システミックリスク
2007年から始まったサブプライムショックは、2008年のリーマン破綻がなければ単なる金融バブルの崩壊で済みました。
それを金融システム全体のシステミックリスクにしてしまった結果、世界経済を停止させることになったのは、リーマンブラザーズという証券取引機構の一角を崩壊させたからです。
金融システムのように、決済関係が複雑に絡み合っている機構においては、その一部が破損しただけでも、システム全体に甚大な影響を及ぼすということを、あの時世界の政治家達は強い痛みを持って経験したはずです。
ロシアに対するSWIFT制限が発表されました。政治外交的な大義の前には金融システムリスクでさえも些末なものに思えてしまうほど、今回のロシアの軍事行動は許容範囲をはるかに超えたものであったということなのかもしれません。
ここから先は、各国中央銀行の腕の見せ所となります。主要中銀の外貨準備資産の凍結などという、あまり聞いたこともない制裁条項も含め、これから先金融市場に起きる不足の事態を決してシステミックリスクに波及させないための努力を、これから米欧日の中央銀行は必死になって取り組んでいくことになります。
何もなければ、それに越したことはなく、何かあれば深刻な局面となるこの状況。できることは、急激なボラティリティの上昇に耐えられるリスク量に抑えつつ、世界の平和と事態の終息を祈ることだけでしょうか。
寺本名保美
(2022.02.28)
BRICsって覚えてますか?
ロシア‐ウクライナ問題について、この問題そのものの重要性と共に、今回の事象が金融経済に与える影響は、今後対中国摩擦が過熱した際に金融市場がリスクとして認識しなければならないことを考える材料としても、重要な意味を持っていると考えています。
対ロシアと対中国とでは、相手国の基礎体力が違うので、戦略も異なってくるかもしれませんが、経済制裁の第一弾が国債取引規制だったことは金融市場にとっては少なからず驚きを持って受け止められたと思われます。
この先、第二弾・第三弾と進んでいく中において、それが半導体などの実需取引で強化されていくのか、金融・資本市場で強化されていくのか、気になります。
対象国の財政や資本市場が、米欧日の資本市場と切り離されても、対象国そのものはすぐには困窮しないかもしれませんが、突然売買の自由度を奪われる金融市場側には、大変なダメージが生じます。
21世紀に入り、金融市場でBRICsと持て囃されてきた4か国。ロシアと中国は別の道を進み、インドとブラジルは存在を消したまま。
あの時の高揚は何だったのかと思いつつ、とりあえず目先のリスクを点検しています。
寺本名保美
(2022.02.24)
紛争の影響
ロシアによるウクライナ侵攻が近いと報道されています。
現実になった場合の整理として以下の項目を挙げておきます。
原油・天然ガス価格の高騰。短期的に一番大きな影響となるでしょう。90年のクウェート侵攻時の金融市場の急落を連想させるという意味でも短期的な市場インパクトは大きい項目です。
ロシアへの経済制裁の影響。エマージング関連のクレジット投資にとっては大きな影響がでるかもしれません。実際に経済制裁がロシア経済に影響を与えるかどうかの判断には少し時間が掛かります。
欧州経済への影響。エネルギー価格の高騰や主要貿易相手国であるロシアとの紛争により、欧州景気への影響が懸念されます。ユーロ安を含めて注意が必要です。
核兵器を巡る米ロ冷戦の復活。今のロシアの国力は以前米ソ冷戦を行っていた時のソ連の国力とは比較にならないほど低下しています。米ロ対立が世界経済を二分するような冷戦構造に発展するとは思えませんが、市場がこうしたシナリオを先読みし始めるリスクはありそうです。
いずれにしても、短期的には少し深押しをする要因になるかもしれませんが、通常は紛争による金融市場への悪影響は極めて短期的に終わるとされています。
今回がこのセオリー通りになるかどうかは、もう少し様子を見て判断していきます。
寺本名保美
(2022.02.22)
波風立てず、静かに沈む
2回目までは無反応だったので甘く見ていたワクチン接種が、3回目でクリティカルヒットし、グダグダの1週間を、グダグダのオリンピックを観ながら過ごしています。
