2021年09月の思いつき


中国のくしゃみ

不動産関連企業のデフォルト騒ぎで揺れる中国において、今度は深刻な電力不足が社会問題化しています。

豪州との経済摩擦の影響から石炭が不足していることに加え、習近平政権のグリーンエネルギー方針により発電施設における稼働率の低下も電力不足の原因となったようです。

これにより、中国国内での製造業の稼働にも影響が出始め、中国景況感の悪化のみならず、アップルを始めとするグローバル企業の部品供給にも支障が出ています。

更に中国の発電エネルギーとしてLNGの需要が急激に高まったことで、我が国の主要な発電エネルギーであるLNG価格が今年に入って上昇を続けています。昨年のLNG価格の高騰により新電力各社の収益が急激に悪化したことを受け、今年についてはLNGの在庫は高い水準で維持されているとはいうものの、状況次第では中国の電力不足が日本の発電コストに影響を与えかねない状況になりつつあります。

中国がくしゃみをすれば、と言いたくはないですが、所詮中国のことだからと高を括るわけにもいかないような気がしています。

寺本名保美

(2021.09.30)



議論にはなったものの

自民党の総裁選挙。

意外と議論になっていて面白かったという声も聞こえてきますが、日本の未来像についての本質的な議論にはならず、やはり残念な印象がありました。

年金問題にしても、構造改革にしても、従来のありきたりの方法論で終わってしまいまいました。

各国を見回すと、コロナ禍以降拡大する深刻な格差や、さらに深刻になるであろう就業問題に対しての抜本的な政策が議論されつつある中、日本の議論はコロナ禍前から進歩していません。

所詮、麻生副総理がいうように、「自民党内の権力闘争」であり、四方八方を見渡しながらの論戦であるのなら、こんなところが限界だったのかもしれませんが。

結果はもうすぐ。
選挙戦を見る限り、日本の未来が急に明るくなるような兆しはありません。

寺本名保美

(2021.09.29)



根底からの消去

中国が暗号資産の保有や取引、また暗号資産ビジネスに関わるサービスへの従事は法的に禁止すると表明しました。法に抵触した場合は、刑事罰の対象となるとしています。

暗号資産市場の反応は、とりあえずは急落したものの、その後はこの法律の適用範囲や実効性について、楽観的な意見も出る中、一旦は落ち着いているように見えます。

とはいえ、暗号資産というものは、国境を越えて、国の制限を受けることなく自由に取引をすることができることが、一つの存在価値であったわけで、中国という巨大な市場が突然閉ざされたインパクトは小さくはないでしょう。

例えば、テスラは暗号資産で取引ができるようにするという宣言をしていました。これは中国市場での販売を見据えた一つの戦略であったとみられていたわけですが、今回の措置により中国市場でのビジネスモデルに大きな変更が必要となるかもしれません。

また今回の件は、暗号資産資産の問題に限らず、中国においては自国政府の意向に沿わないビジネスモデルについては、当該企業への制裁金というレベルではなく、当該ビジネスそのものを、根底から消去する可能性がある、という点においても、注目に値する事象であるともいえそうです。

実際に今後の中国において、暗号資産関連ビジネスを巡りどのようなことが起きていくのかによっては、暗号資産に限らない、もっと大きな中国リスクを認識しなければいけなくなるかもしれません。

寺本名保美

(2021.09.27)



金融政策のばらつき

景気が拡大する中でのインフレは正常な経済成長の証しであり、景気が低迷する中でのデフレは経済のパイは縮小するものの国民生活は低位で安定します。

国民生活を本当に困窮させるのは、インフレ下の景気後退、所謂スタグフレーションという現象です。

各国の中央銀行がインフレを抑制させることを主要政策としているのは、このスタグフレーションを避けるためであると言っても過言ではありません。

足元で、英国中心にスタグフレーションという単語を目にするようになってきました。景気が本格稼働をする前に、インフレ圧力が持続する可能性が出てきたと23日に行われた英国の金融政策委員会は指摘しています。

こうした論調により、市場では早ければ来年2月には英国の利上げが始まることを織り込み始めました。

元々このスタグフレーションという単語は1960年代の英国で生まれたといわれています。ポンド防衛のための高金利政策により長い間深刻な不況に苦しんだ英国だからこそ、インフレの芽を早めに摘もうとしているのかもしれません。

テーパリングと利上げ議論をリンクさせないと強調している米国の金融当局とは一線を画す英国の金融政策。

コロナ禍以降、ここまでは足並みが揃っていた主要国の金融政策に、そろそろばらつきがでてきました。

株式や債券市場だけでなく、為替市場のボラティリティも復活の兆しが見えてきたようです。

年後半の金融市場。波乱の匂いがします。

寺本名保美

(2021.09.24)



