2005年03月の思いつき


ペイオフ解禁と元本確保型商品

ペイオフ解禁に伴い株式や外貨などのリスク資産に資金シフトが起きるか?という点については、あまり肯定的ではありません。

ペイオフの受け皿として残高を伸ばしているとされるのは、元本確保型や、予定利回りが保証されているタイプのものが多いようです。
元々ゼロ金利の普通預金に預けられている資金の性格は、『増えなくてもよいから減らないで欲しい』というものです。
多少は減る覚悟でも長期的に資産を増やそうと考える人のお金は、初めから普通預金にはいかないでしょう。

「ペイオフ解禁」というイベントが、金融機関の対個人営業を強化させ、個人資産をリスク性資産に誘導するきっかけ作りにはなるかもしれませんが、体裁がよく売り安い元本確保型商品中心の営業ではこのブームも一時的なものに終わってしまいそうな気がします。

(2005.03.31)



パッシブファンドの完全法

西武の有価証券報告書虚偽記載問題に関し、連合会が損害賠償請求控訴を起こすとの報道がされています。

パッシブファンドには、TOPIX全上場銘柄に投資する「完全法」と、一定の流動性基準や財務基準において投資対象銘柄にスクリーニングをかけている「準完全法」、さらに絞り込んだ銘柄でTOPIX収益率を模倣する「層化抽出法」とがあります。
「準完全法」では西武株に関しては比較的早い時期に投資対象から除外されたケースが多かったのに対し、「完全法」では上場廃止が決定するまでは西武株を売却する論理的理由がないため、被害が大きくなっています。国内の信託銀行などでは国内株式においては事前に一定の銘柄を除外する「準完全法」が主流ですが、外国株式については「完全法」が主流です。
「完全法」である以上、投資家は売買によってではなく、コーポレートガバナンスや今回のような訴訟という行動で、受託者責任を果たす必要があります。
今回の件は国内株式投資だけでなく、外国株式投資のパッシブファンドについての受託者責任のあり方をも考えるきっかけとなりそうです。

(2005.03.30)



空売り戦略の復活?

本来ヘッジファンドの運用手法は、買いと売りとを自在に組み合わせるところに存在意義があります。
しかし実際のところこの数年は、裁定取引戦略は別として、石油にしろ不動産にしろハイイールドにしろ、「買ったもの勝ち」の市場環境が続き、売りサイドの戦略は退場を余儀なくされていました。

こうした「買ったもの勝ち」の投資環境に少しずつですが変化が見られてきています。今日のウォールストリートジャーナルには米国のREITでの空売りポジションが急増しているとの記事がでています。南米や旧東欧・ソ連などの国の株式・債券・為替の下落は続いています。米国のナスダックの下落も今年に入り止りません。

もちろん、市場参加者の多くは今の市場の動きを米国の金融政策変更に伴う一時的なものであると考えています。
ただ、買うことしか考えられなかった昨年までとは異なり、売りでも儲かるかもしれない、と思う人が増えてきていることは大変大きな変化です。

(2005.03.29)



戦略的資本政策と浮動株調整

日本経済新聞の発表した浮動株調整後の株式指数の詳細を見て、浮動株比率が想像以上に小さいことに改めて驚いています。
浮動株比率が発行済み株式数の5割以下とカウントされている企業数は、浮動株調整後の指数に採用された企業の中でも、2割前後はありそうです。

一方で、敵対的買収に対する防護策の一環として、親密先との株式持合の強化や、自社株買いといった浮動株を減らす動きも見られます。90年代のアメリカに見られたように敵対的買収の対応策として従業員持ち株制度を利用する、という話も出てくるかもしれません。

資本政策のアクティビティが増し、浮動株の算出基準に影響を与えるイベントが今後増えていくことが予想される中での新指数の誕生は、多難な門出となりそうです。

(2005.03.28)



万博!

