2023年04月の思いつき


ラストリゾートにならないために

最近証券会社から、海外のAT1債やCOCO債をパッケージにしたような金融商品がよく持ち込まれてくる、と相談されました。

かつて、海外発の信用リスク問題が発生する度に繰り返されてきたことですが、海外で資金調達が難しくなった企業や政府が、最後に頼ってくるのは日本市場です。

単に、買い手がいる、というだけであるのなら、それはそれでよいのですが、往々にして海外で2%の上乗せ金利が無ければ買い手がつかないような債券が、日本では0.5%の上乗せ金利で発行できてしまったりするのが厄介です。

売るなというつもりはありませんが、仕組債を含めた全ての未上場の金融商品について、購入日以降の買い取り価格の提示義務を販社に課すぐらいはルール化できないものかと思います。

そろそろラストリゾートにされることから卒業しませんか。

(2023.04.28)



メイド?メード?

EUが生成AIへの統一規制を検討しているという記事の中にあった
「メード・ウィズAI」という文字列に、色々な意味で見入ってしまいました。

そもそもEUの出してきた「Made with AI」という表示案の発想がとても面白い。単純に日本語にしてしまうと「AIで作成」というなんだか野暮な表現になってしまいますが、ニュアンスとしては「この食品は遺伝子組み換え食品を使っています」とか「この食品は合成着色料を使用してます」みたいな注釈に近い印象を受けます。

次にこの「カタカナ⁺カタカナ+英文字」という文字列の奇妙さも、私の目を引いた一因です。ここまでカタカナにするなら、「メード・ウィズエーアイ」の方が形はよいし、メード・ウイズをがMade with に頭の中で変換されるのに、微妙に時間が掛かったのは私だけなのか、とか。

で、最後に、メードなのかメイドなのか、とか考えていたら、「メイドカフェにいったらAIがお出迎えしてくれた画」が浮かんだりとか。

一番面白かったのは、各国が規制強化に走る中、推進会議を立ち上げた岸田政権。この政権の行動は本当に読めない。

寺本名保美

(2023.04.26)



欧州の思い込み

第二次大戦の終わりは、帝国主義の終わりであり、それは植民地主義で経済圏を拡大してきた欧州中心の世界の終わりでもありました。

そして戦後の世界秩序は、英国欧州から派生した米国と、欧州の一部であったソ連という、欧州から近くて遠い「2大国」によって再構築されました。

且つて文明の、経済の、モラルの、中心だった欧州は、一国だけでは世界の何も動かすことのできない、普通の国になり、漸くEUという連合体を築き、世界にモノ申す力を得ようとする矢先、今後は中国という新勢力の台頭で、世界の中心に戻る道のりは再び遠のいていったのです。

それでも、欧州は欧州。国際社会にに自らの存在感を主張する場を虎視眈々と狙っているし、特にフランスはその傾向が強い。

米国とロシアと中国が複雑に交錯している現在の国際情勢に、自ら介入し出口戦略を見出すというミッションは、フランス大統領にとっては潜在一隅のチャンスに見えたとしても不思議はありません。

今のところ、動けば動くほど、状況を悪化させているだけのように見えますが。

寺本名保美

(2023.04.24)



その国の人々の幸せに

スーダンの内戦状態が悪化しています。

国がどうしようもなく貧しくて内戦が起きているわけでなく、豊富な資源や産業があるからこその内戦であることに、どうしようもない哀しさを感じます。

世界有数のの金鉱脈には、国家規模での利権や思惑が錯綜していそうです。指摘されているロシアだけでなく、中国も米国も様々な思惑で、この国の内政に関わってきました。

大国の力を借りて国民が豊かになっているのであれば、文句を言う余地はありませんが、国民が豊かになるわけでもなく、結果的に内戦を悪化させてしまっている現状をみると、20世紀以降繰り返されてきたアフリカ大陸に対する大国の関与の罪深さを改めて思います。

国の財産や資源が、その国の人々の生活に寄与されるような、政治体制の確立をこころから望みます。

寺本名保美

(2023.04.21)



老婆心ながら

クレディスイス問題以降でのAT1債発行第一号が、日本になると日経が報じています。

一言だけコメントするならば、債券やローンや資産担保証券のような投資の原則は、発行時点での目論見書や投資約款や契約書面をとにかく読むことです。

そして、投資判断もそれに係る評価もコメントも、契約書面を前提にした発言であり行動であるべきです。

それは売る人も買う人も報じる人も監督する人も、全て共通の大原則です。

誰がそう言ったから、多分こうだろう。過去の証券がこうだったからこれもこうだろう。という考えは厳禁です。

寺本名保美

(2023.04.19)



