2022年07月の思いつき


行ったところ勝負

今回のFOMCの最大の注目点は、0.75%の利上げではなく、フォワードガイダンスをなくしたことにあるのだと思います。

既にECBは7月21日のECB理事会で、フォワードガイダンスの停止を宣言しており、FRBがそれに続く形となりました。

フォワードガイダンス、つまり中央銀行が今後の金融政策の方針についての見通しを示すことを止めると発言している背景には、今のインフレ環境が中央銀行をもってしても予測できないほど異常な動きをしているということを意味しています。

そして、欧州と米国に共通していることは、短期的な景気後退よりも、この異常なインフレが継続することによる長期的なリスクをより深刻に受け止めているということです。

であるのなら、例え景気指標の悪化が明確になったとしても、インフレが収束するという確信がない限り、米国も欧州も利上げの手を緩めることはないでしょう。

またECBのラガルド総裁が、中立金利がどこにあるのかわからないし、それは変化しつつあると発言しています。中銀自身、どこまで金利を上げれば景気を冷やす効果があるのかすら、手探りの状況であるということです。

今年の金融環境は、行ったところ勝負の、波乱含みとなりそうです。

寺本名保美

(2022.07.28)



爆発

弊社事務所周辺のコロナ環境が、想像を絶する規模で悪化したことを受け、弊社の業務体制を、緊急事態宣言時と同様の扱いとさせていただくことにしました。

テレワーク導入企業は10%台まで減少しているとか、政府としては社会活動に制限を与えない方針であるとか、世の中の流れは数に一喜一憂しないことであるのは理解しますが、一方で、社員の健康を預る立場として、今回の変異株は感染しても大丈夫な株だから出社してください、といえるだけの根拠を私は待ち合わせていません。

であるのなら、やはり、今の状況で、社員に通常勤務を要請することは、私にはできないのです。

お客様始め、関係各社の皆様には、ご不便をお掛けすることとなりますが、ご容赦いただけますようお願い申し上げます。

事務所は午前中のみとなります。郵便物につきましては、午前受け取りを前提にお出しいただけますようお願い申し上げます。各担当へのご連絡につきましては、原則としてメールにてお願い致します。

このまま社会を動かして、結果的に社会が止まってしまっては、元も子もありません。

社会を止めない、というスローガンが、どこか政府の責任転嫁に聞こえるのは、私だけでしょうか。

寺本名保美

(2022.07.26)



時代の変化とリーダー像

昨晩、米国のバイデン大統領が新型コロナに感染したとの一報で、金融市場は一瞬リスクオフとなりました。

その後市場はすぐに落ち着きを取り戻したものの、高齢の米国大統領の存在が世界経済全体にとっての潜在リスクであることを改めて認識した夜でした。

直前のG7サミット開催時点で、参加首脳の平均年齢は60.6歳です。
英国のジョンソン首相が退任した後の後任候補が何れも40歳代で、またバイデン大統領に次ぎに高齢のイタリアのドラギ首相の退陣も決まったので、この後のG7首脳の平均年齢は50歳台になりそうです。

もちろん高齢であることが一概にマイナスであるわけではなく、世界を動かす首脳の世代が分散していることのメリットももちろんあります。

ちなみに1997年当時のG7参加首脳の平均年齢は58.5歳。
5年前の1992年にくらべ約10歳若返っています。

時代のリーダーの若返りとインターネット革命の始まりが重なったことに、何かの意味を見出すのは少し強引かもしれませんが、今の時代のリーダー像にもどこか重なるものありそうです。

寺本名保美

(2022.07.22)



地産地消とどう向き合うのか

ここから数年の産業界のテーマは地産地消ではないかと思っています。

川上から川下まで、あらゆる物流がボトルネックとなる可能性が高まっている中、如何に移動距離のない生産活動ができるかが、ビジネスリスク解消とコスト低減には不可欠であると思うからです。

当初地産地消という言葉からイメージされるのは、生産拠点の自国回帰と内製化でした。

でもこれは米国や中国の様に、自国内に巨大な消費市場を抱えている国に当てはまることであって、他国の消費に依存している日本のような国にとっては、生産拠点の海外移転をむしろ加速することになるでしょう。

とはいえ、日本においてもエッセンシャルな物品については、自国回帰と内製化は進むわけで、この海外移転の流れと国内回帰の流れとのバランスがどうなるかで、ここから数年の国内労働市場に大きな影響を与えることになるかもしれません。

どの産業を国内に残し、どの分野の海外進出を加速させるのか。

各企業だけでなく国家戦略としてのビジョンが求められています。

寺本名保美

(2022.07.20)



本当に危機だと思ってますか?

岸田首相の昨晩の記者会見は、何を目的としての記者会見だったのかよくわかりませんでした。

冬に向かっての電力問題を緊急に説明する必要もなく、新型コロナの感染拡大については拡大しているという事実以上は何も踏み込まず、サハリン2についても従来の主張を繰り返し、物価高騰についての具体策は示されず、今は戦後最大の危機かもしれない、という割には危機感が感じられない会見でした。

唯一具体的だったのは安倍元首相の国葬を行うことになったということ。

原発の再稼働も火力発電所の再稼働も、実現させるためのハードルがあるからこそ、行き詰まっているわけで、それを実現させるための首相としての決断がどこにあるのかも示されませんでした。

コロナの行動制限についても、相変わらずの「今のところ」の繰り返しで、感染状況がどうなったらどうするのか、どうなってもどうもしないのか、国民が何に対しどのような覚悟を持てばいいのかわからないままです。

