2023年08月の思いつき


ストライキに見る正常化

そごう西武のストライキ。
母体の事業売却に抗する手段としてのこのストライキは恐らく象徴的な意味しか持たないでしょう。

ただ、これを機に、スト権というものが、再び一定の市民権を得るようになれば、日本の賃上げスピードももう少し上がるかもしれません。

長いデフレと不況の中、労働側は雇用の維持と確保を最優先し、賃金を後回しにする戦線協定を企業側と結んできました。結果として労働者側からすれば賃金は上がらず、企業側からすれば労働力の流動化が進まない、どちらにとっても不自由な労使関係が続けられてきたのです。

それが、足元の労働需給の逼迫により、労働者が雇用の維持を担保にすることなく、純粋に賃上げを主張できる素地ができつつあります。今回ストライキという手段の存在が一般に認知されることで、日本においても欧米の鉄道やトラックドライバーのように、賃上げや労働環境の改善の手段としてストライキが普通に行使されるようになるかもしれません。

日本において死語になりつつあったストライキが復活することもまた、経済が正常化に向かっている一つの証左のなのかもしれないとも思っています。

寺本名保美

(2023.08.31)



不動産バブルの崩壊パターン

中国での不動産関連企業の不良債権問題が、中国経済全体にどのような波及をしていくのかについては、まだ定かな方向性が見えてきません。

一般論から言えば、不動産関連事業というものは、あらゆる事業の中において、財務レバレッジの最も高い、つまり借入金依存度の高い事業であるので、不動産関連事業、特に開発型のビジネスモデルが崩壊する際には、漏れなく不良債権問題、つまり貸し倒れ問題が発生します。焦点の一つは、この場合の最終的な貸し手が誰なのか、という点にあります。

もう一つの焦点は、不動産関連事業の債務処理に伴い、保有・または担保不動産の換金が進むことで、不動産の資産価格が下落することによる周辺損失の拡大です。担保割れによる破綻が次の不動産処分やその他の投資有価証券の処分を呼ぶ、負のスパイラルが始まります。

日本の90年代のバブル崩壊過程においては、貸し倒れ損失、資産損失共に、金融セクターに集中したことが、その後の被害を拡大した要因とみられています。

今回の中国についてですが、被害の中心は、当時の日本よりも、より個人に近いところに発生するような構造に見えます。

であれば、不動産不況が中国全体の金融システムを揺るがすような事態には繋がりにくいともいえるのですが、実際のところはまだよくわかりません。

日本のバブル崩壊をイメージして過度に不安になる必要なないのかもしれませんが、楽観が禁物であることには変わりありません。

寺本名保美

(2023.08.29)



向こう見ずな正面突破

私が岸田内閣の政策の出し方に、ある種の爽快感を覚えるのは、この政権が出す政策がことごとく、次の選挙の票にも、政権の支持率にも全く貢献することなく、世論を味方につけることにも民意を窺うことにも全く興味がないように見えるからなのかもしれません。

2016年以降、世界中の政治に蔓延してきたポピュリズム的発想が、この政権には感じられません。それが意図されれたものなのか、単にセンスがなく鈍感なだけなのかはよくわかりません。

ただ、この政権の鈍感力に由るところの向う見ずな政策が、自ら変わり切れない日本社会の背中を強烈に前に押し出すきっかけをあちらこちらでばら蒔いているのは事実であるように思います。

とはいえ、この政権、いつまで持つのかは定かではありません。あっという間に地雷を踏んで消えてしまうかもしれないリスクが日々つきまとっていることは確かです。

本当に地雷を踏んでしまうまで、とことん正面突破を続ける姿勢を維持できるのなら、それはそれで立派なのかもしれませんが。

寺本名保美

(2023.08.24)



対話のシナリオ

今週金曜日に予定されている、ジャクソンホールでのパウエル議長の発言に注目が集まっています。

注目することは良いのですが、そろそろ注目すべき視点を変える必要があるのではないかと思っています。

「インフレが鎮静化しているかどうか、何故インフレが想定より長引いているのか」、ではなく、「景気に鈍化の兆しが見えるのか、どうして米国の景況感は想定以上に強いのか」に注目すべきです。

そして金融政策については、どこまで上がるのか、ではなく、低下に転じた後どこまで下がるのか、を議論する必要があるでしょう。

インフレは突発で一時的なものではなく、米国の景況感の強さは単なるコロナ禍の反動ではなく、米国の最終的な金利の落ち着きどころは想定していた2~2.5%よりも高いかもしれない、という論点について、そろそろパウエル議長も市場参加者も、事実として認める準備が必要になってきているのではないでしょうか。

今週末のパウエル議長の発言は、市場との行うべき対話のシナリオが大きく変わるきっかけになるかもしれないと思っています。

(2023.08.22)



売り材料転じて?

