最後の砦
自動車の自動走行技術で日本基準を世界標準とすることを目指す、と国交省が言っているとのこと。
止めたほうが良い気がします。
もう今の時点で日本は自動走行では後発組となっています。
基幹設計に関わる暇があるのなら、ドイツや米国の作ってくれた設計図に乗って、先に進むべきです。
なんとなく、この記事を読んでいて、日本は「レベル2」と呼ばれる「自動走行」ではない「自動制御」までで勝負しようとしているようにも感じます。
「自動走行」なのか「自動制御」なのかは、道路などのインフラを考えるにあたっても大きな相違があります。
もしドイツを主導に、自動制御を飛び越えて自動走行へ開発の軸がいってしまえば、レベル2の世界基準そのものがガラパゴスとなってしまいます。
パソコンや携帯電話が世界標準になれずに駆逐されても日本の製造業が生き残ってこられたのは自動車産業があったからこそです。
万が一、ここで日本が舵の切り方を間違えて自動車業界をガラパゴス化してしまったら、日本の製造業の最後の砦が失われます。
政府官邸が今行うべきことは、金融政策の検証ではなくて、日本の産業の背骨である自動車産業の方向性を緊急かつ真剣に見極めることでしょう。
寺本名保美
(2016.08.30)
異次元から常態へ
ジャクソンホールから聞こえてくる各国中銀総裁の言葉からは、2007年以降の様々な危機の過程において、中銀が取ってきた行動の正しさへの自負と、政策を肩代わりさせられてきた政府への苛立ちのようなものが伝わってきます。
イエレン議長による利上げステージ入りの宣言は、すなわち金融危機における中銀のバランスシートを使った当時としては「異次元」の金融政策が、有効であったことを宣言することになります。
今回のイエレン議長の講演において、次のリセッション時においても、中銀のバランスシートを活用した金融緩和策をとることを否定しない、と敢えて言っていることの意味は小さくないと感じます。
技術や産業や人口構成の変化は、金融経済政策の基盤となる労働生産性や潜在インフレ率を確実に変化させています。
出口を考えなければいけない「異次元」であったはずの金融政策が、いつのまにか出口のない「常態」となっていく可能性についても考えていく必要が出てきているのかもしれません。
寺本名保美
(2016.08.29)
ガラパゴスからの脱出
ジャクソンホールでのイエレン議長の会見前でお盆休みのような市場を賑わす話題。
「iPhoneでおサイフケータイが使えるようになるらしい!」
欧米での通信規格(NFC)と日本のおサイフケータイで使われてい規格(FeliCa)が異なるため、日本のガラパゴス規格のためだけの開発をアップルがするはずがない、と半ば諦めていたiPhoneユーザーにとっては青天の霹靂です。
もともと日本は先進国の中においてもiPhone比率が高いことが知られている市場。
営業利益の1割を占める市場のためなら、ガラパゴス対応も無駄ではないと目算されたのでしょうか。
もっと言うなら、非接触型通信規格そのものを日本以外に逆輸出するきっかけになれば、なおさら結構なこと。
アップルが市場対応することで、既存の日本のスマホメーカーが淘汰されるだけでは面白くありませんから。
寺本名保美
(2016.08.26)
評価とAI
採用や人事評価にAI(人工知能)を活用するという話題を、最近よく目にするようになりました。
確かに、AIが得意とするパターン認識は、単なるスクリーニングではなく定性評価に近い客観評価ができるという点において、使い道はあるのかもしれないと思います。
例えば、我々のようなファンド評価の世界や株式での企業評価などのプロセスにおいても、定量的なスクリーニングに定性判断を被せていく作業を俗人化から普遍化させていくという試みは、長年の課題でもあります。
人事を含め「評価」という作業にAIがどのように活用できるのか、ということは個人的にも非常に興味があるとこではあります。
とはいえ、普遍化する前における属人的なスキルの質が悪ければ、出来の悪いAIができてしまうだけなのですが…
寺本名保美
(2016.08.25)
