大風呂敷が羨ましい
来週に、正式発表されるという、米国バイデン政権の、超大型インフラ計画。
資金規模だけでなく、対象の広さも含めて、そのスケールの大きさを、単純に羨ましいと思います。
もちろん、現実的な問題として、その実現可能性についてはこれから紆余曲折が想定されるわけですが、構想だけだとしてもやはり羨ましい。
もしかすると、日本においても、省庁毎の政策や予算を統合すると、似たような事業規模になるのかもしれませんが、国民への見せ方が全く違います。
かつてのアベノミクスは見せ方だけは米国並みだったものの、中身が全く伴いませんでした。
とはいえ、株式市場的には、超大型刺激策のプラス面と、見返りとなる法人税増税や長期金利の上昇によるマイナス面とを同時に織り込んでいかなければならない難しい展開になりそうです。
寺本名保美
(2021.03.31)
経験のないデレバレッジ
アーケゴスキャピタルというファミリーファンドが引き起こした、株式市場における巨額なレバレッジ解消が、金融市場全体にどの程度の影響を与える可能性があるのか、米国を始めとする金融当局は恐らく現在かなりの緊張感をもって精査している最中だと思われます。
参考となるのは、2008年の金融危機ではなく、1998年のLTCM破綻時の金融システム不安の方でしょう。
ただ今回については、レバレッジの対象が債券ではなく株式であったという点が良くも悪くも従来のデレバレッジ環境とは大きく異なる点で、レバレッジ比率の相対的な低さから問題は一時的なものであると言うこともできる一方で、株式市場における大規模なデレバレッジというかつて経験したことのない事象への強い警戒もあります。
いずれにしても、当面は市場ボラティリティの上昇要因になることは間違いないわけで、他のファンドへの波及効果やリスクパリティ型戦略への影響なども含めて、飛び火の行方にも注意を払う必要がありそうです。
寺本名保美
(2021.03.30)
材料の吟味
スエズ運河が通航不能となるシナリオは、中東での地政学リスクが拡大した際の日本における最大のストレステストの一つです。
今回図らずも、それをシミュレーションした形になったわけで、日本企業にとっては、幅広い意味で教訓とすべき事象だと言えるでしょう。
一方で、これをきっかけに上昇した原油価格に対し機械的に反応して連れ高となった株式市場をみていると、相変わらず地に足がついていないものだと嘆息してしまいます。
プライベートファンドがデリバティブの追証に応じられず、2兆円規模の株式を売りに出したという話も、市場の話題になっています。
今のところ、悪材料にはほとんど反応しない株式市場ではありますが、材料一つ一つの吟味は、疎かにせずに、過ごしていきたいと思っています。
寺本名保美
(2021.03.29)
70歳雇用の意味
4月1日より高年齢者雇用安定法が改正され、企業は70歳までの雇用についての選択肢を提示することが努力義務となります。
こうした雇用延長の議論については、年金の支払い年齢とリンクされた社会保障費用削減を目的としている、と説明されがちではありますが、先日弊社のWEBセミナーにご登壇いただいた山本謙三先生によれば、近い将来における人口減少を考慮した場合、男女ともに74歳まで現役の労働力であることが日本経済を維持するためには必須であるそうです。
残念ながら今のところ、男性の健康寿命は72歳と、これに2年も足りません。
70歳までの雇用義務といっても、健康寿命の平均値が72歳では、制度設計をしたとしても、実際に活用できる人の数は期待するほど多くはなさそうです。
どうしたら政治家のように、70歳はまだ若手、といわれるぐらいのバイタリティを持つことができるのか。国会が民間のお手本となれる数少ない現象の一つかもしれません。
寺本名保美
(2021.03.26)
中枢が壊れる
今回の国会提出法案における誤字脱字問題に象徴されるような、霞ヶ関を巡る問題が、最近多くなっているような気がします。
なんというか、霞ヶ関機能が壊れてきているような、嫌な感じがしています。
組織というものは、それがそれまで盤石に見えていたものほど、一旦壊れ始めると、歯止めなく壊れる傾向があります。
2001年の中央省庁改革から20年が経過し、霞ヶ関改革を主導してきた菅さんが総理となったこのタイミングで、霞ヶ関が壊れてきたことに、何か意味があるのかもしれないとも思います。
いずれにしても、日本の現状においては良くも悪くも未だ政策は霞ヶ関頼みである以上、霞ヶ関の崩壊は日本の中枢の崩壊に繋がります。
日本は大丈夫なのかと、心から思う今日この頃です。
寺本名保美
(2021.03.25)
WEB配信第二回
本日TADWEBシリーズ第二回を配信いたしました。
今回のテーマは「人口動態でみる日本経済の課題」と題し、第1部は元日本銀行理事の山本謙三様より「東京一極集中論~地方創生の虚実~人口動態から視る日本経済の処方箋」というテーマでお話いただきました。