35年前の大阪万博の記憶は、月の石とソ連館のピロシキと巨大なジェットコースター。
それに初めて乗った新幹線のビュッフェにあった時速表示版とアイスクリーム。
今思い返しても、目がキラキラしそうなぐらい新鮮な経験でした。

子供でも海外旅行をすることが珍しくなくなり、情報が溢れ、多国籍料理がお手軽に食べられるようになった現代において、子供達は万博から何を感じ何を学ぶのでしょうか。

直径数センチの小石を見て純粋に感動し、まだ見ぬ未来や未知の国に思いをはせることのできる時代にいた自分が、大変幸運であったように思えるのです。

(2005.03.25)



ステイクホルダーの利害

ニッポン放送の新株引受権発行を巡る高裁判決に、一審にはあった「ステイクホルダー」という言葉がなくなっていました。

一審では控えめな表現ではあるものの、株主以外のステイクホルダーの利益という概念が世の中にあるということを述べていたのですが、今回の判決では、企業は株主のものであり、従業員や取引業者などの利害関係人は代替が利く付属物である、と定義されてしまったような印象を受けます。

新株発行という証券取引そのものが論点であったため、株式価値のみに焦点があたった判例になったのはしかたないのかもしれませんが、これをきっかけに、「ステイクホルダー」という概念が希薄化してしまうのは、今後の日本経済にとってあまり好ましい方向性ではないような気がしてます。

(2005.03.24)



慎重なペース

FOMCでの利上げ幅は予想通り、「慎重なペースでの利上げを継続」という文言も従来通り、との結果でしたが市場の反応は予想よりも大きなものとなりました。

特に長期より中短期の金利の上げ幅(債券の下落幅)の大きさが、今の市場心理をよく表しています。
通常利上げというものは、比較的短期間に集中して終わるものです。市場では利上げ局面終了後の金利水準を予想して、先取りしたイールドカーブを形成するのですが、今回は利上げ局面終了後の金利水準をまだ誰も決めかねているように感じます。
市場がインフレを言う言葉に過剰に反応するのも、今の利上げの目的やゴールが見えないからなのかもしれません。

「慎重なペース」という言葉使いが、むしろ市場の疑心暗鬼を増幅させてしまっているようです。

(2005.03.23)



入り方を間違えると、入口が閉まる

企業の合併買収行動に対する法整備の最終段階で、1980年代の悪いアメリカを彷彿させるような買収案件が話題となってしまったことは、日本の資本市場にとって大変不幸なことであったと言えるでしょう。

今回、外国資本の参入規制の緩和が一旦見送られたことに、米国から強い不満が出ているようですが、そもそも今回の騒動の一因を作ったのが米国投資銀行自身の行動であったことを考えると、致し方ないのではないかと感じます。

新規の運用商品でも同じですが、市場の創成期にたった一社が行った無理な営業や粗雑な運用が、その後の参入障壁をどれほど高くするか、認識されないケースが多く見られます。
マーケット全体の将来を見据え、長期的なビジョンをもった、営業活動を期待したいものです。

(2005.03.22)



共通のプラットホーム

運用機関が合併するとパフォーマンスが落ち、
銀行が合併すると事務ミスが増え、
航空会社が合併すると事故が増える。

不思議なものですね。

合併に伴う人的な疲弊や指揮系統の混乱、といった一般的な問題とは別に、元々の企業同士のコンセンサスの不一致、というものの影響が大きいような気がしています。
明らかに異なることは、戦いながらも修正していくことができますし、異なるということに対し意識もできます。
一方で、潜在意識の中で常識だと思ってしまっていることについて他者との違いを認識することは大変にむずかしく、修正には長い時間がかかります。

自らの組織やプロセスを成り立たせている『共通のプラットホーム』そのものの検証から始めなければ、新しい組織やプロセスの構築はできない、ということなのではないでしょうか。

(2005.03.18)



米国売り

米国株式が不安定な動きを続けています。
これまでの悪材料だった石油価格の高騰に、史上最悪の経常赤字と、GMショックが重なりました。

現地通貨ベースでみて、主要株式市場のうち、2005年年初来でマイナス収益となっているのは、米国株式と香港株式だけです。特にナスダックはマイナス7%と大幅な下げとなっています。

昨年は、通貨ドルへの不信感が高まりドル安になる一方で、不思議と米国株式市場は堅調に推移した一年でした。
その歪みが、今年になってから修正されてきているように感じます。
米国売りが、為替という仮想市場から、株式という実物市場にシフトしつつあるとするならば、米国株価の調整は想像以上に深刻なものになる危険があるということです。

(2005.03.17)



キリギリス、アリ化計画

米国で個人破産認定基準を厳しくするとの話が出ています。
また、グリーンスパン氏が社会保障改革方針に同調する意見表明の中で、改革は貯蓄率の向上に寄与するものでなければならない、と言っています。

統計のとりようによってはマイナスになっているとも言われている米国の貯蓄率の低迷が米国経済全体に与える悪影響を、米国政府としてもさすがに無視できないところまで来ているということです。

国の赤字は財政規律を厳格化することで1990年代のように乗り切ることができるかもしれません。貿易赤字は為替調整で調整できるかもしれません。
さて、個人の赤字は国の政策で解決できるものなのでしょうか?
キリギリスがアリになれるのか、これからの米国政府の舵取りを興味深くみています。

(2005.03.16)



太っ腹!

