2022年08月の思いつき


四半世紀分の愚痴

金融教育が国家戦略になるとのこと。

投資家向け教育と、金融機関向けの教育の、両建てで考えているとのこと。

金融機関向けの教育ですか。

仕組債の問題。海外資産の外部委託の問題。投資適合性原則の問題。

四半世紀前から何も変わらない。

この四半世紀、運用機関と信じられない位の時間を掛けて、こうした課題について話し合ってきた。

何年かに一回、漸く思いが伝わってきたかと思うタイミングもあったけど、気がつくと元の木阿弥、の繰り返し。

知識の問題ではない。個人の問題でもない。組織として、業界として、基本的に何かが足りない。

人材なのか。経験なのか。資金力なのか。歴史なのか。熱意なのか。

国家戦略になれば、国の力を借りれば、この業界は変わることができるのか。

結局、国の力を借りなければ、変わることはできなかったのか。

なんだか、悲しい。

寺本名保美

(2022.08.31)



FRBの覚悟のその先

ということで、FRBの覚悟が見えたジャクソンホールとなりました。

景気の維持よりもインフレ抑制を優先するという意思表明は、多くの金融市場参加者の期待に反したと同時に、IMFの期待にも背いた結果となりました。

IMFが米国金融政策に対し、性急な利上げを抑制するように主張していること、またそうした利上げ姿勢が世界のGDPを押し下げることに懸念を表明しているのは、米国経済そのものを心配しているわけではありません。

IMFという組織の立ち位置は基本的には新興国のような弱い経済の国の経済的安定とグローバルな金融システムが健全に維持されることにあります。今の米国利上げが財政状況の厳しい国に負担になること、そしてそれが将来的な金融危機の引鉄をなることをIMFは懸念しているのです。

過去を見る限りにおいて、米国の金融政策が、他国の経済事情に左右されることは殆どありません。自国経済に甚大な影響を及ぼす可能性がない限り、他国経済の破綻がFRBの方針に影響を及ぼすことはないでしょう。

95年まで続いた米国の急激な利上げによって、新興国経済が破綻したのは97年のことです。

今回のFRBの覚悟を真剣に受け止めなければならないのは、米国国内ではなく、むしろ周辺国の方なのかもしれません。

寺本名保美

(2022.08.29)



FRBの覚悟

今週末のジャクソンホールにおけるパウエル議長発言を前に市場の緊張が高まっています。

具体的な金融政策についての発言を期待しているわけではなく、FRBのインフレ鎮圧に対する覚悟が如何程のものなのか、を読み取りたいのです。

今の金融市場は、景気を犠牲にしたインフレファクターとなることをFRBが選択するとは思っていません。今年11月には中間選挙があり、その結果如何を問わず2年後の大統領選挙に向けてのラストスパートとなるこの時期に、リセッション覚悟の利上げなど続くわけがないと考えています。

一方でFRBの発言からは、インフレ抑制と緩やかな経済成長は両立する、いわゆるソフトランディングは可能であるというスタンスを基に利上げを継続するという主張が読み取れます。

ソフトランディングシナリオというものは、政策当局としてはどのような環境であろうと下ろすことのできない錦の御旗のようなものなので、今のFRBのソフトランディング発言を額面通り解釈することはできません。

FRBはどこかのタイミングで、インフレと景気のどちらを優先するのかを明確にしなければいけない時が到来します。

政治的にいうならば、今の米国にとって、インフレ抑制とリセッション回避のどちらが世論を味方にできるのか、という話でもあります。

週末のジャクソンホールでの講演がその時なのか、9月のFOMCがその時なのか、もっと先まで引き延ばすのかはわかりませんが、それがはっきりした時、漸く今回のインフレ騒動の結末のシナリオを描くことができるようになるのではないかと思っています。

寺本名保美

(2022.08.24)



療養って何?

