締めくくりの大仕事として
国家公務員の出張旅費を実費精算にすると、人事院が発表しています。
国内外の宿泊費の高騰で、現在の固定費スタイルが成り立たなくなっているからだそうです。実費の上限についても、実勢値に合わせて変化させていくとのこと。実際のところ上限が低くく設定されてしまえば、今と状況は変わらなくなってしまいますが、それでも一歩前進です。
国家公務員の出張体系が変わると、その他の民間企業での出張規定が変わるきっかけとなります。
殊更作用に、公務員の労働体系が変わることが、民間企業の労働体系の改善に繋がるケースは多々あると思われるのです。
私はどうしたら、中小企業の賃金が上がると思うか?と聞かれると、人事院勧告を物価連動にすれば良い、と答えます。
例えば教育産業や非営利法人や生活福祉関連など、売り上げや業績の変化が大きくない業種にとって、賃上げを判断する際のベンチマークとして人事院勧告が持つ意義は大きいのです。
国家公務員、地方公務員が、ベースアップすることで、周辺サービス業の従業員もまたベースアップを要求しやすくなります。
国民受けを気にしない岸田政権なら、締めくくりの大仕事として、人事院勧告6%アップとか、トライしてみてはいかがかと、、、
寺本名保美
(2024.01.30)
投信と投資顧問
投資信託協会と日本投資顧問業協会の合併の検討が始まったようです。
20年位前、「運用のできない投資信託・経営のできない投資顧問」というエッセイを書いたのを思い出しました。
両方の免許を持っているアセットマネジメント会社の内部構造も含め、今でもこの構図はあまり変わっていないような気がしています。
投資信託のコストが高すぎると指摘されることが多いですが、純粋な「運用報酬」に関していえば、日本のアセットマネジメント業界の運用報酬は安すぎる位です。ファンドマネージャーの報酬に至っては物凄く安いです。
それでも投資信託のコストが高すぎる、と言われる原因とその構造を解決ための第一歩として、販社に近い投資信託協会と運用フロントに近い投資顧問協会が合併することは良いことだと思います。
もちろん、運用フロント側が販社の論理に飲み込まれてしまっては元も子もないのですが。
寺本名保美
(2024.01.25)
介護従事者の報酬の謎
介護従事者の平均月額報酬が、全産業平均より7万円もひくいという問題。
今回2.5%程度のベースアップが行われたとしても、全産業平均もその位上がるので差の縮小は期待できません。
長い期間、どっぷりと、介護保険制度にお世話になっていた時、利用者が負担しているサービス料(1割とか2割負担前の原数値)が、決して安くはないのに、どうして介護従事者の手取りになるとこんなに安くなってしまうのだろうと、いつもいつも不思議でした。
極論すれば、ヘルパーさんやリハさんや看護さんが、介護保険を介さずに同じサービスを直接家庭に提供したとすると、お給料は倍近く上がるのではないだろか、と思ったりしていました。もちろんそれでは利用者も介護保険を使えないので、現実的な話ではないのですが、問題はどうしてこういう構造になっているのか、というところにあります。
介護事業所が儲けているかといえば、どうもそうではなさそうで、当時から色々考えてはみたものの、結局のところ、制度が複雑になり過ぎて本当のコストがどこにあるの誰も解っていないからなのではないか、という結論に達しました。
報酬改定も大切ですが、複雑怪奇で効率の悪いこの制度を、一旦整理整頓してみることも制度の持続性を高めるためには必要なのではないかと思っています。
本当にお世話になった制度だからこそ、そこで働く人達の幸せも担保できるような制度になって欲しいと切に願っています。
寺本名保美
(2024.01.23)
好きこそものの上手なれ
ファンドや運用機関の評価をする際、私が重視するのはそこで働く人達が幸せそうに見えるかどうか、かもしれません。
株や債券といった値動きがある資産を相手に、環境の波風を受けつつ、成績表が毎日公表される、といった世界において、日々休まず走り続けるファンドマネージャーという仕事は、ある種アスリートに似ています。
アスリートと同様に、競技者のスタートラインに立つには、やはりそれなりの資質が必要です。スタートした後は努力も鍛錬も必要です。そしてフォローしてくれる組織や周囲のサポートも重要です。
でも結局のところ、本人がその競技を楽しんでいるかどうかが一番重要なのだと思っています。
好きでなければ努力は続かず、努力がなければ結果は続かず、結果が出ない時にはその原因を探求することすら楽しむことが出来る人。そして不思議なことにそういう人には周囲のサポートが自然と集まるようになるものです。
