コスト控除後の効率性
「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」
相変わらずネーミングセンスが悪いですが、要するにGPIFの運用方針を見直す会議が、7月1日から始まるそうです。
見直し議論はよいのですが、どうしてこれが「成長戦略の一環と位置付けられる」のかが、謎です。
基本的には、現在の国内債券60%・リスク資産35%・現金5% という配分において国内債券比率が高すぎることは、日本の成長を阻害している、と言いたいのでしょう。
言い換えるなら、年金資金で国にファイナンスを付けて国がそれを有効に利用する、というパイプラインではなく、国を通さずに民間や事業体に年金資金が直接ファイナンスを付けにいく、というパイプラインを通したい、ということのようです。
一つ明確なことは、年金資金が直接ファイナンスを付けにいく仕組みは、国が国債を発行してファイナンスを取る仕組みに比べ、圧倒的にコストが高い、ということです。
金利面だけでみれば、下手すれば5倍も10倍も高くなるファイナンスコストに見合うだけの、運用の効率性がなければ、この仕組みは一部の金融業者を潤わすだけの行為になります。
有識者会議には、政治の意向に引っ張られすぎない、冷静な議論を求めます。
寺本名保美
(2013.06.28)
カタカナという曖昧さ
NHKが外来語を使いすぎると訴えられた、という話題があります。
例示された外国語は
「リスク・システム・ケア・トラブル・ディープ・コンプライアンス ・他」
ということで、我々業界においてもかなり身近な言葉が並んでいます。
カタカナを使う時の理由の一つに、概念が統一されていない事象を幅広に解釈して欲しい、ということがあります。
例えば、リスクという言葉を使わずに「標準偏差」や「損失」という日本語で表現した方が定義が明確になるのと同じように、カタカナを使わないほうが、意味が限定され言葉使いが難しくなることが多いのです。
どうしても、カタカナ言葉でしか表現できないものもないわけではないのですが、ともすれば曖昧さを誤魔化す使い方に陥りがちであることは、反省しなければいけません。
寺本名保美
(2013.06.27)
正攻法
運用機関やお客様と話していて、リーマンショック後のこの数年で、運用というものをどこか複雑に考え過ぎる癖がついてしまっていると思うことが、度々あります。
例えば、ものすごく単純な例を挙げるなら、
(問)金利上昇懸念がある中、債券戦略はどうしたらよいでしょう?
(答)配分を減らせばよいのではないですか?
(問)市場のボラティリティが高いので心配です
(答)ポートフォリオ全体のリスクを下げればいいでしょう
みたいな、会話をよくします。
「オールマイティ」な解などどこにもありません。
自分の取りたいリスクと取りたくないリスクとをまず区別して、「取りたいリスク」をとるために「取りたくないリスク」を極力排除する。という単純な作業を、資産配分でも個別資産内でも丁寧に繰り返すしかないのです。
戦略や仕組みを複雑にして、全方位な結果を追い求めることは、足元のリスクを隠すことにつながります。
大きな環境変化に対応するには、正攻法が一番であるということを、もう一度認識する時期にきていると思っています。
寺本名保美
(2013.06.26)
日本は場外?
昨晩、米国の長期金利が一時2.6%を超える水準まで上昇をしたのを見て、ピッチの速さに少しヒヤリとしました。
4月末が1.6%台だった10年金利が、年内に3%近くまで上昇する可能性は十分にあると思って対応していますが、想定よりもタイミングが前倒しになっています。
米国の金利上昇とは直接リンクはしないとは思われますが、中国国内の金融資産に回っていた資金量が落ちてきているようです。
それが、国内での資金調達に関わることが原因なのか、海外投資家の資金回収なのか定かではありませんが、金などといった中国マネーのレバレッジが効いていた資産クラス程下落幅が大きいことに注意が必要です。
一方で6月半ばまで、人一倍の乱高下を繰り返していた、日本市場ですが、市場の注目が米国や中国に移った途端に、反応がなくなりました。逆にいうなら、日本の株式市場は米国や中国のレバレッジの恩恵をほとんど受けてこなかった市場、ということなのかもしれません。
よく言えば独立独歩の日本市場。しばらくは場外でリハビリに励みたいと思います。
寺本名保美
(2013.06.25)
全員当選 だけど
東京都議選。
自民と公明の擁立候補全員当選。
第三党は共産党。
たかが都議選。されど都議選。
これでいいのか、全野党?
