2017年11月の思いつき


インフレが無くても利上げしようよ

80年代後半の日本のバブル期に私は日本国債を海外投資家に販売する仕事をしていました。

株も債券も「上がる」とう単語以外は禁句、という社風(笑)を反映して、ということだけではないですが、当時の私のミッションは既に市場最低水準にまで低下した(価格としては上昇した)日本の長期国債を各国の中銀等に買ってもらうことでした。

当時の日本はまさに不動産バブルの真っ只中。雇用も完全雇用に近くなり、誰がどう見ても景気は絶好調。その中で日本の金利はまだまだ下がると言い続けている我々に対し、良識ある「世界」の眼はかなり冷ややかでした。

でもその時我々が信じていたことは、「金融資産価値の上昇はインフレではない」という言葉でした。当時円が切り上がっていた影響もあり生活物価の上昇圧力は株や不動産価格の上昇と比べると非常に穏やかなものだったのです。単なるセールストークではなく、インフレでなければ利上げはない、と本気で信じていたのです。

さて、今の米国。
インフレ率の上昇が無い中の利上げの正当性についての議論が活発化しています。

忘れかけていた過去の過ちを、思い出さずにはいられません。

寺本名保美

(2017.11.28)



フィンテックとのバトル-序章

フィンテック市場に一番積極的であると言われている中国ですが、この1年でフィンテック関連に関する規制強化が目立ちます。

仮想通貨取引所の閉鎖、ネットファンディングの禁止に続き、今度はネット経由の無資格金融が停止されました。

そもそも、ビットコインというものが、中国においては「元」への信任の裏返しとして使われ始めたという経緯を見ても、規制の抜け道の提供ツールとして使われる可能性が高いフィンテックが中国で影響力を持ちすぎることへの政府側の警戒は、想像に難くありません。

中国の一連の規制は、今後世界中の政府・中銀とフィンテックとが繰り返すであろう「相互補完と敵対」の序章であるともいえそうです。

寺本名保美

(2017.11.27)



20年経ったけれど

20年前の山一證券の廃業は、日本の大手企業の存続に対し、債券や株式等の市場がレッドカードを出したという意味において、我が国においては非常に珍しく象徴的な破綻事例でした。

そもそも戦後の日本において、大企業が破綻する事例というのは、銀行主導か監督官庁主導で更生法を申請することぐらいしかなかった中において、山一證券が廃業するまでの数カ月の金融市場の騒乱は、歴史的なものだったといえるでしょう。

当時私が一番不思議に思ったのは、この数カ月の市場を見ていた、または参加していた市場参加者の多くが、山一のこの結末に意外感を持たなかったのに対し、内部に居た方達にとっては「まさか」の結末だったらしい、ということでした。

それは、山一證券の関係者の方達の認識が特に甘かったというわけではなく、大企業の命運を握っているのは監督官庁であり、メインバンクであり、決して株式市場や債券市場ではない、という当時のわが国の資本市場の常識に囚われていたからかもしれません。

あれから20年。
我が国の大企業を巡る資本市場の常識は、今でも亡霊のように生き続けているように感じることに、この国の金融資本市場の難しさを思わずにはいられません。

寺本名保美

(2017.11.24)



リターナブル梱包はまだ?

中国における通販需要の急拡大が、古紙価格を高騰させ、世界の製紙メーカーの業績に影響を与えていると言われていますが、問題は古紙だけではなく、深刻なごみ処理問題にも発展しています。

一方で日本における通販需要の急拡大は、運送業における人件費問題に集約されているように報じられていますが、中国同様に大量の段ボール材消費についてもそろそろ問題意識を持つべきだと感じています。

リターナブル梱包技術については、既に各種開発は行われているようですが、現実的に実装されたという話は聞こえてきません。

大手通販会社の過剰包装については、消費者側も辟易としている部分もあり、空気充填されたリターナブル梱包を採用する通販会社がでてくれば、その企業のプランドイメージ改善に多大な寄与があるのではないかとも思うのです。

こんな話、早晩現実化しそうではありますが。

寺本名保美

(2017.11.22)



日本の法人構造と労働分配

日本の労働分配率が低いという議論について、法人企業統計から判ること。

過去5年で、大企業は一人あたり賃金は増やしたけど、雇用者数は減らした。
中堅企業は一人あたり賃金は微増で、雇用者は増やした。
中小企業は一人あたり賃金も雇用者数も微増だったものの、役員賞与は増えた。

ちなみに、全正規雇用者数の6割は、中小企業に属しています。

中小企業の多くの経営者は、私財を投じて、または個人の家屋敷を担保にして、人生賭けて、会社の経営をしてきています。法人という形態ではあるものの、会社は良く言えば自分自身であり、悪く言えば自分のものです。