事業債など企業の信用リスクを表す『クレジットスプレッド』が、この3年縮小し続けているのは、世界共通の事象です。

最近、米国や欧州市場ではこうしたクレジットスプレッドの一方的な縮小に対し警戒的なコメントが増えてきています。クレジットの専門家ほど、今の状況に違和感を感じる傾向が強いようです。一方で、米国の半分以下しかクレジットスプレッドのない日本には、何故か市場にこうした警戒感があまりないように思います。「債権放棄」はあっても「破綻」のない日本市場、というモラルハザード的政策の結果でもあります。

「破綻のない国」の市場に慣れてしまったおおらかな投資家は「破綻のある国」の市場のプレイヤーから見ると「大変気前のよい」お金持ちに見えます。
自国では売れなくなった債券が何故か日本に持ち込めば売れる、などという現象がそろそろ目に付き始めました。
「太っ腹の大旦那」は、怪我の元です。

(2005.03.15)



SRI投資への素養

突然ですが、粉ミルクの缶にあかちゃんの写真を使ってはいけない、ということをご存知ですか?WHOによって粉ミルクを安易な母乳代替として推奨するかのような企業行動は禁止されているからです。日本の大手メーカーが出す粉ミルクの新製品名に『母乳』という言葉が使われていたことが問題になっているとの報道があります。WHOコードに明らかに違反していそうな名前です。

こうした、罰則規定のない国際倫理基準のようなものに対する日本企業の対応は非常にお粗末な印象を受けます。
タバコのパッケージに記された健康被害への忠告も、欧米のものと比べ日本で販売されるものは非常にあいまいな表現になっています。

こうした企業倫理の甘さは、日本の市民団体というものがいかに機能していないかということの裏返しです。
自分自身を含め、市民団体や市民運動というものに興味もないし関わりたくない、というムードの強いこの国において、社会的責任投資というものが根付く素地があるのか、いささか疑問に思っています。

(2005.03.14)



保険契約者としての義務と権利

銀行の数千億の緊急増資に応じた生損保の企業行動が合理的なものであるのか否か疑問に感じています。

生損保が右から左に増資を引き受け、何事もなかったかのように大手銀行が決算を超えていくことに、違和感を感じなくなっている今の日本の金融市場は根本的に間違ってはいないのでしょうか?

生保一般勘定や特別勘定に資金を預けている年金スポンサーは立派な保険契約者(社員と言います)です。年金スポンサーが生命保険会社の社員総代会に出る権利について、私自身今までよく考えたことがなかったのですが、こうした偏った資金の使われ方をすることが今後も続くのであれは、そうしたことも含めて検討していかなければならないと思っています。

(2005.03.11)



高利回りファンド

個人向け投資信託で、相変わらず外国債券型商品の残高が増え続けているようです。特に最近は『ハイ-イールド』系投信が人気だと日経金融に出ています。

『ハイ-イールド』という言葉を直訳すると『高利回り』になるわけで、『毎月分配型ハイイ-ルドファンド』は『毎月配当が出る高利回りなファンド』だなどという恐ろしい誤解を招いているのではないかと、心配でしかたありません。

『ハイ-イールド』とは『高金利でしかお金を借りれないほど財務状況の悪い企業や国』への投資で、『毎月分配』される配当と『ファンドの利益』とはイコールではありません。

少なくても年金運用ではこうした類の誤解のない営業がされていると信じています。

(2005.03.10)



起業の勧め

大きな企業の役員だった人が、自分の会社を持つと、俄然働くようになる。
脱サラをすると、サラリーマン時代には絶対しなかったような仕事がイヤではなくなる。

などと言う例は、わが社を振り返るまでもなく、国内外問わずよく聞く話です。
現役時代は日本のスタッフから頼まれても東京になどほとんど来なかったような米国金融機関のTOPが、自分で立ち上げたファンドの営業では軽快に世界を回っているのを見ると、あまりの変わり様に苦笑してしまいます。

日本でも起業家を増やし労働生産性をあげることで、人口減少に伴う労働力不足を補うことができるのではないかと感じています。

(2005.03.09)



