2021年07月の思いつき


本気でWITHコロナ

昨年の11月にコロナワクチンの開発成功が報じられた時から最近まで、世の中は早晩ZEROコロナの時代が戻ることを疑っていませんでした。

アメリカやイギリスなど、ワクチン接種が進む社会が、どんどん解放的になっていくのをみて、ワクチン接種さえ進めば次は自分達の社会も解放されるだろうと期待していました。

終わりが見えていると思ったからこそ、人々は各々不自由な生活を受け入れ、企業は目先の効率性を犠牲にした勤務体制を取ってきたのです。

この1ヶ月の変異株による感染再拡大は、こうした前提に多少なりとも疑義を与えています。そして世の中は、どうやら、ZEROコロナを諦め、WITHコロナをメインにしたシナリオを描き始めてしまった様に見えます。

収束はしても終息はしないというシナリオは、少なくても金融市場においては織り込まれていません。

本気でWITHコロナを考えた時、そこにはどの様な社会構造が待っているのか、見てみたい景色ではない気がしています。

寺本名保美

(2021.07.29)



暴れ馬の並走

2021年度、当面のリスクシナリオとして見ていたのが、新型コロナの感染再拡大と、中国政府による民間企業の規制強化によるチャイナショック、そして、対極にある米国長期金利の急上昇でした。

足元で前者2つのリスクシナリオが現実化する気配が見える中、最後の1つのリスクシナリオが逆方向に行くことで金融市場全体のバランスをかろうじて保っています。

ここから先の展開として、感染再拡大が再ロックダウンにつながるかどうか、中国においては株価の急落をこれまで放置してきた中国政府が株価維持の政策に転換した時市場が政府の思惑通り安定性を取り戻すかどうかが大きなポイントとなるでしょう。

感染症も金融市場も、一旦暴れ始めると、制御できなくなるという意味では共通項があります。

暴れ馬が2頭同時に走る様な展開は、あまりみたくありません。

寺本名保美

(2021.07.28)



資金特性

所謂10兆円ファンドと呼ばれている大学ファンドの運用方針が決定したようです。

目標利回りは4.38%とのこと。コスト考慮すると実質的には5%を目指すポートフォリオとなりそうです。

GPIFが賃金上昇率+1.7%を目標としているのに対し、利回りの目線はかなり高い設定となりました。

資産構成割合は、株式65%対債券35%とされています。GPIFが50:50としているのに対し、株式比率が高く設定されているのも、目標利回りが高いことによる当然の結果です。

あとは、株式部分の内どの程度が、未上場資産に配分されるかによって、運用資産全体の標準偏差が決まっていくことになります。

未上場資産の比率が増えれば、表面上のリスク(標準偏差)は低くなる一方で、元本が毀損するようなイベントリスクはむしろ高まる可能性もあります。

管理し易いリスクである標準偏差を、管理が難しいイベントリスクに置き換えるには、運用管理者に高度なスキルと経験が求められることになります。

今回活用される国の財投資金というものは、民間の金融機関の自己勘定資金とも、年金のような受託者への説明責任が強く求められる運用資金とも、資金性格が異なるものであるような気がするものの、どのような評価に晒される10兆円になるのかは、よくわかりません。

運用を長く安定的に継続するためにも、運用を開始する前にこの10兆円が、平時でも年間で10%、ショック時には30%近い、評価損益を抱えるのに耐えうる資金特性であるということを、国民に理解できるように説明しておく必要があるような気がしています。

寺本名保美

(2021.07.27)



日本の縮図

オリンピックの開会式を観ていて、今の日本の縮図をみているような気がしていました。

優等生の模範解答のように減点要素はなく、あらゆる課題を無難に網羅し尽くした3時間半。

一方で加点要素に乏しく熱量に欠け、散りばめられた課題一つ一つがどこか他人事で、魂が入っていない。

部品は優秀であるのに、全体としてまとまると、酷く凡庸な出来上がりとなってしまうという、組織としての弱点さえも垣間見えてしまう。

まぁ、色々あったから、かもしれませんが、だからこそ本質が露呈したともいえます。

コロナ禍やオリンピックを通してみえてきた、日本の組織の様々な課題。

目を背けずに向き合っていく必要がありそうです。

寺本名保美

(2021.07.25)



国家による犯罪

米国が日本やEU・英国、更にオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、NATOと共に、中国政府に対しサイバー攻撃に関する非難声明を出しました。

