2021年11月の思いつき


武装して迎えるオミクロン

オミクロンと名付けられた、今回の変異種。

この変異種が、これから社会に与えるダメージがどの程度のものになるかが、これから数年の世界経済の動向を大きく左右することになるかもしれません。

何の準備もない中で急拡大した第一波において、社会は活動を停止することでしかウィルスに対抗する術はありませんでした。

ワクチンという防具を手に入れた後のデルタ株の拡大を受けて、社会はコロナと共生しながらの活動を試みるに至りました。

そして、我々は、今回ワクチンという防具に身を固め、経口治療薬という武器を携えて、オミクロン株に対峙することになります。

万が一、この結果が、再び古典的なロックダウンという手法に頼らなければならないことになるとしたなら、ワクチン開発以来出口が見えてきたと信じて進んできた社会活動は一気に振り出しに戻されることになります。

おそらく、そうなった場合の、株式市場における落胆は、2020年3月の第一波の時以上の混乱を引き起こすことになるかもしれません。

そろそろ欧米市場はクリスマス休暇を意識したポジション調整の時期を迎えます。

参加者が薄い中での波瀾相場は、時として思いもかけないショックを引き起こします。警戒が必要です。

寺本名保美

(2021.11.29)



産油国ではなかったの?

為替の協調介入とか、協調利下げとかは、聞いたことがありますが、原油備蓄の協調放出というのは初めて聞く話しです。

効果があるかどうかはさておき、今回のバイデン大統領の発言で一番驚いたのは、世界一の産油国になったはずの米国が、いつのまにか消費国の代表になっていたことです。

今の原油高は、米国のシェールオイルの増産で解決するだろう、というのが、大方の見方であったわけですが、そんな中での協調放出は、もしかするとバイデン大統領は米国の産油国化を本気で見直そうとしているのではないかと、勘ぐりたくなります。

旧来の、OPECが原油の価格統制力を失って、原油価格の急落を招いたのは、明らかに米国の産油国化が原因です。

その米国が本気で、石油産業から撤退をするのであれば、この10年で起きた、石油業界の均衡が再び大きく変わることになるでしょう。

今回の唐突な備蓄放出から、バイデン大統領の非石化戦略本気度を垣間見れたような気がして、原油市場の先行きは、まだまだ波瀾含みの展開となりそうです。


寺本名保美

(2021.11.24)



トップセールスのセンスのなさ

政府というものの役割の一つに、諸外国に対し自国の製品やサービスを宣伝するトップセールスというものがあります。

営業活動において何よりも大切なのは、日ごろからの情報発信であり、顧客とのビジョンの共有化であることは、国であっても民間の営業であっても変わりません。

今回、55兆円に上る補正予算案を見ていて、この巨額予算でこの国の政府は対外的に何をアピールしようとしているのだろうか、と考えてしまいました。

予算というのは、その国の政府の意思を端的に表すものです。米国の予算案次第で世界の株式市場の個別銘柄の値段が左右されるように、その国の目指すビジョンを資本市場が理解するには絶好の材料となります。

何よりも残念なのは「新しい資本主義の起動」の中身が空っぽだったことです。ここにビジョンが見えなければ、海外の投資家も事業家も、日本に未来に何を期待して投資をすればいいのか全くわかりません。

ばら蒔きでもいい。分配でもいい。
だから、それで、どうしたいのか?

せっかくのビジネスチャンスの可能性を、この国はまた無駄に浪費しています。

寺本名保美

(2021.11.22)



こんなところにもサプライチェーン問題

いつも使っている薬局で、いつも処方されているメジャーな薬を、いつも通り数ヶ月分処方してもらおうと思ったら、問屋に在庫が無いから時間が必要だといわれました。

不思議に思ってネット検索をすると、「コロナ禍の影響で中国からの原薬の供給が止まっているので、出荷制限中」との説明が表示されていました。

更に検索すると、日本の後発医薬品の7割近くが何等かの原薬を海外から輸入していることがわかりました。

医薬品の原材料が海外から輸入されているという事実にまず驚き、コロナショックが医薬品のサプライチェーン問題に発展していることに更に驚いている次第です。

部材がなくて生産ラインが止まるのは、製造業だけの世界だと、どこかで思っていたのは大きな間違いだったようです。

命に関わる医療品の海外依存は、マスクとアルコールだけではなかったという事実を、一般メディアは全く伝えてこなかったということも含めて、色々と考えさせられます。

寺本名保美

(2021.11.17)



キーワード

「クリーンインフレーション」

足下のインフレの原因であるエネルギー価格の高騰は、各国の非石化エネルギー政策が急激に推進されたことによる弊害であると言われています。

この状況を称して、「クリーンインフレーション」という造語が生まれました。

このクリーンインフレーション、今のところエネルギー関連で使われていますが、持続可能社会への取り組みが進めば進むほど、労働コストやトレーサビリティコスト、各種安全性の担保など、ありとあらゆる側面でのコストアップに対する言葉として、世界中で認識されるようになると思っています。

