ギリギリのタイミング
内閣府から「消費税10%と基礎年金の所得制限」という国民受けはしないが、国際社会からみれば極常識的な報告書が出た日に、格付け機関が日本国債をネガティブウォッチとしました。
絶妙というかギリギリのタイミングでの政策方針案ですが、この方針が正式発表より前に、内閣不信任案が通ってしまえば、間違いなく日本は格下げです。
午前中の株式市場はとても素直に、この社会保障と消費税改革の方向性を好感したように見えます。
タイミングの議論は後から、という日本特有の逃げ道を残しながらではありますが、少なくても道筋だけでも残せれば、グローバルな金融市場での評価はかなり好転するでしょう。
ここで白紙撤回となるような局面だけは、避けて欲しいと、心から願います。
寺本名保美
(2011.05.31)
一番じゃなきゃ
既に過去のフレーズとなりましたが、事業仕分けの「一番じゃなければダメなんですか?」という言葉を運用機関と話していて思い出しました。
運用機関たるもの、一番であり続けることは難しいですが、一番を目指し続けることは重要であると思うのです。
組織も人もそこそこしっかりしているにもかかわらず、結果が鳴かず飛ばずの大手運用機関に共通していることは、経営や母体から「TOPティアでなくていいから真ん中より上に居てくれ」という類の要請を受けていることです。
結果はともあれ、常に勝つことを意識した運用と、他社対比で負けなければよいという運用とでは、運用組織のありようそのものが変わってきます。
一番を目指す組織じゃなきゃ、ダメなんです。
寺本名保美
(2011.05.30)
自然とはケンカしない
西側は昨日、関東甲信越も今日梅雨入りをしました。
梅雨入りと同時に巨大台風も近づいています。
この時期の梅雨入りはほぼ半世紀ぶりの早さです。
米国の竜巻の被害も百年単位の大きさとか。
今年は天災が多そうだとは思っていても、金融市場でできることはほとんどなく、唯一できるのは、自然に逆らうリスクをわざわざ取りにいくような商品に投資するのを止めるぐらいでしょう。
金融市場のボラティリティさえもて余している昨今。よけいなリスクは取らない方が懸命です。
寺本名保美
(2011.05.27)
それぞれの心理
ギリシャの債務再編について、ある運用機関は可能性は五分五分だと言い、ある運用機関は可能性はない、という言います。
五分五分というのは、何が起きてもおかしくない、という意味で、可能性はないというのは、そんな激震をもたらす結論はありえない、という意味で、どうちらにしても明確な根拠を持っているわけではなさそうです。
世界が再び金融危機になることを望んで入る人は一人もいないので、そうはならない、という性善説的な発想に、一度リーマンで騙されている市場参加者は、エコノミスト達よりやや警戒感は強く、ギリシャの債務再編に対して抵抗力のあるヘッジポジションを持ちつつ息を潜めている、というのが現状です。
さすがに、ギリシャのデフォルトを期待したような投機ポジションの話は、あまり聞きません。
売りも、買いも、一旦お休みです。
(2011.05.26)
ギリシャ山に登る
「船頭多くして、船、山に登る」
日本の政治の話ではなく、ギリシャ債務問題のことです。
EUという複合体に所属するギリシャの債務問題は、日々「姦しさ」を増しています。
一方、山で座礁した当のギリシャは、相変わらずマイペースの24時間ストライキ…
山に登ったギリシャ船、陸に降ろす役を担うのは、古代ローマ壁画の如く舟を担ぎ上げるギリシャ国民か、はたまた解体業者か?
