2022年04月の思いつき


未公開化という選択

Twitterの未公開化が決まりました。

PEファンドによるTXUというエネルギー会社の買収以来となる、時価総額400億ドル規模の未公開企業が誕生することになります。

2018年に未公開化の話題が出た時のテスラの時価総額が700億ドル規模だったので、それと比べれば小さいものの、史上最大規模の未公開案件であることは間違いありません。

Twitter というSNSプラットフォームが、未公開化することの社会的課題も注目点ではありますが、株式市場的にみるならテスラという時価総額1兆ドル企業のCEOが、別の事業とはいえ、未公開化を指向しているということに、重大な意味があるように思えます。

少なくても米国においては、もはや上場企業であることに社会的ステータスはなく、ファンドがエクイティのみならずデッドやローンも提供することができるようになり資金調達面での上場の意義も薄れています。

一方で上場であることでの社会的責任や、情報公開に対応するための経営負担は益々重く、不特定多数を株主とすることによるデメリットを感じている経営者は少なくありません。

今回イーロンマスク氏が株式市場に対し仕掛けてきた未公開化戦略は、今後の展開次第ではあるものの、世界の上場株式市場そのものを根底から揺るがす程の影響を与える可能性もあります。

上場区分が企業の社会的信用に影響を与えるなどというような議論をしているかの国とは、だいぶスケールが違います。

寺本名保美

(2022.04.27)



フランス大統領というもの

今回も、フランス国民の合理性に、世界は救われたのかもしれません。

2016年の英国ブレグジットと米国の大統領選挙において、国民による直接選挙の怖さを目の当たりにした世界にとって、2017年のフランス大統領の結果は意外でもあり、救いでもありました。

国民による直接選挙で国家元首を選らぶ「実質的な」大統領制を選択しているのは主要国ではフランスのみで、一回目の投票率が悪くても7割を超すという数値をみてもこの国の国民の政治的な成熟度の高さが見て取れます。

サルコジ以降はやや小粒になりましたが、フランス大統領はジスカール・デスタンがサミットの開催を主導し、ミッテランがマーストリヒト条約の締結に尽力し、シラクが2003年の米国によるイラク戦争に反対の意識を表明するなど、国内のみならず国際政治の枠組みに大きな影響を与えてきた歴史があります。

何れも国内の経済的発展にはあまり功績がみられないのが玉に瑕ではありますが、それはフランス国民が政治に対し求めていることが経済成長ではなかったからなのかもしれません。

メルケル首相引退後、名実ともに欧州の盟主を担うことになったマクロン大統領が、この困難な政治情勢において、欧州大陸をソフトランディングさせ再びフランス大統領の名を歴史に残すことを心から期待しています。

寺本名保美

(2022.04.25)



損失のスパイラル

世界的な物資の高騰、エネルギー価格の高騰に起因する電力不足、想定以上のインフレに対応した米国金利の急伸とドル高。
スリランカのような基礎体力の弱い国にとっては、悪夢のような外的環境が新興国を襲っています。

今はスリランカがクローズアップされていますが、資源の輸出国でない限り、ドル建て負債を抱える国にとっては、似たり寄ったりの環境で、ここで万が一スリランカがデフォルトを宣言することになれば、債務危機がへの警戒が世界各地に広範に伝播することになるでしょう。

新興国市場における損失が招く資金フローの変化は、本質的には関係のない他の市場価格にも影響を与えることになります。

ファンダメンタルズの強い国と、弱い国とのパフォーマンス格差は拡大し、パフォーマンスが悪い国からは更に資金が流出するという悪循環に陥ります。

また、ファンダメンタルズの弱い国の内政への影響も深刻さを増すでしょう。

インフレと金利高が、損失のスパイラスの入り口になる可能性について注視する必要がありそうです。

寺本名保美

(2022.04.20)