また後半の第2部では私より「景況感無き株高を探る~コロナ禍が明らかにした日本の産業構造の脆弱性」について話をさせていただいています。
短期的にみればコロナ禍による雇用問題が我が国経済においても喫緊の課題である一方で、中長期的にみれば近い将来に到来する深刻な労働力不足こそが、我が国経済の本質的な潜在リスクです。
長期的な構造問題と短期的に顕在化したリスクとを、どのようにバランスしていくのかは、資産運用戦略を考えるにあたっても重要な課題でもあります。
尚、当WEBセミナーは機関投資家様向けに限定配信させていただいております。配信ご希望の方はseminar@ttassetdesign.co.jpまで、所属とお名前を明記の上ご連絡いただけますようお願い申し上げます。
寺本名保美
(2021.03.24)
中国を巡る予想外
バイデン政権になってから、これまで以上に覇権主義的な発言が目立つようになってきた中国。
バイデン政権の反応を窺いつつ、この先の米国との距離感を推し量っていたのかもしれませんが、その挑発に先頭を切って反応したのが欧州であったことは、もしかすると習近平政権にとっては予想外であったのかもしれないと思っています。
中国を巡る国際情勢が、米国の政権交代によって、多少は正常化するのではないかと期待していた金融市場参加者にとっても、この展開は予想外であったといえます。
金融市場への直接的な影響は、今のところテスラを巡る混乱程度で止まっていますが、おりしも半導体市況が異常に逼迫している中、サプライチェーンの一角で燻り始めた火の粉の行方については、予断を許さない状況にあります。
今年度も残り10日余り。今年こそ平穏な3月であることを祈ります。
寺本名保美
(2021.03.23)
昔はこっそり、今堂々
日銀のETF買入れについて、年間の上限は残ったものの、目標数値への言及が消えたことで、株式市場は動揺しています。
但し、そもそも「リスクプレミアムに働きかけるためには、市場が大きく下落した時にまとまった規模で買入を行うことが有効である」という説明は、リスクプレミアムという言葉を使ってはいるものの、日銀が株式市場の水準に一定の働きかけをしていることを、自ら認めてしまっているという点において、非常に奇妙な印象をうけます。
90年代のバブル崩壊時において、簡保資金が市場急落時に株式を積極的に買っていた時、市場はそれをPKO(price keeping operations )と揶揄しました。
いつのまにか、隠語の世界だったはずのPKOは、我が国の中央銀行の正式なオペレーションとなっています。
今更言うことではないですが、中央銀行が上場株式市場に直接介入することは、先進国の金融政策にとって極めて異例の政策です。
中央銀行によるPKOがあることを前提とするような株式市場に将来性を見出すことができるのか、甚だ疑問です。
寺本名保美
(2021.03.21)
夢への一歩
日本における唯一の埋蔵エネルギー資源であるメタンハイドレートについて、水素生成の原料として活用するプロジェクトが始まるそうです。
メタンそのものは二酸化炭素よりも温暖化効果が高いと言われていたので、せっかくの埋蔵資源てあっても、使い方が難しいように感じていたのですが、そこから水素が取り出せるとするなら、日本にとって悲願の自前エネルギーになれるかもしれません。
20数年前に初めて水素燃料の話を聞いたときは、空気中の水分から水素を取り出し、燃やしたあとは、水に戻る、という夢のような説明をされたのですが、実際に水素エネルギーの議論が本格化してくると、遥かオーストラリアから、船に積載して運んで来る話になっていて、酷くガッカリしたものです。
流石に、空気中から水素を取り出すような夢物語にはなりませんが、それでも自前で生成する可能性が出てきたことには、かなり期待しています。
日本にもこうしたゲームチェンジャーになれる要素が、探せばまだまだあるのかも知れないと、思ってみたくなったニュースでした。
寺本名保美
(2021.03.18)
デジタル社会の潜在リスク
LINEから個人情報が海外に流出していたかもしれないという話。
国も地方自治体も金融機関も乗っかっていたプラットフォームだけに、今後の展開は気になります。
とはいえ、民間が営利目的で開発しているプラットフォームを、社内インフラとして使おうとすれば、こうした問題は大なり小なり起きてくる訳で、それが嫌なら、政府も金融機関も自前でプラットフォームを立ち上げるか、プラットフォーマーに伍するスキルを持って、サードパーティを監視するしかありません。
情報社会における最大の潜在リスクは、基本インフラが政府の掌中にないことだと思っています。
寺本名保美
(2021.03.17)
頭の体操として
頭の体操として、今中国において、資産バブルの崩壊が起きた場合、それが世界経済全体にどの程度の悪影響を与えるものなのかを、考えておいた方が良いような気がしています。
