2021年01月の思いつき


一年経って思うこと

丁度一年前、新型コロナという聞いたことの無い感染症が徐々にメディアに乗り始めるなか、未知のリスクに対する市場の不確実性の高まりへの対応として、モデルリスクを下げる判断をしました。

それから一年。
万が一パンデミックが起きたとしても、現代の科学技術を持って当たれば、半年程度で感染は制御され、経済活動の停滞も長くて一年程度という当初の判断は今となっては余りにも楽観的過ぎました。

一方で、ロックダウンという全く経験の無い措置が主要都市で発生し、経済活動が停滞ではなく停止に追い込まれたこと。そしてその救済のために異常な規模の金融緩和と財政出動が行われ、結果として株式市場がV字回復したことは、当初シナリオでは全く描けなかった展開でした。

どれほど科学技術が進もうと時間との勝負である感染制御の特効薬が都市封鎖でしかないという現実に、この100年有余の人類の進歩というものの虚しさを感じずにはいられず、超ド級の金融緩和というものが停止した経済にとっては時間稼ぎと株式バブルの発生以外に根本的な意味を持たなかったことに無力さを感じます。

今回のストレスシナリオの展開はまた道半ば。
経済活動の正常化まての道のりには、更なる紆余曲折が待っていそうてす。

寺本名保美

(2021.01.29)



陰鬱なバブル

米国の株式市場を揺るがしている、「ゲームストップ狂想曲」。

各種メディアの話を総合してみると、ゲームストップというゲームビデオ販売の大手企業株を巡り、空売り専門のヘッジファンドと、手数料無料の証券売買アプリを通してオプション取引をしている個人投資家集団との間で、深刻な仕手合戦が起きているようです。

個人投資家集団は.特定の掲示板サイトを介して、空売りファンドに損切りをさせるべく徹底した買い行動を促し、一部では空売りを行っているファンドマネージャーに対し脅迫行動に出ているとの話もあります。

話の一端は、売買手数料無料の証券アプリの影響もあり、ゲーム感覚の個人投資家がオプション取引というデリバティブ市場に大量に参入してきたことがバブルを招いたということなのですが、私としては一連の行動がトランプ支持者による議事堂乱入事件と、どこか呼応している様な気がしていて、少し気味が悪いです。

仮想敵を作った集団攻撃の道具として証券市場が使われたとするなら、それはとても悲しく、正に米国の病巣の深さを目の当たりにしたように感じます。

現代証券市場の中心で起きたこの騒動の芽が、世界の株式市場に広がってしまわなければ良いのですが。

寺本名保美

(2021.01.28)



日本病への感染?

ニューヨーク連銀の分析によると、米国で昨年3月に配布されたコロナ対策一時金のうち、支出に回ったのは29%で、貯蓄が36%、債務の支払いが35%だったと、WSJが報じています、

また、支出の多くが、失業などて生活苦に陥っている世帯の家賃や食費などに充てられ、中間層の多くは将来不安からローンの返済や貯蓄に回していると見られています。

今回バイデン政権が、再度一時金の分配を行った場合、配られた現金は再び貯蓄や返済という形て金融機関に還流するか、債券や株式という形で金融市場に流入すると想定されるわけで、結果的に今の巨大な金余りを助長し、実体経済と、金融市場との乖離を拡大するだけかもしれません。

金融緩和が景気刺激策とならない流動性の罠。世界が恐れてきた日本病の気配が米国経済にもヒタヒタと近づいてきています。

寺本名保美

(2021.01.27)



内需へ

日本の産業構造が、自動車や電機を中心とした輸出産業から、観光立国を起点としたサービス産業へと幅を広げようとしていた最中に起きたコロナ禍でした。

タイミングが悪かったと言えばそれまでですが、今振り返ってみてみれば、輸出産業も観光立国も結局は外需依存型経済であることには変わりなかったことに気が付きます。

また株式市場にしても海外投資家の売買比率が7割程度と高水準を維持しており、少し話は飛びますが10年位前から話題になっている食料自給率もカロリーベースで38%と相変わらずの低迷を続けています。

これにエネルギー自給率の9.6%などという数値を加えると、気分が暗くなり、更に喫緊の課題であるワクチンも今のところ海外依存度100%という状況です。

今回のコロナ禍によって、我が国の海外依存構造に潜む潜在リスクが幾つか浮き彫りになってきていると感じます。

広範な内需にもっと力をつけていかなければ、この国の将来は危ういと心から思います。

寺本名保美

(2021.01.26)



家康になれるのは?