水面下では、どこの国でも似たようなことはしているのかもしれませんが、サイバーセキュリティ問題について、面と向かって国家が国家を糾弾したことで、サイバー空間における国家の犯罪が公式に認知されたといえそうです。

国家間で起きる犯罪行為を戦争というのであれば、戦争が陸海空からサイバー空間へと拡大したことを宣言した歴史的な声明として、後世の教科書に載るのかもしれません。

国家間の戦争が、サイバー空間に移行したことで、むしろ我々の生活を深く脅かすようになっていることに、言いようがない不気味さを感じます。

便利ではあるものの幸福感が伴わない。そんな社会が近づいているのでなければよいのですが。

寺本名保美

(2021.07.20)



気候変動のボラティリティ

日本だけでなく、世界的な豪雨や、熱波による被害が続いています。

地球全体が、一年を通して暑くなっているというだけではなくて、干魃も酷寒もあり、要するに気候変動のボラティリティが上昇しています。

温暖化が進んでいることが、全ての異常気象に繋がっているのかもしれす、温暖化対策を進めることは重要ではあるものの、とにかく足元においては現実に振れ幅の拡大している気候変動環境を前提にした、社会インフラの整備を早急に進めることが先決であるように思います。

暑い国は暑いなりに、寒い国は寒いなりに、温暖な国は温暖なりに、過去の気候特性に適合した生活基盤ができていました。今起きていることは、こうした固有の特異性であると考えられてきた、それぞれの地域の気候特性そのものが、変動しているということです。

結果として、社会インフラが、気候のボラティリティに耐えられず、破壊されています。

気候変動そのものをコントロールすることは、果てしなく時間がかかる取り組みです。長期的な温暖化対策も大切ですが、それだけでは今の命を守ることはできません。

気候変動との戦いについて、長期と短期、双方の視点での対策強化が求められています。

寺本名保美

(2021.07.19)



アフターコロナ本番

米国のパウエルFRB議長が懸念している、コロナ禍対応の失業給付が切れた後の雇用環境問題は、米国だけでなく日本を含めた先進国共通の課題です。

場合によっては平時の時給を上回るような、失業給付が出されている中での歪んだ労働市場が、国からの各種手当が無くなった後に、どのように修正されるのか、まったく予断を許さない状況です。

今は、労働意欲を無くしてしまい労働人口から除外されている人々が、雇用を求めて活動を再開した際に十分な就業が確保されるのか。

コロナ禍によって確実に進展した非接触型サービスや、機械に代替された作業が、単純労働者市場をどのように侵食しているのかは、経済が本当に正常化されてみないとわかりません。

国の各種支援が切れた後が本当のアフターコロナの社会となります。

アフターコロナについての議論は、まだまだこれからが本番です。

寺本名保美

(2021.07.15)



どんより

菅政権の混乱ぶりを見ていて、この政権の何が悪いのだろうと考えています。

やる気が無い訳ではなく、人材不足という訳でもなく、一つ一つの政策が特別悪い訳ではなく。

なのに、全体でみると、動けば動くほど空回りし、頑張れば頑張るほど評価が下がる。

こういう人、どこの会社にも居て、そういう場合は、周りのフォローで修正が効くことがあるのですが、この政権ではフォローに周るはずの官僚が機能していない。

強いていえば、優秀ではあるものの、緊急対応の布陣ではないという感じでしょうか。

オリパラが終わり、ワクチン騒動も一山越える秋口になれば、この政権が地味に撒いてきた中長期の種の芽吹きが見えてくるかもしれないものの、総選挙のタイミングには、間に合わないかもしれません。

そんな政権の焦りが、国民生活を侵食する悪循環。

オオタニフィーバーでも改善しないこの日本に漂う嫌な雰囲気、とりあえずはオリンピックで一掃されて欲しいと思うのは、政権だけではなくて、株式市場も同じでしょう。

寺本名保美

(2021.07.14)



テック規制の本格化

バイデン米大統領は9日、市場の競争を促進し、企業の支配力を抑えることを狙った大統領令に署名しました。

米国の大手企業による中小企業の合併に一定の制限を設けることや、大手プラットフォーマーがプラットフォーム上の中小企業が不利益を与える契約を禁止することなど、GAFAの独占的地位を制限する多岐の内容が含まれるとされてきます。