前回中国ショックが起きた2014年当時と異なり、米国経済が好調であるため、世界経済の中国消費者に対する依存度は相対的に低下していると見ることもできますし、逆にDX関連製品や技術を中心に中国企業が巨大化している中で世界の製造業に対する影響力はかつてない程大きくなっているともいえます。
来年の北京オリンピックを前にして、今の段階で中国政府が極端なバブル抑制政策に走ることは考えにくいかもしれませんが、だからこそ火種が大きくなりすぎないうちに、早めに潰して起きたいと思うタイミングでもあります。
中国が風邪を引いてもビクともしない位の足腰が、今の米国にはあっても今の日本には無さそうにみえるのが、とても不安です。
寺本名保美
(2021.03.16)
ハードビジネスの難しさ
久しぶりに、オフィス周辺を見まわしてみると、大規模オフィスビルの建設ラッシュになっていました。
大規模ビルの建築計画は5年以上前には決定していると思われることから、この1年の社会情勢の急変があったからといって、計画を変更するわけにもいかないでしょう。
2011年の震災以降、震災復興に加え、耐震強化での建替え需要が重なり、そうこうしているうちに東京オリンピックが決定したため、建設事業の多くがオリンピック後に先延ばしされてきた経緯があります。
本来であれば昨年オリンピックが終わっているはずなので、今年大規模建設ラッシュとなっていることは、理屈にはあっているのですが、オフィス需要としてはなんとも間が悪いタイミングとなりそうです。
京都での大規模ホテル建設ラッシュも同様ですが、3年先が読めない現下の環境においてハードを抱えるビジネスモデルの潜在リスクについて考えてしまいます。
寺本名保美
(2021.03.15)
されどまだ10年
震災から10年が経ち、2011年に自分でここに書いた文章を読み返しています。
破壊される国土の映像は、私の人生において「国」というものをリアルに意識させる初めての経験となりました。
深刻な電力不足が続く中、自宅作業というものを初めて取り入れたのもこの時です。
これまでの日常の有難さを実感し、日本の復興の一助として今目の前にある仕事に真摯に向き合うことを誓いました。
匿名情報の怖さを知り、原発問題については、世界の技術の進歩が解決してくれることを信じていました。
そして10年が経ち、コロナ禍での1年を過ごし、どれほどの技術の進歩があろうとも自然の驚異の前で曝け出される、人知の限界や、人間社会の脆弱性を、ある種の失望と共に改めて認識しています。
されどまだ10年。あの時の経験を未来の社会にどう生かしていくことができるのか。犠牲となった方々、被害を受けた方々の困苦に報いるためにも、これからもそれぞれの立場においての試行錯誤は続きます。
黙祷。
寺本名保美
(2021.03.11)
中国初シナリオ
中国市場のニュースフローが、最近気になっています。
インフレ懸念が高まってきている話。
ネット関連事業者に対する政治介入が継続している話。
不動産融資規制の話。
ハイテク株指数が年初来の安値をつけた話、
一つ一つは今更驚くような話では無いものの、間合いが悪いと一気に資産価格の調整に繋がる可能性もあります。
昨年末から私の頭から離れない中国市場初のバブル崩壊シナリオ。
もう少し真剣に検証してみたいと思っています。
寺本名保美
(2021.03.10)
破綻するなら今の内
英国のフィンテック企業であるグリーンシル・キャピタルが破産申請をしました。
サプライチェーンファイナンスという、小口金融のファンドを組成していた企業で、リーマンショック後のダイレクトレンディングブームの中で一定の評価をされてきました。
昨年6月にドイツで破綻した大手フィンテック企業に続く、大規模フィンテックの破綻です。
このどちらにもビジョンファンドの名前が出てくることをどのように理解するべきか、という話は別として、決済や融資といった金融業の本丸に新興企業が進出することに対する、社会的な意義と社会的リスクの両面を、改めて精査すべき時期が来ているのかもしれないと思っています。
いつか来る次の金融危機において被害を受けるのは、大手金融機関ではなく、セイフティネットの隙間に落ちる新手のビジネスモデルが中心となるでしょう。
市場環境の良い今の内に、問題企業が洗いだされてきているのは、よいことなのかもしれませんが。
寺本名保美
(2021.03.09)
10年経ってもなお。。。
10年前の3月、震災と原発の他にもう一つ、金融市場を著しく緊張させた事象がありました。
それがみずほ銀行のシステムトラブルです。
義援金の受付口座が、オーバーフローを起こしたことをきっかけに、3月14日から24日までの10日間、みずほ銀行では送金や決済業務を中心に正常業務ができない状態に陥りました。
ただでさえ、震災によって物も人も動けず、且つ大規模な電力不足による輪番停電が実施される中、年度末まであと2週間というタイミングで起きたメガバンクのシステムトラブルは、一歩間違えれば日本を金融危機に陥らせるリスクを孕んでいました。
