国力が足りない
何故日本株が出遅れているのか、という話題は、数年置きに過去何度も繰り返され、その度になんだかんだと理由がつけられてきたわけですが、今回についてはただ単純に国力が落ちているからなのではないかと思っています。
ワクチン接種が遅かったことも、デジタルプラットフォームに乗り遅れたことも、発電における石化燃料比率が高いことも、政治に決断力がないことも、官僚や大企業に信じられないような不祥事が続くことも、オリンピック村において自動走行車が車椅子と接触するなどというニッポンブランド形成上絶対にあってはならない事故が起きてしまうことも。
ぜーんぶまとめて、国力の低下としか言い様がないと感じています。
国力の低下は、国民の自信の低下に繋がり、自信の低下は企業や社会のリスク許容度を低下させ、リスク許容度の低下は経済の活力を低下させ、最終的には官民合わせた国富全体を低下させます。
この悪循環をどこでどうやって断ち切ることができるのか。
考えていると暗澹たる気分になってきます。
寺本名保美
(2021.08.31)
スタート時点
テーパリングというのは、先細り、という単語で、量的緩和に関しては、その緩和の量を減らしていく、ということを意味しています。
つまり、テーパリングという言葉を使っている限り、量的緩和政策は規模を縮小しつつも継続しているということです。
一方で、タイトニングというのは、引き締める、という単語なので、金融政策が緩和的から中立を通り越して、引き締めに転じることを意味します。
今回の、パウエル議長のジャクソンホールでの発言が、年内のテーパリング開始を示唆しながらも、ハト派的だと見られたのは、あくまでも今はテーパリングの議論のみでありタイトニング議論を切り離した発言をしたからです。
とはいえ、テーパリングの開始時期が明確になったことで、市場の興味は次のステージであるタイトニングの時期に移ることになります。
雇用やインフレ指標に対し、上も下も過剰に反応する環境が、本格的に始まることになります。
寺本名保美
(2021.08.30)
損がないのは良いことですが、
私の立場で言うことでは無いかもしれないが、コロナ禍が始まって一年半が経ち、未だにコロナ禍による経済損失に起因した、金融商品の毀損が全く見えてこないことに、強烈な違和感を感じています。
経済社会が痛んでいるにも関わらず金融資本市場がそれを負担していないということは、それ以外のセクター、つまりは国家と家計がその痛みを引き受けているということになります。
それは中銀による信用補完であり、政府による補助金政策であり、職を失った個人に対する所得補償であったりするわけで、大資本や投資家が痛みを感じる手前で、災いのもとが摘み取られている感じです。
各種投資案件に破綻や損失が無いのは、有り難いことではあるのですが、この状況に永続性があるとはとても思えないのです。
社会の損失に対し、金融資本がそれ相応の負担をすべき時が、早晩来ることになるのではないかと思うのは、杞憂でしょうか。
寺本名保美
(2021.08.26)
ドル円の触媒
ドル円相場が、驚くほど動きません。
過去3ヵ月に至っては、ほぼ上下2円の変動幅に収まっています。
そもそも、2020年のコロナショック時の米国の緊急利下げとドル供給以降、日米の金利差も縮小し、ドル需給の歪みも緩和され、信用リスクも補強されている中、外貨調達のストレスが大幅に低減し、需給要因での変動がなくなっています。
先行きの金利差についても、金融政策の決定因子が、コロナとワクチンであることは主要国で共有されているため、金融政策の変更タイミングも従来ほどの変動要因にはなりません。
財政規律については、これまで日本が突出して悪かったはずが、コロナ禍での財政拡大は米国財政にも深刻な影響を与えているため、財政問題の顕在化がどこの国から起きても不思議はありません。
米国政府も日本政府も、コロナ禍への対応が優先され、為替政策への興味を失っていることも一因でしょう。
そして、仮想通貨市場等の拡大で、ミセスワタナベの多くは、よりボラティリティが大きい市場へと引越していってしまったと思われます。
ここから、ドル円に新たな触媒があるとすれば、伝統的な「インフレ議論」かもしれません。今は日米共にインフレ率ターゲットは2%と揃ってしまっているので、これも材料にはならないですが、米国でインフレターゲットが引き上がるようなことが織り込まれていけば、大きく局面が動く可能性があります。
