2022年12月の思いつき


本年もありがとうございました

本年の事務所での営業は28日で終了させていただきます。
新年は5日から事務所営業を再開いたします。

金融市場も実体経済も、忘却の彼方にあった「インフレと金利」というものの復活に頭も体もついていけず、右往左往する一年でした。

ウクライナへのロシアの侵攻によって顕在化したグローバルな地政学リスクは、政治経済環境を根本から揺るがしています。

新型コロナウイルスとの戦い、というよりも、これからも周期的に襲ってくるであろう未知の感染症との戦いと備えは、まだまだ始まったばかりです。

新電源、インフラ、公衆衛生、軍事、育児に介護に教育、と政府支出の出し先は山積みされていて、優先順位をつけることすら難しい状況にあります。

今の環境が、極めて混沌としていることは事実です。少なくても過去10年20年程度の常識で判断すれば、大きな禍根を残すことになるかもしれません。

だからと言って、今の環境が、極めて悪いとも思っていません。経済にも投資にもインフレや金利が戻ってくることは長期的にみればマイナスではなくプラスです。
過去10年の過剰流動性とゼロ金利によって健全な企業の財務体質は強化され、この期間に潤沢なコストを掛けて醸成されたイノベーションの萌芽が開花し結実するのはこれからです。
もちろん、財務体質の脆弱な組織やあだ花として散っていく技術や組織の淘汰は激増するでしょう。でもそれもまた、経済の正常化へのワンステップでもあるのです。

投資というものは、本来こうした混沌とした環境だからこそ、躍動するものだと思っています。皆が同じことを考え、同じ投資行動をし、皆で儲かる、などという環境は投資文化や投資家のスキルを停滞させ、資本の質を劣化させます。
リーマンショック後の15年間の世界的なゼロ金利は、資本の質を劣化させてきたように感じています。

そういう意味において、2022年に起きた、様々な困難と混乱は、資本市場の劣化を止めるためには、必要な劇薬であったのかとも思います。

さて2023年。平穏とは言えないかもしれませんが、何かが始まる胎動の一年となりそうです。

本年も大変お世話になりました。
皆さまにとって健やかな新年となりますことを心よりお祈り申し上げます。

寺本名保美

(2022.12.28)



鈍感力

岸田首相を見ていると、「鈍感力」という言葉が浮かんできます。

真面目ではあるけど決断力は無さそうで、前任や前々任者と比べて熱量は低く、他人の話ばかりを聞いて自分の意見を言わない、没個性の調整型のトップだと思っていたのですが、実際の政策の出方は問答無用のトップダウン。

このギャップが、意図したものなのか、天然なのかは、わかりませんが、今この混沌とした時代の転換期における首相として、この鈍感力は必要な資質であるように思います。

国葬から始まり、原発新設に軍事費増税、そして敵地攻撃。一つ一つ国民的議論が必要な重要課題であることは確かですが、それぞれ国論を二分しかねない題材であり、議論を始めたら政策の決定は何年越しにもなりそうです。

そんな時間を掛けられないのであれば、周囲の音には耳を塞ぎ、支持率には目を瞑り、ただ自己の責任において淡々と進めていくしか無いのかもしれないとも思います。

国民としては、この時代の政策決定者として、岸田首相が、後世にわたり正しい判断ができるリーダーであったと評価されるような決断をしてくれることを期待するしかありません。

説明責任については物足りないものの、何も決められず右往左往されるよりは良かったのでは無いかと私は思います。

寺本名保美

(2022.12.26)



サプライズではあるけれど

日銀の政策決定会合、久々のサプライズとなりました。

イールドカーブコントロールの条件を0.25%から0.50%に引き上げる政策変更を受け、ドル円レートは瞬間で3円の円高に振れています。

政策金利に変更はなく、イールドカーブコントロールを止める訳でもないので、黒田日銀の政策方針が大きく変更されたわけではありませんし、0.5%という水準が実体経済に特に影響を与える水準でもありません。

とはいえ、今回の決定をベースするなら、今後インフレ動向を見ながら、まずは誘導レンジが1%近くまで引きあがり、次にイールドカーブコントロールが解除され、その後政策金利の引き上げが議論となる、という、出口に向けてのイメージを作りやすくなったのは、事実です。

黒田総裁が自ら退任を前に、一定の道筋だけはつけていく、という判断があったのかどうかはわかりませんが、私は妥当な結果だったのではないかと思います。

寺本名保美

(2022.12.20)



後追いの金融政策

昨晩のFOMCは、2023年末の推定レートが再び1%近く切り上がり、利下げに転じるのは2024年になってからで、世の中の多くの人々が正常であるとみなす2.5%近辺まで下がるには少なくても後3年は掛かりそうだ、ということをFRBの理事の皆さんが予想した、という結果となりました。

そして、この世の中の多くの人々が着地点とみなしている2.5%という水準が、3年後も変わらずに正常な着地点であるか、ということについて、少し確信が持てなくなっている理事が出てきている、ということもわかります。

結局のところ、現在のインフレ環境がまだFRBのコントロール下に入るには至らず、金融政策がインフレ環境の後追いを余儀なくされているわけで、来年以降の金融政策が今回の想定通りとなる蓋然性は、未だ極めて低いということになります。

金利のあるべき姿が見えないうちは、債券や株式のバリエーションも定まりません。
2023年の金融市場はまだまだ波乱含みになりそうです。

寺本名保美

(2022.12.15)



