2022年03月の思いつき


変わらない変わらないという呪縛

直接的な被害は軽微であったはずなのに、初期対応の失敗によって経済に与えるダメージが長く大きくなるという日本の悪癖は、今回のウクライナショックにおいても繰り返されるのでしょうか。

ウクライナショックが今後の経済に与える影響としては、まず第一にエネルギー問題。そして第二にインフレ対応となります。

エネルギー戦略について、ロシアに近い欧州が、数年後を見据えた、ロシア依存度の低下を明確に示し、予算等の具体的な行動に移してきているのに対し、日本についてはあくまでも現状維持に固執した政策を継続しています。

またインフレ対応についても、FRBや欧州が一時的なインフレという表現を捨てたにも関わらず、日本は相変わらず外部要因による一時的なインフレというスタンスを維持しています。

コロナ禍への対応も同様で、災禍が過ぎれば元の世界に戻る、ということを前提にした時間稼ぎの待ちの政策に終始するから、結局対応が後手に回るのです。

コロナ後の社会はコロナ前ではなく、ウクライナショック後の国際政治はウクライナショック前には戻らず、軍事防衛の一角に組み込まれたエネルギー戦略に経済合理性が戻ることはないでしょう。

激動期の政治に求められることは、何も変わらないという安心感の提示や元に戻るまで期間を生き延びるためのセイフティネットではなくて、適格で迅速な視座の提示と変革コストに関わる支援です。

周回遅れによる円安の次に来るのは、周回遅れの以上な円高になる可能性もあります。

その場しのぎの政策対応が将来に大きな禍根を残すことにならないように、変化後を見据えた政策立案をして欲しいと切に思います。

寺本名保美

(2022.03.30)



欧州の人々の心

今回のウクライナ侵攻が始まった時、欧州に住む友人から直ぐに移民問題が再燃しそうだという反応が来ました。

欧州域ではコロナとの共生を掲げたこともあり、ドイツを中心に感染拡大は収束していません。
人の出入りがこれだけ増えてしまえば、もはや感染の封じ込めは望むべくもないでしょう。

紛争が長引けば長引くほど、ロシア国内の治安も悪くなるのと同時に、欧州における人心も不安定になっていきます。

緊急事態においてコントロールできた感情や行動が、長く日常になっていくに従って、社会において抑制できないマグマになっていく様は、この3年間の新型コロナとの闘いで経験してきたことです。

欧州の人々の心の平穏をどのように担保していかれるのか。

欧州の指導者達にとっては大きな試練となりそうです。

寺本名保美

(2022.03.28)



情報という武器

2016年に「パナマ文書」で脚光を浴びた、国際的なジャーナリスト集団が、足元では、ロシアの主要人物のオフショア資産や欧米企業のロシア関連投資等にターゲットを絞った公開を始めています。

主要国の政治家や財界人のマネースキャンダルを暴いてきた団体が、今は主要国による対ロシア経済制裁を後押しするために活動しているのを見ながら、色々なことを考えています。

データの取得方法が適法か否かは関係なく、保有しているデータをどのように使うかは、当事者の思惑一つに左右されます。

例え、データ保有者が「善人」であったとしても、何を「善」とし何を「悪」とするかの基準に絶対性はありません。

流石に今回の対ロシア制裁に国際ジャーナリスト集団が加勢することに意義を唱えるつもりはありませんが、こうしたデータの使い方に何とも言えない違和感を覚えています。

事実とは何か。正しさとは何か。善とは何か。

英国政府が騙されかけた精巧なフェイク動画も話題になるような昨今。

ひと昔前は「ペンは剣よりも強し」。
今となっては「情報はミサイルより強し」、というところでしょうか。

寺本名保美

(2022.03.25)



未知の世界のベースアップ

物価と金利の話が少し続いていますが、、、

ここから先の賃金引き上げ議論においては、これまでの利益の適正な分配という視点に加え、物価の上昇を受けた実質賃金の維持という視点での議論が必要になってきます。

現状の経済情勢において、原材料価格の高騰や地政学リスクの高まり等、多くの企業において経営環境の先行きは総じて楽観的とは程遠いものがあります。企業利益の適正な分配という視点で言うならば、ベースアップどころの話ではないのかもしれません。

一方で、生活者物価が確実に上昇していく中において、重要なステークホルダーである従業員の生活レベルを維持改善するための物価上昇分相当の賃上げは、企業経営においては必要不可欠なコストとなります。長いデフレ下で構築されてきた現状の経営スタイルにおいて業績を伴わない賃金コストの上昇は未知の領域といっても可過言ではありません。

米国の様に、原材料価格の上昇→消費者への価格転嫁→物価高→賃金上昇という正しいインフレサイクルを構築できなければ、待っているのはスタグフレーションです。

日本の経営層の対応力が試されています。

寺本名保美

(2022.03.23)