インバウンドの次

日本の観光客数が復活してきていることは良いことです。

ただ、従前の観光産業が、労働効率が悪く、インバウンドによる国内消費への寄与を除くと経済的効果は見た目よりも限定的で、経済エコノミスト達からはあまり評判のよい産業とはいいがたかったのも事実です。

足元で日本の観光ビジネスの将来性に期待した、海外の大手ホテルチェーンが、相次いで日本に進出してきています。

大手ホテルチェーンは、サービスの内容と質をグローバルで統一しています。洗練されたマニュアルで統一され、一定基準のスキルに裏付けられたサービスが、日本の観光業界に導入されれば、日本の観光産業で働く人々のスキルと付加価値は確実に上がります。全世界のブランドチェーンで働く機会も増えるでしょうし、サービス業のスペシャリストとして異業種への転職者が増えてくれば、サービス業全体の付加価値も上がって来ることも期待できます。

日本特有のおもてなし精神をベースに、世界基準のスキルを持った人材が、日本の観光産業から輩出されていくことは、日本の観光立国としての価値だけでなく、日本の全ての人材価値の評価向上にも寄与するでしょう。

サービス産業というものは、人材の裾野も数も非常に多い産業です。今回の外資の進出を契機に、この広大な面積を持つ産業人材が活性化されていくことを期待しています。

寺本名保美

(2023.04.18)



商業不動産の先行き

各国での商業用不動産市場の先行きへ懸念の声が聞こえてきます。

過剰緩和があり、その巻き戻しとしての強めの金融引締めがあり、その結果として常に借入を前提として市場が構成されている不動産市場に価格調整が入る、という現象は極めて教科書通りの過去何度も経験してきたストーリーで、今回だけこのストーリーが成立しないと思う方が難しいほどのオーソドックスな流れです。

一方で問題が想定以上に拡大する可能性があるとすればそれは商業不動産を巡るサブストーリーの方でしょう。

コロナ禍後の社会の形態が、本当にコロナ禍前に戻れるのかは定かではありません。リモートワークと出社とのバランス、ネットショップとリアル店舗や大規模モールとのバランス、という基本的な問題だけでなく、メタバース技術の急発展を前提とした商業不動産の役割の変化など、様々な不確定要素が見えています。

単なる金融緩和の巻き戻しによる価格調整だと思って、中途半端に手を出すのは当分控えておいた方が良いかもしれません。

寺本名保美

(2023.04.14)



商社という投網

バークシャーハサウェイ率いるバフェット氏が2020年8月末に日本の商社への投資を始めた時、私は「投網」をイメージしました。

コロナ禍が始まり、DX化が急進展し、社会構造の変化への期待と不安が混在していたあの時期、全世界に対し幅広い業種と可能性を網羅的に投資する日本の商社という形態が、バフェット氏の投資ポートフォリオのイメージに合致したのだと感じました。

当時メディア等ではバフェット氏が資源インフレに対応すべく商社株を保有したとの見方が論じられていましたが、そういった云わばテーマ型投資ではなく、むしろテーマを絞り込まずあらゆる可能性に広くアクセスするための商社投資であったと考えています。

バフェット氏の投資は長期投資であることが知られています。一方で企業を取り巻く環境変化は19世紀の産業革命に匹敵するほどダイナミックで且つスピード感があります。この構造変化を商社という投網を利用して享受することは、バークシャー社の事業ポートフォリオを適度にリバランスするにも効果的であると思います。

問題は商社にバフェット氏が期待するようなダイナミックさがどこまで残されているかですが。

寺本名保美

(2023.04.12)



SNSの時代のChatGPT

SNS時代におけるリスク管理の方向性が見えてきません。

3月に起きた米欧金融機関における取り付け騒ぎも、今回の米国の機密情報漏洩疑惑も、政府機関が状況を把握し対処する間もなく、真偽の確認のない情報が大量に出回り、重大事故に発展していきました。

だからといって、中国のように事前に検閲をするわけにもいかず、何等かの国家的危機に繋がると判断された場合のみ当該SNSに一時閉鎖を命じる、というような強制措置が可能とするような法的な建付けを考えておくことも今後検討されていくことになるのでしょうか。

話題のChatGPTにしろ、その会話内容に問題があるというよりは、そこでAIが創成した文章等が、精査されるプロセスなく一瞬のうちにSNSによって拡散されてしまうことに恐ろしさがあるのです。

だから、今日本で行われているような、ChatGPTを正しく使いましょう、といった方向性の議論はある意味とても日本的で且つ甘い議論であるように世界には見えるのかもしれません。

OpenAIの創業者が岸田首相と会談したことの意味を、世界がどう受け止めたのか、今後の各国の反応を見てきたいと思います。

寺本名保美

(2023.04.11)



