現状維持での居処
前回米国が予防的利下げを行った1990年代後半、予防的利下げから利上げに転じた時の債券市場のパニックは、今も記憶に残っているほど強烈なものでした。
そのパニック的な金利上昇が、結果的にアジアロシア危機の引鉄の一つとなったという教訓が今のFRBの中に残っているとすれば、予防的利下げの停止から利上げを想定するのはあまりにも時期尚早でしょう。
FOMC後のパウエル議長による利下げ継続を否定しない発言は、市場が次の次を折り込みすぎないためのアンカーとしては有効であったと思います。
いずれにしても、米国の株式市場は過去最高水準にあるわけで、中立ラインを超えた積極的な低金利政策まで踏み込む理由は国内には見当たりません。
ここから暫くの間、債券市場は政策金利の変更が暫く無いことを前提とした居処を探すことになります。
寺本名保美
(2019.10.31)
議会制民主主義の危機
英国という議会制民主主義のお手本の国で起きているドタバタ劇から、他国は何を学ぶことができるのかと考えています。
そもそも間接民主主義の国において、国民投票というものを行うことの是非があります。
国民生活に甚大な影響を及ぼす案件であるから国民に直接信を問う、というのは議会制民主主義にとってある種の責任放棄です。
今回、ブレグジットを巡る政府案を議会が否決し続けるからといって解散総選挙に出てしまうこともまた、議会の責任を国民の直接投票に委ねた責任放棄に過ぎないようにみえます。
12月の総選挙は英国の議会制民主主義が、更には世界の議会制民主主義が立ち直れるかどうかの大きな試金石となるでしょう。
寺本名保美
(2019.10.30)
後方支援
今の野党になるぐらいなら、現政権の方がマシだ。
というのは、我が国ではなく米国のお話。
ウォーレン氏が民主党大統領候補となる可能性が出てきて以来、株式市場ではトランプ大統領人気が高まっているように見えます。
今の株高も、投資家達の心の中にある、現政権の継続を支援する気持ちが後押ししているのかもしれません。
さて、FOMC。
空気を読めないと称されるパウエル議長はトランプ大統領を支えるのか。
興味深い1日です。
寺本名保美
(2019.10.29)
どっちもどっち
米国の大統領選挙までいよいよ1年となってきました。
足下での市場の関心は、共和党候補となるであろうトランプ大統領が再選されるかより、民主党候補者が誰になるかにあるようです。
この数日、民主党の有力候補者であるウォーレン氏の発言で、エネルギー関連株式が急落しています。ウォーレン氏は化石燃料の採掘停止を訴えていて、もし大統領になった場合は少なくても国有地での石化燃料の採掘に制限が掛かる可能性が高いと見られています。
トランプ大統領が理念より実利を優先するリアリストであるとするなら、ウォーレン氏はその対極にある候補者です。実態経済や金融市場に携わる層にとっては、実利と理念のバランスがとれる実務家大統領を期待するのですが、今のところその可能性は低そうです。
これから1年、世界は再び米国の大統領選挙に一喜一憂する日々が始まります。
寺本名保美
(2019.10.25)
一朝一夕とはいかない
様々な国際政治上の問題について、首脳達の間にソフトランディングを目指す言動が見られるようになってきました。
どの国においても、実体経済に陰りが見えてきている中、景気後退の責任を負いたく無いという、政権当事者達の心理が働き始めたようです。
方向性としては良い方向に動き始めていると言えそうですが、安易な妥協が過ぎると、かえって国内での取りまとめが難しくなるリスクも残ります。
ポピュリズム的と言われる現代政治において、経済的安定が至上命題であるとは限らない点も、政治の不透明さを増幅しています。
本当のソフトランディングまでには、各国まだまだ紆余曲折ありそうな気がしています。
寺本名保美
(2019.10.24)
合理的な選択が出来なくなる日
グローバルな金利低下が継続しているということは、あらゆる国において政府の資金調達が何よりも優位になっているということを意味しています。
超低金利で借り放題、という環境下、これが一般事業法人であれば、思い切って長期負債を増やして、設備投資を行うか、過去の割高な負債を借り換える、という選択肢になります。
一般的に政府においては、金利が低下したからといって、過去に発行した高金利国債を買い入れ償却する、という選択は取れないので、超低金利環境を享受したければ、単純に借金を増やす、つまり国債を増発することしかできません。
これまで、借金が少なかったドイツの様な国については、このタイミングで借金を増やしてでも設備投資、つまり財政拡張策を取ることは合理的な選択肢であり、日本の様な既に借金が嵩んでいる国は合理的な選択をすることへのハードルが高くなります。
逆に言えば、既に20年以上ゼロ金利だったからこそ、日本の財政規律は緩みっぱなしだったとも言えるわけで、今は健全な財政の国であっても超低金利が続くようであれば、10年も経てば日本のような借金大国になっているかもしれません。
現段階において経済合理性がある選択であったとしても、やはり急激な財政拡大については慎重にあるべきというのが、超低金利先進国である日本が示している現実です。
寺本名保美
(2019.10.23)
見栄えは二の次
新国立競技場の建て直し問題が揉めて、結局ラグビーワールドカップには間に合わないことになった時、招待責任者の森元総理はひどく嘆いていた記憶がありますが、今となってはそんなことを覚えている人も居ないような気がしてます。
殊更左様に、イベントにおける器というものは、競技者や演者がストレスなくパフォーマンスをするためのインフラであり、観客が安全に過ごせるための場に過ぎず、器の自己主張は必要なく、邪魔にならず、忘れられる位が、丁度良い。
新国立競技場の設計問題で外観のイメージばかりが取り上げられていましたが、今となっては随分とバカバカしい議論をしていたようにも感じます。
何はともあれあと一年。荒れ模様の日本の気象状況も踏まえた、安全第一での会場整備になることを心から望んでいます。
寺本名保美
(2019.10.21)
ギリギリセーフ?