1週間ぶりに市場に戻ってきて、為替動向よりも中国景気の方が気になっています。

年度初に書いたシナリオの中で、今の強気な市場環境が想定外に長続きする材料として描いたのが、中国景気の低迷が深刻化し、景気回復を至上命題とする習近平政権が、短期的に欧米日への強硬姿勢を軟化させる、というものがありました。

例えば、訪日団体旅行の突然の解禁とか、小さなことではあるものの、対米・対欧それぞれに対しで、中国のアプローチが少しずつ変わってきているように見えなくもありません。

とりあえず、利下げをしたり、証券市場の規制を緩和したりと、内需へのテコ入れはしているものの、中々浮上しない中国経済。中国景気の減速は世界の減速、という構図も最近変わりつつあるようにも感じています。

どちらに転ぶにしても、当面中国経済から目を離せない展開が続きそうです。

寺本名保美

(2023.08.21)



お盆休み

今週は、月曜日火曜日と、全社お盆休暇とさせていただきます。

緊急の事案につきましては、メールにてご連絡いただけますようお願い申し上げます。

台風被害が心配されるお盆となりました。

皆様、くれぐれもお気をつけてお過ごしくださいますように。

寺本名保美

(2023.08.14)



金融株の揺らぎ

米国の中小金融機関の格下げと、イタリアの銀行課税が重なって、金融株が市場の下げを主導する展開となりました。

金融株は経済の健全性を測るランタンの様なものです。

空気の供給が多すぎれば過燃焼をするし、空気が止まれば消えてしまいます。

その間の、炎の変化を、慎重に見極めることが、金融システムを管理する当局者の責務であり、金融市場参加者にとっての、最も重要なリスク管理となります。

今はまだ、勢いが良すぎだ炎に、揺らぎが出ている程度ですが、この揺らぎが今後どのように展開していくのかは、充分に注意してみていく必要があるでしょう。

寺本名保美

(2023.08.09)



安心が欲しい??

週末、あまりの暑さと、突然の雷雨で、家に籠り、ぼんやりとテレビをつけていて、見なければよかった、と思った、国債のCM。

「投資に欲しかったのはこの安心」

なに?このキャッチフレーズ。

貯蓄から投資へ。と、国を挙げての大キャンペーンを打っている横で、国債は利回り確定で安心です、っていうCMをタレントさん使って、広告費かけて作る意味がさっぱりわからない。

安心が好きすぎる日本の家計を、安心優先から少し成長優先に視点を変えようとしている最中に、国の安心を宣伝してどうします?

金融立国という言葉が、蜃気楼の様に揺らいで見えるのは、暑さのせいでしょうか?

寺本名保美

(2023.08.07)



信用を政争の具にしてはいけない

米国国債の格下げは、やや高揚感のあった市場センチメントを幾分か冷やす効果があったようです。

フィッチが行った格下げについては、イエレン財務長官が言うように特段何か新しい材料があっての判断ではありません。
フィッチは以前から、この債務上限問題が政争化されることについては最も強く懸念を表明してきた格付け機関であるわけで、格付け判断そのものにはあまり違和感はありません。

ただ敢えていうなら、何故今なのか?という点に対する疑問についてですが、来年の大統領選とその後の新政権の出陣において、再びこの問題が政争の具とされることへの強い牽制球を投げたということなのかもしれません。

2023年の大統領選挙の候補者決定まであと1年となり、米国はいよいよ政治の季節に入ってきます。トランプ前大統領の刑事控訴も続いており、今回もまた各方面での泥仕合が始まりそうな気配が漂っています。

今回のフィッチの格下げは、且つてない政治の泥仕合が想定される中、「信用」を政争の具にしてはいけない、という当たり前のことを主張しているよう私には聞こえます。

寺本名保美

(2023.08.03)


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