この世はどこに向かうのか。
オープンAIが開発した対話型AIに対し、オープンAI以外のAI開発者団体が、共通の規範と当局の監督指針ができるまで開発を一時停止することを提言しました。
あまりにもオープンAIが先行してしまったことに対する後発組の懸念が全く含まれていないといえば嘘になるかもしれませんが、社会規範が追いついていかない技術革新に対する技術者からの純粋な警告であると感じています。
そしてこうした警告が、政府ではなく、企業側から発信されていることもまた、情報化時代における立法のあり方という点において、大きな意味を持っていると思います。
自らの間違いを自ら修正していく自立型AIが人間の何倍もの速度で成長していく世界で何が起きるのか、始まってしまった未来を今更止めることができるのか。
あのイーロンマスク氏ですら、一度止めたいと思うような技術の自己増殖に、空恐ろしさを感じずにはいられません。
寺本名保美
(2023.03.29)
~のような?
最近委員会などにお邪魔すると、リーマンショックのようになりますか?と聞かれることが多くなりました。
「リーマンショック」というのが2008年9月から2009年3月末の半年のことであるとするなら、今はまだかなり遠いところに居ます。
その前哨戦であるサブプライムショックが何時から始まったかですが、市場として意識したのは2007年8月のパリバショックまで遡ります。
そしてサブプライムショックの端緒が見えたのは何時かといえば、2006年12月のグローバル金融機関の決算発表があった2007年2月当たりとなります。
今はちょうどこの2006年12月から2007年初頭に起きた、米国の利上げによる悪影響が具体化してきたタイミングにあたるので、事象としてはまだまだ始まったばかりです。
当時と現在と似ているところもありますが、企業の基礎体力やレバレッジの有無、そして金融システムの仕組みなど、異なっている点も沢山あります。
「リーマンショックのような」という大雑把な枕言葉ではなく、足元で起きている事象を一つ一つ精査していくことが重要な時期だと思っています。
寺本名保美
(2023.03.28)
過去から学ぶ
AT1債について、様々な議論が出ています。
詳細は省きますが、そもそもこのAT1債は2018年の金融危機において大量の公的資金を出すことになった反省から、金融機関の破綻の可能性が発生した際に、損失を吸収する目的で発行させられている、政府中銀主導の債券です。
本来は、最も弁済順位が低いエクイティ(株式資本)よりも、弁済順位が上位にあるはずだという主張もありますが、何等かの政府救済が発生した時点でそういった資本の順位は政府中銀の思惑一つで、簡単にひっくり返る、ということを金融市場は2018年に既に経験済です。
そしてこうした資本性債券は、こうした政府中銀の関与の可能性があることを始めから謳っている債券であり、平時における資本の順位を前提にした議論をすることにあまり意味はありません。
今回のAT1債騒動の最大の問題点は、こうした債券の趣旨や経緯や本質を理解する努力が債券市場全体に欠けていたということが露呈したことで、こうした債券市場の劣化が不安定化している金融市場そのものをより脆弱化する可能性が示唆されていることにあります。
市場は過去と同じには動きませんが、過去の事象から学ぶことはできます。
債券市場全体が、慌てず、賢く、対処できることを期待しています。
寺本名保美
(2023.03.27)
話題満載の中ですが
この数日に起きた盛りだくさんのニュースフローの中で、最も重要なテーマは何なのでしょう。
中ロ首脳会談? 岸田首相のウクライナ電撃訪問? WBCの日本優勝?米国の利上げ継続? クレディスイスの救済とAT1債の無価値化?