ドーピング疑惑の渦中に居る選手の出場について、海外のメディアでは無言の中継などで非難の意思を示していたと、他人事のように伝える日本のメディアというものは、一体何者なのだろうか、と思ったりしています。
他者に対する、こうしたどっちつかずの対応は、我が国のESG投資や、SDGs活動でも、共通で、理念は受け入れても現実の対応は当たり障りの無い範囲、形は作っても魂は入らず、イデオロギーや信念で世界を牽引しようとは夢にも思わない。
多少は尖りを持たなければ、存在そのものが直ぐに埋没してしまう今の時代。
埋没寸前なのは、日本株なのか、日本そのものなのか。
寺本名保美
(2022.02.17)
原油100ドル時代の社会変革
2008年に原油価格が1バーレル100ドルになった時、エアライン各社は機内の無料サービスを有料化し、米国の国内線では機内でのトイレ利用までも有料化したことなどが話題になりました。
燃料サーチャージという言葉が一般に認識されたのもこの頃で、日本からの格安ハワイツアーのバック料金より燃料サーチャージの方が高いなどという笑えない現象も発生しました。
米国では自動車ありきの街づくりから、鉄道網中心の街づくりへの転換が真剣に議論され、わが国の新幹線輸出に大きな期待が掛けられました。
大統領に就任したばかりのオバマ氏は、一部の産油国に米国経済の首根っこを抑えられているような状況からの脱却を宣言しその後の米国が、脱石油へと大きく舵を切ることへと繋がるのです。
あれから10数年が経ち、再び100ドル時代が目前となる中、10年前とはまた異なったリスクの温度が、上がりつつあります。
今回の原油高は社会にどのような変化をもたらすことになるのか。
変革の進みが悪いと言われてきた日本にとって、今回の原油高は、社会システムを大きく変えるチャンスとなるのかもしれません。
寺本名保美
(2022.02.15)
市場との対話
日銀が指値オペという伝家の宝刀を抜いたことで、当面日本の10年金利の上限が0.25%であるという認識が市場に形成されました。
素朴な疑問として、英国に続き、米国も利上げに転じるとされ、EUもテーパリングに舵を切る中において、どうして日本だけは金融緩和の出口の議論を行う環境ではなく、長期金利の上昇を抑え込むという判断になるのか、明確な説明が必要であると思います。
また、伝統的に、金融市場参加者というものは、総じて天邪鬼であり、クリアすべきハードルを提示されると、それを超えずにはいられなくなる、というスピリッツの集団です。
政治家や当局が為替市場の水準にはコメントしないことが不文律とされているのは、水準を言葉にすれば、市場は必ずその壁を決壊させるべく突進するからで、それは国債市場においても同じです。
今回日銀が0.25%の水準を改めて市場に提示してしまったことが、むしろ長期金利の上昇に拍車をかける可能性も否定できません。
いずれにしても、今このタイミングでの指値オペが、日銀と市場関係者との良好な対話を醸成することになるかどうか、かなり疑問ではあります。
寺本名保美
(2022.02.14)
電気代爆騰中
エネルギー貧国である日本が、欧州にLNGを融通することになりました。
わからないでもないが、でもやっぱりわからない。
欧州がエネルギーをリスクを承知でロシアに依存していたツケをどうして日本が負担しなければいけないのか、と心の狭いことを呟く理由は、ただ一つ。
我が家の電気代が、対前年同月比で、30%!も上がっていることに、さっき気がついたから、です。
因みに、使用ワット数は、微減してきるので、要するに、電気代3割値上がりしたらしい。
原油価格100ドル目前で、ガソリン価格は下がる見込みがなく、灯油価格も全国平均で見ると過去半年で15%近く上昇しています。
カップ麺やスナック菓子の価格改定どころの騒ぎではなくて、我が国の家計のエネルギー費用の負担感は、尋常でなく上昇しています。
米国に言われて、石油の備蓄を取り崩し、米国に言われてなけなしのLNGを融通する日本。
日本が困った時、米国に助けてもらうための協力であることは、わかってはいる、ものの、でもやっぱりわからない。
それにしても、どういう理屈で、電気代はここまで上がったのか、誰が教えてください。
寺本名保美
(2022.02.09)
戦争に売りなし、というけれど
ロシアによるウクライナ侵攻が避けられるかどうか、この数日が山だと言われています。