よく考えたら、当初から想定できたリスクではあったのですが、こうして言葉になってみると、改めて現実味をもったリスクとして認識されるような気がします。

メタバースとクリーンインフレーション。

ここから一年のキーワードになるかもしれません。

寺本名保美

(2021.11.16)



出口がみえない原油高

昨晩の米国CPIが対前年比で6.2%と1990年11月以来の水準を記録しました。

1990年11月というのは、中東でクエート侵攻が始まり原油価格が17ドル台から40ドル台へと急騰したタイミングです。

今回発表されたCPIは昨年の10月からの今年の10月までの変化率なので、まだファイザーショックが始まる前。つまり経済の正常化以前を基準としているため、変化率としては高めに出ることはしかたがないとしても、問題はこの先、エネルギー価格や原材料価格が下落するという明確なシナリオが見えてこないところにあります。

90年の原油価格の急騰は、湾岸戦争という明確な理由があり、実際には年明け早々には元の水準にまで低下しています。

足元のエネルギー価格の高騰は、原油だけの問題ではなく、各国のエネルギー政策も絡んだ、やや複雑な構造を呈しています。

インフレ率の上昇はピークアウトしたとしても、一度上がってしまった物価水準が下がらなければ、物価高は一時的なものとは言えなくなってしまいます。

フランスが安定的なクリーンエネルギーの供給に原子力発電所の新規建設を表明したように、エネルギー政策の混乱が背景にある現在の物価高が思ったよりも長引いてしまうことを、考えおいたほうが良いかもしれません。

寺本名保美

(2021.11.11)



メタ騒動

英国の金利据え置きが世界の債券市場の救世主となっています。

足元で米国株式が高値を追っているのは、長期債利回りが英国の恩恵で低下したことや、バイデン政権による大型財政政策が当初想定の半分ではあるものの実現に近付いたことが主因であることは間違いありません。

とは言え、こうした当たりまえの材料よりも、株式市場の底流で沸々と煮詰まっている「メタテーマ」のことを、あまり軽く見てはいけないのではないかと、思うようになってきました。

FaceBookが突然に社名を「メタ」に変更し、今後の主要ビジネスをメタバースに置くと宣言したのが10月27日。

その日を安値に上昇に転じたのはビットコインを始めとする仮想通貨市場だけではありません。マイクロソフトなどVR技術を持つ企業や半導体市場、日本のソニーなど、メタ銘柄と称されるようになった企業の株価の多くが上昇しています。

マイクロソフトのCEOの言葉を借りるなら、メタバースは「現実社会の人やモノや場所をデジタルの世界に持ち込むこと」に他ならないそうで、次の時代のインフラの中心になるべきものであるとのこと。

所詮FaceBookが内部告発問題から市場の目を逸らすための方便だろう、とか、第二のリブラになるのではないか、とか、日本の集まれ動物の森の方が先を行っている、とか、批判的な声は山ほどありそうですが、それでも株式市場参加者の興味を引き付けるには十分な話題性はあるようです。

GAFA相場の終焉がささやかれていたタイミングでのメタ騒動。

未だに行き場を探して彷徨っている、過剰流動性資金の受け皿が結局GAFA達に戻ってしまうきっかとなるのでしょうか。

寺本名保美

(2021.11.08)



不自由なFRB

昨晩のFOMCで、事前予想通りテーパリングの開始が発表されました。

金融市場にとって重要だったことは、内容がハト派的かどうかということよりも、決定内容にもコメントにも「想定外」の事項が含まれていなかったことだったのかもしれません。

よく言えば市場との会話が順調に進んでいるということですし、悪く見ようとするなら自らの再選問題やFRB理事の金融取引問題等が抱える中、奇をてらわない穏当な内容にならざるを得なかったともいえそうです。

次のターゲットは、ゼロ金利政策の解除となります。来年半ばに量的緩和が終了し、その後どの程度のタイムラグを置いて利上げに転じることになるのか。

今のところ一過性であるという主張を変えていない「インフレ高進」についての表現が今後のFOMC毎にどのように変化していくのかが、利上げタイミングを織り込むキーワードとなりそうです。

史上類を見ない金融緩和の出口にある米国の金融当局が、人事的混乱に見舞われることで、将来の金融システムに新たな災いの種を残すなどということだけは避けて欲しいと切に希望します。

寺本名保美

(2021.11.04)



政権交代より世代交代

これだけ弱い自民党を相手に勝てなかった野党連合。

今回の総選挙を見ていて、まだ自民党の総裁選の時の方がよほど議論になっていたこともあり、ここまで野党が弱いなら、政府与党の牽制は自民党内野党に任せるしかないのかもしれないと思っています。

幸か不幸か今の自民党には、少々変わり種の品種も幾つか芽生えてきているように見え、所詮与党内野党なので総裁選では勝てなくても、自民党を活性化することには役立ちそうでもあり。

政権交代に期待するよりも、自民党内の世代交代に期待した方が余程現実的だ、というのが今回の選挙結果に隠された国民の声だったのかもしれません。

しかしいつもながら、大阪の政治風土は独特で面白い。

寺本名保美

(2021.11.01)


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