短期から中長期へ

今週は14日に米国FOMCが、15日にはECBの政策決定会合が開催されます。

ポイントは、今回の利上げの幅ではなく、中長期に対する政策当局者の見通しにあります。

米国についてはドットチャートで示される来年の金利のピーク、いわゆるターミナルレートが、更に引き上がるのかどうか。そして、中長期の均衡金利が従来通りの2.5%程度に維持されるかどうかです。

そして欧州については、域内での景況感格差も拡大している中において、どこまで景気後退を許容するつもりなのか、利上げの出口をどこに持っていくつもりなのかを示せるかどうかです。

それ次第では、米国金利は想定外に高止まり、欧州景気は想定外に低迷する、というリスクシナリオを市場は織り込みに行かなけれはならなくなるでしょう。

いずれにしても、目先の利幅に右往左往する段階は終了し、ここから先はより中長期のシナリオの精査をする段階に入ります。

短期のボラティリティは落ち着くものの、中長期の潜在リスクの終息にはまだまだ時間が必要です。

寺本名保美

(2022.12.11)



激震?

企業年金のスポンサーが金融庁の監督下に入ることになりそうです。

今回の件の元になったボストンコンサルティンググループによる調査意見書も読みました。

確かに、日本の企業年金の総幹事制度というものは海外からみればかなり違和感があるものであることは認めます。
総幹事制度や信託・生保の肩を持つつもりは全くありません。

ただ、だから日本の年金の資産運用利回りが悪いとか、運用が効率的ではない、と言われると、それはそれで違うのではないかとも思います。

そもそも、日本の企業年金の運用は本当に海外年金と比べて悪いのか、ということにも疑問があります。

日本は過去30年に亘り、殆どの期間において短期金利はゼロでした。年金基金の運用は短期市場から資金調達をして運用するものではありません。掛金として拠出されプールされた資金を使って運用するものです。ですから短期金利が0%と短期金利が3%とでは出発時点で既に年間3%の利回り格差が発生しています。
そして、この根雪の3%があるかないかは、その資金が取れるリスク許容度にも非常に大きな差異をもたらすため、運用における結果にもリスク許容度分だけの差異が発生します。

また、プロのCIOをアセマネ会社から派遣することもBCGは提案していますが、日本においても信託やアセマネから運用担当者を出向させるケースは幾らでも見られますし、それが健全な体制であるかはかなり疑問です。

従来から外資系のアセマネやコンサル会社からは日本の企業年金ビジネスは儲からないと言われ続けてきました。手数料の厚い複雑な金融商品には消極的で、デリバティブを使った負債ヘッジをすることもなく、プロの運用者を高いコストで招聘することもなく、低いリターンに甘んじている、と思われてきました。
でも、それは、逆に言えば、余計なコストを掛けることなく、無駄なリスクを取ることなく、堅実に運用をしてきたという証左でもあるわけです。
それも、つまりは、コストのバッファーとなる短期金利がないことに起因します。

もちろん、確定拠出における商品選択の問題や規約型確定給付企業年金における企業からの独立性の問題など、重要な指摘や課題が沢山あることは認めます。

信託生保やアセマネ業界、そして我々コンサルも含めて、企業年金周りのビジネス環境がどこかどんよりと停滞しているのも事実です。

今回の金融庁の動きが、単なる規制強化に終わってしまうなら、日本の企業年金の未来は暗澹たるものになるでしょう。規制を強化すれは、リターンが上がるというものではありません。企業側に負担が増せば、確定給付制度の維持を見直すことにも繋がりかねません。

一方で今回の流れが、過去の様々なしがらみや慣習から、スポンサーも我々業界側も解き放たれるきっかけにできれば、日本の企業年金のみならず、資産運用ビジネス全般に、大きな改革をもたらすことができるのではないかとも思います。

それぞれがそれぞれの立ち場において、どう変わらなければならないのか、我々自身も一度真剣に考えてみる時期なのかもしれません。

寺本名保美

(2022.12.06)



落ちるナイフを拾いたいなら

市場の下落局面で、「落ちるナイフは掴むな」という人もいれば、落ちるナイフを掴む勇気のある人こそ成功する、という人もいます。

ナイフが落ち切ってから手を出すのが基本ではありますが、今のように市場の展開が早い環境においては少し早めに手を出さないと買い場を逃すと思う人もいるでしょう。

落ちているナイフを掴むことの最大のデメリットは、落ちる際の痛みに耐えられず途中で手を離してしまうこと、つまり、買った後の評価損失に耐えられず、底値で売ってしまうことです。

一旦、損失を確定してしまうと、損益も心も痛んでいるので、その後の反発局面での投資行動はどうしても萎縮します。

ですから、どうしても、落ちている最中に手を出したい時は、掴んだ痛みに耐えられるように厚手の軍手を付ける、つまり損失に耐えられる十分なリスクバッファーを持ち、損失を緩和できる、と思われる、別の資産も合わせて買う、といった事前準備をしてから買うべきです。

今回の波乱相場の第一幕はそろそろ終わりそうですが、大きな波乱の後に来るニッチな市場の波乱は恐らくこれからが本番です。

主要市場より、切先が研ぎ澄まされた周辺市場のナイフを拾うには、周到な準備が必要です。

狙っている人は、今から準備を始めた方がいいかもしれません。

寺本名保美

(2022.12.02)


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