2021年05月の思いつき


試合興行と無観客

テニスのジョコビッチ選手の、無観客のオリンピックになるのなら、参加を考え直すという発言が、私にはとても新鮮でした。

プロのスポーツ選手というものは、スポンサー契約による収入の他に、試合結果に従った賞金が生活の基盤です。

この賞金というものは、スポンサー企業の協賛金と試合の興行収入が原資が原資です。

つまり、プロ選手がプロである所以は、試合が興行として成り立つことに依存しているわけで、興行として成り立たない単なる試合は、プロ選手の存在意義の否定になります。

オリンピックというものは、賞金が発生しないので、興行収入が選手に分配されることはありませんが、試合そのものは観客を動員する興行として成立つものです。

それが、無観客になったとしたら、賞金は出ないし興行としても成り立たない試合にプロが参加する意義は限りなく小さいものになるでしょう。

コロナ禍という非日常は、色々なモノの本質に考えを巡らせるには、よい材料を提供してくれているようです。

寺本名保美

(2021.05.31)



感染症と共存するオリンピック

もし私がIOC会長であったら、今何を思うかと考えてみました。

感染症によるパンデミックは、今後も10年に一度、もしくは数年に一度程度のペースで発生すると言われています。

それを前提に考えるなら、パンデミックが起きる度にオリンピックを延期したり中止したりしていたら、オリンピックの定期開催は成り立たなくなります。

少なくても、何時キャンセルになるかもしれない巨大イベントにコミットするスポンサーは激減するでしょう。

組織人である以上、それがオリンピックであろうとなかろうと、その組織の継続と維持がその組織を束ねる責任者の使命です。

であるならば、今後もオリンピックという事業を継続させるためには、今回の東京オリンピックの開催は何があっても実現したいと私がIOC会長であれば思います。

東京が世界で有数の衛生都市であることや、日本では国民の不満や怒りが暴力的な集団行動にならないことなどを加味すると、今回のオリンピックが東京であること、は史上最悪のシチュエーションにいるIOCにとって唯一最大の救いです。

コロナ禍でのオリンピックという視点ではなく、感染症と共存していく社会におけるオリンピックというものが今後存在し得るのかどうかを占う場として、今の東京は世界規模の実験場になってしまっているのかもしれません。

感染症と共存するオリンピックというものが可能であるのかどうかを判断する場として今の東京は全く準備が間にあっていません。
一旦ここは中止した上で、改めて新たなオリンピックの形を模索する方が順当であると思うのですが。

寺本名保美

(2021.05.28)



また蚊帳の外?

4月から、日本株の需給が歪んでいる様な気配があるというファンドマネージャーの声が聞こえてきます。

始めは、アルケゴス破綻に関わるファンドポジションの精算の影響が日本株に残っていたのかと思って聞いていたのですが、それにしては時期がズレているようにも思います。

段々と、それよりは、コロナ禍の制御ができていない日本経済に対する先行き不安で、足の速い海外投資家が日本株から一時撤退を始めているのではないかと思えてきました。

オリンピックを巡る反応も同様で、中止したことによる経済損失より、開催したことによる感染拡大が日本経済に与える悪影響が、話題なる様になっています。

株式市場全体では割安なモノに資金が循環するリターンリバーサルが起きつつありますが、割安だと言われている日本株はまだ蚊帳の外にありそうです。

寺本名保美

(2021.05.27)



日銀はどこに行く

昨日の日本銀行金融研究所コンファレンスにおける黒田総裁の挨拶に下記のような表現があります。

「先行きをみると、政策当局の直面する課題は、流動性支援から、債務返済能力や企業の存続可能性、そして経済構造の変化に対応した資源の再配分へと移行していくと考えられます。」

この文章をどう理解したらよいのかと、少し考えています。

債務返済能力や存続可能性という文脈は、菅政権発足当時から政権が掲げる中小企業再編への道筋に沿った発言のように見えます。いわゆるゾンビ企業と称される、支援金や補助金がなければ存続できない企業群の淘汰整理することで、日本全体の生産性を改善を期待するという主張です。