寺本名保美
(2011.05.25)
失敗学
原発事故調査委員会の委員長に「失敗学」で有名な畑村先生が任命されたそうです。
運用機関評価を始めた当初、畑村先生の「失敗学」関連の書籍を、興味深く読ませていただきました。
日本の運用機関の場合、そもそもの人材の質には大差はなく、それぞれの組織の外形にも大差はなく、運用プロセスも似たり寄ったり、という中において、それでも相対的にみれば、それなりに優劣が存在することが不思議でしかたなかったからです。
結局のところ、「ヒューマンエラーの頻度」と、エラーのもたらす「ダメージの深度」のコントロールが、組織のプロセスにどのように組み込まれ、そのプロセス作りにおいてどれほどの想像力を働かせられているか、という点を評価することが、運用組織を見る上で非常に大切なことだというのが、当時私が持った結論です。
「失敗しないためのプロセスに固執するのではなく、失敗があることを前提としたプロセス作り」というコンセプトが日本の金融機関にはなじみにくい点が、海外に比べ日本の運用機関が伸び悩む最大の原因でもあるのではないでしょうか。
寺本名保美
(2011.05.24)
ギリシャと中国
ギリシャの債務問題が混迷する中、今日は中国の株式市場も下落幅を大きくしています。
昨年の10月に、欧州危機への警戒感を緩める一因となったのが、中国政府がギリシャ支援に積極的である、という意思表明を行ったことでした。
結局、中国政府や中国のSWFが現実的にどの程度ギリシャ国債の保有を増やしたのか判らないままなので、今回万が一ギリシャの債務再編が起きたとして、それが中国政府や中国の金融機関に対しどの程度のマイナスのインパクトがあるのか定かではありません。
2007年から始まった金融危機の最中、誰よりも早く、誰よりも大量に米国の金融機関に投資を行ったことで巨額な損失を被ったはず、であるにもかかわらず、大した国内問題にもならなかった中国ですから、ギリシャ一国程度どうなろうがビクともしない、とも思うのですが。
私が国民だったら、嫌ですけどね。
寺本名保美
(2011.05.23)
ギリシャと東電
ギリシャの債務再編の話と、東電の債権放棄の話が、シンクロします。
どちらも、「そんなことをしたら金融システムに重大な影響がでる」という主張があるものの、金融システムを担う当事者達からすればその主張を認めること事体が金融システム不安を招く危険があるため、はっきりと物を言うことができません。
また日本もギリシャの場合はドイツも、政権と国民の関係が上手くいっていないため、政権当事者がより国民迎合型の政策に走り易い、というのも共通しています。
いずれにしても、どちらも水面下では、かなり深刻な交渉が始まっていると思われます。
米国の政策決定史上の最大の汚点の一つと言われる、リーマン破綻のようなことにならないよう、慎重な議論をお願いするしかありません。
寺本名保美
(2011.05.20)
ヘッジファンド動向への誤解
ヘッジファンドの残高が順調に伸びています。
日本では、ヘッジファンドが「高リスクな投資」という認識が大勢であるため、ヘッジファンドの残高の増加が投資家のリスク許容度の上昇と解釈されることが多いようです。
実はこれはある意味間違いで、欧米の年金や財団などの「伝統的な長期の投資家」が、株式や債券を「持ち切る」という「長期のリスクを落とした」結果として、売り買いを組合せるヘッジファンドへの資金流入が増加した、と見た方がよいと思います。
直近の例では、ヘッジファンドの中での「エマージング(新興国)」という戦略の残高が増加しているのも、新興国株式等の伸びが既にピークアウトしたと感じている投資家が、新興国投信(ミューチュアルファンド)から新興国戦略のヘッジファンドに資金シフトをしているからだとも言われています。
ヘッジファンド動向というものは、「注意深く」みると、非常に役立つものですが、安易に後追いをしたつもりになると大怪我の素です。
寺本名保美
(2011.05.19)
オバマさん議会を脅す!?
米国の国債の発行が、法定金額を超え、国債の新規発行ができなくなっています。
オバマさんは、8月迄にこの国債残高の上限を切り上げる法案を議会が通さなければ、アメリカ発の金融危機が再発し、リーマンショック以上のリセッションになると、言っています。
要するに、米国だけでなく、世界の景気の命運は、あなた方議会次第ですよ!!と脅しをかけている、ように私には見えます。
この強気、彼の国の首相に爪の垢ほどわけてあげたい気分です。
寺本名保美
(2011.05.18)
市場と話しあってください
S&Pは東京電力に対する取引金融機関による債権放棄が実施された場合、「債務不履行」の一種と判断し、格付けは最も低いSD(選択的債務不履行)に引き下げると述べた、と東京新聞が報じた(Bloomberg)。
東電の株式に対して、というよりも、公募債券にとって、壊滅的な影響が懸念されます。
記憶が定かではないのですが…
2003年の金融危機の際、多くの企業に対し銀行は債権放棄をしました。この時、既存の公募債券の格付けはどうなったのでしたっけ?
