2021年12月の思いつき


今年もありがとうございました

本年の営業は本日までとなります。

2年前、コロナ禍が始まり、長くて2年と思っていたにも関わらず、未だ先の見えない年末を迎えていることに愕然とします。

この2年、かつてなく傷んだ社会が有形無形で負担した各種のコストは、少なくても金融市場においては今のところ全く負担していません。

痛みといえば、金利が消滅したことぐらいでしょうか。

さて2022年。この2年で溜まりにたまったツケが、徐々に回収されていくことを考えていかなければならないと思っています。

コストを世界でつけ回す中で、国内外でのいがみ合いも増えてくることになるでしょう。

SDGsと謳いながら、世界中で緊張が日々増す社会に突入しています。

視界を広く持ち、他者にやさしく寛容な世界になって欲しいと切実に思います。

本年も大変お世話になりました。

2021年が皆様にとって、平穏な一年となりますことを心よりお祈り申し上げます。

寺本名保美

(2021.12.27)



ユーロと円

欧州委員会が、新型コロナ復興基金の返済財源について、具体的な財源案を提示しました。

CO2の排出量取引に関わる税、国境炭素税、多国籍企業税、などの一部を、復興基金の返済のために発行するEU協同債の償還財源に当てるという案です。

これが、フランスやイタリアというような単独の国で出された復興資金ではなく、EUという多国籍複合体だからこそ、このような財政規律の話を明確に議論することができるわけで、そういう意味では、EU協同債というものはとても健全な債券であるように思います。

今回EU諸国がこの財源案で合意できるかどうかはまだ不透明ではありますが、今回財源の調達方法を固めることができれば、今後再び同様の事象が起きたときの対応の幅が広がりますし、ユーロの信任にも繋がることになるでしょう。

コロナ支援による政府債務は膨れ上がっているのは日本も同様です。東日本大震災の時は、復興支援税が設定されましたが、今回はまだそういった話は聞こえてきません。

早々に財源の議論が始まったEUとの対比をしてしまうなら、財源議論ができない日本において、膨張した政府債務のリセットの見込みが立たないまま、次の災難への対応をしなければならなくなります。

米国のように、異常なほど強い企業セクターによる税収増を当てにできるわけでもないので、日本の負債はいつまでも根雪のように溶けずに積もり続けるのです。

ドル円ユーロと並べると、今はまだユーロが最弱通貨に見えますが、この順番も維持できるかどうか怪しくなってきました。

黒田日銀総裁が、今の日本の個人消費にとって、円安は望ましくないと発言していますが、世界の円に対する評価をここから上げていくのは中々難しそうに思えます。

寺本名保美

(2021.12.24)



ちょっと不安

タカ派の米国に背中を押された英国が利上げに転じ、欧州はコロナ対策の金融支援の終了を宣言し、日銀も2022年3月末を期限としているコロナ禍対応の金融支援を一部を残して予定通り終了することを宣言することで控えめながらも緊急支援体制の終了を宣言するに至りました。

一方で、中国での利下げは、中国の景気減速を中国政府が国内外に認めたと市場で受け止められました。

欧米日の金融の正常化プロセスの開始と中国経済の減速、それにオミクロン株による英国での警戒宣言やオランダでの再ロックダウンが重なった中でのクリスマス休暇入りは、強気な米国株参加者にとってもあまり楽しくないものになりそうです。

地政学的なきな臭さも漂い、長引くコロナ禍で各国の人心の不安定さは増し、天災・人災を問わず災いの種も多くなりそうな年末相場です。

寺本名保美

(2021.12.20)



米国はよくても他は困る

「現時点での真のリスクは、インフレがより持続的なものになることだと考える」

という言葉と共に、FRBはテーパリングのスピードを上げることを決定し、来年中に複数回の利上げを行うことを示唆しました。

このタカ派的な取り組みに対し、債券利回りは低下し、株式市場は上昇する、という反応を市場がしたことは、市場参加者もパウエル議長と同様に、足元のインフレが定着してしまうことに対する懸念を共有していたからだとみることができそうです。