イーロン•マスク氏に見えているもの

イーロン・マスク氏が、TwitterにTOBをかけ、非上場化を目指すと宣言しました。

テスラのCEOとして有名なマスク氏ではありますが、元々はPayPalの元となるシステムを開発するなど、ソフトウェア開発で財を成した人です。

技術的には未知数であったテスラに目を付け、経営的には大成功を収めたように、この人の未来を掴む慧眼とビジネスセンスには、卓越したものがあります。

そのマスク氏が、非上場化させたTwitterの先に、何を見ているのかは、とても興味をそそられます。

言われているような、どこの政府からも干渉されない完全に自由な言論プラットフォームを目指しているとするなら、それは単に上場を廃止したからと言って実現できるものではありません。プライベートカンパニーとして自らの手中に収めた後、更に驚くような仕掛けを考えているのかもしれません。

逆に政府側からすれば、世界最大の言論プラットフォームが、一企業を飛び越え、一個人の手中に収まることなど、到底認められるわけもなく、今は既存株主、既存経営者との戦いのように見える買収劇は、早晩各国政府とマスク氏の戦いに転化していくことになるのでしょう。

ビジネスモデル的にはやや閉塞感が漂っていた、SNSビジネスではありますが、マスク氏の参戦で、大きく展開が変わっていくかもしれません。

寺本名保の

(2022.04.17)



オーバーシュートはまだ先

昨年金利上昇が始まった頃、運用機関が出す見通しの殆どに「緩やかな金利上昇」という文言が含まれていました。
その度に、金利には「緩やかな上昇」という概念はない。あるのは「急激な上昇とオーバーシュート」。だと、言い続けてきました。

金利というものは株式に比べて理論値のコンセンサスが取りやすい市場であるのは確かです。
各国の潜在成長率や期待インフレ率から、あるべき金利水準というものを理論的に導くことは可能です。

だからといって、そのコンセンサスに向かって、市場価格が理論的且つ理性的に形成されていくわけではありません。
株式市場の様に個別企業業績というミクロファクターがないので、流れが一方方向になりやすく、普段はないはずのボラティリティが発生することによる損失の連鎖も起きやすいのが債券市場というものです。

最終的にはオーバーシュート後の揺り戻しを何度か繰り返しながら、その時の経済環境と整合性の取れる理論的な水準を探して落ち着いていくことになります。

さて、米国長期金利の2.75%。FOMCで想定された政策金利の中心地まで到達しました。最終的な落ち着きどころとしては良い線まで来ているかもしれないと思いつつ、まだまだオーバーシュートの域には達していません。

時に暴力的な価格変動を伴う債券市場。もう少し身構えておく必要がありそうです。

寺本名保美

(2022.04.13)



フランス国民の良識の重さ

フランス大統領選挙。
一時期圧倒的に優勢と報じられていたマクロン候補が、極右のルペン候補に追い上げられる展開となっています。

今回のフランス大統領選挙の行方は、今後の欧州社会の方向性を占う上で重要な意味を持つと考えます。

欧州大陸で行われたロシアによる一方的な軍事侵攻は、欧州各国の政治だけでなく国民一人一人に衝撃を与えました。その衝撃の大きさから人々の心はまずは非常に強いロシアへの怒りやウクライナへの悲しみに支配されました。

この局面においては、ロシアやウクライナ問題に対し強いリーダーシップを発揮している現職のマクロン大統領が圧倒的に有利であったはずです。

ところがその後、事態が長期化するにあたり、気持ちの昂りが徐々に収まってくると、今度は自らの生活への影響に思いが巡るようになります。

エネルギー価格の高騰を始めとする物価の高騰や移民問題等、これまではロシアへの嫌悪やウクライナへの同情に覆い隠されていた、自らの生活に密着した不安や不満が顕在化してきたことが、極右のルペン候補にとって強力な追い風になっています。

フランスだけでなく、どこの国においても、早晩こうした民意の揺り戻しに政治が窮する局面がくることになります。

それでも現代に生きる人々は「民主主義と国際協調」という第二次世界大戦以降の大義に拘る政治というものを、最終的には選択する良識を持っているのだ、ということを今回のフランス大統領選挙が示すことができるかどうかです。

2017年春のフランス大統領でのマクロン大統領の勝利は、2016年春のブレグジットから始まり秋のトランプ大統領の誕生と世界の政治において濁流と化していたポピュリズムの波を鎮めることに大きく貢献しました。