銀行の債権放棄が事業債市場に直接インパクトを与えた記憶がないのは、債権放棄の対象になった企業が既に公募債を発行できるような状況ではなかったからなのか、債権放棄が企業救済とイコールに扱われていたため、格付けには影響を与えなかったからなのか??
財務大臣は、債権放棄については金融機関と東電が当事者同士で話し合うべきだと言っていますが、国が債権放棄という言葉を使う前に、格付け機関の意見などもう少し聞いて見たほうがよかったのではないかと、思います。
そういえば、米国のリーマンショックのきっかけになったのは、ファニメイ等の国策企業の信用問題でしたが…
寺本名保美
(2011.05.17)
乗り切る力
夏場の電力削減について、大企業製造業では、20%以上の削減がほぼ可能だとの見通しが報道されるようになりました。
それによって、利益率がどの程度落ちるのか、というところまで、踏み込んだ話がまだ出てこないのでよくわかりませんが、もし利益率を圧迫することなく、電力消費量を2割削減することができるのであれば、日本の製造業の未来は明るいかも、しれません。
もちろん、エアコンの温度規制が労働生産性に与える影響も未知数ですし、サービス産業までいれた全体の生産活動にとってのインパクトは実際に夏を越してみないとわかりません。
85年の円高不況の際、絶望的と思われていた中小の製造業が、日本のミラクルと世界に賞賛されるコスト削減で乗り越えたように、今年の夏も日本企業の地力を世界に見せることができそうです。
それにしても労働とパソコン集約型の我々金融業界にとっては、なかなか厳しい夏となりそうではありますが(汗)
寺本名保美
(2011.05.16)
一世一代、男らしく…
政府にお金がない。
復興にはお金が必要。
という中で、あるところから取る、というのは当然の帰結として、取りやすいところから取る、というのは、少し問題があるでしょう。
首相の給与など辞退されても、スズメの涙にしかなりません。
国家公務員の給与削減は、「取りやすいから取る」の典型でしょう。
身内の公務員の次に取りやすいのが、民間企業の法人税。
一番コンセンサスの取りにくい消費税はいつもいつも後回しです。
子供の頃、「自分のやりたくないことから先に終らせてしまいなさい!」と、親から怒られた経験は誰しもあるはずで、その言葉をそっくりそのまま今の国会に投げかけてみたいと思ってしまいます。
どうせ今のままでも菅さんの将来が明るいわけではないのなら、ここは一世一代、男らしく、消費税議論で大勝負をしてみたらいかがでしょう。
寺本名保美
(2011.05.13)
何か変化が?
株式のアクティブファンドも、ヘッジファンドも、思いの外3月の震災は上手く乗り切り、4月に入り徐々に正常化し、投資家のリスク許容度も回復傾向と、もしかするとこのまま何事もなかったように、年初の好環境に戻れるのではないかと思って、4月を終えたのですが、やはり5月に入って雰囲気がどこかおかしいです。
株式市場の水準そのものが大きく変わっているわけではないのですが、その割にアクティブな超過収益の毀損の仕方や、ヘッジファンドの負け幅が少し大きいような気がしています。
今年の年初から通してみると、新興国株式が先進国株式に5%以上割負けていることからもわかるように、市場のトレンドは過去2年から少しずつ変化をしつつあります。資源と新興国頼みの株式市場が終盤になりつつあることを、足の速い投資資金は織り込みつつあるのかもしれません。
こうした物色トレンドの変化が、次にくる大きな市場の方向性の変化を示唆することもあります。しばらくは注意深く市場環境を見ておいたほうがよさそうです。
寺本名保美
(2011.05.12)
苦あれば楽あり?