岸田首相が新型コロナに感染されました。それ自体はどうという話ではありません。

問題は、その後の対応で、「療養期間中も日ごろと同様の業務遂行を可能とし国政に支障をきたさないよう対応していく」と表明したことです。

実際、私の周辺でも、テレワーク対応が可能であることから、療養期間中に会議に参加している人は沢山います。中には青い顔をして咳込みながら画面の向こうに映っている人もいます。

感染症の療養休暇中に、業務に就くなどということが当たり前に行われていることに、酷く違和感を持っていたところに、首相も当たり前のように日頃と同様の業務、と言ってしまったことに、正直驚いています。

これは単に新型コロナだけの問題ではなく、テレワークという業務体制における病欠の取り難さや労働環境の維持の難しさなど、広範な問題の端緒になる事象です。

国のトップが、コロナに罹っても通常業務、と言ってしまったことは、とても重いことだと思います。

病をおしてでも働く美徳などは、少なくても平成という時代に捨ててきたはずです。

昭和が過去になるのには、まだまだ長い時間がかかりそうです。

寺本名保美

(2022.08.22)



FRBと賃金

米国が2009年の金融危機以降、金融政策を正常化するのに2015年の12月まで約7年もの月日が掛かったのには、南欧危機という別の金融危機が起きたこともありますが、最大の理由は雇用環境の正常化に時間が掛かったことにあります。

景気は良いにも拘わらず賃金が上がらない、所謂雇用の質が改善しなかったことが、イエレン議長に利上げを思いとどまらせてきました。

今回は、その逆で、景気はそれほど良くないにも拘わらず、雇用環境が逼迫し賃金の上昇が止まらないことで、パウエル議長は市場予想を上回る利上げに踏み切ることになっています。

当時イエレン議長がこの謎に囚われて、結果的に金融引締めのタイミングが遅れたように、今度はパウエル議長がこの謎に嵌って金融引締めを終わらせるタイミングを逸することになるのかもしれません。

この雇用の謎を解くカギを移民労働者の動向に起因させる論調もありますが、色々な意見があってはっきりしたことはわかりません。

FRBが伝統的に執着する雇用環境に今何が起きているのか。

今回のインフレ議論の終着点を探るには、米国の雇用環境の分析が不可欠の様に思います。

寺本名保美

(2022.08.17)



暑中お見舞い申し上げます。

全国各地で洪水の被害が後を絶たない夏となりました。誰に文句を言うこともできない天災での被害は、肉体的・経済的のみならず、精神的にも負担の大きいものであると推察いたします。被害を受けられた地域、また現在危険情報が出されている地域の皆様、くれぐれもご自愛いただけますようお祈り申し上げます。

足元で発表されている米国の企業業績は思いのほか好調だと言われています。

金利上昇は確かに消費者心理を冷やすかもしれませんが、実際の企業業績に影響を与えなければ、インフレの元となっている労働市場の逼迫は緩和されません。

金利上昇がリセッションを招きFRBの金利上昇を抑制する、というFRBプットシナリオに過度に期待するのは危険なのではないかと感じています。

フォワードガイダンスを止めた各国中銀の方針は、疑心暗鬼の塊となった市場のボラティリティを引き上げています。

今晩の米国CPI。できることならあまり一喜一憂せず、無駄にボラティリティを上げずに通過してもらいたいと願っています。

酷暑の夏。
市場参加者にはかき氷でも食べながら、少し頭を冷やす時間が必要なのかもしれません。

ということで、弊社は明日11日から来週16日火曜日までお盆休みをいただきます。

平和と健康に思いを寄せながら、リフレッシュしたいと思います。

寺本名保美

(2022.08.10)



忘れたころの人災

ロシアがウクライナに侵攻してから5か月が経ちました。

まだ5か月しか経っていないのか、と思うのは、この5か月が世界に与えてきた変化があまりも大きかったからなのかもしれません。

状況があまりにも想像を絶した展開となったことで、紛争や破壊や戦争といった状況に我々も金融市場も若干慣れが出てきていることに不安を覚えます。

例えば、台湾周辺域での中国の軍事演習やそれによる日本のEEZ内への着弾についても、今日の株式市場では全く材料になっていませんし、ウクライナの欧州最大の原子力発電所に着弾したとの報道への反応も3月の同様の状況と比べれば話題にすらされていません。

問題は、こうした事態が、本当に聞き流してよい材料であるのか、それとも単なる慣れで反応が鈍くなっているだけなのかすら、判断がつかなくなっているところにあって、これは金融市場に限定される話ではなく、我々の生活そのもののリスクに係る話でもあります。

