2011年11月の思いつき


復旧復興と長期金利

東北地方のお客様に市場環境のお話をしていて、「復興需要」と言ったら叱られました。「復興」じゃない「復旧」だと。

お金がつけばどうにか進める復旧に対し、復興にはプランが必要になります。

プランが全く見えない現状において復興など、まだ先の先の話。

なので、国内需要は世のエコノミストが言うような、来年度のV字回復は期待できない代わりに、想定外に長期に渡る緩やかな増加傾向が十年単位で続く、というのが、東北から見える景色のようです。

一方で長期の設備投資には長期の資金調達が必要となります。安定した資金調達には安定した低金利環境が不可欠です。
日本がイタリアになってしまっては復旧復興のための資金調達もままならなくなります。そうならないための手立てを早めに打つことは、被災地復興のためにも、絶対に必要なことでもあるのです。
寺本名保美

(2011.11.30)



暗中模索

外国株式のアクティブ運用者のポートフォリオが、最近どこも似通ってきたことが気になっています。

スタイル問わず、地域問わず、出てくる言葉が、皆一緒です。

新興国の内需
スマートフォン
SNS

これに、エネルギー関連が加わるか、医薬品が加わるか、の違いでβ特性が若干変わる程度、というのが今の株式運用の鳥瞰図です。

日々の市場の値動きだけでなく、個別の企業テーマも含めて、行き詰っていると実感します。

一方で、市場全体の視点が狭くなりすぎているのではないか、何か見過ごしているものかあるのではないか、という感触もなくはありません。

しばらくは、企業も、市場も、投資家も、文字通り「暗中模索」の日々が続きそうです。
寺本名保美

(2011.11.29)



選挙結果に少し驚いたので。

私にとって、大阪はいつまでたっても「不思議のくに」です。

よく言えばワンダーランド。
悪く言えば理解不能。

「大阪から日本を変える」

確かに、日本をもし変えられるとしたら、大阪からなんだろうと、思います。

大阪が変えた日本が私にとって心地よいかどうかは別として…
寺本名保美

(2011.11.28)



ここは冷静に

昨日も書きましたが、ドイツの国債入札の不調に関し、「欧州債務危機がついにドイツまで及んできたが…」というような枕詞を置くのはミスリードだと思います。

どういうわけか、日本の新聞だけでなく、ロイターやBloombergのような海外メディアもこうした表現をしてしまっているのは困ったものです。

ここまで、欧州危機に関する報道は、格付け機関や政治家などの動きが早すぎて、マスコミは後追いでの報道に終始していました。これは、マスコミが市場の恐怖心を悪戯に扇動しない、という意味では良い傾向だったといえます。

しかしながら、問題が煮詰まり、状況が混沌としてきたこの1か月程、そろそろマスコミ先導型の値動きが、市場に垣間見られるようになってきています。

欧州共同債という言葉が、ドイツや欧州首脳から頻繁に出始めてきたということは、ようやく着地点に向かっての的が絞られ始めたということでもあります。まだ先行きが楽観できる状況ではありませんが、何も手がかりがないよりは良い傾向です。

いまさらパニックになっても始まりません。マスコミ投資家もここは冷静にいきたいものです。
寺本名保美

(2011.11.25)



ドイツ国債の札割れと、欧州共同債券

昨晩、ドイツ国債の入札が発行予定金額の7割にも達しなかったことに衝撃が走りました。

ただこれが「大惨事」だとか、「危機がドイツに伝播か」と言われると、少し首を傾げるところもあります。

折しも、ユーロ共同債券の話が復活しつつあることからも判るように、ユーロという体制を維持するためには、何らかの方法でドイツがユーロ圏の債務全体の信用補完を約束するしかないというのが、市場参加者のコンセンサスになりつつあります。
であれば、ドイツ国債の金利は自ずと、周辺国金利に引き寄せられることになり、少なくとも今のフランス並み程度の金利水準を市場が要求しても不思議はありません。

ドイツ国債に信用リスクがあるから買いたくないのではなく、1%台の水準はいらない、と言っているだけです。

札割れはドイツへの信認が低下した結果ではなく、逆にドイツへの期待への高まりを示した結果と言えるのかもしれません。
いずれにせよ、ドイツ国民にとっては迷惑なことではありますが…
寺本名保美

(2011.11.24)



SNSバブル?