パウエル議長による、当面の米国経済の強さを確信したからこそのタカ派発言に対し、自国経済の先行きにそれほど自信が持てずにいる英国や欧州や日本の金融当局にとって、足元のインフレへの対処は米国ほど簡単ではありません。

米国の利上げトレンドが、他の主要国に伝播することになるのであれば、2022年の金融市場の先行きは、少し怪しくなるかもしれません。

寺本名保美

(2021.12.16)



やれば出来るんです

トヨタが2030年までのEV車の生産台数を200万台から350万台に上方修正するとの記者会見を受け、EVに消極的だと思われていたトヨタ株が急騰しました。

豊田社長の「これまでのトヨタのEVは好きではなかったけれど、これからのEVは好きだ」という発言には、「私、やっていなかっただけで、やれば出来る子なので」という雰囲気が醸し出されているところに、未だ素直に乗ることができないEV化の波への抵抗が見え隠れします。

時代の先端を行く力も財力もありながら、結局のところ外堀を埋められなければ動かないトヨタを見ていると、正に日本の縮図そのもののように思えてなりません。

そして、豊田社長がかねてから指摘している、従来の自動車生産を支えてきた巨大な労働人口の再配分が、新たな成長戦略にとっての大きな課題であることもまた、日本の縮図そのものです。

この子、地あたまは良いんです。やれば出来る子なんです。ただ色々考えすぎてしまって行動に結び付かないだけなんです。

なんて言い訳を言っている内に、友達の背中さえ見えなくなってしまうことにならなければいいのですが。

寺本名保美

(2021.12.15)



景気が先か物価が先か

今週は各国の金融政策決定会合が集中します。

15日に米国のFOMC、16日は英国のBOE、同日にECB、そして17日には日銀の政策決定会合があります。

先週の米国の消費者物価指数は、コアもノンコアも、フレキシブルと呼ばれる変動制の高い指標も、スティッキーと呼ばれる変動制の低い指標も、どの切り口でみてもあきらかに高く、とても一時的であるという文言をつけられる内容ではありませんでした。

米国の物価上昇が一時的でないとするなら、英国や欧州のインフレも一時的ではないわけで、各国中銀が金融緩和を継続する理由として、「一時的な物価上昇」を使うことは難しくなりそうです。

米国のパウエル議長が、このところ利上げに積極的だと思える発言をする一方で、利上げを先行すると思われてきた英国や欧州が慎重な発言を維持している背景には、各国の景況感に対する見通しの違いがありそうです。

デジタルサービスの企業業績の好調さを背景に、景況感の強い米国にとっては、ここでインフレの芽を摘むことで景気の持続性を確保したいし、観光業や中国経済への依存度のやや高い英欧からすればここで景気の立ち上がりの芽を摘んでしまうことは避けたいところです。

各国の景況感に格差が出始めている中、各国中銀の思惑に明らかな温度差が出てくるようであれば、金融市場にとっては波乱の種となります。

日銀については「不動の4番打者」。各国が出塁してからの出番ということになりそうです。

寺本名保美

(2021.12.13)



パンデミックと生きる社会

2003年のSARS・2009年の新型インフルエンザ・2015年のMARS・2020年の新型コロナ。

こうしてみると、新型の感染症の脅威は思ったよりも短くて、コロナの変異種に翻弄されている内に、次の感染症リスクが迫ってきているのかもしれないと思っています。

今回の新型コロナで使用されたmRNAワクチンは、既に第一世代ワクチンと称されていて、これからはウイルスの変異に対応できるタイプの新世代ワクチンの開発にもっと多くの資金を振り向けるべきだとWHOなどの公衆衛生団体は主張しています。