その議論の是非は別にして、この議論に中央銀行がどのように関わっていこうとしているのかが、私には良く理解できずにいます。

回収可能性の低い融資先に対し金融機関にどうしろと指導するつもりなのか。
中小企業の再編に対し、金融業界として何か積極的に関わることを促そうとしているのか。
そもそも構造改革というものに中央銀行が政策として関わる必要があるのか。

中央銀行にとって最も大切なことは、市場参加者との信頼関係を強固に維持することです。中央銀行の目指しているものが市場参加者と共有できないことは、その国の金融システムの脆弱性に繋がります。

黒田日銀はどこに向かっているのかと、首を傾げているのは、私だけなのでしょうか。

寺本名保美

(2021.05.25)



仮想通貨の構造的変調?

中国が、仮想通貨の採掘業者への規制強化を発表したことで、仮想通貨が急落している、そうです。

これは二つの意味で興味深い事象です。

一つは、仮想通貨の採掘業(マイニング)の70%が中国で行われていた最大の理由は、中国の電力コストの低さにあります。元々仮想通貨の理論価格はマイニングに掛かる電力コストから算出されてきたわけで、マイニングが電力コストの安い中国から相対的に高いであろう欧米に移転することで、仮想通貨の潜在価値に理論上は変化が起きる、はずです。

もう一つは、今回の件でを含め、中国政府は明らかに民間のデジタル通貨や仮想通貨が決済通貨としての地位を確立することを阻止しようとしているように見えることです。決済プラットフォームを行っている事業者への規制強化に加え、今回仮想通貨ビジネスそのものを締め出す決定を行ったことは、中国経済におけるインフラを民間に開放するつもりがないという中国政府の強い意志表示であるように見えます。

いずれにしても、これまで良くも悪くも仮想通貨市場の中心的にいた中国市場が、一旦ゲームから離脱することの影響が、足元の投機資金を一身に集めている仮想通貨にどの程度のインパクトとなるのか、注目しています。

寺本名保美

(2021.05.24)



時間軸の変更

19日に公表されたFOMC議事録には、足元の雇用環境が満足できる範囲に改善していることが確認できた場合、FRBは量的緩和の縮小に向けた議論を開始する旨が記載されています。

現財務長官のイエレン氏がFRB議長当時懸念していた、雇用の質の問題が今回も議論の中心の一つになっているようです。

様々な理由により労働市場から退出してしまった労働力が、表面的な失業率を押し下げていることに加え、労働力不足が企業側の賃金コストを引き上げる懸念なども指摘されています。

ある意味において、足元の労働市場を正確に把握しようとするならば、コロナ禍での各種補助金や支援金の廃止や縮小後の労働市場を確認するまで待たなければならないわけで、当初パウエル議長の発言はこれを待ってから金融政策を変更することを意図していたはずです。

この時間軸に少し変化が出てきていることは、それだけ米国経済を巡るインフレ環境にFRBが懸念を持ち始めたからかもしれず、ここから暫くはインフレと雇用関連の統計の度に乱高下する日々続きそうです。

寺本名保美

(2021.05.21)



ボラティリティの感染拡大

このところ、金融市場でのボラティリティが拡大しています。

仮想通貨や特定の株式銘柄の変動幅の拡大が、金融市場全体に伝染しつつあります。

最近の金融市場のボラティリティというものは、影を潜めている時は本当に静かである一方で、一旦拡大を始めると他市場を巻き込みつつ急速に拡大する傾向があります。

原因の一つは、いわゆるリスクパリティ型の戦略の影響ですし、もう一つは株式債券を問わず全ての金融資産が、コロナと金融緩和とDXといった特定の材料に反応していることも要因です。

リーマンショックの時は、これにレバレッジが加わることで、単一市場での損失が他市場の損失に伝播していきましたが、今回はまだレバレッジによる伝播の兆候は見られません。

暫くは、このボラティリティの感染拡大がどこまで広がるかのモニタリングを強化する必要がありそうです。

寺本名保美

(2021.05.20)



政策期待と言うけれど

1-3月のGDPが想定外の悪化となったにも関わらず、国内株式市場が大幅高となったことの理由が、これだけGDPが悪ければ大規模な経済対策が出るに違いない、という期待だと株式市場の人は言います。

