2017年08月の思いつき


歪んだソフトランディング

このところ、上海株式市場が堅調です。中国の消費マインドに底打ち感がでたこと、企業業績が好調であること、などが好感されています。

一方で、時を同じくして、中国企業に対する共産党支配の強化や、民間コングロマリット企業に対する規制、外資系企業に対する政治的圧力の話題も多くみられるようになりました。

中国経済が急激に拡大する過程において生じた、不良債権問題や不正決算などの問題がソフトランディングできるかどうかが、数年前の市場の最大の懸念材料の一つであったわけですが、結局のところ企業活動に対する中央政府の介入を強化することによって、このソフトランディングは今のところ成功裏に収まっているということなのかもしれません。

このことが、中国の将来の成長に対し好ましいことであるかどうかは別の問題として、とりあえず目先の金融市場にとっては歓迎すべき傾向だといえるのでしょう。

寺本名保美

(2017.08.30)



値下げで下がり、値上げで上がる

日本においてデフレマインドに侵されているのは、消費者なのか経営者なのでしょうか。

先週、大手小売りグループがプライベートブランドの値下げを発表しました。「低価格への意識の高い消費者ニーズに応える」というコメントが出されていました。

先日、単価280円が売り物だった外食チェーンが値上げを発表しました。「人件費の上昇等に対応するため」とのコメントが出されていました。

低価格への消費者ニーズは小売りも外食も同じです。人件費や運用費等のコスト環境の悪化も同じです。

そして、値下げを発表した大手小売りの株価は下がり、値上げを発表した大手外食の株価は急騰しました。

もちろん個社の事情もあります。
ただ、少なくても株式市場に対し全くアピール力の無かった値下げ判断が意味することを、小売り業界は一度立ち止まって考える時期が来ているのではないかとも思うのです。

寺本名保美

(2017.08.29)



ジャクソンホールの変化

ジャクソンホールでの各中央銀行総裁の発言については、ドラギ総裁がユーロ高を懸念する発言をしなかったこと、程度しか材料にされることはなく、金融市場の反応もドルユーロが15年ぶりのユーロ高を更新したこと以外は平穏に推移しています。

その裏側で、週末に日本で大規模なネットの通信障害が起き、一時的にネットバンキングやネットの決済システムが停止する騒動がありました。

中央銀行総裁発言よりも、通信障害で決済システムに支障が出ることのほうがよほど重大なニュースフローだと感じてしまうのは、それこそが今の金融システムの変化そのものであるからです。

金融の枠組みが次第に中央銀行の手を離れネット化していくなか、中央銀行の金融政策というものが実体経済に与える影響は今後大きく変わっていくことでしょう。

リーマン危機以降の各国の異次元緩和政策は、中央銀行の金融政策が歴史に名を遺す最後の花道になるのかもしれません。

寺本名保美

(2017.08.28)



買うひと・売るひと

ロイターによると、8月第3週に米国にある米国株式ファンドは113億ドル(約1兆3千億円)の資金流出となったそうです。
過去1か月の累計での資金流出は200億ドルを超えます。

資金の行き先の多くは国内外の債券で、6月末の欧州のテーパリング観測後の主要国金利の上昇は、米株を利食った投資家の恰好の受け皿となっています。

9月になるといよいよ欧州のテーパリングや米国のバランスシートの正常化といった、大きな中銀イベントが始まります。

債券にとってはやや怖い1カ月となりますが、トランプ大統領がタイミングよく株式市場を冷やしてくれていることが、債券需給にはむしろプラスになってくれているかもしれません。

もちろん、本当に財政の崖に飛び込んでしまうようなことになれば、米国は瞬間的にであれトリプル安に見舞われます。

そうならないことを祈るばかりです。

寺本名保美

(2017.08.25)



9月の導火線

メキシコの壁を作れないぐらいなら、財政の崖から落ちた方がましだ、という趣旨のトランプ発言に金融市場はやや反応しています。

債務上限法案の延長問題は、常々議会内の駆け引きと議員の支持者へのパフォーマンスに「悪用」され、大統領府はどちらかというと議会に翻弄される被害者を装っていることが多かったのですが、今回は大統領自らが口火を切った形になっています。