こうした人生を賭けた経営者が、日本経済の裾野を支えてきたことは、間違いのない事実です。

とはいえ、このままの法人構造が続く限り、日本の労働分配率の上昇は、かなり困難であることもまた事実です。

このあたりの解を探していくと、日本社会のあるべき未来の形が見えてきそうなきもするのですが‥

寺本名保美

(2017.11.21)



将来への発射台

ドイツの連立問題や、アメリカのオバマケア問題など、10月まで小康状態だった問題の幾つかが、足元でやや悪化しています。

とはいえここまでの楽観ムードが冷やされることは、企業業績を長持ちさせるには、むしろ良い調整となるかもしれません。

信じる信じないは別として、中国景気の持ち直しが材料視されています。

欧米日に加え、中国景気までもが加速すれば、各国の中銀の引き締め姿勢は、今コンセンサスとなっている「緩やかな引き締め」から逸脱する可能性があります。

暫くの調整局面が、やや気持ち悪いかもしれませんが、将来への発射台として、少し我慢するしかないでしょう。

寺本名保美

(2017.11.20)



好調さの裏にあるリスク

今の世界の金融市場における最大のリスクは、日本銀行が普通の中央銀行になることです。

日本銀行が普通の人になる気配を察しただけで、為替は大きく振れます。

堅調な経済の裏で拡大するリスクに少しずつ注意を払っていきたいと思っています。


寺本名保美

(2017.11.17)



セクター崩壊

「S&PとMSCI、通信・メディア・娯楽株を1つのセクターに統合へ」とロイターが報じています。

ネット関連企業の業務範囲が拡大し、業際が混在化していく中において、いわゆるFANG系の銘柄を一つの業種として括ってしまいましょう、という展開に見えます。

株式市場における業種(セクター)分類というものは、アナリストのバリエーション評価においても大きな意味を持っているものです。

ここのベースが変わるということは、各企業のバリエーションについても修正が入ってくる可能性があります。

前回のセミナーで、過去実績を前提としたバリエーションモデルの混乱の可能性について説明しましたが、正に現実となってきたようです。

寺本名保美

(2017.11.16)



アノマリー、その後

「利食い千人力」という昔の格言そのままの11月相場。

ファンドの12月末決算を前にして、利益が乗っている市場は売りが出やすい、という分かり易いアノマリーは「流行りのAIトレーダー」も学習していることでしょう。

一方で、11月の月初の上昇相場に追随した、順張り系のモデル運用は、またまた損失となりそうです。

「コンピュータートレード」と一括りにされやすいシステム売買にも、局面によって得意不得意があるということです。

問題は季節性のアノマリーの一巡後の方向性です。

アノマリーやシステム売買がきっかけで、市場のセンチメントの本筋を変えてしまう事例もないことはありません。

今のところは、適度なバリエーション調整の範囲内だと思ってはいますが。

寺本名保美

(2017.11.15)



身心のバランス

日本のTOP銀行は、バランスシートランキングでみると、世界のTOP20に4社入っているにも関わらず、株式時価総額では1社しか入っていません。

図体は大きいものの、評価が伴っていないという典型事例です。

さて何故なのでしょう?

バランスシートが大きいのは、単にリーマンショックであまり痛まなかったので、欧米金融の様にバランスシートを縮小する必要がなかったから。

株式の評価が低いのは、その豊富なバランスシートを使った有効なビジネスモデルを提示できていないから。

その結論として、人員削減だけがヘッドラインに乗るような改革では、当然のことながら株式評価は高まりません。

日本の金融はどこへ行く?と呟き続けて、それこそ早や30年が経ってしまいそうです。

寺本名保美

(2017.11.14)



ミクロとマクロの乖離

弊社の株式の理論値は、名目GDPから回帰しています。

時々話題になるバフェット理論と考え方は同じです。

弊社がこのモデルを考案した2002年当時は、バフェット理論という単語は認識されていなかったので、偶然同じ概念だったということです。

この考え方で測ると、足元では米国株式より日本株式の方が、割高感が強くなり、企業の予想PERで測る割高感とは、やや異なった結果となります。

マクロ指標とミクロ指標との乖離は、こういったところにも見て取れます。どちらかが正しいというよりは、マクロとミクロの乖離を収斂させていくための時間が少し欲しいところです。

寺本名保美

(2017.11.13)



決算シーズン

11月の声を聴くと、ファンドの多くは決算を意識し始めます。

足元で稼いでいるファンドは、利益の確定に入り、ここまで稼げていないファンドは、最後の勝負にでます。

株式やハイイールドのようにこれまで好調だった資産には売りが入りやすく、上でも下でもトレンドが出やすい「軽い」市場については、投機的な仕掛けが入りやすくなります。

昨日の高値から24時間で900円余り下げた日本株は、利食いやすく仕掛けやすい、決算対策には絶好の市場ともいえます。

暫くは、あまり振り回されないように気を付けた方がよいかもしれません。

寺本名保美

(2017.11.10)