目先注目されている27日のジャクソンホール。
テーパリングの時期の問題よりも、インフレ認識に変化があるのかどうか、注目しています。
寺本名保美
(2021.08.25)
何を期待して買っているのやら
横浜市長選における自民党菅陣営の大敗を受けて始まった株式市場が急騰していることを、どう評価すればよいのでしょうか。
菅首相の退陣を織り込みにいったのか。はたまた起死回生の大型経済対策を織り込みに行ったのか。
そもそも日本の株式市場において投資家の動意がないのは、期待する経済対策が出てこないからではなくて、どのような経済対策が必要であるのかすら見えてこないから、なのではないかと思っています。
今日の急騰は退陣催促相場ということになるのでしょうが、問題は現政権が退陣したからといって、次に何かが見えてくるわけではなさそうなところにあります。
トンネルを抜けたら、そこは身動きのとれない沼地だった、っていうイメージが沸々と。。。
寺本名保美
(2021.08.23)
マクロ要因への不安
金融市場での目下の懸念は、年内のテーパリングとデルタ株拡大による各国経済の減速、半導体等の部品不足による製造業の操業停止、そして、中国の民間企業統制でしょうか。
ネット関連企業への規制強化までは想定内であったとしても、その後に起きている幅広い業種への規制強化については、中国政府の狙いがまだよくわからない中、規制対象がどこまで拡大していくのか予想がつかないため、中国経済全体への影響を含め投資家の中で先行き不安が広がっているようです。
著名ヘッジファンド等が中国株式投資からの撤退を表明するケースも出てきていて、これまで株式の成長戦略に不可欠であった中国市場への投資家の評価が大きな曲がり角に差し掛かっています。
足元の企業業績は、国内外とも非常に堅調であるものの、その堅調さの前提となっている幾つかのマクロ要因に変化の兆しが見え隠れしています。
株式市場が本格的な業績相場に戻るのは、もう少し先になるのかもしれません。
寺本名保美
(2021.08.19)
単語の一貫性
緊急事態宣言の効果がなくなってきていると言われています。
人々がこの言葉に慣れてきてしまっていると言われています。
そうなのでしょうか?
2020年4月に発令された第一回目の緊急事態宣言と今回の緊急事態宣言。
少なくても東京都においては、同じ単語を使っていますが、その中身は全く異なります。
昨年の緊急事態宣言は、生活に必需であるサービスを特定し、それ以外については休業要請が出されました。
今回は、感染に寄与すると思われるサービスを特定して自粛要請が出されています。
網の掛け方が、全く異なるにも関わらず、同じ緊急事態宣言という言葉を使っているために、この言葉自体の意味が希薄化しています。
今の政府や東京都の出している行動制限要請の内容は、緊急事態宣言という単語に関わらず、状況は第一回の時よりも状況はかなり楽観的であるとメッセージに受け取れます。
楽観的なメッセージを受け取った人々が、楽観的に行動するのは当たり前のことです。
神通力を失った単語を振り回すだけで、人々の行動を変えられるわけがありません。
寺本名保美
(2021.08.18)
夏休みの宿題
静かな心で迎えるお盆には程遠い、波瀾万丈な数日間となっています。
国内では、日本列島をなぞるかの様な線状降水帯による全国規模の災害が発生し、コロナ感染はもはや災害規模と言われるまで拡大しています。
ハイチでは大規模地震が起き、南欧では異常熱波と歴史的な山火事か発生しました。
ワクチンが先行している米英やイスラエルにおけるデルタ株の感染拡大は、コロナ禍との戦いの次のステージの始まりを意味しています。
そして、アフガン陥落。
米国政権にとって、今の事態どこまでが想定内であったのか。
空港での混乱を見る限り、どう強弁しても想定内とは言い難く、バイデン政権の求心力の低下が気になります。
それにしても、外部材料に全く反応しなくなっている米国の株式市場。
中国の景気減速も、米国の経済指標の鈍化も、やや鷹派的に変化しつつあるFRB首脳の発言も、別の世界の出来事の様です。
夏休みが終わる頃、全部まとめて消化することにならなければいいのですが。
