2024年07月の思いつき


経済正常化の象徴

日本の金利が復活しました。2009年の金融危機後の利下げ以降、主要国の中で唯一、一度も水面上にでることが無かった日本の政策金利の復活です。

サブプライム以降の金融危機において、金融経済が受けた被害は最も軽く、コロナ禍での人的被害も奇跡的に少なかったはずの日本の金利が、その間の幾つかの震災の影響もあったとはいえ、正常化に最も長い15年余の時間を掛けたことが、日本経済にとって本当にプラスだったのか、という検証は後世において行われることになるでしょう。

本日行われた日銀総裁記者会見における日銀記者から質疑を読みながら、金利が失われていた期間の長さと、金利と共に失ってきた経験値の大きさに改めて愕然としています。

記者ほどではないにしろ、債券担当者・金利市場関係者が、金利の復活と金融政策の正常化プロセスにどれだけ対応していかれるのかが、金利が0.25%上昇したことよりもよほど心配だったりもします。

そして、間髪を入れずに短プラの引上げが発表されました。理屈も構造も複雑すぎて、誰も説明できない短プラ連動の住宅ローンの行く末など、心配の種は幾重にも、ではありますが、それもこれも「異常」が「正常」に切り替わるための、何時か通らなければならないプロセスなのだと思います。

そして大揺れの為替市場ですが、これについても金利の正常化が為替市場の正常化を促しただけとも言えるでしょう。

日本の金利の復活とそれに伴う各種市場のボラティリティの上昇が、様々な歪みの正常化を引き起こすリスクに十分留意は必要ですが、金利の復活は長い長い日本経済の低迷が本当に終わったという象徴であるとするならば、今日という日は日本経済にとって歴史的な一日となるのかもしれません。

寺本名保美

(2024.07.31)



大気不安定。急な激しい雨に注意。

金融市場の上空の大気も少々不安定なようです。

これまで強烈な上昇気流に煽られていた機体が、不意にエアポケットに入って、ストンと落ちた、という感じでしょうか。

市場の価格調整と共に、市場のボラティリティも復活してくることで、投資家のリスク許容度もまた正常化していきます。

夏休み前のオリンピック前。市場の流動性が落ちるタイミングでのボラティリティの上昇は、これまで無駄にリスクをとっていた投資家にとっては、やや強めの向かい風になるかもしれません。

「これから多少の揺れはございますが、飛行機の運航上問題はございません。但しお客様の安全の為シートベルトはしっかりとお閉めください。」
という機内アナウンスが、妙にしっくりくる夏の日です。

寺本名保美

(2024.07.25)



世の中そんなに単純ではない

トランプ候補が優勢との観測が流れ、金融市場は一早くトランプトレードが始まっています。

国内製造業回帰で円安修正。
対中制裁強化で半導体需要の低下。
エネルギー政策の転換で石油資源依存度が復活。

市場はとりあえず、こうした解り易いテーマに飛びついているように見えますが、実際トランプ政権が発足したとしても、政策運営は
市場が想像しているものより、遥かに複雑怪奇で先を見通すことが困難なものになるかもしれません。

フランスが極右から極左という極端な振れ幅を見せたように、現在の政治は過去のステレオタイプ的な政党政治から、大きく乖離を始めています。米国の民主・共和両党においてすら、従来の両党の主張が混在し、共和党内部での主張の対立も深刻化しているという指摘も見られます。

そもそも、大統領選挙までまだ4ヶ月もある中で、決め打ちのポジションをとるのは早すぎるでしょう。

このポジションの揺り戻しも含め、これまで一本調子だった各市場にボラティリティが復活してくるかもしれません。

寺本名保美

(2024.07.18)



利下げは買い?

もし市場で言われているように、9月のFOMCで利下げが決定されるなら、それが株式市場にとって目先の転機のきっかけとなるかもしれません。

金利上昇に伴う株価調整は、利上げ開始時に始まり、その後の利上げ継続局面では収束し、今度は利下げ開始時から復活する傾向があります。

政策金利の引き下げが決定するということは、引締めによる景気後退が数値としてはっきりと確認できたことを意味しているからです。

利下げ効果を囃して株高となるのは、利下げが決定するまでで、利下げが始まると今度は景気後退の深さと亀裂が気になり始めます。

本当に9月に利下げが行われるほど、雇用とインフレの鎮静化が進むかどうかは、まだわかりません。

いずれにしても、利下げを囃しての株高は、そうそう長続きはしないとみておいた方がよさそうです。

寺本名保美

(2024.07.11)



フランスのバランス感覚

マクロン大統領が無謀な賭けにでたフランスの下院選挙は、6月末の第1回投票の勢いそのままに、7月7日の決選投票で極右雪崩が起きる可能性が懸念されていました。

更なるポピュリズム的な政策が拡大することで、財政が悪化し、フランスの長期金利が上昇し、更なるフランス国債の格下げがユーロの信認に悪影響を及ぼす負のスパイラルが懸念されていました。

漸く、昨日当たりから、与党連合がフランス世論のバランス感覚を取り戻すことに成功しつつあると報じられるようになり、フランス発の欧州危機への懸念は大分薄らいできています。

思い返せば、2016年の英国ブレグジット・米国のトランプ政権誕生と続いた右派ポピュリズム的政治の大きな流れを一旦断ち切ったのが2017年のフランスにおけるマクロン大統領の選出でした。

あの時、世界の濁流に一石を投じたフランス国民のバランス感覚に、今回も大いに期待しています。

寺本名保美

(2024.07.04)


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