表現は若干異なるものの、中国がアリババなどに行っている規制と、本質的には変わりないことが、とても面白くもあり、怖くもあります。

IT企業によるイノベーションが、米国にとっても中国にとっても、国家的な経済成長の要であることはこれまでも変わらないものの、そのイノベーションの主導権が政府の手を離れること、そしてそれによる自国民内の分断、といったものへの懸念が、既に無視できないほど大きくなってきたということなのでしょう。

米中のテック2大国が、自国内のテック企業の成長を押さえ込みにかかることが、この数年の成長株相場にどのような影響を与えるのか、慎重に見極める必要がありそうです。

寺本名保美

(2021.07.12)



日本だけではないからこそ

東京に4回目の緊急時代宣言がでました。

日本のコロナ対策の失敗の結果という厳しい声も聞こえてきます。

それはそれとして、そうはいっても、全世界ベースの統計を見てみると、残念ながら全世界ベースでの感染者数は収束から反転のサイクルンに入ってしまったように見えます。

アジアが要因の一つではあるものの、英国やスペインと言った先行していた欧州地域での反転がかなり気になります。

今回ばかりは、日本だけではないということについて、安心している場合ではありません。

今の株式市場はワクチン後の経済正常化を前提にした価格形成を行っています。

万が一、米国や欧州が、再度ロックダウンのような状況に追い込まれた場合のショックは、ワクチンを織り込む前よりもむしろ大きくなるリスクもあります。

安心してアフターコロナを語れるようになるのは、まだもう少し先の話なのかもしれません。

寺本名保美

(2021.07.08)



プラットフォームビジネスの曲がり角

昨年末、弊社が2021年の潜在リスクとして掲げていたものに、中国国内での規制強化をきっかけとした中国株式市場の急落がありました。(https://www.ttassetdesign.co.jp/teramoto/seminar/r02-12-21.pdf 左記リンクから第2部の資料に詳細が掲載されています。)

足元の中国での動きを見ていると、潜在リスクが動き始めるような気がしています。

コロナショックによって加速した社会のDX化が、旧来のインフラ保有者である政府国家と、新たなインフラ保有者として躍進してきた民間企業との間での摩擦を過熱させることは、中国だけの問題ではなく、想定されてきたことです。

今回中国が人的データに関わるビジネスを安全保障上の問題として取り上げたことは、米国や欧州におけるプラットフォーマー規制に対しても、何等かの影響を与えることになるかもしれないと思っています。

ここまで、米国のそして中国の経済成長を牽引してきたプラットフォームビジネスが、一旦大きな曲がり角に差し掛かっているのかもしれません。

寺本名保美

(2021.07.07)



規制強化のリスク

中国の配車アプリ大手が、米国市場で上場をしたタイミングで、中国当局からサービスの提供制限を受けました。

配車アプリが、個人の移動に関わる膨大なデータベースを保有する可能性があることに対し、一民間企業が国家が保有する以上の個人情報を収集することへの懸念や、米国で上場したことによりそうしたデータベースが海外に流出することの安全保障上の懸念を、中国政府が示した結果と言われています。

流れとしては、アリババやテンセントへの規制強化と同一線上にある事象で、あらゆる分野において、国家が掌握すべきインフラ分野において民間企業が支配的な力を持つことを、中国政府は容認しないということが、これで明らかなってきました。

ここまでは民間のイノベーション力を活用して急激にデジタル化を進めてきた中国ですが、強くなりすぎた民間の頭を叩くことを繰り返すようになると、せっかくのイノベーション力も段々勢いを失っていくでしょう。

こうした規制強化が中国企業全体への投資家の興味を低下させるきっかけにならなければいいのですが。

寺本名保美

(2021.07.05)



自前主義と労働コスト

EU離脱後の英国で、労働者不足が深刻化しているとのコメントを目にするようになってきました。

一般的な解説では、EU離脱によって、外資系企業や生産拠点が英国から撤退することを懸念するものが多かったですが、EU離脱に反対する経済人は当初から英国経済を支えてきた廉価で優秀なEU域内の労働者が英国に来なくなることを懸念していました。

今回のEU離脱により英国産業が国内労働力への依存度を高めざると得なくなった結果が今後の英国産業にどのような影響を与えることになるのかは、英国だけの問題ではなく、国内労働力を重視する傾向が顕著となりつつある米国や他の先進国諸国の先行きを占うにも、重要な意味をもって来ると思います。

リーマンショック後続いてきた、低インフレ下の経済成長を支えてきた、労働コストの安定が崩れるとするならば、世界のインフレ環境にも大きな転機となるかもしれません。

寺本名保美

(2021.07.01)


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