強気の米国と自己中な欧州
ブルームバーグに欧州の大手銀行が、米国による制裁対象国との取引について最大1兆円にのぼる制裁金が科せられる可能性があると報じています。
そこに書かれている中で、
「捜査対象となっている取引の大半は欧州の法律には違反していないものの、ドルベースでの取引のため米国の法律の適用を受ける。」
という文言が二つの意味で気になりました。
一つは、銀行の本国では経済制裁の対象とされていない取引であっても「米ドル」の取引であれば、米国の法律が適用される、らしい、ということ。「基軸通貨」というものの意味の最強さを、改めて認識せざるを得ません。
もう一つは、我々の業務においても常に感じる、「自分達のルールが一番」という欧州金融機関のスタンスを、改めて再確認したということ。
強気の米国と自己中な欧州との1兆円という天文学的制裁金騒ぎ。
落としどころを間違えると、唐突なシステミックリスクに繋がりかねない不安がよぎります。
寺本名保美
(2014.05.30)
大学にて
幾つかの大学でヘッジファンドの話をするようになって、5-6年が経ちます。
リーマンショック直後は、自身のヘッジファンドに対する信頼も愛情も揺らいでいた最中、学生さんに何を伝えればいいのか、悩みながらの講義でしたが、昨年あたりからはようやく冷静に話ができるようになりました。
愛情の戻りは、道なかばですけど。
寺本名保美
(2014.05.29)
そうなんだ…
法案の内容についての話ではありませんが、今話題の「労働時間規制」についての厚労省案を毎日新聞が図示したものを見て一言。
世界レベルの高度専門職
-為替ディーラー
-資産運用担当者
-経済アナリスト
これに産業競争力会議案になると
-金融ビジネス関連コンサルタント
というのが付け加わりますが…
そうなんです。
私がお目に掛かっている皆様は世界レベルの高度専門職の方達なのです。
知ってました?(笑)
言わんとしていることは判らないでもないのですが、定義や単語が謎すぎます。
でもこの「世界レベルの高度専門職」という単語。ちょっと活用させていただきましょうか…
寺本名保美
(2014.05.28)
昨日の続き…
欧州議会選で、反EUや移民排斥を訴える党が議席を伸ばしたとのことです。
従来は、人件費の安い新興国で生産を行うことでコストを下げてきた企業が、EU統合によって、拠点を本国に残したまま「安い人件費だけを輸入する」ことができるようになったところに問題が発生しています。
欧州域内での旧東欧圏からくる移民労働者は、技術レベルやコミュニケーションにおいては、受入国側の労働者と遜色がなく、単純にコストが安いだけだとすると、結論は単価の高い国内労働者の市場が無くなるか、国内労働者単価が旧東欧並みになるかのいずれかとなります。
企業側からすれば、新興国での工場操業での各種リスクを考えた場合、移民労働者の活用は、多少コストが高くなったとしても目の届く国内操業を選択するためのインセンティブになるでしょう。
ここで欧州各国が移民を排除してしまえば、企業は生産拠点を再び新興国へ移すだけです。
まさに、これまでの日本のように、です。
自国国民の数だけでは、人口を維持できなくなっているのは、日本も欧州も同じです。
開けるかどうかを悩む日本。
閉めるかどうかを悩む欧州。
正解というものは、どこにもない、重い課題です。
寺本名保美
(2014.05.27)
英国で気になったこと
米国でも英国でも、今回の景気回復はインフレを伴わない回復だ、という話をする方が多いように思います。
1980年代以降、金融インフレを伴わない景気回復というステージが殆どなかった米国や、常にインフレを戦い続けてきた英国からすると、現状の回復パターンは極めて珍しい、と言われます。
もちろん、特に英国では、足元で不動産バブルの再燃を危惧する声があるのは確かですが、一方で労働コストや社会保障コストが低下している中において、生産コストについては安定して推移しているとされています。
生産コストの低下に最も寄与している労働コストの低下の背景には移民労働者の問題があり、英国国内の労働者との間には、中長期的には大きな潜在リスクがあると指摘する人もいます。
今回の景気回復によって、潤う部分と潤わない部分との二極化が、今以上にはっきりしてくるようであれば、国際情勢だけでなく、各国国内においてもやや小競り合いの多い時代になっていくのかもしれません。
寺本名保美
(2014.05.26)
EUと英国
ロンドンから戻りました。
街の人出の多さは相変わらずでしたが、半年前に比べてクレーンの数が増えています。
日本に居ると、英国は欧州経済との関連性が高いように思われますが、今の英国を理解するにはむしろ「欧州との相違」を理解すべきだと感じました。
好調な英国に対し、欧州経済については相変わらず否定的なコメントが少なくないのは、「EU」という統合経済圏の欠点や未熟さが、どうしても目についてしまうからなのかもしれません。
1990年代初頭、ソロス氏に力づくで阻止されなければ、自分達も一員となっていたかもしれない「EU」というシステムについて、英国の人々はとても冷やかで上から目線…
こういうスタンスが取れるのも、足元の自国経済が好調であることの裏返しかもしれません。
寺本名保美
(2014.05.23)
現場検証
今週、ITバブル以来の高値をひそかに?更新している英国株式。
いつの間にか絶好調の英国経済。
人間より羊の数の方が多いけど、世界経済の縮図と言われる英国で何が起きているのか?
