくあります。

消費者心理を知らずして、株式運用はできない、ということかもしれません。

寺本名保美

(2020.07.13)



モラトリアムからの脱出

弊社では2月末から実施してきたテレワークを、期限を定めず継続することを決定しました。(詳細は「お知らせ」をご参照ください)

自宅と事務所。作業場所を各自が自由に選択することができるようにしますが、当面の間は原則自宅を主な作業の場とします。

政府には政府の、都には都としての立場や思惑があるなか、事業者は事業者として独自の判断をしていく必要があると考えます。

今の非日常を何時か終わりが来る非日常だと思っている限り、企業としても個人としても、どこかモラトリアムに陥り、進歩や成長が止まってしまうような危惧を持っています。

今の非日常を社会に芽生えた新しい可能性と前向きに捉え、自社にとって最も効率的なワークスタイルを模索していきたいと思っています。

セミナーの開催方法についても見直していくことになるでしょうし、オフィススペースについても検討の余地があるかもしれません。

お客様にとって更に使い勝手のよいサービスにどう転換させていけるか。新しい日常を考え始めたら、久しぶりにワクワクした気分になってきました。

寺本名保美

(2020.07.12)



買うものがなくなる

ロンドン出張で必ず立ち寄っていたアクアスキュータムの日本代理店だったレナウンが経営破綻し、ニューヨーク出張で必ず立ち寄ったブルックスブラザーズも破綻しました。

WEB会議ばかりで、お客様や運用機関の方々と直接会う機会が殆ど無くなり、わざわざクールビズ宣言をする必要もありません、

そのうち、ビジネススーツという言葉が死語となってしまうのかもしれないと思えてきました。

ビジネススーツがなくなると、ビジネスバッグの必要もなくなり、革靴への興味も薄れるわけで、私の消費のほとんどが消滅しそうです。

ビジネスのあり様の変化が、消費行動にも大きな影響を与えていることを、実感します。

これ以上、私の消費先が破綻しないことを祈るばかりです。

寺本名保美

(2020.07.09)



水素の時代?

欧州が水素ガスを次世代エネルギー政策の柱に据えることを発表しました。

これは日本の製造業にとって、久々に朗報となるかもしれません。

従来から、次世代エネルギーの核を水素としてきた日本ですが、他国の追随がなければ、日本の製造業全体が巨大なガラパゴスになるリスクがありました。

また、水素技術開発に欧州が本格参入することで、開発やコストダウンのスピードも早まることが期待されます。

願わくは、水素先進国を掲げる日本の水素関連技術が注目されることで、次世代エネルギー産業の基幹拠点として名乗りをあげられれば、言うこと無しでしょう。

あまり過大な期待をするのは時期尚早ではありますが、周回遅れではない先頭集団になれるチャンスが巡ってきたかもしれません。

(2020.07.08)



ハザードマップの使い方

九州地方での豪雨被害に遭われた皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

毎年繰り返す天災被害。

その度に各種ハザードマップのことが取り上げられます。

一方で、そのハザードマップが活用しきれない虚しさも繰り返されているのが実状です。

東京証券取引所が液状化マップの危険地域の真上にあったり、私の住んでいる世田谷区の警察や消防本部が水没危険地帯にあったりと、身の回りで探せばどこの地域も問題を抱えたままです。

リスクを認識しつつ、その時が来ないことを祈るか、いざという時の心構えを養うだけ、というのでは、なんとも心許ない限りです。

天災の規模も頻度も高まる中、ハザードマップを机上の空論に終わられない決断を、行政単位で行っていかなければならない時期が来てしまっているのではないかと思います。

寺本名保美

(2020.07.07)



彼の国の官制バブル

今の米国株式は楽観的過ぎるとは思うものの、理由なき上昇だとは思っていません。

一方、このところの中国株式については、楽観的というよりは、官制バブルの気配がする、嫌な上げ方です。

2015年のチャイナショックは、GDPの落ち込みを無理な株高で解消しようとしたことの反動がきっかけとなりました。

経済の回復には株高が必要だ、というような発言が出てくること自体、今の株高の異常さを表しています。

官製相場に逆らってはいけないものの、ついていった先にあるのは、崖っ淵かもしれません。

寺本名保美

(2020.07.06)



今のプラスは来年のマイナス?

米国で想定以上のスピードで雇用が戻っていることが、良いニュースであるのか、悪いニュースであるのか、判断の別れるところです。

今回のレイオフの多くがサービス業で起きており、サービス業の雇用が復活していることの裏返しが、感染者数の急増と活動制限の復活です。

WHO等が主張しているのは、第二波を防げなければ、来年度の世界成長は今年以下になるということで、今年踏みとどまることが来年の成長に繋がるというものです。

一方で、今、政権を預かる人々にとっては、来年の成長より足元の底割れ回避なので、足元の雇用が戻ることが何より重要となります。

先を読むと言われている株式市場。
今の雇用増をプラスととるのかとらないか。
プラスととる人の方が多そうではありますが。

寺本名保美

(2020.07.05)



企業のポピュリズム

リーマンショック後、攻撃的になった群衆心理に呼応して、政治のポピュリズム化が進みました。

コロナショック後、攻撃的になった群衆心理に呼応して、企業活動のポピュリズム化が進んでいます。

Facebookに対する広告自粛や、化粧品会社がホワイトニングという単語の使用を自粛したりと、企業モラルという言葉の元に、やや過剰とも思える行動抑制が起きています。

本来の直接的な消費者ではなく、顔の見えないSNSの向こう側の反応を窺わなければならないこの時代。

正論よりもコンセンサスが優先される社会になりつつあることに、多少の気持ち悪さを感じています。

寺本名保美

(2020.07.02)



面倒な四半期

ここから3ヶ月の市場環境を考えていたら、コロナ問題の再燃より米中摩擦の激化の方が、リスク度が高いように思えてきました。

再選されるかどうかは別として、トランプ大統領の任期切れまで後4ヶ月。

もし中国がバイデン氏有利と見ていれば、ここから暫くはのらりくらりと立ち回り、具体的なディールに合意することは無いでしょう。

一方で、とにかくディールをしたいトランプ大統領には焦りが出てくるため、言動の不確実性は増幅され、結果、米中間での見かけ上の対立構造の激化に、金融市場が振らされるという、面倒な展開が想定されます。

基本的に米国大統領選挙前の四半期は、上も下もリスクをとるのは控えておくべき日四半期です。

コロナの先行きも不透明である現状、控えめなポジションで様子を見るのが一番かもしれません。

寺本名保美

(2020.07.01)


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