大統領が掻き回したお陰で、かえって議会が理性的になり債務上限法案の延長がすんなりと通るのではないかという楽観的な見方もありますが、9月の火種であることは間違いなさそうです。

それにしてもトランプ大統領はよくこれだけ次から次へと導火線に火をつけて歩けるものだと、そのバイタリティには呆れ感心するばかりです。

寺本名保美

(2017.08.24)



グアムと国家

米朝問題が悪化して、クローズアップされたグアム。

ハワイもグアムもサイパンも行ったことがないので、地理も含め違いがよくわかっていないのですが、改めてグアムについての解説を読んでみると、現代政治における「国家」というものの不思議さを感じます。

グアムはハワイ州とは異なり準州であるため、大統領選挙への参加権がなく、米国議会における投票権もないそうです。日本では行政が国→都道府県→市町村とピラミッド式に下りてきているので、政治への参加権が住んでいる場所によって異なることはありません(1票の格差は別として)。

そういう先入観でみていると、アメリカであっても国政に参加できない地域が存在しているということが何故あり得るのか、どうにも不思議な気がしますし、実際今回の北朝鮮問題以降このグアムの中途半端なステイタスを改善しようという活動が再燃しているともいわれています。

国家とは何なのか?
この数年のポピュリズム的活動の背景には、第二次世界大戦後に急ごしらえされた現状の国家体制の歪みが滲みでてきた結果ともいえるのでしょう。

寺本名保美

(2017.08.23)



パッシブ化の弊害

運用機関との四半期ミーティングで、企業のや産業構造の変化を感じとることは、とても楽しく、有益なことです。

株式市場が上がったか下がったか、等ということは、数字を見ていればわかることで、これから上がるが下がるか、等ということを聞いても当てになるものではありません。

でも、企業の経営や財務を分析した結果としての銘柄選択の状況を聞くことは、現実を知り、将来のリスクを予見する上では、なくてはならない行為です。

昨今のパッシブ運用だらけの資産運用において、投資家に提供される情報の質も量も明らかに低下していることに、投資家、運用機関、行政、企業のいずれも危機感を持っていないように見えるのは、本当に憂慮すべき事態です。

寺本名保美

(2017.08.22)



昔話

2000年問題という単語を知らない人も増えて来ていると思いますが、1999年から2000年に大台代わりをするとき、金融機関の決済システムに予測不能なトラブルがおきるかもしれないとの懸念から、1999年から2000年に掛けて、各国の中央銀行は市場に大量の流動性を供給しました。

この資金の一部が株式市場に集中して起きたのが、いわゆるITバブルです。

その後、無事に2000年を越え、ITバブル崩壊も峠を越え、不必要になった流動性を回収するタイミングでおきたのが、アメリカの同時多発テロでした。

このテロのため、米国中銀の引き締めのタイミングが後ずれし、結果的にその後の金融不動産バブルを呼ぶことになるのです。

足下で、地政学リスクやら、政局やらと、各国中銀の手足を縛るような展開が散見されています。

いまのところ、中銀の判断を大きく狂わせるほどのリスクは発生してはいませんが、今後の展開次第では再び経済環境以外での判断を強いられる局面が出てきそうな気配があります。

できることなら、短期的なリスクに捕らわれすぎず、将来に禍根を残さない冷静な判断をしてくれることを望んでいます。

寺本名保美

(2017.08.21)



日本株、、、日本株、、、

大型船トランプが漂流しどこで座礁するかわからない中で、落ち着いていた欧州市場のテロ事件が加わり、市場の温度を急速冷却しています。

一方で、トランプ大統領就任以降に強くなりすぎたドルも、マクロン大統領就任以降強くなりすぎたユーロも、ここに来て適度な調整に入り、実体経済にとっては悪い展開ではありません。

そんな中、再びババを引いている感がある日本。
地政学リスクと円高と株安が同時に来ると、日銀が一番重視している「センチメント」という部分が一気に悪化してしまいます。