わからないことだらけ

昨晩の世界的な株式市場の急落について、株式市場の反応はとりあえずは一時的な調整であり、買えていなかった投資家にとってはチャンスである、というものだったようです。

実際のところ、中国恒大集団の破綻懸念の影響については、今のところ推測することが困難です。

そもそも、恒大集団が破綻するかしないか、ではなくて破綻させるかさせないか、について政治的な思惑が左右します。

もし破綻させたとして、それが中国国内の金融機関に損失が与えることがになったとしても、金融機関を政府が簡単に吸収してしまえる国において金融危機という概念が存在かどうかも不明です。

但し、恒大集団関連への投資だけでなく不動産市場全体に対する損失により、中国国内投資家の資産が毀損し株式市場に幅広く売りがでることにより中国株式市場全体が想定以上の下落に転じた場合、中国株式に投資している海外の投資家に損失が伝播するリスクは高そうです。

既にこの数か月でヘッジファンドなどの足の速い投資家についてはは中国関連株式から撤退を始めていると言われており、今回の恒大集団問題は逃げ遅れたと感じているその他の投資家の狼狽売りを招く可能性もあります。

いずれにしても、材料が消化されるまでは、あまり中途半端に手を出すのは危ないような気がしています。

(2021.09.21)



コロナ禍とカジノ

マカオのカジノ業界に対し、中国政府からの規制が強化されるとの観測から、カジノ関連株が急落しています。

それはそれとして、こうしたマカオ等のカジノ業界からの進出が検討されていた日本の統合リゾート計画の先行きもまた、暗澹としてきました。

カジノを含む統合リゾート法は、箱物の建設需要から始まり、交通インフラの整備や最終的な雇用の受け皿として、オリパラやその後の大阪万博後の日本経済を支える大規模プロジェクトになるはずでした。

オリパラや万博が負の遺産とならないための、切り札としての役割を期待されていたといえます。

日本への進出を撤回する外資系カジノや、横浜市のようにIR事業の候補地となることを辞退する自治体がでてきているように、コロナ禍を経験した今となっては、巨額の設備投資を伴う巨大なリゾート計画の採算性は間違いなく落ちています。

足元の観光業やサービス産業へのコロナ禍の影響も深刻ではありますが、日本にとってのコロナ禍はもしかすると10年単位でみた雇用や景気の基盤そのものを大きく揺るがせているのかもしれません。

寺本名保美

(2021.09.16)



不動産バブル

巨額な債務を抱え経営危機に陥っている中国恒大集団の先行きは、世界の金融市場にどの様な悪影響を与えることになるのでしょう。

習近平政権による、不動産規制によって、中国国内の不動産市況は急激に悪化しています。

デベロッパーへの融資規制、住宅ローン金利の上昇、中古住宅に関する価格統制、といった不動産セクター全体に対する規制強化の内容は、90年の日本における不動産総量規制を彷彿させます。

不動産セクターが、国内家計資産の過半を締め、銀行融資の中心的存在であり、建設業の景況感が個人消費に与える影響は極めて高い、という構図もまた、当時の日本経済に近いものがあります。

当時の日本が、不動産の価格抑制により、実体経済全体が崩壊するとを想定できていなかったように、今の中国においても投機的になりすぎた不動産市場を冷やすことに、大きな懸念を抱いている人は少ないのかもしれません。

日本のバブルが崩壊したことで、世界経済に与えた影響は、極僅かでしたが、今回、もし、中国の不動産バブルが崩壊し、それが中国経済全体の減速に繋がれば、世界経済もまた無傷ではいられないでしょう。

色々な意味において、今回の中国恒大集団の結末を、よく見てきたいと思っています。

寺本名保美

(2021.09.15)



リーダーの資質

昨日の日経新聞に掲載されていた次の総裁に望む資質のアンケート。
「説明能力」「指導力」「国際感覚」「人柄」「政策への理解」「安定感」「清潔」「人気」。

学級委員長の選挙じゃあるまいし、と思ってしまいました。

因みに、随分前になりますが米国のFortuneに掲載された、米国大統領に求められる資質は以下の通りです。
「自己に対する客観性」「明確なビジョン」「チームの組成力」「失敗から学ぶ力」「政策に関わる各種利害関係者の調整力」。

