2004年11月の思いつき


エデュケーショナル セールス

「エデュケーショナル セールス」という言葉があります。
投資教育をしながらの営業活動、という意味です。

個人向け、法人向けを問わず、証券営業では不可欠の概念のはずですが、どうも日本ではまだこの言葉が根付いていないようです。

顧客に商品知識があるほうが営業活動はし易いし、ストレートに商品の営業をするよりも投資教育を入り口にした営業のほうが楽だし遠回りなようでも効率が良い、というのが私の個人的な経験なのですが、いかがでしょうか。

顧客の知識のなさを利用してとりあえず売ってしまう、ような時代遅れの営業からは、本当に決別して欲しいものです。 

(2004.11.30)



営業の矛先

時々、運用機関さんから、過分なお申し出を受けることがあります。ご丁重にお断りすると、少し不思議な顔をなさいます。
コンサルタント業界の常識と当社の常識とに、なにかギャップがあるのでしょうか?

それはさておき、当社の判断で比較的効率のよい運用機関をお客様に推薦しても、「営業に来ていないのに採用することはできない」と言われるケースが多々あります。
「営業努力もしていないのに残高が増えるのはよろしくない」とのスポンサーのお言葉には納得せざるを得ません。
そういった対象となる運用機関の多くは、コンサルタントの推薦を受けて運用残高を伸ばしてきているところに多く見られます。

採用の可否を握るのはスポンサー自身です。コンサルタントの推薦は単なる一意見にすぎません。
コンサルタントとは対等に意見を戦わせ、スポンサーには真摯に営業をする、というのが運用機関のあるべき姿勢なのではないでしょうか。

(2004.11.29)



信託銀行の足元

最近、お客様と話していて、信託銀行への不満の声を聞くことが大変増えています。正直、聞いているこちらが戸惑うほどです。

サービスが良い悪い、とかパフォーマンスの巧拙、といった従来からある話に加えて、事務ミスの多さを指摘されるケースが多いようです。

「信託銀行の唯一のとりえは、事務の正確性だったのに」、とのお言葉に、思わず苦笑してしまいますが、笑い事ではありません。

従来の一律型の厚生年金基金制度からの制度変更と多様化、運用商品の複雑化、といった仕事量の多さに反比例する形で、リストラは進み報酬は下がる。効率化のための機械処理の範囲が拡大し、人間のチェックが及ばない。
事務ミスが増えるのは当然、という環境が随分長い間続いています。この過渡期を一刻も早く脱出しないことには、信託銀行の唯一のとりえ?が本当に過去のものになりかねません。
企業規模を追求しているうちに、足元が崩れ落ちてきていることに、経営者は気づいているでしょうか?

(2004.11.26)



中国のブラックアウト

日産が鋼材の手当てがつかず一部の工場の操業を停止した、との報道が気になったのは、それが中国経済の抱える潜在リスクを連想させたからかもしれません。

中国経済のリスクとしてこれまで認識されてきたことは、金融システムの脆弱性や不良債権問題がメインでした。
しかしながら、この一年で急速に浮かび上がってきた問題は、電力供給や水資源といった、経済の基礎基盤の不足です。
原材料と人手と需要さえあれば、あとは価格次第でなんとでもなる、というこれまでの常識が、通用しない局面に早晩直面するのではないかという懸念が高まっているのです。
ある日突然、中国の工場地帯がブラックアウト!などという、小説まがいの状況はあまり想像したくありません。

中国政府の早急なインフラ整備に期待するか、コスト高を覚悟で市場を分散させるか、一企業と同じ悩みを世界経済全体が負っています。

(2004.11.25)



強いドル?