ブレグジットにおける離脱協定案の合意や、米中間の貿易協議の進展と、目下の懸案事項に解消の兆しが見えてきた割には、市場の反応は限定的なものに留まっています。
市場の政治に対する信頼はもはや消滅し、投資家心理は完全に冷え込んでしまっている中、どの問題も完全合意が確認できるまでは、あまり動く気になれないというところでしょうか。
政治が混乱しているこの期間に、限界まで低下した各国の長期金利の反転や、米中貿易紛争の煽りて低迷している実需の動向など、政治が招いた災いの種は、政治問題が解消したからといって、無かったことにはなりません。
本当に合意できるのか、という問題とは別に、時すでに遅し、ということにならなければよいのですが。
寺本名保美
(2019.10.18)
日本のポテンシャル
米国のシリコンバレーや、中国の深センといった、ベンチャー企業が躍進している都市は元々製造業が盛んな地域だったケースが多いようです。
新しい技術をやアイデアを直ぐに製品化する技術と機動性が、これらのベンチャー産業を支えています。
日本でこうしたベンチャー産業特区を作ろうということになると、どうしても租税特区や金融資本の呼び込みと言った話が中心になるのは、どうも論点がズレているように思えます。
資本は貪欲です。よい投資案件さえあれば、多少の障害はいくらでも乗り越えてきます。
日本が特許王国と揶揄されるのも、アイデアや技術と製品やサービスが、上手く協業できていない一つの証左です。
日本には、町工場と呼ばれる中小の製造業が豊富に存在しています。
特許もあり、製造業もあり、資本もある。
世界のベンチャー産業のプラットフォームになれる余地はいくらでもあるはずなのですが。
寺本名保美
(2019.10.17)
統計用語の難しさ
自然と共に生きるという言葉の意味を改めて考える週末でした。
被害にあった皆様には心よりお見舞い申し上げます。
気象庁が言い続けていた「100年に一度の大きな被害の可能性」という表現は、言い直せば「滅多にないほど大きな被害の可能性」ということです。
「100年に一度=滅多にないほど」というフレーズは「大きな被害」を説明する強調文であって、「100年に1回しか起きない」ことを指しているのではありません。
将来起きる可能性を、過去の統計から数値を示して説明することは、金融市場のリスク管理でも多様されますが、数値を出すことがむしろミスリードとなることもあるのです。
環境の前提が変わり過去統計の説明力が落ちている中において、金融も防災も同質な課題を抱えているといえそうです。
寺本名保美
(2019.10.15)
ハズレても仕方ない
台風です。
愛用しているネットスーパーの本日配達は、すでに枠一杯で使えません。
準備をするに越したことはなく、これで被害がなかったら、買い溜めた食料はどうするのだろうと思ったりしますが、リスク管理というものに無駄やコストは付き物なので、仕方ない。
もう一つ、リスク予想には、ハズレが付き物なので、これも仕方がない。
ハズレを責めると予想が萎縮します。
精度を高める努力はもちろん何より大事ではありますが。
確率の不備を経験で補うことも含め、資産運用におけるリスク管理も同様です。
寺本名保美
(2019.10.11)
市場への危機感
最近あちらこちらから「上場市場に魅力が無い」という呟きが聞こえてきます。
より深刻なのは、投資家にとって魅力が無いということではなく、企業家にとって上場市場が魅力的でなくなっていることかもしれません。
原因の一つは各国の低金利と豊富な流動性にあって、上場市場において不特定多数の投資家から資本を調達することの重要性が企業経営において著しく低下していること。
また社会構造の変化のスピードに対応するための意思決定プロセスにおいて、上場企業としてのガバナンスが障害になると感じてしまう局面も多くなっていることも理由の一つかもしれません。
市場から企業家が退出すれば、資本もまた市場から逃げていきます。資本が逃げればそこで働く人材も逃げる。結果として市場の質は急激に劣化することになるでしょう。