日本の首相に求められのは「国内外に対する政府広報」としての資質であり、政策立案や実行能力ではないということなのでしょう。

社会が大人にならないから政治が成熟しないのか、政治が未熟だから社会が子供っぽいのか。

その国のリーダーというものは、どのような決まり方をしたとしても、結局のところその時代の空気が生み出した産物に過ぎないと、大学時代の恩師が言っていたことを思い出しています。

寺本名保美

(2021.09.13)



今更

トヨタの豊田章男社長が自動車の完全EV化という政府の方針は間違っていると主張しました。

「エンジン車以外のEVや燃料電池車しか生産できなくなれば、自動車産業が支える550万人の雇用の大半を失う」

産業のEV化や自動化による雇用問題は、欧州を中心に大きな社会問題になりつつあるのは事実です。

とはいえ、経営者側からの発信として、今更感があることは否めません。

こうなることは、もう10年以上前から想定されていたわけで、それに対する工程表のスケジュール感がコロナショック等によって若干早まっただけの話です。

個人的には、自動車産業によって失われた雇用は、当時開発の始まった国産小型飛行機がカバーしてくれると期待していたのですが、残念ながら日の丸ジェットは空中分解してしまいました。

雇用を守るのではなく、雇用を創造しようという意識が、今の日本の産業界には決定的に欠けています。

天下のトヨタだからこその発言であることは理解しつつも、天下のトヨタだからこその情けなさを感じずにいられません。

寺本名保美

(2021.09.10)



SDGsによる新たな分断

アフガニスタンや中国で、イデオロギーや宗教に回帰した政策が復活しているのを見ていると、普遍的な平等を謳っているSDGsという概念もまた、単なる一イデオロギーに過ぎないのかという思いに駆られます。

資本主義の覇権が大きな転換点を迎えている中において、資本主義の反省から生まれてきたSDGsという概念の普遍性もまた、早々に揺らいでいるようにも思います。

国境や民族を越えて掲げることができる地球環境問題と、個と国家と文化が交錯する社会環境問題を同列に扱うことの難しさも感じます。

SDGsがイデオロギー化することで、今度はSDGsを対立軸とした国際社会の分断が始まります。

ユニクロの新疆綿問題に代表されるようなSDGsを巡る混乱は今後さらに拡大していくことになるのでしょうか。

寺本名保美

(2021.09.08)



触媒投入

菅首相退陣で、何故、株式市場が急騰したのかというお問い合わせをお客様からいただきます。

日本株というものは、割安に放置され、限界まで置いていかれたところで、何らかの触媒が投入されて、一気に昇華し、沸騰後蒸発して、存在を消す、というパターンを繰り返す市場だからです。

こうした過去のパターンがインプットされているシステムトレードにとっては、辞任の理由や誰が後継になるのか、ましてや次政権の政策内容などはどうでも良い。

とりあえず、運動神経良く反応するだけのことです。

昇華後に蒸発してしまうのは、触媒の反応後に投入される追加の燃料がないからです。

次期政権が発足した時が、天井だったということにならなければいいのですが。

寺本名保美

(2021.09.06)



経験したことのない時代への逆戻り

海外のメディアではこのところ、中国の習近平政権の政策を、毛沢東時代の文化大革命に準えるコメントが散見されます。

例えば先日ファイナンシャルタイムズに掲載されたジョージソロス氏の寄稿にはこのような一文が書かれています。

「彼は毛沢東主義の最新版を準備している。毛沢東時代には株式市場がなかったので、投資家は中国での経験がない」

ソロス氏に影響されたわけではないでしょうが、ヘッジファンド中心に中国市場から撤退する動きが加速しているとも指摘されています。

中国で実際何が起ころうとしているのか、まだ何も確かなことは解らない中において、このソロス氏の文章が指し示す唯一の真実は、今の金融市場は市場開放政策以降の中国しか知らないということです。

今はまだ足の速いヘッジファンドだけで済んでいる中国金融市場への疑心暗鬼を、習近平政権が上手く鎮めることができるのか。

今年後半の金融市場の大きな台風の目になるかもしれません。

寺本名保美

(2021.09.03)



デジタルの魂

新しいことを始めるには、まず形から、という人は沢山います。

ゴルフをするなら、クラブから。
釣りをするなら、釣り竿と。

デジタル庁発足をみていて、そんなことを思い浮かべていました。

「思い切ってデジタルを進めなければ、日本を変えることができない」
という菅首相のお言葉は、わかる様でわからない。

社会のデジタル化という言葉が霞ヶ関からで初めたのは、もう5年近くも前の話です。にも関わらず、この言葉が示す未来が未だに伝わってこないのが、今の日本の現実です。

とりあえず箱は出来たので、まずは魂を入れるところから始めましょうか。

寺本名保美

(2021.09.02)


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