日本の異次元

どちらにしても短期で決着すると思われていたウクライナ侵攻が長期化の様相を呈してきたのに伴い、経済環境への影響もまた長期化を前提に考える必要に迫られきました。

物価面においては、3月上旬のピークから一旦急落した原油を始めとするエネルギー関連や、金属資源価格が、足元で再び騰勢に転じてきています。

天然ガスについてみれば、1メガワット200ユーロという高値から見れば今は半値の100ユーロ近辺にいますが、1年前の3月末が18ユーロ、2年前の3月末は7ユーロだったことなど、もはや想像できない程の水準での推移となっています。

コロナショックの後遺症が漸く明けて正常化に向かいつつあった物流の遅延や企業の製品在庫の不足感は、ウクライナショックで再び異常事態に戻ってしまいました。

ボトルネックや原材料価格の上昇を背景にしたグローバルなインフレ環境の恒常化は、企業収益の圧迫に留まらず、早晩生活者物価に跳ね返ってくることになるでしょう。

今の物価は外的要因によるものであり潜在的なデフレ傾向に変化はない、とする今の黒田日銀の論理構成を聞いていると、日本の金融政策の「異次元」さが、世界から取り残された「異次元」の領域に入りつつあるように思えてなりません。

寺本名保美

(2022.03.22)



FRBの本気

昨晩のFOMCについて、株式市場がどう反応したかは別として、その内容については市場見通しを遥かに超えた引き締めを示唆するものとなりました。

今回が0.5%ではなく0.25%だったことや、バランスシートの縮小への言及がなかったことを楽観的に捉える向きもありますが、理事達が予想する政策金利の中央値が2023年年末には2.75%となっていることの重要性は見過ごすことはできません。

FF先物が示すように市場参加者の大半は利上げのピークは2023年末の2.4%程度であるとみています。この2.4%という水準ですら、実際に運用機関を話していると市場が利上げを織り込みすぎているという意見が多く聞こえてきていたのが実情です。

FOMCにおいて市場の予想を大きく上回る利上げが示唆されたことを受けて、昨晩の株式・債券市場は一度は急落しています。

ウクライナでの停戦合意への期待や、商品市場の下落を好感してその後買い戻されていますが、FRBがインフレへ対峙する本気度を甘くみてはいけないと思います。

昨晩のFOMCが発している市場に対する警告は、インフレを知らない世代にどの程度響いたのでしょうか。

寺本名保美

(2022.03.17)



複雑怪奇

国際金融市場は、且つてない複雑さと困難さを伴った混乱の最中にいます。

経った昨日一日だけの原油市場においても、ウクライナ侵攻の停戦協議が進まないことに失望して上昇し、中国でのコロナロックダウンによる景気後退と米国製造業指数の想定外の低下で需要減への警戒が強まり、イラン核合意における米ロの歩み寄りでの生産増が見えたことで急落と、本当にグローバルな外的要因に振り回されました。

これを受けたその他の金融市場についても、原油下落が明日のFOMCに与える影響を深読みしつつ、売られすぎたハイテク銘柄への買い戻しからリスクオンになりたいものの、16日が第一弾の期限とされるロシア国債のデフォルト期限を前に買い戻し以上のポジションは取りにくいといったところでしょうか。

ここに羅列した材料一つ一つが、市場の方向性を大きく左右するほどのインパクトを持つものであって、それが絡み合って綱引きをしている現状をどう解きほぐして先を読むことができるのか、と考えるだけで絶望的な気分になってきます。

動けば動くほど身動きが取れなくなる蜘蛛の糸のようなものなので、ボラティリティの嵐が通り過ぎるのを、身を潜めて待つしかなさそうです。

寺本名保美

(2022.03.16)



カントリーリスク総覧

カントリーリスクに関わる「接収リスク」や「兌換停止リスク」等と言うものは、投資の際の潜在リスクとして聞いたことはあるものの、現実に発生する事象として認識していた投資家は少ないかもしれません。

不動産やインフラ整備といった、物理的に国外に持ち出すことができない資産への投資において、投資先の政府の判断によって所有権や配当の権利を剥奪されることを接収リスクと言います。

また、通貨防衛を目的に、自国通貨と外貨との交換の制限を国家が命じることを兌換停止リスクといいます。

いずれも、プロジェクトファイナンスや貿易実務においては、既知のものであり、それぞれ官民による保険システムも整備されてはいるものの、流動性があることが前提となる金融投資では現実のリスクをしてはあまり認識されてきませんでした。

今回ロシア・ウクライナを巡るカントリーリスクイベントが多発しそうな様相を呈してきています。

ルーブルを巡る兌換停止、債券の利払いの一方的な通貨変更、撤退事業者の財産没収、航空機リースの回収不能。

ありとあらゆるカントリーリスクイベントが発生し、それぞれにおいて法的な解釈が入り乱れる、大混乱状態に陥りつつあります。

今のところ米国の利上げ判断に一喜一憂している金融市場ですが、水面下で起きている災いの火種には十分な注意が必要です。

寺本名保美

(2022.03.14)



どちらが得か

画面から流れる映像に世界中の多くの人々が日々心を痛めているのと同時に、そこに発生した経済の軋みや価格の歪みに対し冷静且つ貪欲な経済的判断をしている人々がいる、というのもまた事実です。

