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米国のトランプ大統領の就任演説から2日。
とりあえず演説内容については、それほど新鮮味のある内容ではなく、市場としては想定の範囲内というところです。

テック企業の幹部を最前席に配置し、高らかに米国の成長を宣言したかの様に見えますが、演説全体に亘って漂っていたのは、内向きで且つ時計の針を巻き戻す懐古趣味的な色彩でした。

そうした中、唯一の前向きな発言が「火星に星条旗を立てる」というものであったことが、何を意味するのか。トランプ政権を占う上で意外と重要なキーワードになるかもしれないと思っています。

2013年オバマ大統領が予算教書演説の中で「人間の脳をマッピングする」事業に言及して10年後の2023年、人工脳技術であるAIが社会を席巻しました。

米国大統領の公式演説には、後から振り返って初めて気づくキーワードが潜んでいることがあります。

火星という言葉に無邪気にはしゃぐイーロンマスク氏の映像を見ながら、先端技術の向く先が既に地球上を飛び出してしまっていることを実感する就任演説でした。

寺本名保美

(2025.01.22)



繋げるということ

阪神淡路大震災から30年が経過しました。

あの震災前後で、日本の大規模災害に対する取り組みはとても大きく変わりました。その後の大震災や大規模水害など、毎年のように起きる日本各地での大規模災害において、阪神淡路大震災での経験と教訓と反省は確実に生かされていると感じています。

最も大きな変化は、行政も法人も個人も、大地震や洪水といった大規模災害の可能性から目を逸らすことなく直視することができるようなったことかもしれません。

活断層という言葉を聞いたのはあの時が初めてでした。ハザードマップという存在も知りませんでした。融資の担保価値に直結する危険性の高い地域や地盤の公表などもっての外と思われていた時代でした。

まだまだ震災対応には問題点も多く指摘されています。あれから30年も経って、まだこんなことも改善されないのか、という声も聞こえます。それでもこの30年、少しずつかもしれませんが世の中は変わっているし、変わることこそが被害を受けた全ての方々の痛みや無念に応えることなんだと思います。

当時の災害対応に係るレビューは、内閣府や関係省庁そして防衛庁などから幾つも発表されています。こうした社会や行政における経験の継承と反省こそが「震災を風化させない」ということです。

個人の心の記憶は「忘れること」ができます。忘れることで前に進むこともできます。心の記憶は風化させてもいい。後世に繋ぐべき経験は個人に頼ることなく社会システムとして残していくべきです。

辛い経験だったからこそ、心の記憶ではなく、客観的な視点をもって今の時代に繋げていくことが重要なのではないかと私は思います。

寺本名保美

(2025.01.17)



政治の形

新年あけましておめでとうございます。

金融市場は比較的波乱のない穏やか年末年始となりました。

国内外共に既存の政治体制にNOが突き付けられた2024年を経て、今年は新しい政治の形を模索する一年になりそうです。

トランプ政権の最大の特徴は、政治のプロフェショナルではない指導者達による政権運営という点にあります。これが議会運営や予算といった表層的な政治の変化で終わるのか、それともこれまで米国政治の岩盤として揺るぎのない政策立案をしてきたテクノクラート層にまで楔を打つことになるのか、そこに行きつく前に政権が空中分解するのか。場合によっては世界秩序の方向性すら左右し兼ねない程の変化が米国を中心に起きてくるかもしれません。

国内では年明け後俄かに出てきた「大連立」という単語が気になります。たまたま年末に視ていた故渡辺恒雄氏の特集番組の中で、渡辺氏が過去に大連立を画策し失敗した経緯が描かれていたことが頭に残っていたからかもしれませんが、制度疲労を起こしている日本の政治システムについても変化が求められていることは間違いなさそうです。

欧州政治の混乱は言うに及ばずですが、ディスインフレと景気低迷という所謂ジャパンシンドロームが続く中国にも、長引く紛争で疲弊するロシアにも、政変の火種は燻っています。

政治の一貫性が見込めない中、USスチールに代表されるような経済の論理では理解し難いシナリオも想定していく必要があるでしょう。

金融政策や企業業績だけを見ていればよかった昨年とは一段異なった視点での投資戦略が求められる一年、弊社としてもなお一層心を引き締めて日々の業務を務めて参ります。

本年もよろしくお願い申し上げます。

寺本名保美

(2025.01.06)