鳴かぬならなら鳴かせてみせようホトトギス
鳴かぬならなら鳴くまで待とうホトトギス
鳴かぬなら殺してしまえホトトギス

ロシアで反体制派3000人を拘束、という記事を見て、日本の戦国時代が頭に浮かびました。

国の形を変えていく過程において、1人の個人に権力を集中させることは正しい選択であると認識されてしまうことは、過去の歴史の中において、どの国でも経験してきたことなのでしょう。

少なくとも、日本の国作りでは、殺してしまえの信長ではなく、気長に待った家康が、最終的な勝者となりました。

ロシアに中国、そしてサウジなどなど。
信長、秀吉、家康と、いずれを目指せば本当の長期政権となれるのか、歴史に学べればいいのですが。

寺本名保美

(2021.01.24)



和平協定?

停戦後の和平協定書のような異様な大統領就任演説は、米国が如何に病んでいるかの証左となってしまったように思います。

国内の融和と団結の必要性をひたすら語りかけるだけで、バイデン政権が目指す米国というものが、最後まで見えてきませんでした。

就任演説に政策が織り込まれなかった分、矢継ぎ早に出された大統領令によって、当面の国内外政策の概観が見えてきましたが、とりあえずトランプ前に戻すだけで、バイデン政策独自の方向性はまだ未知数です。

とりあえずは対コロナ政策での、大判振る舞いからスタートするバイデン政権。ばら撒いた現金が、荒廃した国民感情を少しでも癒すことができれば良いのですが。

寺本名保美

(2021.01.21)



エンターテイナーからプロの政治家へ

「もしも」の選挙戦から「まさか」の当選をし、「意外に」まともな当選演説で始まったトランプ政権が「やっぱり」の混乱の中で終わりました。

トランプ大統領という人は、国民、または、自らの支持者の顔色を読むことに非常に長けており、自らに期待されている役割を演じることを是とする究極のポピュリストでした。

彼の言動に一貫性が無いような見えるのは、その言動が彼自身の政治信条から発せられたものではなく、トランプ劇場の観客の反応を伺いながら演じてきたことの結果だったからです。

トランプ政権下の4年間が、混乱と分断の4年間であったとするなら、それはトランプ大統領が、ではなく、米国国民そのものが混乱し分断していたからかもしれません。

今日から米国の指導者はエンターテイナーから政治のプロへと変わります。

漂流する民意に過度に迎合することなく、毅然とした道標を示せる政治を取り戻すことができるのか、バイデン新大統領の老獪な政治手腕に期待したいと思います。

寺本名保美

(2021.01.20)



老婆心ながら、入り口は大切ですよ

今回の菅内閣における目玉予算となった、大学10兆円基金。

ツッコミどころ満載過ぎて、コメントするのも止めておこうと思ったのですが、どうしても一言言いたい。

どんな立派なスキームでも、よく出来た戦略でも、スタート時点のタイミングが悪ければ、理屈通りの結果は望めません。

年金基金が長い間積み立て不足に苦しんだのは、会計制度を完全時価にして運用の自由化をしたタイミングが、1998年というバブル崩壊後の底値だったことが大きく影響しています。

この運用に携わる専門家チームは、内閣府の中にできるらしいので、どうかあらゆる情報源を駆使して、どうか年金と同じ轍を踏むことなく健全なスタートを切ってもらえればと、思うわけです。

そういえば、年金の運用自由化のきっかけは、米国の金融行政からの圧力だったと、公開された議事録に書いてあったのを思い出しました。

今回の唐突な決定は、どこから流れてきたボールだったのかと、余計なことを考えたりもしています。

寺本名保美

(2021.01.19)



罪作りな株高

トランプ大統領も、菅総理も、コロナ対策に甘さが指摘されていますが、その原因の一端は株式市場にあったのではないかと思います。

実際は景気と乖離した金融相場であったとしても、コロナショックから力強く戻っていく株式相場を見ていると、自分達の政策の正しさが証明されていると錯覚してしまうのも無理はないかもしれません。

結果的にその錯覚がその政権の評価と寿命を下げてしまったとするならば、これもまた尋常ではない金融緩和の副作用の一つなのかとも感じています。

株式市場が実体経済の本当の危機を覆い隠してしまっているとするならば、それはとても危険なことです。

寺本名保美

(2021.01.18)