とはいえ、コロナ禍のこの一年、特に出し惜しみをしているわけではなく、効果的な経済対策が何なのか、政府にさっぱり見えてないからのマイナス成長だった訳で、数字が悪いから効果的な政策が出てくるとは私にはとても思えません。

実際に、株式市場そのものからも、具体的な政策を持って期待しているような気配はこちらもさっぱり窺えない訳で、処方箋がない中で病状が悪化している中、特効薬期待で上昇する株式市場には違和感しかありません。

日銀に期待できるのは、株価下落時のPKOだけで、政府に期待できるのは各種コロナ支援金の継続拡大という、所詮ワクチン頼みの時間稼ぎという構造はこの一年全く変わりません。

そもそも、国難を前にしたこの一年、この国の大企業経営者達の顔は全く見えないままです。政府に対してあれは困るこれは困ると愚痴るばかりで、この事態を乗り越えていく為の具体的な施策の提案もありません。

その結果が戦後最悪の実質GDPなのであれば、この数字が政府日銀の政策をどの様に変化させるというのでしょう。

株価が上がることに文句を言うつもりはありませんが、この国の経済が袋小路に入りつつある様な気がして、どうも楽観的にはなれないのです。

寺本名保美

(2021.05.18)



軍需産業と資本のモラル

突然中東で始まった空中戦の映像を見て、90年代の湾岸戦争の映像を思い出しました。

飛んできた飛翔体を空中で迎撃するという、人類の叡智とエネルギーの馬鹿馬鹿しいまでの無駄使いの光景は、見る度に酷く虚しくなります。

一昔前まで、軍需産業は作っては壊しを繰り返すだけの生産性のない産業であるとされていました。

今も軍需産業そのものの生産性の無さは変わりませんが、軍需産業から派生する先端技術が、社会技術の革新に甚大な影響を与えていることが認識されたことで、軍需産業技術への資本流入は、確実に拡大を続けています。

現状のESGスクリーニングにおいても、特定の兵器に関わるもの以外の軍需産業については、特に除外対象にはなってはおらず、むしろ取りっぱぐれのない政府機関を最重要顧客としている分、持続可能性の高いビジネスモデルとみなされてさえいます。

資本のモラルが大きく取り上げられてきた21世紀ではありますが、資本のモラルは少なくても戦闘の抑止力としては、全く意味をなしていないということなのかもしれません。

寺本名保美

(2021.05.17)



ESGとインフレ

株式市場において、新潮流を形成しつつあるESG投資。

これを社会が真剣に追求しようとするならば、社会の物価指標は確実に上昇します。

これまでの社会が、石化燃料を燃やし、低賃金国での現地生産を行い、100均に代表される廉価な使い捨て商品を大量消費してきたのは、その方がコストパフォーマンスが良かったからです。

だから、石化燃料からグリーンエネルギーに移行し、労働力の搾取をやめて工場を自国に回帰させ、高くても長く使えることに消費者の価値観が変化していくとするならば、コストパフォーマンスは当然悪化するわけです。

ESGやSDG'Sの世界観というものは、金銭的価値や金銭的な効率性の最大化を求めてきた現代社会に対するアンチテーゼである以上、この新たな世界観において、モノやサービスに関わるコストは確実に上がる、というよりも上がらなければいけないということになります。

足下の株式の急落を招いたインフレショックについて、足下で熱心にESG投資に取り組んでいる、らしい、金融市場参加者の多くが、一時的なものだと思っていますことについて、酷く違和感をかんじます。

今回のインフレがもし何らかの構造的な変化の端緒であるとするならば、今の流れは当面の間継続することになるでしょう。

今回のインフレショック、あまり軽く見ない方が良いと私は思います。

寺本名保

(2021.05.13)