本年も大変お世話になりました。

国内では能登の震災と羽田の事故と急激な円安から始まり、グローバルにはAIと金融政策と政治崩壊に振り回された2024年が終わります。

2025年は昭和100年。
因みに、明治158年・大正114年で、平成37年。

昭和が終わってもう37年も経つのかと思ったり、ちょんまげ帯刀の江戸時代が終わってまだ158年しか経っていないのか、と思ったり、人生100年と言われている中でこの数字を眺めていると、歴史の彼方の人物や事象が直ぐ手に届くそこにあるような不思議な感覚になります。

100年に一度、200年に一度、と言われる規模の変革期の真只中にある現代社会。
新しいモノへの期待と変化への恐怖。創造による成長と破壊による痛み。単純な勝者・敗者ではない、複雑な二極化構造を、国家間・産業間・そして一般社会において抱えつつ、それでも全体でみれば経済は拡大していくことになるのでしょう。

大きめの振幅を前提とした右肩上がり市場環境において最も重要なことは、大きな下振れに遭っても運用を途切らさせることなく継続するための、リスク管理と組織内におけるコンセンサス作りだと考えます。

楽観的な市場環境だからこそ、リスク管理が重要になる、というこを肝に銘じて、新しい年を迎えたいと思っています。

本年の営業は本日が最終となります。新年は6日から通常営業となります。

皆様のご支援に心から感謝いたしますと共に、2025年のご多幸をお祈り申し上げます。

寺本名保美 

(2024.12.27)



均衡金利の切り上がり

昨晩の米国FOMCの結果を見てみると、来年、再来年の着地予想は、略2回前の6月水準に戻っただけなので、それほどインパクトのあるものではありません。どちらかというと来年4回の利下げを見込んでいた9月のFOMCが少し緩和的すぎたのかもしれません。

むしろ注目すべきことは、長期の均衡点に関する見通しでしょう。

FOMCの度に徐々に切り上がってきた長期見通しですが、これまでFRBが意図してきた「2.25~2.75」の幅に入っているドットは4人だけとなり、9月の8人、6月の10人から、大幅に減少しています。

FRBとして、インフレ目標2%についての議論は、まだ公には行われていないようですが、ドットチャートを見る限りこの議論が表に出てくるのは時間の問題であるように思います。

年末を控え、ポジション調整が続く株式市場はやや過剰に反応しましたが、この半年クレジットや米国株式においては米国金利の高止まりを前提とした戦略も目に付くようになりました。

米国においては3.0~3.5%程度の政策金利と、3.5%~4.5%程度の長期金利を前提とした、投資戦略を考えるのが、来年のアロケーション上の一つのテーマなのかもしれません。

寺本名保美

(2024.12.19)



想定内と想定外

今年政治経済界を一言でいうなら、「想定内の事象」が「想定外の規模」で起きた一年、というところでしょうか。

インフレによって社会の2極化が進み政治不信が加速する中、どこの国においても現政権の脆弱化と波乱の選挙は想定済だったとしても、ここまで雪崩のように世界各地の現政権が崩れ落ちるとは想定していませんでした。

2022年11月にリリースされたChatGTPから始まったAI技術が、2023年のNVIDIAの半導体ブームを引き起こすところまでは想定できたとしても、僅か2年でAIビジネスを前提としたデータセンターや電力施設等のインフラビジネスが各国の経済政策の根幹になるスピード感は想定以上のものとなりました。

国内ではこの数年各国で広がっていたM&Aを使った事業成長戦略が日本でも伸びていくであろうことは想定していたものの、日本製鉄のUSスチール買収や、セブンアンドアイの被買収案件、そしてホンダと日産の統合の可能性までの規模感に拡大することは想定を遥かに超えています。

政治の国境を越えた連鎖、技術革新と社会変革のスピード、企業の統廃合による資本の集中、という今年の大きなトレンドは、社会にとって必要な変化でもありつつも、行き過ぎれば取り返しのつかない破壊のきっかけともなり得る諸刃の剣です。

眩しいばかりの高揚の先にあるものが荒廃ではないことを祈るばかりです。

寺本名保美

(2024.12.18)



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