運用会社の相場感
資産運用会社の営業や企画の方達と話していて、思い続けていることがあります。
何が売れるか?ではなくて、何を売るべきなのか?を考えて欲しい。
この仕事に携わって20年弱たちますが、この思いは変わらず伝え続けてきたつもりです。
現実は、なかなか難しい。
お客様から聞き取るのは、お客様のご意向ではなくて、お客様の現実。
お客様に提供するのは、お客様の今、ではなくて、お客様の将来に役にたつ商品。
そのためには、営業にも企画にも、運用者に負けないだけの運用知識やあえていうなら「相場感」を持って欲しいのです。
運用会社の総合力に期待しています。
寺本名保美
(2016.08.24)
自分のことはよくわからない
オリンピックの閉会式での日本セレモニー。
海外の大手メディアを初めとし、ネットを含めて非常に評価が高いのに対し、国内でのシラケた反応がとても印象的です。
ポケモン騒動も同じですが、日本の技術やカルチャーの資産価値について、一番理解していないのは日本人自身であるのかもしれません。
これは単にキャラクタービジネスに限ったことではなくて、何十年も前から指摘されながらも海外に発信しきれなかった日本の食品業界の特異性や潜在価値が、この数年でようやく開花したことにもあてはまります。
自身の評価を客観的に行うことが苦手であるのなら、そこはやはり海外からの視点を積極的に取り入れるしかなく、外資の参入や海外での合弁を積極化させるのも一つでしょう。
自力がある日本だからこそ、もっと積極的に外の世界との関わりを深めていくべきであるというのは、企業もスポーツ選手も同じなのかもしれません。
寺本名保美
(2016.08.23)
バランスの悪い需給
先月末の日銀の政策決定会合において、ETFの買入増枠が決まって以来、日経平均とTOPIXのかい離(NT倍率)が、毎日毎日上がります。さすがにこの2日ばかりは修正されつつありますが、少なくても過去2年でみて最高倍率近辺に張り付いています。
一方で、低ボラティリティインデックスの組み入れ銘柄の内幾つかが極端に売られているのが目につきます。
今の市場環境が、日銀のETF需給だけで動いており、この傾向がしばらく続くとみた一部の投資家が、低ベータ型のファンドから日経225のような大型高ベータファンドへの入れ替えを行っているのかもしれません。
日銀の買入で、株式市場が為替離れをしてくれたことは、有り難いのですが、妙な需給を発生させた弊害でアクティブファンドが苦しくなっているのは痛し痒しです。
恨むべきはバランスの悪い買取枠の設定をした日銀ではなくて、日銀以外の投資家の参加率が異常に低いことにあるのかもしれませんが。
寺本名保美
(2016.08.22)
最高のプランAへの努力
WSJに『最高の計画に「プランB」はない。代替案があると意欲が薄れ、目標達成の可能性が低くなるとの研究結果』とう記事が掲載されていました。
「代替計画を検討するだけで主要目標を達成する意欲が薄れ(略)、主要目的で成功を収める可能性が低くなる。」とのこと。
資産運用の世界では、損失回避のために、リスクシナリオに沿ったプランBを作ることは、当然のこととなっています。
市場が思惑通りにいかなかったとしても、大けがをしないためのバックアッププランのようなものです。
ただ最近どうも、リスクシナリオとその際のバックアッププランの精緻化に心血を注ぎすぎて、メインエンジンの精度が後回しにされているような事象に度々遭遇するような気かしています。
リスク耐性を作ることは重要ではあるのですが、それがあるからメインがエンストしてもよいというものではありません。
足元の沈滞した運用結果にイラついている私を、少し爽快な気分にさせてくれる記事でした。
寺本名保美
(2016.08.19)
そういえば
安倍政権の目玉政策の一つに、いわゆるカジノ法案があったような気がするのですが、最近全く耳にしなくなりました。
国土強靭化政策で、老朽化した高速道路や橋の改修の話もあったような気もしますが、それも聞かなくなりました。
国内に生産拠点を呼び戻すための、設備投資減税は、どうなったのでしたっけ?
