日銀は日銀
話題になっている、令和国民会議(令和臨調)の提言を読みました。
①日本経済がデフレ脱却ができず、成長マインドが醸成されない原因は一義的には企業経営者にある。
②しかし企業経営者が現状に甘んじる原因は、無駄なバラマキばかりで、本質的な構造改革を促進させる政策を打たない政治にある。
③政治のバラマキが許されているのは、日銀が異次元の量的緩和と、国債利回りを抑え込むイールドカーブコントロールによって、市場金利が低位に抑え込まれているからである。
④そして、日銀がこのように無理な金融緩和を継続しているのは、物価目標2%という政府とのアコードに政策が縛られているからである。
⑤だから、まずは、日銀が2%の物価目標を政府とのアコードから外し、金融政策の自由度と市場金利の自律調整機能を復活させることが必要なのではないか。
という主張です。
言っていることは当たり前のことで、物事の整理としては正しいのだと思います。
ただ、じゃあ⑤からの逆戻しをしたからといって①を変えるところまで辿りつけるかどうかは、また別の話のような気がします。
まぁ、そもそも、2%の物価目標を放棄したからといって、今の日本が利上げサイクルに戻れるというわけでもないでしょう。
良くも悪くも、日銀の政策を何かのトリガーに利用するロジックから、少し離れた方が良いのではないかと感じています。
寺本名保美
(2023.01.31)
波に乗るかのまれるか。
年明けから1か月が経つ中、昨年と今年との市場環境に生じた変化が明らかになってきたように思います。
まず一つは、金利やインフレに対する慣れが出てきたこと。米国の4〜5%の名目金利を前提にした経済を金融市場も実態経済も、徐々に受け入れるようになってきたように見えます。
その背景には、実需の強さがあるはずで、その根拠となっているのは中国政府が久しぶりに景気優先の政策に転じたことが大きいと思われます。
そして地政学的には、米国にとっての軍事的脅威はロシアではなく中国であったということを1年ぶりに思い出しつつあって、その中心にいるのは台湾と半導体であることが明確になってきました。
ただこの方向性は、日本にとってはあまり望ましい展開とは言い難く、今のところは米国を中心とした楽観論に乗じて上向いている日本の経営者センチメントが長続きするがどうかには、やや疑問が残ります。
50歳から下の年齢層では、基本的に物心ついて以来初めての物価上昇であり、ほとんどの日本人にとって深刻な地政学リスクを意識するのも初めてとなるでしょう。
未知なものへの対処が上手ではない国民性が、上手く波を捉えることができるのか、波にのまれてしまうのが、微妙な環境となりそうです。
寺本名保美
(2023.01.26)
出したら埋める
昨年の防衛予算から始まり、子育て支援と、財源を増税で賄うかどうかの議論が活発化しています。
政策の是非よりも増税の是非が議論の中心になってしまうのは、いつものことながら本末転倒だろうと、言いたくなります。
そもそも、コロナ禍で、それこそ異次元に放出した財政は、本来何らかの名目の増税で、既に回収が始まっていなければいけないはずです。
米国にせよ、欧州にせよ、コロナ禍に関わる各種支援策の終了が見えてきた段階で、それぞれの名目での増税策を打ち出しでいます。
何かの目的の為の増税ではなくて、既に出してしまったものの回収の為の増税を仕組んでおかなければ、国の財政など、幾ら国債を刷っても間に合いません。
天災や経済危機などの突発的な要因において緊急支出されたものについては、平時に戻り次第回収するというプロセスを仕組んでおかないと、その後の日常の政策が増税パッケージとなり、政策の機動性にも効果にも支障をきたすことになるのです。
とはいえ、我が国には、富裕層増税で助けてくれる大金持ちも、IT増税で助けてくれる巨大企業もほとんど見当たらないところが悩ましいところではあるのですが。
寺本名保美
(2023.01.23)
アナウンスメント効果
金融政策の効果の一つに「アナウンスメント効果」というものがあります。
金融政策を変更することによる調達コストの増減といった実質的な効果とは別に、政策変更が「経済や金融環境の先行きに対する見通し」として認識されることで、投資行動や経済活動に間接的に与える効果のことを言います。
本来のアナウンスメント効果は、その効果も意図的に織り込んだ上で政策が発動されるべきものですが、昨年12月の日銀による上限金利の引き上げは、意図せざるアナウンスメント効果が発動されてしまったように見えます。