ブッシュ大統領の「強いドル政策を支持する」との言葉は、ドルが世界から信認され続けることを希望する、という米国の大統領としてあたりまえのことを言っているだけのこてで、取り立てて今の為替水準についてコメントしたものとは思えません。
つまり結果としての”強いドル”を望んでいるわけです。

一方、日本をはじめとする貿易相手国にとっての、「強いドル政策」とは、現実的な交換レートとしてのドルの水準の話をしているわけで、まさに今のドル水準についての話をしています。

「強いドル政策を維持する」という表現は、将来的なドル価値の安定の為には短期的なドル安の放置は問題がないとする米国と、短期的なドル安に神経を尖らす日本など貿易相手国の双方の首脳にっとって、どうとでも解釈できる大変よくできた玉虫色の発言と言えるのでしょう。
結局のところ、通貨についての合意は特になかったと受け止めるのが自然なのかもしれません。

(2004.11.23)



ある量販店の撤退

フランスの大手量販店が日本から撤退するとの報道に意外感はあまりありません。

ここだけではないですが、外資系の量販店が1斗缶で売っているソースとか、1ガロンの牛乳とか、この少子化の日本で、どれほどの購買層があるのか、大変に疑問だったからです。
そもそも冷蔵庫代わりにコンビニを利用する人が多いといわれるほど、食材を保存するためのスペースがないのが現状でしょう。

世界有数のシェアを取れるほどのグローバルなビジネスモデルであっても、現地の生活習慣を変えるほどの力はなかったということです。

日本の量販店の経営も決して安泰ではなく、街の商店街は青息吐息、外資のビジネスモデルは撤退、と日本における一般消費者ビジネスの成功型はなかなか見えてきません。

(2004.11.22)



為替の火の粉

今の為替市場のテーマは、米国の財政収支のようです。
イラク開戦以来急拡大している米国の赤字については、周期的にドル売りの材料とされてきました。
ただ、これまでは米国の信用不安を"はやして"ドルを売ってはみるものの、それが株式や債券などの有価証券の売却や、米国直接投資の引上げなどの実需に波及することはほとんどありませんでした。
ドルは弱くとも、米国には魅力的な企業があり、巨大な個人消費市場があり、投資対象としての信頼性には、全く問題がなかったからです。

さて、今回のドル安もまた、単なる通貨という仮想市場での、マネーゲームで終わるのでしょうか?
以前と比べ、「米国人気」に陰りが出てきている中、為替の火の粉が飛び火する危険は、じょじょに高まりつつあるように感じています。

(2004.11.19)



制度の正味期限

介護保険制度の見直し議論で思うこと。
たった5年ですよ。たった5年で財政破綻の議論が必要になる制度をなぜ作ったのでしょう?法律で5年ごとの見直しが義務つけられているのは、定期的に微調整をしていけば制度維持のための負担が少ないはずだからで、はじめの5年で抜本的改革が必要になったのは明らかな設計ミスです。
多くのお年寄りにとって介護保険の存在はすでに生活の一部になっています。我々にとってはささいな変更や負担金の増加が当事者には精神的ダメージにもなります。はじめからないより、あるものを取り上げるということは、インパクトが大きいのです。
年金や介護など生活の基盤に関わる制度についての正味期限は10年単位で考えなければいけないものだと思います。

(2004.11.18)



何のための上場か?

最近株式市場で起きている一連の情報操作に関わる問題は、企業が上場するということの意味は何なのか、をはからずも市場に投げかける結果となりました。

それは、公けの法人である、ということに対する経営者としての覚悟の問題であると同時に、それを維持するための労力とコストに見合うだけの意義をどこに見出すか、という経営戦略の問題でもあります。

株式を上場するということが、企業にとってのゴールではありません。企業が発展していくための一つの手段です。
事業に必要な資金を調達するための選択肢の一つに過ぎません。

どこかステータスのように「上場」という言葉が扱われて来たことの歪みが、ここにきて綻びはじめているような気がします。

(2004.11.17)



安いことはいいことか?

日本の年金ビジネスは儲からない。
という言葉を聞くのは、なにも運用会社からだけではありません。
コンサルタント会社からも、カストディ業者からも、そして投資顧問や信託を顧客としている証券会社からも、聞こえてきます。

年金スポンサーから見れば、それだけ委託コストや執行コストが安く設定されているということで、喜ばしい話のように聞こえるかもしれませんが、そろそろその弊害にも目を向ける時期が来ているのではないかと思っています。

基本的に、儲からないビジネスには、資本も人材も技術もそして情報も集まらないものです。日本の年金市場が儲からない、ということが定着していくことで、市場の活性化が損なわれることにもなりかねません。