金融市場への今後のインパクトを考えるなら、見出しとしては一番小さいAT1債の無価値化が一番重要なニュースとなるのかもしれません。
クレジット市場というものは、横の繋がりが強い市場です。
一つの市場の綻びが、特別関係のなさそうな、別のクレジット市場に飛び火することはよくあることです。
暫くの間、クレジット市場全般を少し幅広にモニタリングしておきましょうか。
寺本名保美
(2023.03.23)
セミナーお礼
3月20日は、3年ぶりの対面式での資産運用セミナーでした。多くの皆様にご参加いただきましたことに心より感謝申し上げますと共に、やや密な会場となってしまったことにお詫び申し上げます。
久々にお客様のお顔を拝見しつつの講演は、緊張もありましたがやはりとても楽しかったです。もちろん動画視聴を希望されるお客様もいらっしゃり、完全にコロナ禍前と同じにはなりませんが、新常態を模索しつつこれからも年に2回のペースで続けていきたいと思っています。
今回のテーマは「ポストグローバリゼーションと投資戦略」でした。
第一部では青山学院大学名誉教授の羽場久美子先生より欧州国家の伝統的な強靭さと現代欧州の抱える問題点についてお話をいただきました。
第二部ではコロナ禍前から始まっていた社会の大きな構造変化が作り出している様々な「断絶」を前提にした投資戦略について私からお話させていただきました。
グローバリゼーションという世界共通の単一ルールが変質することで、金融市場に対する我々の視点もまた多角化する必要に迫られています。
変化を許容できる主体だけが生き残ることができる時代における運用もまた、過去に囚われない柔軟さが求められているのでしょう。
寺本名保美
(2023.03.22)
動いたマグマは止まらない
クレディスイスをUBSが買収することで合意されたと報じられています。
週明けの主要国中銀によるドル流動性の確保を含め、ここまでは予定調和の綱渡りが淡々と実行されている印象です。
金融システムへのダメージがこのまま最小限で収束できるかどうかは、予断を許さないものの、第一波への対応としては上出来だと思います。
問題は、第二波がいつどこで発生するかです。
そして多くの場合第二波の方がダメージが大きくなることも忘れてはいけません。
表面的な落ち着きが見えたとしても、水面下で一度動き始めたマグマの動向には、十分注意を払う必要がありそうです。
寺本名保美
(2023.03.20)
FRBにとって重要なこと
長い金融緩和が終わる時、財務上の耐久性に欠ける主体に何らかの破綻が発生するのは仕方のないことです。
過去の米国の金利上昇局面においても、例外なく破綻は発生しています。
だから、米国を含め各国中銀にとって今起きていることは大なり小なり想定されていたことで、その対処方針についても恐らく事前のシュミレーションがなされている範囲だと思います。
米国にとっては、ベンチャーとデジタル通貨絡み、グローバル金融にとってのCSについての対応策が、極めて迅速に行われているのは、その証左ともいえそうです。
市場では、この金融セクターの混乱の収束にあたり、米国の利上げ方針が修正されるとの期待が高まっています。
とはいえ、米国国民全体からみればシリコンバレーやデジタル金融よりも、生活費の高騰の方が遥かに現実的な問題であり、CSについては基本的にはスイスの問題である以上、それがFRBの方針にどれだけの影響を与えるかは定かではありません。
少なくても米国は、90年後半のメキシコ危機の最中でも、利上げを淡々と継続し、数年後のアジア危機を招いた前科があります。
この3月の利上げは、一旦お休みとなる可能性は否定出来ませんが、FRBの大きな方針が緩和されるとするのは時期尚早かもしれません。
(2023.03.16)
大谷君に学ぼう
米軍の無人偵察機とロシアの戦闘機の衝突が報じられています。
大きな紛争は、偶発的な衝突から始まると、歴史家は言います。
でも、偶発的な衝突を拡大させずに収める知恵と経験が、現代政治には備わっていると、私は信じます。
大国を巻き込んだ地政学リスクがこれだけ高まってしまうと、偶発的な事故は今後いくらでも出てくるでしょう。
エスカレーションする相手に対し、如何に冷静に対処できるか、世界の指導者達の人間力が試されています。
敵味方問わず、心を鷲掴みにする、大谷君の微笑みを、皆で学んでみましょうか。
寺本名保美
(2023.03.15)
シリコンバレーバンク 取り急ぎのメモ
週末のSVB(シリコンバレーバンク)の破綻に続き、NYを本拠とするSignature Bankも金融当局の管理下に入りました。
まずは預金者については今のところ全額保護が表明されています。但し、公的資金を投入することは現状否定されており速やかな資産売却による回収を前提とした全額保護であることには注意が必要です。
当該金融機関から資金調達をしていた企業にとって、直ぐに融資の返済を迫られるわけではないものの、新規融資や延長は難しくなるため他の金融機関との交渉が必要となります。
投資家側の視点では、当該金融グループが発行する債券や株式が毀損することも懸念されます。一般的なグローバルな株式インデックスにおいては、両金融機関の組入れ比率は合わせて0.05%程度なので大きな影響はありません。
最後に、Signature Bankが発行していたステイブルコインとそれを使った決済システムの問題があります。当該銀行は仮想通貨市場を活用した決済システムを提供している先進的な金融機関として有名だったとされています。
個人的には、この最後の部分が、今後どのような形でどこに波及していくのかが、一番気になります。
取り急ぎのメモです。
寺本名保美
(2023.03.13)
普通の国のガス抜き
中国の2023年のGDP成長率見通しが5%前後と、従前の5.5%よりもやや控えめな表現になりました。
外需が低迷しても内需が支えてきた中国経済ですが、今回はその内需の先行きに不透明感が漂っています。