都民の選択は、極めて明快。
経済票は自民。
福祉票は公明。
但し改憲論は一筋縄ではいきません票が共産。
この結果を、自民党が国民からの全権委譲の第一歩とみるか、共産党の躍進から何かを感じるか。
何かを感じるぐらいの冷静さを持った政権であってほしいと、心から期待しています。
寺本名保美
(2013.06.24)
成長戦略が必要です
昨日から今日にかけてのグローバルな株式市場の下落の理由の半分は、米国ではなく中国にありそうです。
昨年の夏場以降戻り始めていた、中国の景気指数が足元で再び下降トレンドに逆戻りしてしまったことで、中国景気に連動する市場全体が下落しています。
エマージングの債券や株式への投資で損失が発生しているファンドの噂も、そろそろ聞こえてきました。
米国の量的緩和の影響が具体的に出る前に、それを先取りして材料にした仕掛け売りだけでも、市場は大きく振れそうです。
なによりも、今の新興国市場には、「資源と人口」以外のアピールポイントが不足しています。過剰流動性が市場を底支えしている内に、独自の成長戦略を築けない国の将来はありません。
欧州ショックからようやく抜け出しつつある世界経済。次のショックの芽にならなければよいのですが。
寺本名保美
(2013.06.21)
大きな変化の始まり
注目されていた米国のFOMCが終わりました。
量的緩和の縮小について時期を明言したことに、市場はやや反応していますが、想像していたよりは穏やかな展開となっています。
少なくても今年の1-3月において、年内の量的緩和中止を言う市場参加者がほとんどいなかったことを考えると、この2か月間でのバーナンキ議長による「市場との対話」はかなり上手くいっている、ということでしょう。
豪ドルが3年以上ぶりの安値となるなど、資源国や新興国にとってはやや不安定な展開が続きそうですし、債券系ファンドからの資金流出も続いているようです。
過去5年続いていた大規模緩和が終わろうとしているわけですから、何事もない、というわけにはいきません。
緩やかにではありますが、確実に何かは変わります。
市場も戦略も運用能力も、過去3年や5年に残せた実績のどれだけがこれからの数年で有効だといえるのか。
過去に引きずられず、変化に対応できる、柔軟なポートフォリオ戦略が求められています。
寺本名保美
(2013.06.20)
褒められてうれしい?
G8後の総理や閣僚のコメントで、各国首脳から称賛された、とか、お褒めの言葉をいただいた、とかがあまりに多くて、どこか子供じみた感じがしてしまいます。
普段国内ではあまり褒められることが少ない職業なので、よほどうれしかったのでしょうか。
ここからの懸念は、褒められて調子に乗って、口が災ってしまう閣僚が出てきてしまうことでしょう。
「市場に媚を売るために政策を打っているわけではない」というような表現をした政府首脳もでてきています。同じことをいうにしても、もう少し言いようがあるでしょう。
口先一つでここまで勝ち取ってきた市場の信頼。口先一つで失うことも簡単です。
弊社の社長の口癖を借りるなら、「おだてられて仕事をするような齢でもあるまい」ということで、くれぐれも慎重にお願いします。
寺本名保美
(2013.06.19)
HPをリニューアルしました
ドックに入ったのは、私だけではなく、実はこのホームページもこの1カ月ドックに入っていました。
ようやく、整備が完了し今日からリニューアルです。
まだ完全ではありませんが、皆様からのご要望の強かった(笑)社長の顔写真もアップされるなど、色々改定されています。
お時間のある時に、どこが変わったか、探索してみてください。
今後とも、弊社同様、このHPもご愛顧くださいますよう、お願い申し上げます。
寺本名保美
(2013.06.18)
お休みです
筆者、人間ドックのため、思いつきはお休みです。
最近頭の調子も悪いので、スカスカになっていないか、調べてきます…
(2013.06.17)
新興国リスク
世界銀行が、先進国の量的緩和の停止が新興国経済に与える影響について懸念を表面しています。
1997年のアジア危機のきっかけは、1990年代半はの米国住宅金融公社の大量破たんの際行われた大規模な米国の金融緩和で世界中にあふれたドルを、米国が回収し始めたことがきっかけです。
この数年、新興国への株式や債券投資を進めてきた、ファンドマネージャーの多くは、現在の新興国経済が当時ほどドルでの借り入れに依存していないことを理由に、現在の新興国経済の安定性を強調します。
一方で、間接金融ベースでのドル借入という点から見れば減少していいるものの、こうしたグローバルな投資家資金が株式や債券という直接金融経由でファンディングしているという点についてのリスクは、あまり考慮されていないようにも思えます。
新興国への投資家が自縄自縛になっていなけれよいのですが。
寺本名保美
(2013.06.14)
単に気分の問題ではありますが
ひどい値幅です。
とはいっても、株式市場も為替市場もまだ3月末水準を切っていないので、水準感からすればどうということでもないのですが、気分が悪いことこの上なし、という感じです。