最近Googleが始めた新サービス。機能はFacebookそのままです。

昨年のおせち料理騒ぎで有名になったGrouponに近似した、~ponというクーポンビジネスも、大手ネット系が始めています。

こういうネット上でのビジネスモデルに、知的所有権や特許のようなものが全く適用されないことに、いまさらながら驚いています。

先行企業が開発したモデルに、後発が付加価値を乗っけて追随する形での競合は、結局消耗戦になり、最悪日本のゲームサイトのように司法を巻き込んだバトルになるのは自明のことのように思えます。

国内外ともに株式のアクティブファンドの主要銘柄が、こうした会社で占められているのを見るにつけ「SNSバブル」という言葉がふと頭をよぎる昨今です。
寺本名保美

(2011.11.22)



鎖国しちゃえば?!

TPPが、国を開くか閉じるかの議論ではなく、米国を取るか中国を取るか、という議論になってきているのが、ひどく鬱陶しく感じます。

一方で、世の中で最も外国と接してきている金融仲間で話していると、意外に「鎖国しちゃえば?!」みたいな話が出てくるようになっています。

欧州の混乱で、ひどい目にあっている金融市場からしてみると、「主権国家間による自由貿易圏構想」という概念そのものに対する信頼性に疑義をはさみたくなるわけです。

国家主権と自由貿易。欧州で50年間議論されてようやく実現したシステムが今崩壊の瀬戸際にいるのを目の当たりにしている金融市場からすれば、何ともタイミングの悪いTPP議論に見えるのです。
寺本名保美

(2011.11.21)



個人投資家という不安定分子

京都に向かっています。
せっかくの紅葉シーズンなのですが、薄曇りのため山並みが霞んでしまっています。

少し前の話しになりますが、この8月のハイイールド債券の急落は米国の個人による投信売りが、きっかけと言われています。

翻って、今のエマージング債券ファンドの主要投資家は、日本の個人です。

日本の個人は価格変動より分配金重視なので、下落局面での集団脱走にはなりにくいとはみられていますが、エマージング債券や通貨市場にとっての不安定分子てあることは間違いありません。

どこもかしこも視界不良です。
寺本名保美

(2011.11.18)



非国会議員内閣

イタリアの新内閣が全員、非国会議員から選出されたそうです。

国民の反応の、「賢そうな人達の集まりになったので、上手くいきそうな気がする…」というのが、結構面白いです。

実は、日本の内閣も、一度非国会議員中心にしてみればよいのにと、かねてから思っています。
日本の場合は憲法で、閣僚の過半数は国会議員から選出することが決められているので、イタリアのようにはいきませんが、専門性の強い分野については、その道のプロを任命して、それこそ官僚と真剣勝負をしてもらう、というのも悪くはないように思うのです。

今のような国家的大問題を抱えている時期であるからこそ、初めから「超党派」の非議員の方が、議論の方向性を示しやすいのではないかとも感じます。

もちろん、賢いだけで、実務能力がない学者さん達内閣になっては、どうしようもありませんが。
寺本名保美

(2011.11.17)



空は晴天、市場は曇天

欧州市場が暗くて、米国は明るく、東京で気迷い、再び暗い欧州へ…
という展開がグルグルと続いています。

ここで、東京が米国の地合いを引き継いで、もう一息がんばれれば、グローバルなセンチメントが多少変われるのではないかと思うのですが、どうも今の東京市場は役不足、というより参加者不足です。

今日の東京は急に寒くなったものの、空は抜けるような青空です。
この晴天、株式市場に少しおすそ分けできないものでしょうか。
寺本名保美、

(2011.11.16)



株価があてにならない…

このところ、市場環境が読みにくくなっていることの一因に、株式市場の機能不全があります。

日々の株式市場の動向が、その背景にある事象を反映しないことが多くなってきています。

個別の材料より、短中期のトレンドを追う傾向が強く、かつ投資行動が単一化しているため、株価が反応するタイミングが材料が出た時点ではなく、トレンドが出た時点に後ずれしているような感触です。

通常、株式市場が急落すれば、何か隠れた材料があるのではないかと思い、反発すれば目には見えない投資家心理が好転したシグナルと好感することもできたのですが、今の株式市場はどうちらかというと遅行指標になっています。

このところ、株価動向は比較的安定しています。一方で金融市場全体の雰囲気は急速に悪化しています。
くれぐれも足元の株価に惑わされないように注意して過ごすしかありません。
寺本名保美

(2011.11.15)



首相の首で何か変わる?