リニアみたいに派手でアピール効果のあるものや、子育て支援のような注目度の高い案件に政策が流れてしまっているようですが、当初掲げた目標を店晒しにして、目先に流されていては人々の信頼を失うだけです。
行き詰ったときは振り出しに戻って考える。
世の常道です。
寺本名保美
(2016.08.18)
他に誰もいないので
いきなりのドル円99円台に、一瞬にして夏休み気分が抜けた人も多かった昨晩です。
東京は台風一過。
株式市場も為替一過。
お天気のように晴天とまではいきませんが為替が暴れた割には穏やかな市場環境となっています。
今の国内株式市場が為替とのパッケージになっていないことが確認できただけも収穫でしょう。
その裏には、日銀が主要株式の大株主になっているという、不気味な現実があり、ヘッジファンドの短期売買か日銀の超長期保有かの二者択一という日本市場の悲しい現実もうかがえます。
夏休みが終われば、「普通の」投資家が戻ってくる、といいのですが。
寺本名保美
(2016.08.17)
ポンド安
まだ、全体としてはお盆休みが続く中、特段の理由もなくスルスルっと円高が進んでいます。
ポンドが対ドルでもBrexit直後の水準まで下がっているので、円が買われているというよりも、ポンドとユーロが売られている余波が来ているという感じでしょうか。
英国については、株式市場の楽観や政治的な強気とは裏腹に、経済指標は確実に悪化しています。
一時的なショック後の心理的な反発が一巡し、ここからは冷静に状況を見極めるステージに入ります。
イギリスという国はポンド安には慣れているところがあり、この水準については、むしろ経済的なプラスがより強調されている面もありますが、所詮通貨は国力です。
今後の市場リスクとして、急激なポンド安というのもシナリオにあげておいたほうかよいのかもしれません。
寺本名保美
(2016.08.16)
お盆休みをいただきます
今年から始まった山の日。
一般的なお盆休みが8月13日からなので、8月11日を休みにしてしまえば、飛び石の12日もきっと休みになって連休が増えるだろう、と誰かが考えたに違いない、祝日。
設計者の狙い通り、今年は明日から来週月曜日まで連休になるところが多そうで、それなりの経済効果が見込まれるとの試算が出ています。
政府のご意向に逆らってはいけないので、弊社も明日から月曜日まで事務所はお盆休みとさせていただきます。
あまりの酷暑で家に居たくない私は、静か~な環境下の事務所で資料作成に励んでおりますので、何かあればご連絡くださいませ。
弊社事務所の下の公園がポケスポットだからといって、ポケ採集のために出社するわけでは決してありません。
思いつきも、来週火曜日までお休みとさせていただきます。
では皆さま、くれぐれも、暑さにはご自愛ください。
寺本名保美
(2016.08.10)
それは違う、とおもう
今日の日経新聞での小池新都知事のインタビュー。
東京を金融都市にしたい。90年前後のような活気ある都市にしたい。
いや都知事、それは違うでしょう。
金融業はこれからの斜陽産業候補ナンバーワンです。
1990年の東京は、絶対に戻ってはいけない場所です。
とりあえず、暑いし、オリンピックだし、時間もないので、詳細はまたこんど。
寺本名保美
(2016.08.09)
値固め
このところの日本株が良くも悪くも為替離れをしています。
メディア等では、「米国雇用統計後の円安を好感し」日本株が堅調であることになっていますが、為替は102円を挟んで揉みあっているいる程度で、株式を2%近く上げるほどの変化幅ではありません。
欧州や米国の株式市場も同様の傾向があって、雇用統計が強く利上げが警戒されるというよりも、その背景にある企業業績の強さや景況感の底打ちに反応した展開となってきたように見えます。
8月は主要なマクロ政策会合がないというタイミング的な問題もありますが、とりあえず銘柄選択がききやすい市場環境になりつつあることは、好ましいことです。
市場指数そのものは、それほど上がらなくてよいので、個々の銘柄ごとにしっかりと値固めをしつつ毎年波乱の8月が無難にこなせればよいと思っています。
寺本名保美
(2016.08.08)
ひ弱な債券市場
比較的乱高下をくぐり抜けてきた株式のファンドマネージャーに比べ、債券のマネージャーのひ弱さが気になります。
想定外のマイナス金利だと言って右往左往し、ヘリコプターの遠影に怯え、誰かが売り始めれば一斉に売る。
金利が低すぎるといっては文句を言い、上がれば上がったで文句を言い、日銀のオペレーションを親の顔色を窺うかのように気にし、まるで子供です。
