課徴金と制裁金
大手金融機関の不祥事が起きる度に、日本も米国のような数十億~数百億円単位の罰金をとるようにできないか、という議論が出てきます。
そもそも日本における「課徴金」は不正によって得られた利益が基準となって計算されているもので、行為に対する罰則的な意図を持ったものではありません。
一方で米国のSECが出す「民事制裁金」については、行為に対する罰則と認識されており、「抑止力として意味を持つ金額」が課せられるとされています。
米国の方式については、過度な株主負担・二重罰則・金額に対する過度な裁量権など、指摘される課題もあるものの、一定の抑止力としての効果は確認されているとSECは表明しています。
日本においても、米国の制裁金制度に関する検討論文はもう20年以上前から各団体で何度も出されているものの、現状特に進捗はなさそうです。
金利がない世界が長く続いた日本においては、米国のような高額の制裁金に耐えられるほどの財務体力が金融機関側になかったということも背景にあるのかもしれません。
大手金融グループが傘下の証券や投資顧問などを「ワンストップサービス」として統合しグループとしての巨大化が加速していくのでであれば、今回のような事案は今後幾らでも出てくるでしょう。
SECは「制裁金が事業拡大の為のコストと見做されないようにしなければいけない」と言っています。コストにすらなっていない日本の課徴金システムについて、そろそろ本格的に見直す時期がきているのかもしれません。
寺本名保美
(2024.06.26)
サングラスが欲しい
テック主導や米国主導の金融環境そのものがリスクであるとは思っていません。
それが今の経済実態を表すものであるのなら、投資もそれに従うまでです。
但し、その強さが放つ光源の強さが、周辺の景色の変化を見えなくしてしまうようになったらば、その経済全体について警戒をすべきだと思います。
バブル崩壊というものは、光源そのものが引き起こすのではなく、光が弱まったことで初めて見えてくる周辺環境の荒廃が引き起こすものなのだと思います。
周辺環境の荒廃はある日突然発生するなどどいうことはありえないものの、ある日突然皆んなで気付くという厄介な性格を持っています。
欧州もアジアも中東も、どこもここも微妙に怪しい今日この頃、米国周辺から発する強い光を遮光して、世界をクリアに見回すことが必要になってきたかと、突然の炎天下を歩きながら考えています。
寺本名保美
(2024.06.19)
落ち着きどころ
雇用者数やインフレ率に一喜一憂しながら、落ち着きなく上下動する金融市場に対し、FRB当局者の見通しは随分落ち着いてきたように見えます。
ドットチャートからは、前回までは存在していた更なる利上げの可能性はゼロとなり、一方で年内に4%台まで下がるとの予想もゼロとなりました。
バラついていた2025年の予想値も4.25%から4.5%に収斂を始め、2026年の予想値は3.25%から3.75%と、年間1%程度ずつ切り下がるイメージができつつあります。
ただし、この先の長期の着地点については、回を追うごとにバラツキが大きくなってきていて、従前の2.5%着地を主張するのはとうとう少数派となり、3%台のどこかでの居所を探すステージへの移行が始まったように見えます。
どこに行くのか判らなかった米国金利も、短期金利3%台、10年金利4%台、という落ち着きどころがそろそろ見えてきたのかもしれません。
あと残すは日本だけ。
寺本名保美
(2024.06.13)
現状維持を
インフレを伴う経済成長が、各国において社会の分断を招き、政治への不信感を増幅させています。
インフレと成長の恩恵が社会に隈なく行き届くには時間が必要である一方で、技術変革を伴う社会変化の速さは人々の心を疲弊させていきます。
こうした環境下における不満は、何れの国においても現政権に向けられるものであって、政策の良し悪しに関わらず政権運営は苦難の道となり、経済状況が好転していると言われていたインドですら選挙結果は厳しいものとなりました。
英国に続きフランスにおいても総選挙が噂されていますが、四面楚歌の政権運営を選挙でリセットしようとする現政権の行為は自滅への第一歩のように見えます。
主要国の政治体制が不安定化することは、今の国際情勢から見ても望ましいことではなく、ボロボロでもいいからもう少し社会情勢が落ち着くまでは政権の現状維持を目指すことが得策のように思うのです。
当然これは今の日本も例外ではありません。
どう戦ったところで、今の政治に勝者はいません。
寺本名保美
(2024.06.10)
第一歩としての指針
内閣官房のHPに掲載されている「アセットオーナー・プリンシプル(案)」を見ました。
当初想定していたものよりも、随分と角が取れて丸くなった印象はありますが、「アセットオーナ・プリンシパル」としての宣言として、まとまりのある良い内容になっていると思います。
年金基金等にとっては、既に当たり前に実行されていることが多く含まれていますが、自らの資産運用プロセスの意味を再度確認したり、理事や加入事業所に説明する時の一助となるでしょう。
また、学校法人や財団など、まだ資産運用におけるプロセスを組織として共有できていない団体においては、このアセットオーナプリンシパルはプロセスを構築していくための大きな指針となります。
そして何よりも、資産運用を受託する金融機関側が、この指針を理解し共有することで、自らに課せられた受託者責任を改めて認識することへの一歩になればよいと思います。
寺本名保美
(2024.06.04)