2022年09月の思いつき


米国から欧州へ

米国の10年金利が、あっという間に4%の大台に乗りそうです。

1年前、米国金利の上昇が始まった頃、市場参加者の彼方此方から「緩やかな金利」というフレーズを聞くようになり、その度に金利というものは上がる時は暴力的とも思えるような動きをするものだから甘くみてはいけない、と何度も何度も言い続けてきました。

金利には、よくも悪くも理論値があり、この理論値に向かって階段状に水準を変えるという傾向があります。

理論値のコンセンサスが無いうちは、理論値の居所を探るべく、細かな上下を繰り返しますが、一旦コンセンサスが形成された後は迷いなくその水準を目指して動きます。

当然勢い余ってオーバーシュートもしますが、それも自ずと理論値に向かって収斂していきます。

足元で、米国金利が急発進したことは、市場において漸く理論値の合意が形成されつつあることを示していて、そういう意味においては金利を巡る混乱も最終地点が見えてきたとも言えます。

一方で、心配のタネが尽きないのはやはりイギリスで、財政リスクを背景にした悪い金利上昇にステージが移ってしまうと、理論値の議論ができなくなります。

欧州大陸における地政学リスクも再び高まりつつあるようにも見えるのも気になります。

米国金利が市場のメインテーマだった時期はそろそろ終わり、視点を欧州域に集中された方が良いかもしれません。

寺本名保美

(2022.09.28)



手負いの英国

3連休を挟んだ金融市場は、米国金利が年内の4%台乗せを織り込む展開となり、英国とスイスも利上げを行い、ECBは量的引き締めの可能性を示唆し、取り残された日本は為替介入に踏み出すという波乱の展開となりました。

政治的には、ロシアがウクライナ紛争に対する国民動員を開始することを宣言し、イタリアでは懸念されていた右派連合政権が誕生するなど、こちらも波乱含みの週末となっています。

そうした中で、金融市場にとって台風の目となっているのは、英国かもしれないと思っています。

インフレ抑制の為の利上げと、減税を伴う財政拡張政策は、80年台の深刻な英国病時代のイギリスを彷彿させます。利上げによる景気鈍化を財政支出で補うはずが、財政悪化を材料にした通貨安招き、インフレを抑え込むことができずに利上げを加速させる、という究極の悪循環を英国は過去に嫌というほど経験してきたはずです。

何故、いまここで、同じ轍を踏みにいくのか。それが政府の独断なのか中銀と合意に上での政策なのか。全く理解できません。

ただでさえ首相が交代したばかりのタイミングで、国家の精神的な支柱であった女王を失った英国は、政治的にも不安定な局面を迎えています。

だからこそ、国民の信頼を繋ぎ止めるための大規模財政政策なのかもしれませんが、体力がない中での苦し紛れの政策は金融市場の恰好の草刈り場となり取返しのつかない禍根を残します。

金融市場が手負いの英国に対し、優しさを見せてくれればいいのですが。

寺本名保美

(2022.09.26)



日銀のとれる道筋は狭い

日銀の政策決定会合が開かれます。

足元の日本のインフレと金融政策というものを考えるには水準と変化と中身の3つの視点が必要だと思っています。

水準だけをみれば日本のインフレ環境はCPIでみても欧米の8~9%台からみれば日本の2.8%は三分の1程度の伸びに過ぎません。目標期待インフレとの乖離から見ても、日本は漸く期待値を上回ったところであってインフレを抑制する必然性は低いように見えます。

一方でベクトル、つまり変化の方向性という観点では、輸入インフレの影響もあり確実にインフレは進行しています。バイト時給の基本となる最低賃金もコロナ禍の昨年度を除けば2016年度以降コンスタントに3%台の伸びを続けており、深刻なデフレ期の平均1%台とは様変わりしています。この変化の方向性を放置することが将来の深刻なインフレリスクに繋がる可能性についての議論が必要です。

最後に中身の問題です。今の日本はエネルギーや素材等のエネルギー価格の上昇を起因とするコストプッシュインフレであり、金融政策によるコントロールが効きにくい状況であるとみられます。コストプッシュインフレを金利高で抑制しようとすれば、立ち上がりかけている需要の頭を押さえてしまいリセッションになる可能性が高くなります。

総合すると、今の日本の状況は間違いなくインフレであり、将来を見据えた何らかの対応は必要であるものの、水準はまだ低く対応を急ぐ必要はない。足元のインフレは海外におけるインフレの影響を強く受けており海外中銀の利上げが海外の需要を冷やしてくれれば、日本の輸入インフレも連動して沈静化に向かう。であるのなら日本は金融政策を動かすことなくじっと耐えて、投機的な円安については口先介入で時間を稼ぐしかない。

という結論が合理的なのではないかと思っているのですが、さて。

寺本名保美

(2022.09.21)



尋常ではない時代の尋常ではない国葬

英国のエリザベス女王の国葬が来週19日に執り行われます。

世界中の王族や国家代表500名が一堂に会することになります。

既に厳重な警備体制が敷かれているとはいうものの、直前まで会場には、一般国民の弔問が行われているとされており、尋常ではない人流が継続しているなかで、非常に短い準備期間での、開催となります。