変化率と水準

金融市場を通して見てみると、人の感情というものは、絶対値としての水準ではなく、価格の変化の方向性によって大きな影響を受けるものだということがわかります。

高値であろうと安値であろうと、水準には慣れが生じますが、変化に対してはいつまでも反応します。

上方への変化は、変化が続けば続くほど、楽観的な心理状態が加速して恐怖心が薄れていき、下方への変化においては悲観的な心理を加速させ不安感を高めます。

例えば、新型コロナの感染状況についていうならば、日本の現状は絶対値の水準で見れば低位にいるものの、感染者数や死亡者数の倍加人数という変化率をとって見ると、インドに次ぐ程の悪化スピードで進行しています。

水準で言えば日本と同じ位の英国は、倍化人数で見ると主要国のなかでは最も良い位置にいます。

下方変化の真っ只中にいる日本の国民感情は悲観と不安が増幅している過程にあり、上方変化の中にいる英国は楽観的な幸福感の最中にいるということです。

もちろん、冷静に現実を把握するには、変化率ではなく、水準そのものと向き合うことが重要であるのはいうまでもないことですが、金融参加者のセンチメントや国の世論が人間の感情に支配されるものである以上、変化が止まらない限り人々の意識が水準に向かうことはありません。

さて、金融市場。
上方変化の勢いが一旦止まり、人々が水準を意識した後に来るのは、恐怖心なのか、はたまた確信なのか。

寺本名保美

(2021.05.12)



リアルインフレ?

足下の急落の直接的なきっかけは、米国のパイプラインが操業停止しガソリン等のエネルギー価格が一時的に急騰したことに、なんらかのシステムのインフレシグナルが点灯してしまった、ある種の誤作動だったのかもしれません。

ただ、きっかけは勘違いであったにせよ、それによりこれまで市場参加者が無視してきた、様々な分野での物価上昇に、突然スポットライトが当たってしまったことで、誤作動であったかもしれないインフレトレードが、本格作動へと転じてしまった可能性は否定できないでしょう。

半導体市況から始まり、海運のボトルネックから派生した素材全般の価格上昇、昨年の夏の異常気象による穀物価格の急騰と、インフレを連想する話題には事欠かないのも事実です。

それが、消費者物価に転嫁されるかどうかは、まだ少し様子を見る必要はありそうですが、これまで想定していなかったリアルインフレが、リスクシナリオの一つとして浮上してきたことには、少し注意を払っていきたいと思っています。

寺本名保美

(2021.05.11)



見えない敵という共通点

米国で起きた大規模サイバー攻撃により、週末の8日米国最大のパイプラインであるコロニアルが操業停止となりました。

東海岸にあるコロニアルパイプラインは、メキシコ湾岸の製油所から米国東部や南部へガソリンなどの燃料を輸送しており、この事件を受け米国先物市場ではガソリン価格が急騰しています。

サイバー攻撃がこれからの国家防衛戦略の要であるということは、理屈としてはわかっていても、現実に米国における主要インフラが停止するという事態が発生してみて、あらためてサイバーセキュリティというものの重大さを米国のみならず各国政府も認識しているのかもしれません。

サイバーセキュリティ対策と感染症対策というものは、国境を超えて、前触れなく到来する、目に見えない敵に備える、という意味において、近いものがありそうです。

逆に言うなら、感染症対策において後手に回った日本政府は、サイバーセキュリティ対策においても後手に回る可能性があるということです。

災害級の感染症の次は、災害級のサイバー攻撃。
イベントリスクは高まるばかりです。

寺本名保美

(2021.05.10)



バイデン政権の過激さ

新型コロナウイルスワクチンの特許放棄発言を見てもわかるように、バイデン大統領の政策の過激さが加速してきたように思います。

ある意味においては、トランプ大統領時代の政策よりも、バイデン政権の政策の方がよほど過激です。

証券税制を含めた富裕層増税や、気候温暖化対策関連の企業コスト、そして対中制裁強化など、株式市場にとっては劇薬となり得るような材料が矢継ぎ早に出てくるものの、今のところ市場は豊富な流動性と財政による光がめくらましになっているようです。

今のところ、市場のリスクシナリオはFRBの動向に集中しているように見えますが、本丸であるホワイトハウスの潜在リスクについてもそろそろ注意を払う必要があるかもしれません。

寺本名保美

(2021.05.06)


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