日本に居てもさっぱり判らないので、とりあえず視てきます。
というわけで、来週の木曜日まで海外出張となります。
(思いつき)も次回は来週金曜日です。市場激変がない限り…
寺本名保美
(2014.05.16)
サービス業ですから。
最近よく思うのですが、サービス業というものは、顧客の役に立たなければ、何の存在意義もない業種で、顧客満足度の伴わないサービスなど世の中には存在しません。
それで、我々金融サービス業者は、文字通りサービス業であるわけです。
誤解してほしくないのは、だから顧客のいうままに迎合すればいいという意味ではなく、自分たちの行為が顧客の利益に繋がるということを顧客に納得させる、ということを含めてのお仕事であると思うのです。
サービスが顧客に評価されないのは、本質的なサービスの質に問題がある場合だけでなく、評価されようという意思の有無に問題がある場合があります。
正しい事を行っているのに世の中が評価してくれないのは、世の中の方が間違っている、みたいな青臭い言い訳は意味がありません。
最近どうも、仕事においてこの辺りの常識がずれているように感じることが多いのです。
自戒を込めて、お客様は大切にしないといけません。
寺本名保美
(2014.05.15)
株式市場離れの勧め
気の早い株式市場は、アベノミクスの賞味期限切れを心配していますが、実態経済ベースでの景気回復感はようやく始まったばかりです。
地方の社長様方とお話していても、悪くはない、という声が聞こえてきます。
今日泊まった大阪のホテルでは、ピカピカの新人さん達が、口角引き上げ、眼(まなこ)全開で、出迎えてくれました。
苦笑してしまうやり取りもありますが、リストラばかりが続いた10年では味わえなかった感覚に、新人さん達の失敗や失言にも、ちょっとほのぼのとしてしまします。
株式市場が経済を先取りしているとはいえ、それが全てではありません。
我々もマスコミも、少し金融市場から目を離して、経済全体を幅広く俯瞰してみた方がよい時期にきているようにも感じています。
寺本名保美
(2014.05.14)
ミスリード
一昨日、厚生労働大臣のいった、年金受給開始75歳選択制も…という話。
新聞のヘッドラインでの相変わらずのミスリードが気になります。
75歳を受給開始にする、と言っているのではなく、本人の選択で、75歳から毎年沢山もらうことができるようにすると、言っているのです。
既に受給されている人は、意味が判るかもしれませんが、年金制度を知らない若い人にとっては、あたかも支給開始がまた先伸ばしにされるかのように聞こえます。
判りにくい事だからこそ、正確に丁寧に伝える努力が必要なのは、制度も運用も同じです。
寺本名保美
(2014.05.13)
未知との遭遇!?
札幌日帰りの道中で、電車のお隣に偶然座られたのが、東京の某常務理事♪
事業者説明会で全国行脚中とのこと。
会話の内容はどうしても暗くなりがちですが…、それでもこういう想定外の遭遇はうれしいものです。
怒涛の四半期報告週間。楽しくスタートです!