寺本名保美
(2021.08.17)
お盆休みです。
弊社は、8月13日から16日まで、お盆休みとさせていただきます。
17日の火曜日より、業務を再開致します。
コロナ禍の在宅中心の生活も一年半が過ぎました。
業務そのものに支障は感じないものの、通勤が無くオンオフの切り替えが無い生活から来る澱みの様なものをそろそろ感じるようになってきました。
外出もままならない中、休日といったところで、何をどうリセットすれば良いものかと思いつつのお休みです。
コロナの感染拡大に加え、時期外れの豪雨も予報されている週末になりそうですが、皆様くれぐれもご自愛くださいますようお祈り申し上げます。
寺本名保美
(2021.08.12)
在宅ワークとコーポレートカルチャー
国内外の運用会社の殆どが、コロナ禍の一年半、在宅ワークを積極的に取り入れてきました。
このところ、米国企業中心に、出社を促す方針を打ち出すところも増えている様です。
情報のデジタル化が進む中、資産運用会社にとって在宅ワークという選択肢はそれほど難しいものではありません。それでも在宅からオフィスへという流れが出ている背景には、コーポレートカルチャーの維持が重要視されているからといわれています。
運用会社の中には、創業からすでに100年余りが経過している会社もあります。そういった歴史と実績のある運用機関の多くが、運用プロセスの中心に運用機関としてのコーポレートカルチャーが位置しています。
銘柄選択や、ポートフォリオの構築において、定量的なスクリーニングなど客観的に説明可能なプロセス以外に、その組織で共有する経験値の様なものが、重要な役割を果たすことがあります。
こうした経験値が、数十年、100年と、脈々と引き継がれていく中で醸成されていくコーポレートカルチャーというものが、在宅ワークで途切れてしまうことを経営者は懸念するのでしょう。
とはいえ、まだ、歴史の浅い日本の運用機関にとっては、在宅ワークによってむしろ組織の無駄な因習や、悪癖を断ち切る効果がありそうで、まだ暫くは出社に及ばずでも、良いのではないかと、思ったりしていますが。
寺本名保美
(2021.08.11)
二つの市場
NASDAQ golden dragon China という指数があります。
米国市場に上場している中国企業株の指数です。
この指数を見ると、過去半年で41%、過去1か月で12%、年初来来で24%もの下落となっています。
一方で、中国本土での上場指数である、上海総合指数もシンセン総合指数も、若干のマイナスからプラスマイナスゼロ近辺での推移となっています。
米国上場株と本土上場株との、極端な乖離のきっかけは、米国による一部中国株式への制裁でしたが、その後は中国政府が米国に上場した新興企業に対し規制を強化する動きを見せたことで、拍車が掛かったと思われます。
ただそれだけでは、ここまでの乖離が発生していることの説明には、不充分であるように思え、Nasdaqの指数と本土の指数のどちらが、より中国企業の実体を表しているのかが問題なのだと感じています。
2015年のチャイナショックの時は、悪化している実体経済を覆い隠すかのうな株高が数ヶ月続いたのちに、急激な株価の下落が起きました。
今回、経済指標の形状に比較的近いのはナスダック指数の方で、中国本土の指数でみると、再び経済指標との乖離が広がり始めています。
この半年奇妙な高原状態にある上海総合指数と、急落しているNasdaqの指数。
この乖離が、どちらに引き寄せられることになるのか、注目していきたいと思っています。
寺本名保美
(2021.08.10)
昭和レトロ
オリンピックが終わりました。この大会が成功だったのか失敗だったのか、開催という選択が正解だったのか世紀の誤答だったのか、の判断はこれから2週間後に持ち越すことになります。
閉会式を含め、今回の東京オリンピックが、奇妙なほど1964年大会を意識している様に感じるのは、日本が未だに昭和の高度成長への郷愁を引きずっているからなのでしょうか。
昭和の終わりと共に経済成長も終わり、長いトンネルに入った日本にとって、今回の東京オリンピックこそが次の時代へ繋がる出口であったはずなのでしょうが、現実は未だ光明が指すには至っていません。