もちろん、コロナ禍もあり、インフレもあり、考えなければならないことが山積みではあるのですが、基本的な警戒心については慣れてはいけないと思います。

忘れたころにやってくるのは天災ばかりではありません。

寺本名保美

(2022.08.08)



真面目社会の欠点

皆が一生懸命になればなるほど、あらゆるシステムがオーバーフローを起こし、社会全体が収拾のつかない状況に陥っている今の日本。

今回の事象が示唆している日本社会の脆弱性について、それぞれの立場で本当に真剣に考える必要がありそうです。

コロナでの自宅療養者を入院扱いとして入院給付金を支払うことにした生命保険業界の決断と、その後に発生している膨大な事務作業については賞賛されこそあれ非難されるべきものではありません。
会食や集会に参加する前後の抗原検査も社会を動かすルールとしては正しいのでしょうし、旅行の前のPCRも大事でしょう。
でも、そのために、無症状でも軽症でも医療機関に陽性証明を求める列ができ、健康な人々が検査資源に殺到することで、本当に必要な感染者に資源が行き渡らず、こうした命に関わらない諸々の問い合わせや苦情が保健所に向かっている現状。

近くの内科の玄関には、「咳鼻水喉の痛み等少しでも風邪症状のある方の診察はお断りします。ご理解ください」との張り紙が出され、理解しないとは言わないけれど、やっぱり釈然としない。

各組織や各個人、それぞれの自主性に依存してきたシステムは、各々が真面目に対応しているからこそ、暴力的に拡大する数を前にして、崩壊を始めています。

今回の第七波。日本社会に何か取り返しのつかない深い傷跡を残すような気がしてなりません。

寺本名保美

(2022.08.04)



過激な政権

米国のナンバースリーであるペロシ米下院議長が台湾に入国する可能性で、今日のアジア市場はリスクオフとなりました。

中国では共産党大会が、米国では中間選挙が控えているこの時期は、米中共に強硬外交になりやすいタイミングではあることから、台湾海域での地政学リスクが一時的に高まることはある程度は想定内のことではあります。

とはいえ、今回アメリカが自ら仕掛けに行ったように見えることが、なんとなくロシアのウクライナ侵攻前の雰囲気を彷彿させて、少し嫌な感じがしています。

バイデン政権は、見た目と違って、内政外政問わず過激な政策を展開しています。今のところその過激さが功を奏したとは言えないのですが、劣勢を噂される中間選挙前に一勝負出てきたように見えないでもありません。

大事にはならないとは思いますが、今後の展開には要注意です。

寺本名保美

(2022.08.02)



プラットフォーマービジネスの曲がり角?

旧Facebook、現在のメタの業績の「伸び」が、上場来初めてマイナスとなったことが、この数年の大手ネット景気の終わりの始まりなのではないかと危惧する声が聞かれます。

増収増益という使命を持った成長株市場の牽引役としては、物足りない結果だったのかもしれませんが、大手ネット企業がもはや新興の成長産業ではなく、生活者と密接した基幹産業として安定した経営基盤が求められているステージに入ってきているとするならば、成長株からの卒業もあってしかるべしなのかもしれません。

そもそもFacebookは、昨年のアップルによるトラッキング公告規制を受けて、主要な収入源である広告ビジネスが大きな曲がり角に差し掛かっていました。株価も大きく下落しビジネスモデルそのものへの懸念も出てきていたタイミングで、突然主戦場をメタバースにすると宣言したのです。

このザッカーバーグ氏のメタバース宣言が、世界のメタバースビジネスへの号砲となったことは間違いないのですが、その中心に旧Facebookがいると思っていたのはザッカーバーグ氏だけだったかもしれず、それが今回の決算に反映されたともいえそうです。

というわけで、旧Facebookの業績ショックを、あまり業界全体に拡大解釈させない方がよいような気がしていますし、そろそろプラットフォーマーの世代交代や統廃合が起きてもよい時期なのではないかとも思っています。

我々の生活基盤そのものとなっているITプラットフォーマーについては今後は通信キャリアのように成長よりも安定が求められるようになるのかもしれません。

寺本名保美

(2022.08.01)


build by phk-imgdiary Ver.1.22