豊臣の返り討ち

統一地方選の前半戦の結果から、国民が必要としているのは、革新野党ではなく、保守野党だったのだろうと思いました。

現状の基本政策を変えるつもりはないけれど、今の政権は変えたい、という受け皿として、大阪維新は良い立ち位置を獲得できているように見えます。

選挙後に出てきた公明党と一線を画すという発言についても、自民と政権を担うのは、公明党ではなくて維新になる、という自信の表れのようにも聞こえなくもありません。

将来的に、自民と維新が連立政権を組むような事態となれば、与党内野党での政策論争が活発化して、政策ももっとダイナミックに動いていかれるのではないかという期待も出てきます。

そうなった場合、立憲などの旧来の野党は、本当に野党に過ぎなくなり、気がつくと社民党の二の舞になってしまいそうです。

本当に自民と維新の2大保守政党ができたとしたら、関ヶ原合戦のようで、それはそれで面白そうです。

寺本名保美

(2023.04.10)



内鬱外患の国々の同床異夢

国内の不人気を外交の存在感でカバーしているフランス大統領と、国内問題の忙しさを隠れ蓑にして外交問題から距離をとるドイツ首相。

どっちもどっちではあるものの、ここでフランスとドイツが共同歩調をアピールできないことには不安が残ります。

とはいえ、フランスは足元の地政学的リスクの緊張による防衛関連産業の躍進において、最も恩恵を受けている国の一つであることは間違いないわけで、その国から対ロシアへの兵器輸出の自粛を要請された中国が聞く耳を持つとは思えません。

米国と欧州、ドイツとフランス、ロシアと中国。
ただでさえ同床異夢の国々が、それぞれ深刻な国内問題を抱えつつ、自国にとってのベストな状況を構築しようと画策している今の国際政治情勢は、とても脆弱です。

寺本名保美

(2023.04.07)



がんばれ鈍感力

フィンランドのNATO参加とベラルーシへの戦術核配備。
中国の偵察気球問題。
ロシアでの米国人記者の拘束。中国での日本民間人の拘束。
ロシアに気を使ったように見えるOPEC+の減産合意。
ドイツやフランスでの大規模デモやトランプ大統領の起訴。
漸く収束しかけているクレディスイス問題は、スイスの検察当局が捜査を開始したとの話もあり。

世界規模での不穏さには事欠かない昨今ではありますが、国内政治は「子育て支援と花粉症」。

従来の政権であれば、海外がザワつくと、長期視点の国内問題がなおざりにされる傾向があったのですが、鈍感力の高い岸田政権は良くも悪くもそのあたりはブレない。

いずれにしても、人口問題にしろ花粉問題にしろ、結果がでるのには、世代を2つぐらい跨ぐ必要があります。幾多の政権交代を乗り越えながら財源と政策を継続していくための道筋を現政権がどのようにつけていくことができるのか、少しだけ期待してみています。

寺本名保美

(2023.04.05)



東証って何なのか?

東証を中心に行っている上場市場改革というものが、どうもピンと来ないでいます。

上場市場改革とインデックス改革が整理されていないことも一因かもしれません。

上場市場の力というものは、決済システムの安全性や上場基準の明確さ、取引システムの速度や安定性など、インフラとしての信頼性に基づくものです。今までの東証は決済システムの安全性は担保されながらも、上場、または上場維持基準の明確性や取引システムの能力などについて見劣りする部分がありました。

一方で、東証は株式市場等の上場有価証券についてのインデックスプロバイダーとしての役割も担っています。インデックスというものは投資家にとって投資対象の中心を確定させる役割を担います。どのインデックスを中心に置くかは投資家それぞれの判断であり、投資家に選ばれるインデックスを組成できるどうかはインデックスプロバイダー間での競争となります。

今議論されている上場企業の改善が、上場基準の明確さや健全性という東証のインフラとしての役割の一環としての議論であり、それによって東証の信頼性の向上を目指しているのか、東証の提示するインデックスの競争優位性を高めようとしているのか、識者のコメントを読んでいても視点がバラバラでよくわからないのです。

公的なインフラと営利目的のインデックスプロバイダーとは、目指すべき方向性が完全に一致するとは限りません。音頭を取っている政府にしても、中小企業中心の我が国の産業構造の転換のきっかけにしたいという部分とインデックスとしての競争優位性を高めて投資資金を呼び込みたいという思惑とが混在していて整理されていないように見えます。

上場企業に改善を求めるのも大事ですが、まずは東証という機関が何を目指すのかを、もう一度明確にする必要があるのではないかとも思います。

寺本名保美

(2023.04.03)


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