だからこそ、古き良き時代の象徴の様な前回オリンピックに想いを募らせるのです。
今回のオリンピックが今の日本の様々な限界を露呈しただけに終わるとするなら、それはあまりにも悲しい結末です。
寺本名保美
(2021.08.09)
戦後日本の特殊性
戦後の日本における、国家と国民との関係性というものが、世界全体から見てここまで特殊なものであるということを、今まで認識していませんでした。
コロナ禍において各国それぞれが、許容される国家権力の行使ギリギリのラインでの攻防を繰り返す中、日本の許容度の低さが際立つ展開となっています。
ワクチンの義務化の議論が各国で起きている中、日本では議論すらタブー視する傾向が強く、ワクチンパスポートの活用も他国との乖離が広がっています。今後新たな変異株が出る度に各国が一時的なロックダウンと経済の正常化を両立する道を模索するであろう中、日本はロックダウンも経済の正常化もできない状態が続くのでしょう。
今回明らかになった戦後の日本システムの持つ潜在的な脆弱性とどう向き合っていくのか。
足下の感染拡大に右往左往するだけでない、根本的な解決の道をそろそろ探り始める必要があるのかもしれません。
寺本名保美
(2021.08.05)
トップの運
随分まえから囁かれてはいたものの、今の菅政権がどんどん麻生政権末期に近づいている様な気がしてます。
2008年9月のリーマン破綻直後に、前任者の突然の辞任によってお鉢が回ってきた麻生首相。
コロナ禍の真っ最中に、前任者の突然の辞任によって昇格してしまった菅首相。
空前絶後の危機の最中に首相を引き受けなければならなくなる巡り合わせ自体から運が悪そうな政権で、やることなすこと間が悪い。
トップの運の強さがチームの勝敗に多大な影響を与えるのは、オリンピックを見ていても感じるところがあるわけで、これからの日本の行く末に強気になれないのは、今の政権に運の悪さにあるのかもしれないと考えたりしています。
麻生政権の後は、更にとんでもない政治が待っていたわけですが、さて今回は、、、
寺本名保美
(2021.08.04)
政府の逆走
「ゲームは精神的アヘン」
「教育産業は非営利団体化」
「住宅は住むためにあり、投機のためではない」
中国で起きている大手民間企業への規制強化が、ITプラットフォームの枠を飛び越えて拡大しています。
ある意味において、非常に共産党政権らしい発言であり、国家統制的資本主義への道筋が、一時代遡ってしまったような印象を受けます。
一方のバイデン政権の「大きな政府による富の再分配」や中国に対する「全体主義対民主主義という対立構造」の形成なども、これもまた一時代遡っています。
テクノロジーの推進力があまりに強すぎるがために社会に起きている様々な歪みを、政府が逆向きに走ることで中和できればいいですが、一歩間違えれば政府と国民との断絶が拡大することにもなりかねません。
どんな局面においても、逆走は良い結果を招かないと、私は思うのですが。
寺本名保美
(2021.08.03)
情報プラットフォームの断絶
20歳代の人達と日常的に会話をしていて改めて気づくことがあります。
情報のプラットフォームが完全に断絶している!
というよりも情報という概念がそもそも違う?
東京都の新規感染者数が3000人を超えたというところまでは知っているけど、感染者の中心が50歳以下になっていることは知らない。
テレビを観ない。ましてや報道番組など観ない。当然新聞は読まない。
ネットで見ているのは、スマートニュースといったヘッドライン系のアプリで、内容までは把握しない。
読むのは拡散系のトレンド。でも最近はそれも時代遅れで、写真と一行コメントのインスタが中心。
良い悪いを言うつもりはなくて、プラットフォームが完全に分離していることの深刻さを、政府や企業などの情報発信側がどれだけ認識しているのかという問題。
緊急事態宣言もワクチンも、一行コメントとヘッドライン世代に何をどう伝えることができるのか。
政府が言っているように著名YouTuberが発信したら聞くのか?と尋ねたら、YouTubeでそんな真面目な番組わざわざ観るわけないでしょ。と言われ、ごもっとも。
新型コロナという危機が浮き彫りにしている情報プラットフォームの断絶が、日本社会の深刻な断絶の始まりなのではないかと危惧しています。
寺本名保美
(2021.08.02)