この水準感と変化幅との乖離が実は問題で、基本的に変化幅でモノを考えやすい市場参加者と、基本的に水準でモノを考える政府日銀との間でのミスコミュニケーションは、時として大きな禍の種を残します。
もちろん最終的には水準論に落ち着く話ではありますが、その過程における混乱は、市場参加者のいわゆる「センチメント」を悪化させ、投資意欲を減退させ、投資家層の幅を狭めます。
いわゆる市場の「チャート(罫線)」とは、こうした投資家センチメントを「画」にして表したものです。
いったんチャートが壊れてしまうと、水準論の議論が遠のいてしまいます。
政府日銀もそろそろ市場心理の鎮静化を意識した言動が必要になってきているように思います。
寺本名保美
(2013.06.13)
火種
まだ、金融市場での中心話題ではありませんが、やはりトルコは気になります。
エマージング市場は為替も株式も5月に入って以来軟調な展開が継続しています。
エマージング市場の中では相対的に経済基盤もよく、ムーディーズが投資適格級であるBaa3に格上げしたばかりであるだけに、この国でのつまづきが、エマージング市場全体からの資金逃避に拍車をかける可能性も否定できません。
9月のオリンピック招致前の混乱でもあり、ほぼイスタンブールに決まりかという思惑にも水を差す結果となっています。
混乱が長引くことを嫌がってきたトルコ政府側にやや強行な言動が見られるようになっているようです。
日銀やFRBだけを見ていれば済む、という状況に少し変化が出てきているかもしれません。
寺本名保美
(2013.06.12)
債券戦略の終わりの始まり
最近、とにかく多い、債券系絶対収益運用のプレゼンテーション。
理由は2つ。
①過去3~5年をみると、債券系戦略のパフォーマンスが非常に好調であったことをみて、債券戦略への投資家ニーズが高まったこと。
②足元で金利の動きが不安定になり、デュレーションリスクを排除した債券運用への投資家ニーズが高まったこと。
さて、①と②のニーズが生まれている市場背景は根本的に矛盾しています。
リーマンショックと欧州危機との大金融緩和局面において、グローバルな資金が株式から債券へと大量シフトしたこの数年、基本的に債券価格は上昇し、市場の流動性は増し、割安なモノの価格修正が進む、という債券戦略にとっては、類い稀な好環境が続いてきました。
だからこそ、①のような現象が起きたのです。
一方で、歴史的な水準にまで低下したグローバルな金利が、株式市場の反転や、米国のQE停止観測を受け反転を兆しをみせ始めています。
だからこそ、②のような現象が起きています。
つまり、②のニーズを満たすために、①の幻想を追うことは、実はとても危険な行為であるかもしれないのです。
①と②が共存できる期間が全くないとは言いません。但しそれはおそらく長続きはしません。
株式であろうが債券であろうが、絶対収益を獲得するには、原資産である市場環境が良いに越したことはないのです。少なくても健全な価格形成が担保される程度の流動性は確保されなければなりません。
②の投資家が持つ懸念が本当に現実化していく局面において、①の期間が持つ実績が本当に役に立つのでしょうか。
次々と提案される債券戦略の中身が、どこも非常に近似していることもとても気になります。
このところの債券戦略ラッシュが、この戦略の終わりの始まりに思えてならないのは、単なる老婆心でしょうか。
寺本名保美
(2013.06.11)
勤労の美風と資産運用
議論が活発化しているカジノ推進の話で、しばしば引用される下記の文章。
「勤労その他正当な原因に因るのでなく、単なる偶然の事情に因り財物の獲得を僥倖せんと相争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風を害する」
昭和25年に賭博が何故犯罪なのか、ということについて示された最高裁判例の一部だそうです。
この文章を読んだとき、数日前に書いた、我が国において資産運用が邪道である、とみなされる「法的根拠???」が、ここに書かれているのかと思って、ドキッをしました。
もちろん、資産運用は「偶然の事情に因り財物の獲得を僥倖せんと」するものではなく健全で必要不可欠な経済活動であるのですが、「この勤労の美風」という言葉のあまりの強さには少々抗しきれない部分があります…
資産運用業界に身を置く者として、「健康で文化的な社会の基礎を成す」ことに金融活動というものが十分に貢献しているということへの理解とその重要さを、どうしたら日本社会全体に浸透させることができるのか。
資産運用という行為が決して「勤労の美風」に反するものではないということを、どうしたら判ってもらえるのか。
以前から感じてはいたものの、改めてこの言葉を前にしてみると、壁の厚さに茫然としてしまいます。
寺本名保美
(2013.06.10)
オーバーナイトポジションと日中取引
水準というよりも、ボラティリティの大きさに、少しイライラしてきました。