原則として我々機関投資家の運用資金は上場市場を中心に成り立っています。プレイをするプラットフォームの質の低下は、運用パフォーマンスの低下に繋がります。
この問題、最近かなり真剣に危機を感じるようになってきています。
寺本名保美
(2019.10.09)
些細なきっかけと大きな震度
当事者である香港市場を除けば、今の香港情勢について金融市場が深刻に反応している気配はありません。
今後のどのような展開に対して警戒すべきなのか、ということに対し明確な返答を用意できないのは私も同様で、反応すべきとは思うものの具体的なイメージが湧きません。
今回の問題が勃発した時、天安門になることはないと、誰しもが予想していました。本筋としての予想に変化はないものの、ここまで事態が長引くと現場ベースでの暴走をコントロールすることも難しくなってくるように思います。
金融システムという観点でみれば、ブレグジットでロンドンの金融センターの地位が危うくなり、今度は香港の金融センターの地位が揺らいでいます。
一つ一つの影響は限定的であったとしても、それが不意に重なると、想定外のインパクトが生じることもあります。
些細なきっかけが大きな震度を招く可能性について、少し考えておいた方がよいのではないかと考えています。
寺本名保美
(2019.10.08)
多様な社会のエネルギー
経済がグローバル化すれば、当然社会もグローバル化し、それに伴って人々の意識もグローバル化します。
スポーツの世界が、その国の社会のある種の縮図であるとするならば、今話題のラクビーや短距離走が我々に与えているメッセージは、ここから先の日本社会を考える際の大きな指針となることでしょう。
社会の多様性は柔軟性にも繋がります。多様で柔軟な社会にはエネルギーが宿ります。
政治も経済も含め、社会全体が老朽化しやや息切れが目立つ日本にとって、多様性のエネルギーを如何に上手く取り入れていけるかが、この先50年100年をみた時に大きな分かれ目になるでしょう。
日本が変われるかどうか、東京オリンピックを挟んだこの数年が勝負なのではないかと思っています。
寺本名保美
(2019.10.07)
市場も経営も仕切り直し
この数日の下げ、特段の材料が出たわけではありません。
米国の経済指標が弱かったといっても、これまでであれば利下げのサインだと株価の上昇要因にされていたぐらいのことです。
外部環境の悪化に全く反応してこなかった株式市場のバリエーション調整が始まったということだけなのかもしれませんが、投資家心理が急激に変化するときは、後から何か大きな材料が出てくることもあるので、少し注意が必要です。
それにしても、ここ最近の日本の超大型企業から噴き出すお粗末。
起きている事象もさることながら、経営層から吐き出される言葉の子供っぽさに少々辟易とします。
寺本名保美
(2019.10.03)
急落から1年
2018年の10-12月の急落から早1年が経ちました。
その後、5月・8月の急落を挟みながらも、実際の運用収益は各国中銀の積極的な緩和策を背景に比較的順調に回復傾向を辿ってきています。
一方で米国を中心に市場や社会の構造変化に対応できない老舗企業の破綻が目に付く一年でもありました。
足元の景気の良さの裏側で、痛みを伴う変化が確実に進行しています。
ベンチャーキャピタル市場での大型IPOの取り消しなど、水面下での潜在リスクが広がりつつあるようにも思えます。
株価の水準だけをみて安心するのは少々危険な感じがしています。
寺本名保美
(2019.10.02)
おまけのワクワク感
今回の消費税。
キャッシュレスの導入をパッケージにしたことも功奏し、不思議なお祭り騒ぎと共に初日を迎えています。
つくづく思うのは、私達本当に「おまけ」が好き。
おまけ欲しさにおまけの10倍の支出をする。
お金で買った本体よりも、おまけの多寡の方がワクワクする。
消費税とキャッシュバックを組み合わせてきた政策が、ここまで日本の消費動向を読んでいたのであれば、お見事です、が。
寺本名保美
(2019.10.01)