本当に今が危機なのであるならば、小手先の景気対策では立ち行かない状況が迫っているということです。

この国をどうしたいのか。政治の決断を覚悟を見たいと切に思います。

寺本名保美

(2022.07.15)



弱いもの探しの始まり

1994年に起きた米国での急激な利上げ局面では、エマージング通貨が急落し、1997年から1998年に掛けてのアジア・ロシア危機のきっかけとなりました。

一方で1994年の米国株は5%弱のマイナスとなりましたが、95年からは再び騰勢に転じ1990年台後半の米国株式市場は絶好調のまま1999年のITバブルに突入します。

当時の米国株式市場にはインターネットビジネスの萌芽に対する期待値も高く、IPO市場も活況で、足元の金利の上昇が景気拡大の阻害要因にはなっていなかったことを意味します。

自国経済を冷やすことを目的とした金融引締めが、往々にして自国経済ではなく、相対的に脆弱な周辺国経済を破壊する、ということは過去何度も繰り返られています。

今回の米国の利上げの影響がどこに出てくるのか。新興国や仮想通貨市場についてはある程度織り込まれているとして、これが再び南欧危機のきっかけにならないかも含めて、よく見ておく必要がありそうです。

寺本名保美

(2022.07.13)



アベノミクス

波乱の週末を超えて、暑い夏の日常が戻ってきました。

小泉政権や安倍政権という強い政権は、国内での評価より海外での評価の方が圧倒的に高いのが特徴です。

この週末の海外メディアのコメントを読んでいても、このことを実感しています。

週末に市場のレポートを書いていて、アベノミクスという単語を使いながら、日本において経済政策に首相の名前が付いたのはこれが最初で最後になるのかもしれないと思ったりしていました。

来年4月には日銀総裁も交代となります。

アベノミクスが金融経済史に名を残せるかどうかは、残された黒田総裁がどのように出口の道筋をつけて辞めることができるかに掛かっているのかもしれません。

合掌

寺本名保美

(2022.07.11)



批判はしても揶揄はしない

英国のジョンソン首相が辞任しました。

ジョンソン氏だけの発言ではないようですが、先日のG7サミットでのプーチン氏に対する身体や性別を取り上げての揶揄は、例え相手が誰であれ公の場で許される発言ではなく、それをイングリッシュジョークとして受け流した欧米メディアを含めてとても不快でした。

どんな指導者であっても、その国の国民にとっては自分達の代表であることには変わりなく、国民自らが批判することと、それを外部から揶揄されるのとは意味は異なります。

当たり前ですが戦争というものは、軍部と軍部の戦いでも、指導者と指導者の戦いでもなく、その裏にはどちらも国民が居ます。

プーチンを揶揄し、ロシア国民を頑なにしてしまえば、この戦争は長引くばかりです。

この戦争はロシアが悪い。
だからこそ、主要国の首脳には、毅然とした理性に基づいたリーダーであって欲しいと思います。

寺本名保美

(2022.07.08)



民営化とセイフティネット

週末のKDDIによる通信障害は、通信インフラが完全民営化していることの国家としてのリスク管理や、生活インフラを一社に集中していたことの個人としてのリスク管理を、新ためて考えるきっかけになりました。

民営化そのものが悪いわけではなく、そのバックアップの必要性に政府としての備えがあったのか、という問題です。例えば、パブリックなWiFiスポットが少なすぎはしないか。緊急ボタンを押すためだけでも公衆電話の設置は継続すべきではなかったか。

一業者に、携帯と固定電話とデータ通信を集中させたワンストップサービスが持つ潜在リスクについて、契約者側の想像力も足りなかったかもしれませんが、そうした勧誘を行ってきたサービス提供側にも、それを許してきた行政にも想像力が欠如していたのだと思います。

これまで政府が担ってきた社会インフラの運営を民間の手に委ねることは正しい方法なのかもしれません。ただそれは政府が負うべき社会インフラの安定的な提供、という責務を放棄してもよいということではありません。

各種インフラの民営化は、政府のセイフティネットとパッケージでなければならないと強く思っています。

寺本名保美

(2022.07.05)



悪賢さの勧め

サハリン2の権益が、ロシアの大統領令によって一方的に新会社に移管されることになりました。

新会社に対する日本側のコミットがどうなるかは、これからの話ではありますが、どう見てもこれは国家が民間の権利を取り上げる「接収」です。

経済制裁という名の下、ロシア政府に関わる海外資産を凍結した見返りとして、ロシア国内の民間資産か接収されるという構図は、想像されてはいたものの理不尽な結末ではあります。

とはいえ、こういう理不尽さは、ここから先、新たな国際秩序が均衡されるまでの期間においては、様々な国家間で起きる可能性があると認識しておくべきです。

契約書でカバーできていないリスクがあるがどうかの精査ではなく、契約書を一方的に破壊された場合の最大損失を前提にした事業ポートフォリオの見直しも必要となるでしょう。

国家としては、エッセンシャルな事業の接収リスクを政府として管理すると共に、対抗措置として国内の外国資本の権利を制限できる法的な建付も準備する必要が高まります。

軍事力もなく、お金にモノ言わせるわけでもなく、資源も持たず、お人好しで交渉下手なままでは、残念ながら立ち行かなくなる時代になりつつあります。

三方一両損、などと言っていたら、自分だけが全損していた、などという笑えないオチにならないような心構えを持つことが、我が国には喫緊の課題であるように思えてなりません。

寺本名保美

(2022.07.01)


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