この循環がどこかで崩れ、その人の顔からワクワク感が消え始めると、早晩ファンドのパフォーマンスが消えるか、その人が引退するか、再びワクワクできる環境を求めて移籍先を探すか、といったサイクルに入っていくことになります。
逆に言うなら、運用機関の経営者に求められることは、ひたすら自社のファンドマネージャーが日々楽しくワクワクしながら走り続けられる環境を如何に整備するか、新たな才能のある若手がスタートしてみたいと思えるフィールドを用意できるか、そして経営者自身がそうしたアスリートと共に伴走することを心から楽しむことができるか、に尽きると思うのです。
今の日本の運用業界に足りないのは、優秀なアスリートではなく、資産運用会社の経営を心から楽しみ、アスリートと伴走することができる経営者そのものなのだと感じています。
寺本名保美
(2024.01.18)
覇権の源
覇権国が覇権を維持するには、従う国が納得できる強靭さが必要です。
軍事的覇権、経済的覇権、宗教イデオロギー的覇権、のいずれかでしょう。
覇権下に入る側からすれば、覇権下に入って感じる圧迫や不自由さと、覇権下に入る安心や経済的メリットと、どうちらがより有為であるか、という選択となり、また軍事的覇権と経済的覇権とイデオロギー的覇権が対立した時、何を最も重視するかによっても心地よさは変わってきます。
さて、現代国際社会において、覇権を誇示し合う米国と中国。
足元において経済的に圧倒的に米国優位な状況を前にして、中国がどこを強化してくるか。
揺れる台湾の民意を前に、中国が経済第一という御旗を下ろさないことを切に祈ります。
寺本名保美
(2024.01.15)
株高と肌感覚
国内株式市場が高値を更新しています。
天災、事故、政治不信と、色々ある日本ですが、それでも株価は堅調です。
株価と国民の肌感覚とが乖離する局面は、周期的にやってきます。
99年のIT相場下の日本経済は金融危機の最中の大リストラ中でした。
2003年から2005年の小泉バブル下では、製造業派遣が解禁され、派遣社員の増加と六本木ヒルズの輝きという歪んだコントラストが象徴的でした。
コロナショック後の株高は、突然開いたDXというドアから恐る恐る入ってみたら、新たな社会が見えてきた、という感じでしょうか。
これまでの日本は、株価と企業業績が先行しても、内需と個人消費が追随できずに、沈没することを繰り返してきました。
個人消費が伸びない国に成長はありません。
企業業績中心の景気回復から、個人消費中心の景気回復への移行ができなければ、後の株高は早晩終わります。
単に賃上げをすれば、個人消費が盛り上がるというほど、簡単なことではないような気がしていて、この先の展開が今ひとつ見えてこないでいます。
寺本名保美
(2024.01.10)
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
年末年始の最大の波乱は、日本における大規模災害となってしまいました。
まずは、「令和6年能登半島地震」において、被害を受けられた皆様に心よりの弔意とお見舞いを申し上げます。
市場環境は、ほぼ波乱のない年末年始となりました。年末のポジション整理もありやや低下しすぎた米国長期金利が反騰し、短期筋のドルショートの買い戻しも進みました。
M7と呼ばれる大手ハイテク株の下落が話題になっていますが、これも金利水準への思惑を前提とした価格調整の範囲内です。
変化の大筋は昨年まででおおよそ出尽くしています。米中対立は新冷戦へと深化し、インフレは抑制されてもデフレに戻ることはなく、金融市場の過剰流動性の回収は各国で進み、テック産業はAIを核とした新たなステージに移りました。
変化率で稼ぐ時期は終わり、ここからは基礎的な収益性を評価する市場環境になっていきます。
力のある地域、継続性のある技術、市場支配力のある企業を見極めていけば、それほど困難な投資環境ではないのかもしれません。
一方で、政治波乱と自然波乱が、最大の潜在リスクであることは国内外問わず自明のことです。
経済が想定通りの安定路線を辿れるかどうかは、この二つの波乱のインパクト次第となるでしょう。
自然災害を避ける術はありませんが、だからこそ各国の政治にはより高い自制と緊張感を持って望んで欲しいと思っています。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
寺本名保美
(2024.01.04)