「日本の年金は儲からない」という言葉は、業界関係者全てにとって、誉め言葉ではないし、真剣に取り組まなければいけない構造的な問題なのだと考えます。

(2004.11.16)



中国経済とコカ・コーラ

中国における資本主義経済の発展プロセスには、米国のビジネスモデルがかなり強く投射されていると言う話を、国際会計の専門家の方からお聞きしたことがあります。

"端的に言うと、米国ビジネススクール出身者によって、中国経済は形成されている。
欧州や日本のように、そもそもあった独自の経済の姿が、グローバル化によって変質していくのではなく、真っ白いキャンパスに直接米国型経済の画が描かれているといったイメージに近い。だからこそ、あれほどのスピードで物事が進んでいくのだともいえる。一方で良いところも悪いところも見境なく模倣している点が、中国経済を良くも悪くもしている。"

中国でのコカ・コーラの消費量がアメリカ・メキシコについで世界第3位となったとのニュースを見て、そんな会話を思い出しました。

(2004.11.15)



金融ビッグバン

イギリスで、外国資本傘下ではない純粋な国内証券会社が消滅したそうです。1980年代の金融ビッグバンから約20年後のことです。
"ウインブルドンのセンターコートでプレーをするのは、外国選手が中心であり、たとえそこにイギリス人がいなかったとしても、ウィンブルドンの誇りと権威は厳然としてイギリスのものであり、それは未来永劫変らない" 同じように、
"金融ビッグバンにより、参加者の多くが外国資本になったとしても、国際金融センターとしてのロンドン(シティ)の優位性はなんら変ることなく、シティの繁栄がイギリス経済にもたらす雇用や税収といった実質利益には、なんら変ることはない”

ウィンブルドンやシティが望んだことは、イギリス人が主導権を握ることで世界の中心にいることではなく、世界のTOPプレイヤーを集めることで世界の中心となることなのでしょう。

日本の金融ビッグバンからそろそろ10年経ちます。日本の金融市場はなにを望みどこに向かおうとしているのでしょうか?

(2004.11.12)



公的セクターとヘッジファンド

海外のヘッジファンド業界の方から、何故日本の公的年金はオルタナティブ投資に消極的なのか、との質問を受けることがあります。

米国の公的年金の中でも保守的であるとみなされていたカルパースでさえも、来年度からヘッジファンド投資を2倍の20億ドルにする、との報道に見られるように、諸外国の公的年金運用において、ヘッジファンドというものが、一定の市民権を得られつつあるようです。

もともと、絶対収益を確保することを目的としたヘッジファンド運用は、母体からの財政支援を期待できない、公的セクターや財団などの資産運用にとってこそ、有益な投資手段であると、考えることもできます。

日本の公的セクターでも、ヘッジファンド=危ない運用、という先入観にとらわれず、投資対象の一つとしての検討を、そろそろ始める時期なのではないかと思います。

(2004.11.11)



石油メジャーのベールを剥ぐ?

カルパースが企業統治行動の一環として、石油メジャーの石油・天然ガス埋蔵量の想定に外部監査を入れるように要求しているとのことです。

現状は、各社が独自調査の結果として、今後発掘可能と想定される埋蔵量を公表することになっていますが、この数値に意図的な誤差が指摘され株価が大きく売られたことで、今回の外部監査の義務化の必要性が指摘されるようになりました。
この動きに米国のSECも同調する気配を見せていますが、当然のことながら?メジャー各社は反対しているようです。

石油などの資源価格が、生産者や一部の主要卸し業者の強いコントロール下にある理由は、その資源の有限性に起因しています。"いつか枯渇するかもしれない"、という危機感を利用した価格統制と、"まだ当分大丈夫"という安心感を利用した消費促進とをたくみに組み合わせてきたのが、巨大石油産業です。

今回のカルパースなどの働きかけによって、石油資源の本当の姿に近づけるとすれば、それは株式市場のみならず、世界の産業構造にとっても、歴史的な第一歩であるといえるのかもしれません。

(2004.11.10)



株式の買い戻し

<西武株問題>コクド、買い戻し受諾へ
という記事見出しを目にした時、驚きました。

市場を通さない相対取引だったとしても、既に売買が成立している上場有価証券取引が、簡単に取り消されたり、損失の補填がされたりすることは、ありえないと思ったからです。