イギリスにとっては、文字通り「威信を掛けた」1日となり、エリザベス女王への追悼と共に、何事もなく9月19日という日が終わることを心から祈る一日となりそうです。

それにしても、今この国際情勢において、世界のVIP500人を招待するという決断ができる英国政府の底力を見るにつけ、絶対にこの決断はできないし、しないことを潔しとするであろう我が国政府との対比に思いが行きます。

もちろんこの英国政府の決断が吉とでることを願わずにはいられないものの、近年の英国のどこか振り切れたような決断の多さに、一抹の不安も感じている三連休前です。

寺本名保美

(2022.09.16)



落ち着け

米国のCPIが市場予想を上回り、ドル円は発表後10分間で2円急騰し、金利はあがり、株式市場は急落しています。

なんだか、体力が有り余って走り回ったり転んだりする子供を見ているような金融市場です。

少し落ちつこう。市場で遊ぶな。

金利がない時代のトラックレコードは忘れましょう。自らが経験した過去には囚われず先人達の歴史には学びましょう。自分の戦略やモデルの前提条件を疑うこと。前提条件の確らしさに自信が持てなくなったら一旦撤退するという選択肢を否定しないこと。

こんなはずはない、と抵抗していると、大事なことを見落とします。

まずは、深呼吸。

寺本名保美

(2022.09.13)



結末の見えないゲーム

円安が進んでいます。

チャート的には、プラザ合意後の戻り高値である159円近辺まで行く可能性もゼロではないものの、今ひとつよくわからないのは、今の円売りが、何を着地点としているかです。

英国のポンド危機の時は、イングランド銀行がユーロ参加を諦めて終わりました。また多くの新興国での通貨危機ではドルペッグの放棄や切り下げに追い込まれて終焉しています。

今の円売りが投機的なものであるとして、日銀に何らかの闘いを挑んでいるとして、彼らの描く結末が何なのかが、さっぱり見えて来ないのです。

日銀がゼロ金利の解除を宣言することがゴールなのか?日本の長期金利が黒田総裁就任前の1%に戻ることがゴールなのか?どちらにしても、大したインパクトがある結末ではありません。

この数ヶ月、債券市場で直接空売りを仕掛けて撤退した人達が、今度は為替を使って攻めてきたという筋書きもなくはないが、どちらにしても大した話ではない。

シナリオのない単なる値ざや稼ぎなら、短期勝負での収束もあり得るので、今度は巻き戻しの円高が怖くなります。

いずれにせよ実需にとって為替の変動は上でも下でも迷惑なので、投機筋をあまり調子に乗らせない程度の抑止力を政府日銀は見せてほしいところではおります。

寺本名保美

(2022.09.07)



厳しい船出

英国の新首相はリズ・トラス氏に決まりました。

主義主張が変遷するなど様々な評価がある中、はっきりしていることは、対中国政策において強硬派であることと、財政拡張型の経済対策を約束していることでしょうか。

英国だけでなく、欧州における、過去30年に亘るロシアへの取り込み外交は、明らかな失敗に終わり、残ったのは深刻なエネルギー危機と政治不信です。

トラス氏が、対ロシアだけでなく、対中政策においても強硬姿勢を見せるのは、ロシア資源に依存しすぎた失敗を、中国経済への依存で繰り返すことへの警戒なのかもしれません。

少なくても経済活動においては親密であった中国と距離をとり、エネルギー危機からくる深刻なインフレと景気後退を財政政策で補おうとすれば、英国は再び経済基盤が脆弱な高金利通貨国に舞い戻ってしまうかもしれません。

客観的に見て、他に選択肢がないように見えるだけに、新首相の船出は、とても厳しいものになりそうな気がしています。

寺本名保美

(2022.09.06)



常態化した悪材料

事務所周辺における新型コロナの感染状況が落ち着いてきたことを受け、本日から事務所での営業時間を午後16時までに戻します。

本来の終日営業には、もう少しお時間をいただきたいと思います。

インフレや利上げやエネルギー不足や異常気象やウクライナでの原発懸念。

先が読めない材料が多すぎて、金融市場にとってはコロナ禍が過去のものになりつつあるように感じているかもしれませんが、過ぎ去った訳ではなくて単に常態化しただけです。

そういう意味では、インフレもエネルギー供給問題も異常気象もウクライナも、足元の全ての懸念材料が世界規模で常態化しているという、かつて経験したことのない環境下に直面しているということになります。

予測不可能な不確実性をリスクと呼ぶのであれば、常態化した悪材料はリスクではありません。

ただし、この常態化した均衡を、破るようなイベントが発生すれば、これら全てへの均衡に揺らぎが生じて、市場にはリスク回避の連鎖が発生します。

金融市場の水準は、債券も株式も決して割安になったとは言い難い水準を維持しています。

歴史的にみても困難な時代にいるということを、我々はもう一度認識し直す必要があるのではないかとも思っています。

寺本名保美

(2022.09.05)


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