UAEがOPECの増産を示唆したことをきっかとした原油価格の急落により、金融市場はお祭り騒ぎとなりました。

産油国にとって、現状の原油高の恩恵をできるだけ長く享受するためにどのような戦略をとるべきなのか、ということを考えることは、OPEC産油国にとって国家の将来を左右するほど大きなテーマであるといえるでしょう。

目先の価格に目がくらみ増産した結果、各国の石油在庫がジャブついて長い低迷期を迎えることになった、という事例は過去に何度も経験しています。

一方で、各国が耐えられない程の高値が続けば、将来的な原油離れを加速することになります。また採算コストや政権の方針から操業レベルが落ちていた米国のシェールの大増産を招く結果となることもOPECとしては避けたいはずです。

また、ここで増産を拒否すれば、間接的にロシアを利していると国際社会からみられることの是非も考えなければなりません。

実際、OPEC総会で増産が合意できるかどうかはまだ定かではありませんが、程よい水準で価格が維持されるのであれば、とりあえずは増産に応じて欧米や国際社会に恩を売っておくのが得策であるようにも思えます。

何れの市場も当面は予測不能なボラティリティに振り回される日々が続きそうです。

寺本名保美

(2022.03.10)



当事者です

米欧がロシア産原油輸入禁止の検討に入り、ロシアは天然ガス等の輸出停止で対抗する可能性を示唆したと報道されたことで、世界のエネルギー市場は大混乱となっています。

日本の外務省はロシア全土の危険情報を上から2番目のレベル3「渡航中止」に引き上げ、ロシアは日本を非友好国リストに指定しました。

ロシアのウクライナ侵攻という軍事行動は、ウクライナの主権にかかわる侵略戦争となり、ロシアの軍事侵攻を止めるための経済制裁は侵略戦争に対抗する経済戦争へと展開しつつあります。

例え、ウクライナにおける軍事行動が一旦停止したとしても、米欧等とロシアとで開戦してしまった経済戦争はむしろエスカレーションしていく可能性もあります。

ドイツは、エネルギー政策の根本的な転換を目指して 20兆円相当の予算を組む検討に入りました。

意図していたかどうかは別として、日本は既にこの経済戦争の当事者の一角に名を連ねた以上、少なくても経済的には戦時下にあるという認識を持つべきなのかもしれません。

対岸の火事では全くもってありません。

寺本名保美

(2022.03.08)



闘う原資

米国のバイデン大統領による所信表明演説においては、対ロシアとの対決姿勢の鮮明化と共に、新型コロナと闘い続ける姿勢を明確にしたことが印象に残るものでした。

コロナとの共生ではなく、闘い続けるためには、変異種に対応できるためのワクチン開発、そして、「マスク、検査、ワクチン、治療薬」を「無償で提供」しつづけることが必要だとしています。

そして、このためには、資金が必要であり、議会が予算を承認する必要があることも指摘してます。

日本では、他国では感染拡大中にもかかわらず行動規制を緩和しているのに、なぜ日本では緩和しないのか、という議論がよく聞かれます。
「コロナとの共生」というフレーズも当たり前のように使われます。

しかしながら、今回バイデン大統領が指摘したことは、「無策な共生」の否定と「闘う準備」に他なりません。

実際過去3年に亘るコロナとの闘いにおいて、我々は闘う術を獲得することはできたのかもしれません。しかしながら、闘い続けるためには、政府と国民双方に闘い続けるという強い意思と、装備を固めるための巨額な資金が必要であるということが、国にも国民にも全く認識されていないように思います。

今後、増えるであろう軍事関連予算に加え、期限の見えないコロナ関連費用。米国だけでなく予算をどうつけていくのか。どこの政府もこれ以上借金を背負う余力はないなかで、コロナとの消耗戦に突入することになるのでしょうか。

寺本名保美

(2022.03.03)



違和感

先週のドイツによるノルドストリーム2の開発停止発表以降、ノルウェーのエネルギー大手が30年以上もかけて関係を構築してきたロシアとの合弁事業からの撤退を表明し、英国BPは保有するロシア石油会社の株を全て売却するとし、石油メジャーのシェルはロシアの天然ガス事業サハリン2からの撤退を宣言しました。

どの事業も、数年ではきかない時間と多額の先行投資を行い、今後数十年のリターンを期待してコミットしてきたものです。

それをこの数日の状況変化において、一時停止、ではなく、完全撤収を表明してきている、英欧の事業会社の判断の根拠がどこにあるのかと考えています。

これが、ロシアの株式や債券の話であるのなら、制裁期間が終われば買い戻せばいいという話ですが、プラント事業はそう簡単に出たり入ったりできるものではないはずです。

彼らが考えている、ロシアと世界の未来が、今私が見えている未来とは何か根本的に異なるのではないかという不安が、沸々と心に沸いてきます。

停戦合意さえすれば、どちらかの政権さえ変われば、どうにかなると思っているのは、金融市場だけなのか、日本人だけなのか、私だけなのか。

この違和感が潜在リスクとしてどのように消化していけばいいのか、よく考えてみたいと思います。

寺本名保美

(2022.03.01)


build by phk-imgdiary Ver.1.22