視界が霞む

インドのデリーでの大気汚染による健康被害への影響が深刻化し、学校は休校となり、マラソン大会は医師会から中止勧告がでたそうです。

中国が自動車の電装化を本格化させた背景には大気汚染があると言われていることを考えると、いよいよインドの自動車政策にも大転換が近づいてきているようにも思えます。

もちろん、電気を作るのに石炭焚くなら無意味でしょ。という意見は根強くあるのですが、実行性はともかく環境対策を本気で行うシンボルとしての「電気自動車」は、かなり強いインパクトがありそうです。

その内タタが、おもちゃみたいな軽くて安い電気自動車を本気で作り始めたりすれば、中国・インドという2大人口大国から今の日本の自動車産業は締め出されてしまいます。

四半世紀ぶりの高値まで登った日本株。自動車産業方面の視界だけやや霞んで見えるのは気のせいでしょうか。

寺本名保美

(2017.11.09)



好業績の理由

中東からの需給や米朝リスクを警戒しつつも大きく崩れずにすんでいる各国の株式市場。

過去との比較において、高いか安いかという議論より、そろそろ何故企業業績は良いのか?という視点の議論を始めた方が良いと思います。

日本で言えば、昨日決算の出た自動車のように単に為替だけの話なのか、リストラの話なのか、欧米景気に引っ張られているだけなのか、オリンピック特需なのか、それとも過去30年とは明らかに異なる産業構造の転換が起きているのか。

昨日の続きを言うなら、今の企業業績が外部環境に依存したシクリカルなものであるなら、過去30年の繰り返しにおける最終局面ですし、何らかの構造変化を伴う業績であるのなら、短期的な価格調整はあったとしても基本的には右肩上がりの展開を期待する相場になるでしょう。

いずれにしてもこうした議論が煮詰まるにはまだ日数が足りません。
ちよっとしたショックで10%位の調整はいつでも来る覚悟で、リスクの見直しだけはしておきましょうか。

寺本名保美

(2017.11.08)



終わりなのか、始まりなのか。

バブル後の最高値更新。

これが、失われた30年の繰り返しであるなら、最終局面。

失われた30年の終わりなら、ここがスタート。

さて、、、。

寺本名保美

(2017.11.07)



メディアの自覚

パナマ文書の拡大版といわれる、パラダイス文書なるものが公表されました。

で、これを使ってメディアは何がしたいのか?

パナマ文書によって、各国の徴税システムは強化され、単なる脱税目当てでタックスヘイブンを使用する事例は減少したと言われています。

それでも尚且つその疑惑があるのなら、現在生きている口座についてのみ、公表すればよいでしょう。

匿名性が犯罪に関わっている可能性があるのなら、これを材料にして犯罪そのものを公表すればよいでしょう。

見境なくデータを晒すだけなら、それはメディアの仕事ではありません。

元々盗まれた情報を、公に活用して許されるのは、この活用が社会に真に有為で有ることが前提です。

今のメディアに、その自覚があるかどうか、かなり心配ではありますが。

寺本名保美

(2017.11.06)



バブル条件

いよいよ世の中総強気になってきて、2014年から言い続けてきた「バブルが来るぞ!」のお話しがようやく役に立つ地合いとなりました‥

詳細はセミナーのページで公開している2014年や2017年の資料をご参照いただくとして、バブルの生まれる前提をおさらいしてみましょう。

1.豊富な流動性があること
2.景気は良いものの、実需の資金需要が高まっていないこと。
3.人々を惹き付ける、特定のテーマや産業があること。
4.国がバブルの発生を望んでいること。
5.ストーリーテラーとしての仕掛人がいること。

今のところ、日本において1 2 4はクリアー。
ここから3と5が見えてくれば、皆さんが憧れる「バブル」の文字がみえてきます。

さて、ストーリーテラーはでて来ますか否か。

寺本名保美

(2017.11.02)



大手証券株の示すこと

日経平均がバブル後高値を更新している裏側で、大手証券株式は超低空飛行が続いています。

2013年の黒田緩和の直後に一瞬急騰した以外は、市場の興味の対象外、という感じです。

この間、大手メガバンクの株価も、日銀のマイナス金利の影響から低迷気味なのは、市況要因としてある程度諦めることもできそうですが、市況要因が明らかにプラスであった証券株については、何か根本的に原因を究明したほうがよさそうです。

メガバンクからは、今後10年単位での経営変化の目標等が聞こえてくるようになりました。

さて、大手証券。どこに行くのでしょう?

寺本名保美

(2017.11.01)


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