どうも最近日本株について良い話が書けなくて、心苦しい限りではあるのですが、どこかによい材料ありませんか…

寺本名保美

(2017.08.18)



経営者の嗅覚

米国の大企業で成功している経営者達というものは、鋭い嗅覚と冷徹な判断力を持ち合わせていると思っています。

トランプ大統領が就任した時、彼らは自らの政治信条とは別の判断において、トランプ政権と歩調を合わせることを選択しました。

そして、足元で彼らは、トランプ政権に対し距離を置くことを決断しています。

きっかけとなったのは、もちろん人種差別を否定しないともとられかねないトランプ氏の発言ではあったものの、もしかすると企業経営者達の多くはトランプ政権から離れるための口実をすでに探していたのかもしれません。

株式市場が政治離れをしているということは、企業経営そのものもまた政治離れをしているということです。

国民から批判され、海外から嘲笑され、企業から期待されなくなったら、その政権は終わりです。日本のように解散総選挙というわけにもいかない中、トランプ政権の行く末が本当に見えなくなってきました。

寺本名保美

(2017.08.17)



冷夏お見舞いもうしあげます

子供の頃、屋外プールが大好きだったので、夏休みシーズンの長雨には、今でも心が切なくなります。

お盆休み中の米朝問題での下落は、日本市場の壁を突き破る程の威力はなかったものの、長雨冷夏に相応しい市場ムードを招いてしまったようで、やや懸念が残ります。

一方で日本の4-6月のGDPは欧米の長期金利が反応して上昇しまう程、内容を伴った強さが目立ちました。

企業の設備投資の広範な堅調さと、雇用環境の好転を背景にした個人消費の強さが、外需の低迷を補う、まさに足元の経済環境を良く映し出している結果となっています。

景気循環的に見ても今年は強気な一年になるという年初のエコノミスト予想をほぼ裏付けたものになっているということでしょう。

企業ベースでの強気と、外部環境の弱気が、打ち消しあった低温相場がこの数カ月続いています。

温度が上がらないまま、夏が終わってしまうのか、真夏の太陽を心待ちにした小学校時代の気分を彷彿させる今日この頃です。

寺本名保美

(2017.08.16)



夏季休暇

暑中お見舞い申し上げます。

来週14日(月)と15日(火)、弊社は夏季休暇とさせていただきます。

緊急のご連絡はメールにて承ります。

小学生の口喧嘩レベルで加速している足元の緊張がこれ以上増幅しないことを願いつつ。

酷暑のおりご自愛くださいますよう。

寺本名保美

(2017.08.10)



沈思黙考のすすめ

冷っとした時条件反射的に売られる資産は、潜在的にリスクが高いと認識されている資産。買われる資産は価格下落に強いと思われている資産。

米朝の緊迫度が一気に高まり、とりあえず日本株は売り。

割安なはずなのですが、どうも足腰が弱い。

そろそろ日本はお盆休みでマーケットも薄く、軽いパンチでも壁が抜けそうな気配。

トランプさんも夏休み中のはずなので、暫く沈思黙考していただければと思うのですが。

寺本名保美

(2017.08.09)



ストーリーのある企業

日本株が世界の株式市場から取り残されているという意見を聞くことが多くなりました。

だからといって企業業績が悪いわけではないので、PERは先進国の中においても割安な水準になっています。

世界の株式市場全体が高値圏にあり、業種や地域やファクターの循環物色を繰り返している中において、市場全体に割安感がある日本株が次の物色対象をなる可能性に期待する声もあります。

一方で、個別企業において、米国や欧州には、変化の芽を先取りするような投資機会が少ながらずあるのに対し、日本の企業はむしろストリーで買えるものが無くなってきているという懸念の声もあります。

このところ、経済のトレンドに従った投資より、個別企業の業績のトレンドが重視される市場傾向が復活しつつあります。日本株が割安に放置されている理由は永田町と霞が関だけにあるのではなさそうな気がしています。

寺本名保美

(2017.08.08)