今回のフランス大統領選挙が万が一、自国第一主義のポピュリズム政治に戻る結果になってしまうことがあれば、欧州だけでなく欧米全体のの政治体制に大きな衝撃を与えることになるでしょう。

フランス国民の良識が、今回もまた健全であることを信じています。

寺本名保美

(2022.04.11)



赤信号みんなで渡れば怖くない

最近、世間で突如盛り上がっている、円安悪玉論。

日本経済にとって、円安が良い事ばかりでは無い、ということを知る事は必要だと思うものの、それを国力と無理矢理結びつけた自虐的な解説が跋扈しているのを見聞きするのは、少々気分が悪いです。

日銀の金融政策については、私も正常化を急いだ方が良いと思っていますが、その理由は足下の円安を止めるためではなく、将来的な深刻な円高リスクを回避するためです。

足下の原材料価格の高騰を背景としたインフレは、各国共通の課題であり、早晩どこの国の政策金利も上昇に転じます。

各国と同じ周期で金融政策を動かしていれば、金融政策が為替市場に与える影響は限定的となるものの、日本だけがその周期から外れてしまうことで、日本の金融政策の変更が為替相場に対し甚大なボラティリティ要因となる可能性があります。

日本が周回遅れで金利引き締めに転じたタイミングが、利上げを先行した国々の景気後退にぶつかってしまえば、円は主要通貨に対して急騰し、輸出産業は輸出先の消費減速と円高が重なり深刻なダメージを受ける事になるでしょう。

また、その頃には、流石にコロナ禍も落ち着いてくるはずで、漸く海外旅行者を受け入れられる体制になったものの、深刻な円高が旅行者の財布の紐を固く閉じてしまうかもしれません。

経済にとって大切なのは、為替のボラティリティが抑制されている事で、極端な円安も極端な円高も、どちらも好ましくはありません。

であるなら、やはり大切なことは、金融政策変更のタイミングを、主要国から大きく乖離させないことです。

赤信号みんなで渡れば怖くない、という言葉は、こういう時に使うものです。

寺本名保美

(2022.04.06)



終わりの始まり?

東京証券取引所の上場株式における新区分がスタートしました。

途中経過だけでなく、スタート後の経過においても、かなり混乱した印象を残すものとなりました。

ただ、この混乱の原因や、この混乱した内容に対処することによって、企業も投資家も運用会社も銀行も証券もそして取引所も、「上場」の意味や「指数」の意味について、改めて考え直す良い機会になるのではないかとも思っています。

それぞれの立場によって「上場」が持つ意味は異なります。

「指数」というものに求められるのは再現可能な客観性なのか、投資における効率性なのかも立場によって変わるでしょう。

そして「取引所」にとっての指数算出は、プラットフォーマーとしての義務なのか、それとも将来的な利益の源泉なのでしょうか。

逆にいうなら、こうした議論がを煮詰めることなく、市場改革をしようとしたからこその混乱であったのだと思います。

これから先、「上場」も「指数投資」も「取引所」も、その存在意義そのものが問われる時代は直ぐそこに来ています。

今回の市場改革が日本の資本市場のあり方を根底から揺さぶるきっかけになればよいのですが。

寺本名保美

(2022.04.04)



新たな10年の始まり

波乱万丈すぎて、何が起きたかを思い出すことすら難しい2021年度が終わりました。

閉めてみれば、未曽有の量的緩和効果がセイフティネットとなり、金融市場全体では然程の痛みを感じることなく、期末を迎えることができました。

とはいえ、1-3月の米国10年債券の利回り上昇は、統計上の3標準偏差を超えるものとなり、盤石であったセイフティネットの綻びを意識せざるを得ない展開となっています。

さて2022年度。

1990年台後半以来の、本格的なインフレとタイトニングがスタートすることになりそうです。

それに加えて、地政学リスクとエネルギー危機やロシアの破綻と新興国市場の金融危機。

低成長を言われながらも平穏だった過去10年のゴルディロックスとは程遠い10年が始まりそうです。

身を引き締めて荒野を進む心境の新年度です。

寺本名保美

(2022.04.01)


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