せめてボラティリティぐらいは

2021年は、各国共コロナ禍に対応するための財源確保に追われる一年となります。

財源として考えられるのは、①他の予算の削減②増税③国債増発
となるわけですが、地政学リスクが低い訳では無いので防衛費を削減することはあり得ず、年金を減らす訳にもいかず、景気悪化局面では公共投資に期待する部分も多いため、①の選択肢は現実には難しい。
②は①に比べれば現実的ではあるものの、景気後退でそもそも法人税、所得税が減少するため、取れるところから取るといっても、効果はあまり期待できません。

ということで、選択肢としては③の国債増発しかない訳で、各国共円滑な国債消化の達成が、喫緊の課題ということになります。

次に国債を投資家に買ってもらうには、その国債に投資魅力が必要となります。国債の投資魅力は①調達コストを上回る所有期間利回りかある。②価格上昇期待がある。③株式等のリスクバッファーとなるためのボラティリティがある。のいずれかです。

振り返って、日本国債を見てみると、ドルからの円の調達コストが米国の利下げで上がってしまい①の魅力が下がり、コロナ禍で日銀が一切政策金利を下げなかったことで②の期待もなくなり、日銀のイールドカーブコントロールによって③はそもそもない。という無い無い尽くしの資産であることがわかります。

ということで、日銀がイールドカーブコントロールの幅の拡大を検討している、という話に繋がる訳です。

米国の様な利回りの復活が難しいなら、せめて値幅ぐらいは世間並みに復活してもらわないと、この国の国債市場、今度こそ本当に壊滅してしまいます。

寺本名保美

(2021.01.17)



人事から始まる規制強化

トランプ大統領が就任して暫く経った頃、トランプ大統領に懐疑的だったウォールストリートの人々の多くは、トランプ大統領がボルカールールを緩和してくれるかもしれないという期待感から、いつのまにかトランプ支持者となっていました。

今回、バイデン民主党政権を表面的には歓迎しているウォールストリートですが、これから決まってくる人事次第では、バイデン氏に期待したことを後悔する事になるかもしれません。

バイデン次期大統領は、次期SEC委員長にゲーリー・ゲンスラー氏を指名することを検討していると、ロイターが報じています。

ゲンスラー氏は金融危機後のオバマ政権下において、ウォールストリート規制の強化を推進した人物で、もしゲンスラー氏がSEC委員長に就任した場合、間違いなく足下にあるバブルの芽を摘んで歩くだろうと見られている人物です。

ロイターによれば、まず最初に摘まれるのは、SPACと呼ばれる上場を目的とした特定目的会社の乱立と、SPACで儲けているヘッジファンドやPEファンドの報酬体系になる可能性が高い、そうです。

どれほど便利な仕組みであっても、一旦当局から睨まれたら、その金融スキームは急速に萎みます。

大手機関投資家やファンドが高値で売り抜け、個人が内容を吟味することなく買い漁っていると言われているSPAC。

規制強化が本格化する気配を感じ取れば、恐らく足の速い資金は一斉に逃げるでしょう。

最後にババを引くのは、米国内の個人と、欧州の富裕層と、周回遅れの日本の機関投資家、というのが、これまでの構図ではありますが、果たして今回は?

寺本名保美

(2021.01.14)



人間は変わらない

多分に先入観に支配されていることを認めつつ、

今の米国をみると、米国の建国の歴史を感じますし、イギリスのブレグジット騒動では英国連邦と欧州大陸との歴史を感じます。

どれだけテクノロジーが進歩しても、幾多の戦禍を経験しても、社会が都市化しても、所詮米国は米国で、英国は英国だと思ってしまいます。

さて、我が事になると、よくわからないのは、人の常。

外から見た不思議の国ニッポンは、所詮サムライの国か、はたまた卑弥呼の国か。

技術は進歩しても、人間の変化は遅々として進まない。

これは悪いことか、良いことか。

寺本名保美

(2021.01.13)



ピークアウトの兆し

2016年のトランプ政権誕生をきっかけに始まったトランプラリーは2018年3月の米国による対中経済制裁をきっかけにして終わったと言われています。

しかし実際のところは、2017年12月にビットコインが高値から急落を始め、2018年2月には日本株が下落に転じるなど、過熱市場からの資金流出は実際に材料が出てくる前に始まっていました。