記事の内容を読むと、「買戻し請求に対する合法的な手段をこれから探す」とのことなので、少し納得しました。

そもそもの発端が、一般投資家の目にふれないところで起きたことです。それぞれの企業にも言い分があるでしょうが、一般投資家も含めて納得のできる合法的な決着を、株式市場全体の信頼を失わないために、強く期待します。

(2004.11.09)



働かない若者を抱えて

社会保障制度の見直しの中で、生活保護についても議論されるようになってきました。

現在、日本の人口において30歳以下の占める割合は34%。60歳以上が24%。残りの40%程度が30歳以上60歳以下のいわゆる現役世代の中心です。20年後の試算では、30歳以下が減った分60歳以上が増えますが、30歳から60歳までの比率はほとんど変わりません。全人口に対する現役世代の比率が維持されているので、表面的には安泰に見えます。

ただ、これは20年後の現役世代が、今と同じように働いていることが前提です。フリーターの生涯年収がサラリーマンの3分の1以下といわれ、かつ無年金者が増加する傾向を考えると、20年後の現役世代は社会の働き手ではなく、被扶養者になっているリスクが存在します。

今の現役世代が親の代の老後を見るのは当然として、下の代の生活保護の面倒まで見させられたのでは、本当にたまりません。

(2004.11.08)



逃げ足

この7ー9月期、小型株が急落する中で、小型株を売り抜けられたファンドとそうではないファンドとの差が歴然とでる結果となりました。これは小型株市場に対する相場感の違いではなく、運用の機動性の違いだったように感じます。
期初同じような相場感を持っていたとしてもそれを実行に移すタイミングには、ファンドの運用残高や意志決定プロセスによってかなりのタイムラグが生じます。
スポンサーにとって、銘柄判断で収益に差が出ることより、こうした投資実行の部分でファンドが劣後することの方が、悪い印象に残りがちです。
自らのファンド規模やプロセスに見合ったポートフォリオ構築ということの重要性を再認識した会社も多いのではないでしょうか。

(2004.11.05)



大統領選のメッセージ

米国大統領選が無事終わり、4年前のような混乱を懸念していた市場関係者にとってはひとまず胸をなでおろすことができました。

さて今回の選挙を通してアメリカが発したメッセージは主に次のようなものだったでしょうか。

*分断されたアメリカ *内向きのアメリカ *戦時のアメリカ *保守的なアメリカ
*生活に平和を *成長より安定を *経済よりモラルを

対米投資を考える外国資本にとって、あまり歓迎される内容ではなかったと言えそうです。
どちらが勝ったかではなく、選挙とその結果が発したメッセージを市場がどう評価するのか、少し心配しています。

(2004.11.04)



今年のヘッジファンド

今年のヘッジファンド業界全体が不調な理由がいくつか上げられています。
①イラク情勢や大統領選など不確定要素が大きく、株式の変動幅が歴史的に縮小してしまった。(収益機会の縮小)
②春先の急激な金利上昇局面では、債券や株式などと一緒にヘッジファンドも損失を出した。(相関の上昇)
③方向感のない経済指標が続き、相場の方向性が猫の目のように変ったこと。(トレンドの不在)

このように並べて見ると、フォンドオブファンズがヘッジファンドを組み合わせる際に、重視している項目が、今年はほとんど機能しなかったことがわかります。

この傾向が来年以降も同じように続くとは考えにくいとすれば、投資家にとってもゲートキーパーにとっても、今年は我慢の一年ということでしょう。

(2004.11.02)



2008年まで超低金利?

日銀の量的緩和の解除が2008年度以降になりそうだ、との記事に思わずため息が…
あと4年後ですか。

景気サイクルの頂上が今年であるとすると、今年解除できなければ、次の景気の山までむずかしいとの解説です。

では、何故今年解除できなかったのかというと、消費者物価がプラス転換した場合、という条件をクリアしなかったからです。
来年度以降、消費者物価がプラス転換しても今度は景気が緩やかな減速過程に入るため、超低金利は継続ということになると、日本の金利は何時までもゼロ。

そんなことはありえないと思うのですが、なにがおかしいのかよくわかりません。

(2004.11.01)


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