習近平政権になって以降一貫して続いてきた特定富裕層への締め付けや、この数年来のネット長者の排除、そして不動産市況の低迷による個人富裕層が傷んだことなどから、中国の個人消費パワーが大きく減速しています。
不動産市況の低迷については、過熱した市況を冷やすため融資を意図的に絞めた結果でもありますが、所謂人口ボーナスがピークアウトした影響も出始めています。
中国の人口ピラミッドの山は50~55歳と30~35歳にあります。過去15年の不動産市況を支えてきた50代がフェードアウト期に入り、期待される30代については価格高騰とコロナ禍での景気後退が重なり購買層としての力強さを失っています。
例え、足元で30代に購買意欲が復活したとしても、この下には一人っ子政策による急激な人口減少世代が控えており、中長期でみれば中国国内の内需は趨勢的に減少していくことになります「。
7%成長が当たり前だった中国が、5%成長となり、早晩3%成長という普通の国の仲間入りとすることになった時、中国の国民はそれを良しとするのでしょうか。
傍からみると、日々成長しているという高揚感があるからこそ、規制だらけの監視社会でも文句を言わずに従ってきているように思えます。
その高揚感を、軍事外交に求めるという、一番迷惑な結論になりそうな、嫌な感じがしています
寺本名保美
(2023.03.10)
共通言語
日銀の新体制がスタートします。
日本だけでなく、米国を見ていても、現在の中央銀行総裁にとって、最も厄介な課題は市場との対話であろうと思います。
パウエル議長の議会証言は、これまでの議長発言の延長線に過ぎません。私には特にタカ派になっているようには思えませんし、もっと言うなら前回のFOMC後の発言がハト派だったとも感じませんでした。
パウエル議長は、市場参加者に語りかけると言うよりは、自らのミッションに基づいた結論を淡々と述べています。一方で市場参加者は、常に自分達の過度な期待に対する裏付けを議長発言に求め、思惑が肯定されないだけで、非常に大きな失望感をいだくのです。
市場参加者は議長が市場と対話しないと批判しますが、市場もまた議長の言葉を理解しようとしない、まさに共通言語が喪失した状況に陥っているかの現状は、無駄にボラティリティばかりを発生させる、とても非効率で危うい状況だといえます。
そしてこの状況は、今後の日本における金融政策においては、もっと極端に再現されることになるでしょう。
日銀の新総裁の仕事は、まず、市場との間の共通言語を復活させるところからがスタートなのかもしれないと思っています。
寺本名保美
(2023.03.09)
アレクサの方が可愛い
話題のチャットGPTを、試してみました。
揺らぎのない事象に対する翻訳やデータの抽出、単語の解説等については、驚くような質とスピードで且つ非常に見やすい段組みで回答が来ます。
一方で、個人名など揺らぎの幅の大きな質問については、驚くような「作り話」を、「何のためらいもなく」回答してきます。正しい答えの時と、嘘の答えの時のアクションに、全く差異がありません。
GoogleのアレクサやアップルのSiriに、「すみません。わかりません」と言われると、これまではイラっとしていましたが、この素知らぬ顔をして嘘をつくチャットGPTを経験してみると、わかりませんと言ってくれるアレクサ達が妙に愛おしく思えてきました。
まだまだ改良進化の途上にあることは承知しているものの、あまり後味の良い体験ではありませんでした。
寺本名保美
(2023.03.08)
原油急落とロシアルーブル
ウクライナ侵攻以前から、ロシアルーブルの対ドル相場は原油価格の影響を強く受けてきました。
これはロシアの財政が原油価格の水準に大きく影響を受けるためです。
足元の原油価格はウクライナショック後の110ドル超えから足元で80ドル割れとなり、ほぼウクライナショック直前の水準で落ち着いています。
またその他の天然ガスやアルミニウムなど、ロシアの主要輸出産品化価格もそのほとんどがウクライナショック開始当時の水準、またはそれ以下まで下落してしまいました。
そしてルーブル相場はウクライナショック後の急落からの揺り戻しを経て、足元で再びジリジリを値を切り下げてきています。
2014年からの原油価格の急落を受け、当時ロシア政府は財政緊急宣言を出しました。その際指摘されていたロシアにとってのブレイクイーブンポイントは1バーレル50ドル台です。
現在の70ドル台の原油価格は、ロシア経済にとってまだ余裕がある水準ではあるものの、今後世界的なリセッション懸念が高まれば、原油価格は再び2014年のような急落を招く可能性があります。
ロシアがソフトランディングを目指すために残された時間はあまり多くはなさそうです。
寺本名保美
(2023.03.07)
思いつき、再開します
本日より、当コラムを再開させていただきます。
私の仕事におけるリスク管理の基礎を培ってきたのは、家庭での四半世紀にわたる要介助者との生活でした。
階下での異音の有無、顔色や声、食の好み、などなど、生活の中における、「平時」との違いを感じ取り、対応する、ことが、家における私の日常でした。
そのためには、基準となる「平時」の状態を理解しておく必要があり、その基準が時間の経過や環境の変化によってどのような影響を受けるかどうかのシミュレーションをしておく必要もあります。
その上で、今起きている何等かの「違和感」の重要度と対処を判断していく、というプロセスは、振り返ってみれば金融投資におけるリスク管理のプロセスそのものでした。
この数年、かなり本気の在宅介護をさせていただきました。ご迷惑をおかけしたお客様方にお詫びを申し上げると共に、支えてくれた同僚達に心から感謝いたします。
この貴重な経験を糧にし、今後もアンテナの感度を高くして、お客様の資産を守り育てていくことに少しでも貢献させていただきたいと思っております。
今後共どうぞよろしくお願い申し上げます。
寺本名保美
(2023.03.06)