ギリシャ、イタリア共に、新首相は経済学者で、EUやEU中銀の理事経験者となりました。

国内世論というよりは、債権者たる外国に対してのアピール力のある、財政再建担当首相、という色彩です。

これまでのチャラけた印象の各首相とは、正反対の布陣としたことで、少なくても「借金を返す気はある」ということを、対外的に示す効果はあったようです。

もちろん、「返す気がある」というのと、「返せる」というのは、またく異なる次元の問題であり、首相が返したい、と思っているからといって、国民世論が返したい、と思っているとは限らない、という問題はそのまま残ります。

市場は一旦、「返す気のある首相」の登場を評価しているものの、首相の首を幾ら挿げ替えても何も変わらない、と思ってしまうのは、過去に何十回も挿げ替えてきた日本にいるからでしょうか。
寺本名保美

(2011.11.14)



予行演習

S&Pが、昨晩フランスの格下げを示唆する記事を配信し、二時間後に誤配信だと取消す、という珍事が起きました。

このタイミングてその間違い。そんな馬鹿な…

テレビ局が、入院中の有名人に関し事前に用意しておいたテロップを、ボタンの押し間違いで流してしまいました、みたいな感じ!?

テレビの場合、テロップを事前準備していたように、S&Pも原稿を用意していたということ?と、取られても仕方のない事故です。

まぁ市場にとっては予行演習ということですか…

(2011.11.11)



総合証券の格付けとビジネスモデル

Moody's社が大和証券Gの格付けをBBB3に格下げし、野村ホールディングスをBBB2から格下げの方向で見直すと発表しました。

リーマン危機を契機に、米国の法人証券業務が銀行業の一部に取り込まれてしまったので、証券会社単体の信用力でグローバル展開をしている証券会社が、日本以外には存在していません。

米国の大手証券は、銀行免許を取得しているか、大手銀行グループの傘下にありますし、欧州はユニバーサルバンキング方式ですので、銀行と証券に垣根はありません。

証券会社単独で資本調達を行う仕組みが、金融システムリスクの元凶であるという認識のもと、欧米の金融市場は今のような体制に移行してきたという経緯があります。2008年の金融危機において日本の金融システムに大きな問題が発生しなかったため、ある意味日本だけが証券業界の構造変化をすることなく、いわば恐竜のように生きながらえてきてしまっています。

投資不適格寸前にまで引下げられた大手証券の格付けは、野村や大和の単なる営業利益の問題ではなく、業界としてのビジネスモデルそのものへの警告なのではないかとも感じています。

(2011.11.10)



パンドラの箱?

オリンパスショック、嫌な事件です。日本の資本市場にとっては、戦時中の不発弾が掘り返された、といったところでしょうか…

80年代から90年代にかけての日本企業の財テクバブルとその後始末。

今思えば何でもありの時代です。

証券取引におけるグレーとアウトの線引きは、多分に時代の空気に左右されるもの。

今から、当時の空気を裁こうとすれば、グレーはほとんどアウトになるでしょう。

この事件、オリンパスだけで収まるのか。

政治家とマスコミが、妙な正義感に走らなければよいのですが…。
寺本名保美

(2011.11.09)



卵が先か鶏が先か…

信用危機になると脚光を浴びる、CDSという商品。
信用リスクが高いほど数値が高く、信用力があるほど数値が低い、というものです。

本来は保険商品であるので、何か信用力に不安が生じるような事象が発生すると、保険を掛けたい人が増えるので、CDSの価格は上昇し、信用懸念が緩めば元に戻るという仕組みなのですが、最近は保険商品としての機能ではなく、信用力の方向性を取引する手段として、CDSが暴走するケースが多くみられるようになりました。

CDSが方向性だけで動くようになった結果、そのCDSの水準が本来の融資や債券投資の投資家の不安心理を悪戯に煽り、本当の信用不安に繋がり、それがさらにCDS価格を押し上げる、という悪循環が、このところの欧州市場で拡大しています。