28度の東京から、13度の札幌に来ました。
電力規制で28度とも30度とも言われる冷房制限との戦いになりそうな東京の夏への恐怖感を、一瞬忘れさせてくれる肌寒さです。
札幌のウィークリーマンションには既に夏場の長期滞在の予約も入ってきている、という話も聞こえてきます。
外国人観光客が減少し、人出が落ち込んでいる北海道ですが、今年の夏は関東圏からの避暑客で、ちょっと特需があるかもしれません。
悪いことばかりではありません。前向きにいきましょう♪
寺本名保美
(2011.05.11)
債務再編と会計制度
ギリシャがS&Pから二段階格下げとなりました。
債務不履行という言葉の定義は広く、単純に借金を踏み倒す、ということではなく、返済期限(償還期限)の延長、なども含まれます。ロシアの時もそうですが国が債務不履行を起す時は、この期限延長という手段をとるケースが多く見られます。
来年償還だったはずの債券が、突然30年債になると、何が起きるかということですが、保有債券を「時価評価」していない会計制度の人達にとっては大きなインパクトはありません。例えば政府機関やIMF、更に金融機関の満期保有目的会計などもこうした分野に入りそうです。
一方で、投信やファンド、年金など、全ての有価証券に時価評価が義務付けされている会計では、劇的な時価の下落が発生します。もし利息の発生しない割引債方式と仮定すると、10年期間が延長されると時価は限りなくゼロに近づきます。
ギリシャ国債についての主要保有者は既に時価評価の対象ではないIMFや各国政府等となっているともいわれています。今ギリシャの債務を延長しても実害は少ないといわれる背景にはこうした会計上の仕組もあるようです。
物騒な話題であることには変わりありませんが。
寺本名保美
(2011.05.10)
そして次の争いに
ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終結し、「イデオロギーの戦いの時代」が終った時、次の国際政治の核が何になるのかとボンヤリ考えていたことがあります。
そして次に「宗教の戦いの時代」が来た時、あまりに当たり前の結論に脱力感を憶えたものです。
独裁政権の終ったエジプトで、宗教対立が激化しています。
民族や宗教という、根の深い対立を、良くも悪くも力で封じ込めてきた独裁政権がなくなった後の流れという意味では、自然な結果ともいえます。
完全に想定内の混乱が、想定通りに起きている現状であるにも関わらず、打つ手が見えないところに、この種の問題の難しさがあります。
ジャスミン革命のソフトランディングシナリオはまだ見えてきません。
寺本名保美
(2011.05.09)
金を買い尽したので銀にいったら?!
今回のゴールデンウィーク。火を噴いたのは商品市場のようです。
理由は不明ながら、一日の下げ幅としては1980年以来最大となった「銀」の下落が引金になったとの見方もあります。
確かに、4月中旬以降、銀の先物市場では、取引量も建て玉も異常な増加をした後、5月1日以降、4日連続で急落をしています。
誰かが、銀取引で大損をして、その処分で他の商品市場に投げ売りが出た、という解説は成り立ちそうです。
2005年にアマランスというヘッジファンドが天然ガス先物市場で大損失を被ったさいは、転換社債市場などの金融市場にまで、被害が飛び火しました。
ただでさえイベントには事欠かない市場環境。大きな火種にならなければよいのですが。
寺本名保美
(2011.05.06)
どちらに転ぶか?
ここ数年、毎年ゴールデンウィークを超えると、市場の雰囲気がガラっと変わる経験をしています。
昨年度は、欧州危機が火を噴いたゴールデンウィークでした。
今日は、休日の谷間の初日。
相変わらず中東・北アフリカ方面は血なまぐさく、一方で海外の景気指標の好調さは持続しています。
2年越しの景気回復トレンドと、目先のイベントリスク。
どちらが今年の市場の主導権を握るのか。
ゴールデンウィーク明けは不安半分・楽しみ半分です。
寺本名保美
(2011.05.02)