(2014.05.12)
ロシアのお財布
あまり話題になりませんが、4月末にS&Pがロシアの格付けを引き下げました。
それまでの3か月間において、ロシアは予定されている国債の入札が7回に渡って停止されています。
入札が出来ないのは、ロシアの国の財務内容の問題ではなく、「金融制裁の強化」という言葉が将来の何を示唆するのかわからない現状において、ロシアの金融機関と関わりあいになることを他国の金融機関が嫌がっているからです。
そいう意味においては、単純な財政問題よりも、厄介です。
これが今後国債だけではなく、リファイナンスが予定されているロシアの事業法人にも波及することを懸念する声も出てきています。
軍事的衝突は時間を掛けて回避するにしても、資金フローの蛇口はそろそろ解放していかないと、取り返しがつかないことになります。
寺本名保美
(2014.05.09)
落ち着かない日々
4月は国内外とも、株式のアクティブ関連がかなり苦戦したようです。
大きな外部材料があった訳でもないなかでの負け幅としては、やや大きい気がします。
3月半ばのイエレン議長発言以降、何か深部に変化が起きているように思えます。
というよりも、次に起きる大きな変化に備えて、市場参加者全体が広く薄くリスクを落としにきたのかもしれません。
5月に入り、多少状況は改善しているとのことですが、原因が判らないので、どうもスッキリしません。
だからといって、株式市場全体の雰囲気が悪い訳でもないので、あまり心配はしていませんが、なにか見落としていることがないかと、落ち着かない気分が続いています。
寺本名保美
(2014.05.08)
どこかちぐはぐ
連休が明けましたが、連休中の海外市場の動きが、どうもチグハグで材料を追いかけてみてもすっきりしません。
事実としては、連休前の雇用統計が非常に強かったため、量的緩和の停止の先の利上げ議論が活発化したのですが、その後の市場の反応がバラバラです。
一方で中国の景気減速が、頭を重くしているのもまた事実。
綱紀粛正と景気対策が両立しにくい、という事情の複雑さに不安が高まります。
ウクライナ情勢は、どちらかというと後から付け足されたニュースに近く、市場に対し本質的なインパクトはまだありません。
結局、この先の市場をみるには、米国の利上げと中国景気がキーだということを確認しただけのゴールデンウィークだったのかもしれません。
寺本名保美
(2014.05.07)
戦略の分散
弊社でヘッジファンド戦略を選択する際、最も重視していることの一つに、戦略全体への資金集中度があります。
一般的に一つのファンドのキャパシティを管理することは、常識としてありますが、我々が気にするのは戦略全体に対するキャパシティです。
単純な話、株式の特定セクターへの集中投資について、先行するファンドが運用上限に達したからといって、後発の他社ファンドなら問題ない、という話にはならない、ということです。
2010年以降マネージドフューチャーズや新興国関連の戦略に警戒をしていたのは、市場固有のファンダメンタルズの問題というよりも、投資家の選好が極端に集中していたから、というのが主因です。
この1年で、資金は伝統的な株式系に循環を始めています。まだ一部のクレジット系戦略等には、偏在が進行している懸念もありますが、一時と比べれば投資家の戦略分散も効いてきたように思います。
潜在リスクのマグマが完全に消えたわけではありませんが、ヘッジファンド全体の投資環境としては悪くない循環が起こっているように感じています。
寺本名保美
(2014.05.02)
ドットコムの制度疲労
一昨日、何気なくニュースで流れた、「マイクロソフト社からのお知らせ」でパニックが起きているとの記事が、今日あたりから出始めました。
私は聞いた瞬間に耳を疑い、自分がパニックになる必要がなさそうだと思い、落ち着きました。
「リスクがありますので、インタネットエクスプローラーを使用しないでください」
「はっ?」
この1か月、ネットの決済システムに根本的な脆弱性が見つかって、ショッピングサイトがパニックになったり、CMでは某メガ銀行の注意喚起が繰り返し流されていたりと、ネット全体のリスクが強調されるケースが続いています。
ドットコムビジネスが始まって15年。
そろそろ制度疲労が出始める時期なのでしょうか。
怖いことです。
寺本名保美
(2014.05.01)