あれから10年。またみずほ。
震災のショックとは異なる、あの時のゾクッとする記憶を思い出してしまいました。
寺本名保美
(2021.03.08)
進まずさがらず
米国の中央銀行は、長期金利の自律的な上昇について当面は放任する姿勢を見せ、日本の中央銀行はあくまでもプラスマイナス0.1%という枠を維持する姿勢を通しています。
どちらの国も短期金利が無い中で、長期金利に対するスタンスが明確に異なっている理由がどこにあるのかと、考えています。
米国には将来へのインフレ期待があるものの、デフレ慣れしている日本にはインフレ期待が醸成されにくいと、日銀は言います。
であるなら、長期金利の自律的な上昇を過度に恐れる必要はなく、FRBのように放置してもいいのではないかとも思います。
日本の経済が、たった0.1%の長期金利にすら耐えられない程弱いというのであれば、米国や欧州のような、更に踏み込んだ緩和策を取らなければいけないのではないかとも思います。
どちらともつかない日銀の政策が、緊急事態宣言を解消することも封じ込めへの新たな措置を出すこともできない、政府の政策と重なって見えて、悲しい気分になっています。
寺本名保美
(2021.03.05)
資金流出のタイミング
海外のファンドやアナリスト達の目下の関心は、米国の長期金利がどこまで上昇したら、株式や新興国市場などのリスク資産から国債市場への資金回帰が起きるかにあります。
バイデン政権の超大型の経済対策や、ワクチン接種による感染封じ込め等のプラス効果について、株式市場は既に最大限織り込んでしまっているので、ここから先は引き算の世界になります。
長期金利の上昇が、想定内の範囲に留まれば、その影響は新興企業株式や新興国債券市場といった借入金の多い市場や、レバレッジの効いた投機的市場の価格調整で終わります。その場合そうした市場から流出した資金はより大型の優良株にシフトするので、市場全体としてみれば大きな崩れはないでしょう。
一方で長期金利の上昇が、想定外の上昇となる局面においては、投資資金がリスク資産から債券へと大きくシフトすることになります。この場合は大型株からの資金流出も進むため、市場全体の水準そのものが変わることになります。
通常の場合、こうした変化は順を追って半年位掛けて起きていきます。現在はとりあえずレバレッジの掛かっている市場からの資金流出が起きるかどうかの瀬戸際というところです。
景気に対し先行して回復してきた金融市場ですが、ここから先は景気の回復に反応しにくい展開になるかもしれません。
寺本名保美
(2021.03.04)
入口を間違えると出口はない
ジェネリック医薬品のTOPメーカーが、過去10年に亘り製造過程に不正を働いていたとの疑いで県から業務停止命令を受けたと報じられています。
一企業の問題を超えて、ジェネリック医薬品の信用問題に関わるかもしれない今回の事件の今後の展開が気になっています。
ジェネリック医薬品について、政府が主導し急激に拡大してきた中において、製造スピードが間に合わなかったということも背景にはあると言われています。
そもそも思うのですが、政府がキャンペーンを打ったり、意図的に拡大させたサービスや仕組みというものの結末として、不正や瑕疵といった綻びが目立つのはどうしてなのかと思います。
市場規模や現場の仕組みを考慮しないTOPダウンの弊害が如実に出てくるということなのでしょうか。
医療費の国庫負担の削減を目的としたジェネリック誘導ではあったのですが、これで国民の信頼を失ってしまったら元も子もありません。
焦りから入口を間違えると、却って出口が遠くなる。
政府というものは本当に過去の失敗からは学ばない組織なのだとつくづく思います。
寺本名保美
(2021.03.03)
どこか違う
ZホールディングスとLINEの経営統合。
日本最大のネット企業ではあるものの、GAFAに伍する企業グループになる素地があるかと問われると、何かが違うような気がしています。
GAFAがプラットフォームとして拡大してきた背景には、GAFA各社と既存の大企業や金融機関との距離感だったのではないかと思うのです。
彼らが巨大化していく過程は、大企業資本との提携や協業ではなく、スタートアップ企業の買収であり、自らの拡大のために必要な技術やインフラを他社に頼らない自前主義が中心にあります。
既存企業から等距離であることこそが、グローバルなプラットフォーマーであり続けるための条件でもあるわけです。
そういう意味において、既存の金融機関との提携業務や、特定の通信キャリアとの関係性の強いこの2社の経営統合に、どこか窮屈さを感じてしまうのかもしれません。
さりとて日本最大のネット企業の誕生です。新会社がどれだけ独自の新サービスを展開することができるのか、とりあえずは期待していきた
いと思います。
寺本名保美
(2021.03.01)