まぁ債券本来の収益源泉である金利収入がない中、投資ではなく投機に近い市場になってしまっているのは、仕方がない部分もありますが、それにしても市場自体の価格形成機能が失われてしまっているように見えるのは気掛かりです。
満期まで保有すれば損をしないはずの債券投資が、満期まで持つと確実に損をする資産となった今、債券運用者の気持の持ち様も少し変えていかなければいけないのかもしれません。
寺本名保美
(2016.08.05)
お金はいいから知恵が欲しい
政府が経済対策の目玉として打ち出しリニアの大阪延伸の前倒しについて、当のJR東海から「大阪同時開業は無理です」と言われてしまいました。
これは単なる一例ですが、今の日本の抱える問題の多くが、補助金で解決できるというものではない、という典型です。
経済界も市場も求めているのは、経済を動かすためのお金、ではなくてどうしたら経済を動かせるのかという知恵です。
規制緩和が進んでいないと外国勢は言います。その外国勢に具体的な規制緩和の内容を問うても、最近は明確な答えが返ってこなくなりました。問題点が見えなければ、解決策もでてきません。
お金をどこから出してくるかを考えるより、足元のボトルネックがどこにあるのかを洗い出すほうが先です。
内閣改造と一緒に、「プレーン」の改造もすればよいのにと思ったりしています。
寺本名保美
(2016.08.04)
原油、とまれ。
原油の40ドル割れは、やはり冷りとします。
政治に振らされて市場も忘れた振りをしていましたが、原油市場が今年の最大リスクの一つであることに、何の変化もありません。
ようやく、グローバルマクロ勢による、株式と通貨市場でのレバレッジ取引が収まってきた矢先なのに、ここで原油が暴れてしまうと、またボラティリティを伴った戦略が復活してしまいます。
このあたりで、収まってくれると良いのですが。
寺本名保美
(2016.08.03)
顔が見えない
今のGPIFの最大の問題は顔が見えないこと、だと思います。
運用拡大に伴いプロセスを組織化し、リスクの拡大に伴い運用手法を高度化した結果、対外的にはブラックボックス化した印象を与えてしまいました。
所詮インデックス運用中心であるなか何の意味も持たない保有銘柄の公表を行ったり、百数十ベージに及ぶプロフェッショナル性の高い年次報告書を作成したりと、情報開示への努力をしていると、当事者達は思っているかもしれませんが、恐らく世間には何も伝わっていません。
規模を小さくした年金基金であっても、運用会社であっても同じですが、プロセスだとか組織だとか理論だとかいっても、結局は委託者と受託者との間の信頼関係の構築がなければ運用委託というものは成り立ちません。
運用責任のある人の顔が浮かぶからこそ、今は損をしているけどもう少し期待してみようとか、今年は損したけれど去年までは儲けてくれたから、とかと思えるわけで、結果が伴わない中において理屈を並べた膨大な資料を読んでくれる人はまずいません。
黒田総裁がある意味秀逸なのは、従来と異なるリスクをとったことに対し、自分の言葉で説明することから逃げないことです。
昨年度のGPIFの結果は想定よりやや悪かったものの、特段問題のある内容ではないはずです。
理事長でもCIOでもいいので、我々にお任せを!と言い切れる「顔」が今のGPIFには必要です。
運用は長期戦です。だからこそ途中で止めてしまえと言われないようなコミュニケーションが何よりも大切なのです。
頭でっかちになりすぎてはダメです。GPIF頑張れ。
寺本名保美
(2016.08.02)
情ではない選挙はないものか
今回の都知事選が、私の中で全く盛り上らなかったのは、候補者から受ける印象が私念怨念でしかなかったからかもしれません。
同じ候補者で同じ政策であっても、シンプルに政策提言という形をとれば、もう少し意味のある選挙になったでしょう。
安倍政権の憲法改正議論も似たようなもので、この問題になると滲み出てくる安倍総裁の情念のようなものに、嫌悪感を覚えます。
個人的な恨み辛み、無駄なこだわりやプライド。とれもこれも公人としての政治家には不要です。
例えそれが私人としての経験に裏打ちされた何かであったとしても、公人としての言動にする段階においては「私」である部分を全く感じさせなくなるまで、論理的に昇華させるべきです。
情に訴えれば票に繋がるという現実があるかぎり、理屈通りにはいかないのはわかるのですが。
寺本名保美
(2016.08.01)