ロシア、米国、双方が、欧州主要国との首脳会談に走り、中国や日本などの周辺国を巻き込みながらの詰将棋も最終盤を迎えています。
結局この問題は何なのか、という話は一旦横に置いておいて、万が一ウクライナ侵攻が現実になってしまった時、金融市場に何が起きるのかについては、そろそろ考えておく必要がありそうです。
直接的な影響は、ガスパイプラインが停止されることによる、欧州のエネルギー事情と、それに反応するであろう原油市場の高騰になるでしょう。
瞬間風速であったとしても、1バーレル100ドルを超えた水準まで急騰した場合、それが3月のFOMCの政策決定になんらかの影響を及ぼす可能性があります。
また、米国において、事態の収束に失敗したとバイデン政権が見なされた場合、懸案となっている、インフラ投資法案の議会通過が一層困難となることで、市場の失望を買うリスクもあります。
一方ロシアにとっては、例え局地戦であったにしても、国内経済を疲弊させる一因になることは間違いなく、また、これまでの欧州との蜜月を断ち切ってしまうことへの影響も懸念されます。
通常、紛争は、株式市場にとっては、マイナスにならないというのが定説ではあるのですが、今回については、少し長い時間を掛けて、じわじわと景気の首を絞めてくるような気がしています。
平和の祭典には程遠い世界情勢。落とし所が見つかるといいのですが。
寺本名保美
(2022.02.08)
気分が乗らない
オリンピックもワールドカップも、典型的な俄かファンを満喫するタイプの私が、今回の冬季オリンピックでワクワクしないのはどういうわけかと考えた。
東京オリパラから半年した経っていないので、ワクワクの燃料が燃え尽きて在庫がない。
オミクロンの感染爆発の風圧で、感情が吹き飛ばされた。
そもそもドーピングで正式参加できない国の大統領が主賓のように扱われる映像を見て、気分が萎えた。
画面を見ていると、とにかく寒そうで、心が冷える。
まぁ、どれもこれも、頑張っている選手には、全く関係のないことで申し訳ない。
これからちゃんと応援します。
寺本名保美
(2022.02.07)
日本市場の激震
1月の株式市場は世界的にバリューシフトが進みましたが、その中でも日本株のファクタードリフトは、バリューグロースだけでなく、高配当ファクターやモメンタムを巻き込んだ、マグニチュードの高いものとなりました。
コロナショック後2年間掛けて累積してきた、バリューや高配当ファクターの劣後は、1月のたった1か月間で解消してしまいました。
また、昨年11月から始まった小型成長株の調整も大きく、米国のナスダックがこの間20%程度の下落だったのに対し、日本のマザーズは40%もの下落となっています。
米国金利上昇がきっかけとなり、世界的な小型成長株相場が急転した中での日本株の反応ではあるのですが、震源地の米国より日本の震度が大きいのは、いつものことながら、日本の株式市場の地盤の弱さを痛感します。
一旦市場は落ち着いたように見えますが、激震による亀裂は市場の彼方此方に爪跡を残しているのではないかと懸念されます。
2000年のITバブルの時も、2016年の金融バブルの時も、日本の小型株は、主要国市場の中で、最も早く崩壊し、その後の世界的な株価下落を先行しました。
1月の国内株式市場に起きた大地震の被害の全容と、今後の影響を注意深くみていきたいと思います。
寺本名保美
(2022.02.02)
住宅ローンと内需
中央銀行の利上げが、国内景気の減速に寄与する端緒となるものが、住宅ローン金利の上昇です。
新築、中古を問わず、引っ越しというものは、生活関連用品全般の消費を刺激し、米国などでは自動車の買い替え需要も刺激すると言われています。
住宅ローン金利が上昇し、住宅販売件数が落ちると、数か月に個人消費が落ちる傾向か見られてきました。
今年に入ってからの米国発の金利上昇が、日本の住宅ローン金利にも影響を与え始めています。短期的には消費税前の駆け込み需要のようなセンチメントが働いて、住宅販売が増加する可能性もあるものの、低金利に慣れてしまった日本の消費者はむしろ次の金利低下のタイミングを待つ、という選択を指向するような気もします。
景況感の底堅い米国における利上げが、景況感の弱い日本の内需を直撃する、という事態にならいないか心配です。
寺本名保美
(2022.02.01)