今の市場は短期的なトレンドへの感応度がとても高くなっています。しばらくは、CDSと債券金利との負の連鎖に十分注意が必要な状況といえるでしょう。

(2011.11.08)



元気な元気な90歳

週末、91歳のおばあちゃまが、我が家に遊びに来られました。

「最近、手にしわができて、嫌なのよ」
「最近、顔にしみができて、困ったわ」

60歳の娘さんに、
「貴女の肌は、張りがあっていいわねぇ」

と、ご本人は大変大真面目におっしゃり、周りはタジタジです。

人生100年、どころか、そのうち120年になっていそうな、生命力を感じます。

年金支給開始年齢と労働年齢の引き上げを、ホント真面目に考えた方がよいと実感した週末でした(笑)
寺本名保美

(2011.11.07)



ルールが成り立たない

グローバルな金融市場に携わる人々が今直面している恐怖は、市場価格の下落や、収益の減少、それに伴う大規模なリストラクチャリング、という金銭的なものだけではありません。

金融取引の根幹となる「ルールの不確実性」が増していることへの恐怖が、確実に市場心理を侵食しています。

金融取引というものは、信用によって成り立っているものです。
信用とは、お互いが共通のルールを共有することによって成立します。

長期の信用とは、このルールが長期にわたって変更されることのない、ある種の普遍性を持っている場合において、発生されるものです。

リーマン危機以降、この前提が「危機的対応」という大義名分の前になし崩し的な様相を呈しています。さらにイスラムや中国やロシアといった、これまでとは異なるルールを持ったプレイヤーの影響力が確実に増大しています。

漠とした不安が、金融市場全体を覆っています。
寺本名保美

(2011.11.04)



全ては金融システムのために

ギリシャ国民にとって、「借金棒引き」と「通貨の切り下げ」をもたらす「EU離脱」という選択肢は、とても魅力的に見える、かもしれません。

客観的にそう思えるからこそ、フランスやドイツをはじめとする「貸し手」は、国民投票という荒業に、慌てふためいているわけです。

ドイツ国民が、何故ギリシャの為に自分たちの税金が使われるのか?と思うのと同じぐらい、何故「通貨ユーロ」という体制維持のために自分たちの職が奪われるのか?とギリシャ国民が思ってもおかしくはありません。

結局、今世界中が必死で守ろうとしているのは、どこかの人々の暮らしやどこかの国の経済そのものではなく、「金融システム」という一般的には目に見ることのできない仮想空間です。

仮想空間ではあるものの、人々の暮らしや国の経済は、全てこの仮想空間の上に構築されており、この仮想空間が崩れれば暮らしも経済も崩壊します。仮想空間と経済が崩壊する前の段階で、人々に金融システム維持の重要性を理解してもらうのは、至難の業です。

近代文明発祥の地である、偉大なギリシャの国民であるなら、この難問を理解することができる、のだとよいのですが。
寺本名保美

(2011.11.02)



MFグローバルと情報収集力

MFグローバルの破たん懸念が高まった先週末、ヘッジファンド商品を提供している運用会社各社に、MFグローバルが破たんした場合の影響について、問い合わせをしました。

MFグローバルという会社は、先物やデリバティブ取引のクリアリングハウス(決済清算機関)としては有数の会社であり、特に商品先物市場でのマーケットシェアは高い会社だという認識があったので、万が一リーマンのように突然死をした場合の市場全体に対する影響度合いについて、実際のヘッジファンドやCTAがどのように判断し、対処しているのか、という点を確認したかったからです。

結論として、2007年以前にあったような、クリアリングハウスに証拠金の現金を保管するというCTAの風習もほとんどなくなり、証拠金は取引所に保全されているケースが多いこと。MFグローバルの信用不安は過去数か月に渡り噂されていたため、主要なファンドの多くが取引を控えていたこと。クリアリング部門には収益性があるため破たん前に買い手が見つかるだろうということ(これは外れてしまいましたが…)。などなどということを、極々限られた運用機関の方が教えてくださいました。

ヘッジファンドへの年金の取り組みが始まって早10年。情報収集能力のある人材が思ったほど増えていないことを実感した三日間です。
寺本名保美

(2011.11.01)


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