サブプライムショック前のように、レバレッジを掛けて何か特定のポジションを大量に保有する、というファンド行動も金融市場を歪ませてはいましたが、歪みの所在が分かりやすかった分だけでも、今よりはまともだったように思えます。
実際、今の金融市場の超回転売買が、誰によってどの程度の規模で行われているのか、実態を掴めている当局があるのかどうかも疑問です。
日本だけでなく米国市場でも、取引終了間際の1時間で、指数が1%以上動く日が続いています。
日を超えてポジションをとることをオーバーナイトポジションといいます。金融機関等に対してもファンドに対してもオーバーナイトポジションに対する規制や情報公開は非常に厳しくなっていますが、日中取引については野放しな状態です。
どこかで大きな被害が出ないうち、そろそろこのあたりの規制を考えた方がよいのではないかとも感じています。
寺本名保美
(2013.06.07)
資産運用は経済の裏と表です
企業の方々や、大学の先生など、経済には強いが金融市場とは直接関わりのない分野の方々と話すと、資産運用というものは経済の中において今でも異質で邪道なものであると捉えられているのだということを痛感します。
資産運用という分野がなければ、彼らの言う「実業」における「資金調達」が出来ないだけでなく、「資本主義」の根幹である「資本」という概念すら成り立たなくなってしまいます。
資産運用に嫌悪感を持つ一方で、企業経営者は自社の株価の動きには敏感です。
経済学者は日本の経営者が株式市場重視の経営への切り替えが遅いことが、日本経済の低迷の一因だと分析します。
一時期と比べれば、ROEや配当に対する経営の意識は変わりつつあるのも事実です。
それでも資産運用は邪道だという意識には変化は見られません。
ひどく根本的な矛盾を感じます。
投資教育という言葉が一人歩きしていますが、本当に投資教育が必要だと思っている人は政財界に実際どれほどいるのでしょう?
寺本名保美
(2013.06.06)
シルクロード工事中…
中東北アフリカ地域と、アジア地域の間に位置するトルコで続いている民衆デモの行方が、気になります。
デモの起き方は、アラブの春を彷彿させます。
但し、独裁政権を相手にしたものでも、軍事政権を相手にしたものでもなく、ターゲットか定まっていないように見えるところが、却って厄介に思えます。
こうした民衆の怒りの伝播は、国境を足で歩いて越えるように、隣国へと広がっていくことは、中東北アフリカで経験ずみです。
昨年来経済の低迷が続いているアジア各国の抵抗力は明らかに落ちて
ます。
夢への扉に繋がっていたシルクロード…
今回ばかりは、暫し通行止め、ということにしてもらえませんでしょうか…
寺本名保美
(2013.06.05)
値幅ほど材料はないです
まさかとは思いますが、このところの国内株式の変な売り物は、日本の「厚生年金基金のほとんどが解散に追い込まれる」ことで「数兆円単位での債券買と株式売が出る」とかいう、観測記事の影響、ではないですよね?
で、本日の株式の買戻しや円売りは、GPIFが株式や外貨等のリスク資産を積み増すことを検討、とかいう観測記事の影響、ですか?
真偽のほどは別として、いずれにしても実際に需給に影響が出てくるのは、再来年以降のことになるでしょう。
米国で今問題になっているQEの出口の話にしても、とりあえず購入を停止する議論が始まったばかりで、引き締めに転じる話をしているわけでもありません。
いずれの材料も、特に足元で具体的な変化をもたらすようなものではないにも関わらず、単に値動きが大きくなっている今の展開は、値幅をとって収益を獲得するようなマクロ系のヘッジファンドなどへ、よい収益機会を与えてしまっているようにも思います。
最終投資家の皆さんが右往左往することは、かえってこうしたファンド勢の利益を増やすだけかもしれません。
冷静にいきましょう。
寺本名保美
(2013.06.04)
とうとう10年が経ちました
2003年6月に弊社のホームページと共にスタートした、この「本日の思いつき」も、とうとう10年が経過しました。
「本日の愚痴」とか言われているのは不徳の致すところではありますが(苦笑)、愚痴らず前向きな発信をすべく、精進していく所存です。
10年を迎えるにあたって、というわけではないのですが、過去の自分の行動や考え方を検証する意味も含め、過去の思いつきをパラパラと読み返してみています。
我々の判断や行動は、お客様の資産に直接影響を与えるものである以上、過去の判断の甘さを確認する作業は、ただひたすら反省することでしかなく、そこから何を学べるものではありません。
10年後に再び読み返す時には、もう二度と読み返したくないと思うほどのチクチクとした痛みの頻度が、もう少し減少していることを自らに期待するしかありません。
年金の資産運用環境における過去10年はまさに激動でした。
これから10年もおそらく心静かな10年には程遠い年月となるでしょう。
忙しさに流されることなく、日々の事象と感覚に対し敏感であり続けるために、この思いつきをこれからも書き続けたいと思います。
皆様気長にお付き合いくださいませ。
寺本名保美
(2013.06.03)