結局米国株式が下落に転じたのはそれから半年後の9月になってからです。

足元で仮想通貨市場の乱高下が目立つようになりました。業績とは関係のない「様々な話題」から、大手ネット関連企業の株の値動きも荒くなっています。

米国長期金利の1%超えも、あまり抵抗感なく通りすぎていて、金利上昇トリガーも気になり始めました。

願わくば、3月まで、この水準を維持して欲しいと、切に思うものの、今年の期末もまた、冷や冷やしながら迎えることになりそうです。

寺本名保美

(2021.01.12)



高波注意

株式市場が嫌うはずだったブルーウェーブも、米国長期金利の1%超えも、とりあえずは財政拡大期待での強気派に押し切られた形です。

財政拡張と金利上昇を前提とした、株買い債券売りのリフレトレードは、大概の場合長期金利の上昇に歯止めが掛からなくなることで、終焉となります。

特に今回は、既に大量の国債増発が行われており、これ以上の財政拡張の為には、なんらかの増税が必須であることは明らかです。

万が一増税ではなく更なる国債増発で対応しようとすれば、それこそ長期金利の制御が困難となり、株式市場だけでなく実体経済にも悪影響が出てくるかもしれません。

普段は凪いでいる金利市場、油断していると突然の高波にさらわれます。

寺本名保美

(2021.01.07)



最大リスクから目を逸らさない

弊社が行っているポートフォリオの統合リスク管理サービスでは、年間の最大損失の計測をします。

この最大損失可能性金額を年間の損失可能予算として管理するという話をすると、損をすることを前提にした運用など加入者や経営者に説明できるはずがない、という反応がほとんどでしたが、今は多くの年金スポンサーの方々が、損失を管理するという概念を受け入れてくださるようになりました。

今のコロナ感染対策における、感染症の専門家の先生方と、政治や行政とのすれ違いを垣間見るにつれ、最大リスクという概念を理解してもらうことの難しさを、改めて思い出しています。

リスク管理において絶対にしてはいけないことは、自分の都合の良い様に過少に見積もったリスクを前提に、管理しているつもりになることです。

最大リスクから目を逸らしたオペレーションは、失敗の元です。

寺本名保美

(2021.01.06)



当面の鍵

新年が稼働し当面の市場の鍵をなりそうなのが、1月20日の米国新大統領による就任演説です。

本来であれば、大企業向けや富裕層向けの増税や中国企業や巨大プラットフォーマーへの規制強化がメインテーマとなるはずですが、現下のコロナ禍において、こうした本筋の話にどこまで踏み込むのか読めないとこではあります。

株式市場的にいえば、コロナ禍で傷んだ経済への積極的な財政政策やコロナ禍の鎮静化に向けた対応策等に終始してくれれば上々。

一方で、ポピュリスト的な色彩を出過ぎれば、将来的な増税や規制強化を連想するのでマイナスとなるでしょう。

いずれにしてもバイデン政権にとって増税も規制強化も避けることはできない道ではあるわけで、株式市場が高値圏にあるうちに悪い話は出してしまった方が良いような気もしますが、就任演説で株価急落、というシナリオはやはり避けたいところでしょう。

コロナ禍という異常事態において、人心をどう読み、どう捕まえるのか。

20日の就任演説は、史上最も難しい演説となるのかもしれません。

寺本名保美

(2021.01.05)



新年あけましておめでとうございます。

「緊急事態宣言」という単語が紙面を飾り、「おめでとうございます」という挨拶があまり似つかわしくない新年となりました。

新年恒例の経営者の業績見通しは雨模様の中、株式市場の見通しだけは相変わらずの上昇気流に支配されています。

リストラクチャリングを伴う事業再編やM&Aが株式市場を支える一つのテーマではあるものの、資本の社会的責任が問われる中でこのテーマがどこまで株高に寄与できるかは未知数でもあります。

金融市場というものが、行き場を失った投資資金の流入で濁流と化してしまうのか、それとも世界の投資家に芽生えつつある資本の倫理が一定の浄化装置となりうるのか。これからの経済社会を占う上で大きな節目となる一年になりそうです。

急流には乗らず、掉ささず、転覆せず。

今年も相変わらず、リスク管理第一で、皆さまの大切なご資金を守っていきたいと思っています。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

寺本名保美

(2021.01.04)


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