ちょっとショック

変形ヤコブ病の予防として、1980年から96年までの間にイギリスかフランスに1日でも滞在した人は、献血も臓器提供も不可。
との記事を見て、軽いめまいが…

自分の頭がカスカスになる危険があるかもしれない、ということに対してではなく、
『1生命体』としての自分の存在意義が又一つ失われたような気がしただけです。

これまで献血に熱心だったりドナーカードを持っていたりしているわけではないものの、ダメと言われるとやっぱり悲しい。単なるわがままですね。

でも今更こんなことを言い出して、パニックにならなければよいですが。

(2005.03.08)



年金資産の公共性

敵対的買収において年金基金資産が行うべきことは、どちらのサイドにもつかないこと。

ほとんどの基金の資産運用基本方針には「買占め等の仕手戦には参加しないこと」という一文が入っています。
どこかのファンドが言っているように、投資家にとって株価が高く売れるということが唯一最上の結論であるというのなら、仕手戦や買占めに便乗して株価を吊り上げることも株式運用の一手段であるといえるのかもしれません。
しかしながら、年金資産というものに公共性があるという大前提を考えると、儲かれば何をしてもよいという結論にはなりません。

絶対収益型運用やヘッジファンド投資を含め、年金資産の公共性という言葉の意味とその扱いを、もう一度考えてみる必要があるのかもしれません。

(2005.03.07)



上場企業と創業者

有価証券虚偽記載で堤前会長が逮捕されたのを受け、多くのオーナー経営者の方々はおそらく憤慨しているのでしょう。

自分で作った会社を子供に渡して何が悪い。
経営者より創業者が偉いのはあたりまえ。
オーナーが経営に口を出すのは当たり前。

お気持ちはよくわかります。

だったら、株式を上場しなければよいだけです。
どんな市場においてでも株式を公開してしまえば、そこに大株主は存在しても『オーナー』などというものは存在しないのです。
上場してしまった企業は、株主のもので、もう創業者のものではないのです。
上場企業にとっての創業者とは、社史の1ページ目に立派な写真が掲載されることぐらいでしか、その権威を示すことが許されない存在なのだということを、『オーナー』の方々には自覚していただくしかありません。
株式公開というのは『自分の会社』を『不特定多数の他人に売り渡す』という行為そのものなのですから。

(2005.03.04)



投資家保護とスーパーマーケット

賞味期限の近い牛乳や、少し汚れのあるセーターや、一回返品された新古品、といったように、値引きされている商品にはそれなりの訳があります。
我々消費者はその理由を納得した上で、値引き商品を買うわけです。

金融商品も同じです。
銀行の定期預金が0.01%の時に、1%の利回りを謳っている商品があったら、どこに傷があるのか、賞味期限は何時なのか、何故お得にみえるのかを確認してから買いましょう。

値引きの理由を明示しないで販売し、たまたま胃腸の弱いお客が食あたりを起こしたら、それはスーパーの責任です。
リスクの所在を明示しないで販売し、たまたま投資知識の少ないお客が損失を被ったら、それは金融機関の責任です。

投資家保護というのは何も難しいことを言っているのではなく、極々常識的な販売者責任の話をしているだけのことなのです。

(2005.03.03)



ニッチな市場と市場規模

最近のヘッジファンド関連の業界記事などのトレンドは、
①アジア市場への急激な資金流入と為替変動
②コモディティ市場投資への期待
③クレジット、特にハイイールドへの警戒
④年金を含めた企業会計制度の変更が金融市場に与える影響
⑤不動産市況はバブルか否か
⑥そろそろLTCMの破綻を思い出そう、論

といったところです。

よりニッチな戦略への興味が増し、従来市場や戦略への興味が急速に低下している傾向が見られます。
市場規模を超えた投機資金によって、せっかく育ってきた新興市場を壊してしまうことだけは、避けたいと思うのですが。

(2005.03.02)



嵐を超えて原点にもどる

この2年、代行返上や給付削減といった制度に関わる大きなイベントが続いたことで、年金事務局の方々は大変に多忙な日々が続いてきました。
また、我々を含め運用サイドにいる者達にとっても、新制度下での期待収益率や許容リスク度の見直し、運用機関選定などの作業で、かなり忙しい数年だったといえるでしょう。

その間運用環境が比較的よかったということもあるのですが、運用について年金事務局の方々とお話する時間が随分減ってしまったように感じます。
時代の流れが速いため、どうしてもこちらから一方的に新しい運用手法や運用機関の解説をするだけでミィーティングが終わってしまい、本当にしなければならないお話や議論までいかないケースが増えてしまいました。

制度設計もひと段落した感もあり、この4月からは少し原点に返った仕事をしたいと思っています。

(2005.03.01)


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