上限金利の引き上げをいう日銀の行為が、あたかも日銀が日本経済のデフレ終焉を宣言したかのように受け止められたことで、メディアでは「金利が上がるぞ」の大合唱が起き、消費者心理を必要以上に悪化させたのと同時に、企業経営者に対しては賃上げを本気で検討させるきっかけの一つになったかもしれないと思っています。
意図した、しなかった、に関わらず、一旦拡散が始まったアナウンスメント効果を制御することは、難しいのが実体です。
本日の金融政策決定会合で、上限金利には変化はなく、経済の状況次第では更なる金融緩和もあり得る、との従来の姿勢を日銀は維持したものの、一旦醸成された市場の金利上昇ムードを払しょくすることは恐らくできないでしょう。
実質的な利上げを行うことなく、ムードだけでの金融引締め効果が経済全体を押し下げて、結果的に再びデフレに戻ってしまう、という最悪のパターンに陥らないためには、背中を押されて一歩踏み出した企業の賃上げ努力が大きなカギを握っているのかもしれません。
寺本名保美
(2023.01.18)
自動車ピラミッド
インドの年間新車販売台数が日本を上回り中国、米国に次ぐ世界3位となったそうです。
インドが第3位となったことよりも、日本が未だに新車販売台数で世界第3位だったことの方に驚きます。
総人口で言えば既に世界11位、就業者人口でみても10位。
鉄道やバスといった公共運輸が整備されていて、国土も狭い日本が、新車販売台数で世界3位だったことの背景を考えるのはとても興味深いことです。
そして、この国内での新車購買意欲の強さが、日本の自動車産業を支え、日本の自動車産業が、日本の製造業全体を支えてきた、という事実の怖さをひしひしと感じます。
各種工場の国内回帰が期待されてもいます。その反面、各メーカーは消費地に極力近いロケーションでの生産拠点を強化しようという流れもあります。
自動車での国内販売台数が今後頭打ちとなっていくとするならば、日本での生産拠点を拡大するという選択に合理性を見出すことは難しくなるかもしれません。
日本経済の本当の復活は、この自動車ピラミッドからどう脱却していくかを考えるところから始めなければいけないではないかと思っています。
寺本名保美
(2023.01.16)
アフリカ
金融市場にとってアフリカ大陸は未だに遠い存在です。
資本市場が未成熟であるため、アフリカで何か危機が起きたとしても、我々の運用に直接的な影響は小さいかもしれませんが、アフリカ大陸との関係の深い欧州や中国を経由したリスクの波及については注意が必要なのかもしれません。
また、地政学的にみても、欧州とロシアが分断する中で、スエズ運河経由での物流迂回ルートの検討などが既に行われているように、今後はアフリカ大陸の海域を物流ルートとしての重要性も増していくでしょう。
レアメタルへの権益や、DX改革の実践場として、中国が急接近した結果として、アフリカ諸国にはかつてない規模の債務を抱えているとも言われています。
今回の世界的な利上げの影響の流れ弾が、何処に向かうのかが、今年の大きなテーマとなります。
経済的にも政治的にも、耐久力の低いアフリカ大陸での波乱については、今年のリスクの源として、意識してしておいた方が良いのかもしれません。
寺本名保美
(2023.01.12)
ウサギ
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
ウサギのように飛び跳ねようと思ったら、軽く肋骨にひびを入れてしまい、スタートダッシュに失敗した新年です。
とはいえ、今年は、私の年。
ウサギは、危険を察知するために、長くて大きな耳を持ち、ほぼ360度を見渡せる広い視界の目を持ち、状況を嗅ぎ分ける鋭い嗅覚を持つと言われています。
コロナ禍で始まったグレートリセットは、2022年には国際秩序までもを巻き込みながら急激に進行していきました。
2023年は、リセット後の新しい秩序の構築における主導権争いが、国家間、企業間、世代間、官民間と、幅広く展開される年になるのでしょう。
大きなチャンスと大きなリスクが混在する投資環境です。
ウサギの耳と眼と鼻を大いに効かせ、穴に落ちたり、罠にかかったりしないような道筋をお示しできるよう精進して参る所存です。
本年も相変わらずのご支援ご鞭撻のほどお願い申し上げます。
寺本名保美
(2023.01.07)