日本も悩む

足元で、唐突感がある程に急激に進行しつつある、自動車の電気化。
一旦堰を切ると止まらないイノベーションの凶暴さを感じます。

一方で、何やら似たような気配があるのが、タバコの電気化。

株式投資におけるESG指向も重なり、こちらも大変革が起きそうな気配があります。

米国よりも理念が先行しがちな欧州大陸が、このところ経済的な力を持つようになってきたことが、このようなモラル主導の制度改革を加速している一因になっているのかもしれません。

米国と欧州の力関係が一時的なものなのか。それとも欧州が一枚岩となって世界経済の方向性に今後も影響を与えていくこととなるのか。

日本はどちらを向いていけばいいものか。
トヨタでなくても、ここは大きな悩みどころといえそうです。

寺本名保美

(2017.08.07)



7:3で楽観

四半期報告の場で久しぶりに、「景気超強気の株式」VS「景気超弱気の債券」という構図に出会っています。

言い方を変えるなら、超強気なミクロと超弱気なマクロ、というところでしょうか。

企業の業績や受注ベースでモノをみる株式のファンドマネージャー達と話していると、国内外共見通しは極めて明るく、政治も中銀も気にしない。

マクロ経済でものをみる債券のファンドマネージャーやアロケーション担当者は、景気は今がピークで先行きは鈍化、あてにならない政治とタカ派気味の中銀を警戒。

常に株式市場は楽観的で債券市場は悲観的、と言われるものの、足元のコントラストはやや極端な印象を受けます。

個人的には7:3ぐらいで、株式ファンドマネージャーよりのスタンスにいます。

もちろん3のリスクを忘れないことは言うまでもありませんが。

寺本名保美

(2017.08.04)



ロボットのおしゃべり

以前、国の委員会が作成したロボット社会のリスク、というものの中に、ロボットが反乱し、自らの権利を主張すること、という項目がありました。

その時は、笑い話ぐらいにしか思っていませんでしたが、中国で共産党批判を話し始めたAIが運用を停止させられたり、イギリスでAIどおしが人間には解らない言語で会話を始めて、運用を停止させられたり、といった話題をみていると、先の話が妙にリアルに思えてきます。

そのうち、ロボットの生存権について、等という議論をしなければいけない時代が、想像以上に早くくるのかもしれません。

寺本名保美

(2017.08.03)



中途半端なマイナンバー

マイナンバーを戸籍に紐付けさせる方針がでています。

一方で、健康保険証等日々の生活に直結するものについては、個人情報管理がネックになっているのか、進展したという話は聞きません。

国民に抵抗のある制度なのであれば、国民に利便性をアピールできる分野から導入案していくのが本筋かと思うのですか、戸籍のような一生に二-三度しか用がなく、且つ取り扱いの最も慎重になる分野を強硬突破するのはあまり賢いやり方には見えません。

そろそろ小出しにするのは止めて、マイナンバー制度の最終的な姿を全開示した上で、国民の理解を得るための努力をするべきなのではないかと思います。

寺本名保美

(2017.08.02)



レバレッジ経営

中国政府が、レバレッジ経営を行っている中国の多角的企業に対し、海外資産を売却し国内に還流させるように指導を強化しているとの報道がこの1-2か月で目につくようになりました。

今日付のブルームバーグには、世界的な名門ホテルウォルドーフアストリアを買収したことで知られる「安邦保険集団」に対し資産売却要求が出された可能性について報じられています。

積極的な外部借入と企業買収とでバランスシートを膨らませる企業のレバレッジ戦略は、2000年代初頭のエンロン・ワールドコム事件で広く世の中に認知され、両社を含む多くの上場企業が壊滅的な株価暴落に見舞われたことを受け、鳴りを潜めていたものです。

ここにきて中国が、第二のエンロン・ワールドコム事件を作らないための予防策を打ってきたというのであれば、それは評価すべきことですし、一方で単に外貨の国外流出を防衛しようということだけであれば、無駄な努力です。

それにしても、片や日本では20兆円の負債の上に更に数兆円規模での負債の上乗せを計画している企業グループが、日本企業の唯一の成功事例と囃されている現実を、どう理解してよいものか。

中国政府の企業管理の方が先進的だった、などという結果にならないことを祈るばかりです。

寺本名保美

(2017.08.01)


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