恐らくこれはワクチンに限った話ではなくて、パンデミックに対応する為の社会的コストの話の話でもあって、今回のコロナパンデミックの遠因は、SARS以降の国際社会がパンデミックへの準備を怠ったからだという感染症の専門家達の主張に繋がるものでもあります。

今はまだ、多くの人々が「新型コロナという災難」が一時的なものであることを前提にしたアフターコロナの社会生活を描いていますが、政治や経営という視点においては感染症パンデミックというものが他の災害と同様、「度々繰り返す災害」であるということを前提に考えていかなければならないのでしょう。

コロナ禍において、異常な程の急騰を続けているデジタルサービス関連株を見ていると、パンデミックと共に生きる社会の姿を見せられているような気分にもなり、あまり楽しい気分にはなれないでいます。

寺本名保美

(2021.12.09)



上場市場の分断

中国の滴滴出行(ディディ)が米国での上場廃止を発表しました。
元々、中国当局の許可を受けずにNYSEでの上場準備を行ったことで、当局から厳しい警告を受けていたため、この企業の上場廃止については想定された出来事ではあります。

一方で米国においても、中国企業の米国上場に際して、政府の関与や監査の適正などを精査する動きが高まっており、中国企業の米国市場での上場については、中国・米国双方からの規制強化の中で厳しい状況に置かれています。

中国政府からすれば、実力のある優良企業の上場を米国から香港を含めた中国市場に移すことで、世界の投資資金を中国市場に誘導することができます。

中国企業側からすれば、中国国内市場であっても上場資金が十分に調達できるのであれば、敢えて監査基準の厳しい米国上場を目指す必要はないとも言えます。

結果として、現在世界のハイテク市場を二分する、米国企業と中国企業とが、今後は株式市場においても基準の異なる上場市場に分断されることになり、米中のハイテク問題はいよいよ金融市場を巻き込んだ勢力争いへと拡大し始めたといえます。


寺本名保美

(2021.12.07)



日本株と低ベータ戦略

コロナショックを挟んでこの2-3年、株式の低ベータ戦略の不振が続いています。

市場の上昇局面で出遅れている、という意味だけでなく、下落した期間においても、市場を下回る頻度が多くなっています。

ファンドによって原因は異なる部分もありますが、ザックリ言ってしまえば、この数年の上昇相場は総じてハイテク主導のハイベータ相場で、下落局面はコロナショックなどによる市場全体が下落するショック相場だったことが、戦略が機能しなかった主因であると思われます。

上がる時は銘柄選択で出遅れて、下がる局面は先物主導で全面安となるので低ベータ効果が効かない、という局面の繰り返しでした。

上昇局面で出遅れて、下降局面では人並に下がる。これ、日本株が世界市場から出遅れている理由と同じです。

確かに、グローバルな低ベータ戦略には日本株の組み入れ比率が多い。

日本株も低ベータ戦略も、このままでは世の中から見捨てられてしまいそうです。

寺本名保美

(2021.12.03)



オミクロンとインフレ

世界の金融市場が新たな変異種に怯える中、それでも敢えてFRB議長がインフレの見通しに対し「一時的ではなくなった」と踏み込んだ発言をしたことに、今のインフレ構造の難しさを感じます。

感染拡大で生産活動が悪化すれば、インフレ懸念は無くなって、テーパリングは先延ばしされる、というのが、ついこの間までの市場の反応でしたが、その反応が間違っているかもしれないことを、パウエル発言は示唆しています。

今のインフレの原因となったのは、資源の採掘現場や、積み出しの港湾作業や、製造ラインの頭にある部品工場のラインといった、新興国に依存しているサプライチェーンでの停滞です。

新たな感染拡大が、ワクチン接種の進む先進国ではある程度制御できたとしても、サプライチェーンの出発点にある新興諸国の経済活動が止まってしまえば、今のインフレ状況はむしろ悪化することになります。

オミクロンも心配ではありますが、本当の懸念はインフレの本格化にあるのかもしれないと思っています。

寺本名保美

(2021.12.01)


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